アレックス・タバロック「レアアースはレアじゃない」(2025年10月18日)

だいたい10年に1回くらい,中国によるレアアース独占について騒ぐ言論が出てくる.前回は,2010年にポール・クルーグマンが書いた文章がそれだった:

なんとも不思議なことに,こういうことが起きてるのに国家安全保証の面ですら誰も警鐘を鳴らしていない.政策担当者たちときたら,アメリカのレアアース産業が閉業していくなか,ただ手をこまねいている(…).その結果,中東の石油国家の暴君たちすら夢見ることのない独占の立場が生じている.

(…)この事態で,アメリカの政策担当者たちの無為無策ぶりが浮き彫りになっている.信頼できない体制が重要な物資を完全に掌握しているさなかに,彼らはなにもしなかった.

この文章が出て数年後に,この危機が誇張されているとぼくは指摘した:

中国政府は,一時的な独占力を利用したがっているかもしれないし,そうではないかもしれない.ただ,中国の生産者たちは合法・非合法どちらの面でも輸出禁止の多くをかいくぐろうといろんな手を打った.まだ安価だった頃にレアアースを使っていた企業は,価格が高くなると,「別に絶対に必要なわけじゃない」と判断した.価格が上がると,新しいサプライヤーたちが現れた.イノベーションによって,レアアース使用量を減らす方法が生まれたり,代替品がつくられたりした.

さて,またそのネタだ.レアアースの実務に携わっていて優れた経済学者でもあるティム・ウォーストールが書いた文章は一読に値する

(…)レアアースは稀少(レア)でも地下資源(アース)でもない.ほぼあらゆるところにある.レアアースを加工できるかどうかを制約している最大の要因は,モナザイトなどのもっとも扱いやすい鉱石(どれくらい容易かといえば,他の工業プロセスの廃棄物になってるほどだ)に含有される微弱な放射能だ.微弱な放射能に合理的でまともな規則があれば――これがまあ,ないのだけれども――その加工の工程はすでに終わっていることだろう.マルコ・ルビオのトリウム法案が成立すれば,フロリダ州のリン酸石膏の堆積物が利用できるようになる.そこには,有り余って仕方ないほどのレアアースが含まれている.

また,近年とくに重要になっている高温用磁石に欠かせない元素であるジスプロシウムやテルビウムを含む鉱石があるのは中国だけだ,という指摘もある.これも,事実ではない.たしかに10年前なら,私たちは全体としてそう信じていた.その鉱石,いわゆる「イオン吸着型粘土」は,中国南部やミャンマーに特有だと考えられていた.その後,私たちが集団として持っている知識は変わった.いまや,亜熱帯気候で花崗岩が風化した場所であればどこに存在していてもおかしくないことがわかっている.オーストラリアには鉱床と主張されている場所が十数カ所あり,そのリストはどこかでまとめてある.また,チリやブラジルで実際にそうした鉱石を採掘している企業も少なくとも一社ある.

(…)とはいえ,「生産を維持するためにこれまで40年にわたって補助金を出し続けるべきだった」と主張したいわけではない.何十年も金食い虫を抱えつづけていた場合よりも,いま新規に設備を建設する方がはるかに安く上がる.もっと言えば,これから建設される新しい設備は,現行の技術水準の最先端をいくものになる――たんに見た目が立派なだけでなく,現代的なものになる.

タイラーが言うように,「供給の弾力性」を甘く見ちゃいけない.


[Alex Tabarrok, “Rare Earths Aren’t Rare,” Marginal Revolution, October 18, 2025]
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