ジェームズ・カーヴィルは政治コンサルタントで、アメリカ民主党に最も影響力を持っている戦略家の一人だ。1992年の大統領選挙時に主任選挙参謀を務め、「経済だよバカモノ」というキャッチフレーズでビル・クリントンを当選に導いたことで有名だ。

カーヴィルは定期的にニューヨーク・タイムズ紙に寄稿していてるが、どれも傾聴に値する記事だ。何十年も民主党の戦略階層に深く関与してきたことから、彼の著述から、民主党の党内力学がどうなっているのか、あるいいはどんな影響を与えようとしてるのかを見て取ることができる。
例えば、20205年2月25日寄稿「民主党は政治的大戦略で蛮勇に踏み切るべき時だ」では、民主党に向けて「ひっくり返って、死んだふりをしろ」とアドバイスしている。この「戦略」提案から、民主党は2024年11月の壊滅的な敗北に打ちひしがれ、リーダーが戦略を喪失して混乱状態にあることを見て取れる
最近になって、カーヴィルはトーンを変調させた。最新記事「ウォークを放棄しろ。怒りを掲げよ」(2025年11月24日)で、彼は民主党のための前向きな政策構想を提言している。
今や、私は81歳の老人であり、いわゆる中道政治時代に松明を掲げていた人と思われているのを承知している。しかし、私のような人でも今や明らかになっているのが、民主党は大恐慌以来、最もポピュリズム的な経済政策を掲げて戦わなければならない、ということだ。
この記事から、カーヴィルが大きく方針転換したこと、そして我々が革命的な時代に生きていることを見て取れる。自著『エリート過剰生産が国家を滅ぼす』で指摘したように、近年の民主党の成功は、党内ポピュリストを抑え込んだことにあった。しかし、これが、2016年と2024年の大統領選の敗北をもたらした。カーヴィルが「中道」と呼んでいるものは、つまるところ「支配者階級のための、支配者階級による政治」に他ならない。中道は今や崩壊の渦中にあり、左翼ポピュリストに民主党を乗っ取る絶好の機会を提供している(ちょうど共和党が右翼ポピュリストに乗っ取られつつあるのとパラレルだ)。そして、カーヴィルはまさにこの乗っ取りを提案している。
カーヴィルの文章は、私のシリーズ記事「革命年代記」にある、過去の革命で打ち出された言説と非常に似ている。彼が、私の記事を読んだとは思えない。これは、彼が「中道は死んだ」実感を深めているであろうことの反映だ。以下に彼の発言をいくつか引用しておこう。
「民衆は反乱を起こしている。そしてしばらく前から続いている」
「不正で、めちゃくちゃで、道徳的に破綻した制度」
「歴史を学んだ学生ならわかるだろうが、アメリカにはフランス革命の風が吹いている」
「民衆よ、立ち上がれ」
〔原題直訳:「左翼ポピュリズムの帰還:ジェームズ・カーヴィルの民主党への戦略提案」〕
[Peter Turchin, “The Return of the Left Populism” Cliodynamica, Dec 05, 2025]