システミック・リスク・センターから新たな報告書(pdf)が出されているが、興味深い内容になっている。テーマは、「内生的なリスク」。内生的なリスクというのは、市場(あるいは、経済)に参加している個々のプレイヤーの相互作用によって生み出され、フィードバック・ループを通じて増幅されるリスクのことだ。報告書の冒頭には、ミルトン・フリードマン(Milton Friedman)の次の言葉が引用されている。「誰もが犯す最大の過ちは、個人に当てはまることと、社会全体に当てはまることを混同してしまうことだ。・・・(略)・・・興味深い経済問題のほとんどが次の特徴を備えている。個人に当てはることが個人の集まりには当てはまらない」。
さらに、ハイエク(Friedrich Hayek)の次の言葉も引用されている。「経済学者であるだけでは偉大な経済学者にはなれない。経済学者でしかない経済学者は、危険人物とまでは言わないまでも、社会の厄介者になりかねないと付け加えたいところだ」。
件の報告書ではファイナンスに焦点が置かれているが、いくつかのパラドックスについて巧みにまとめられている。市場に参加する個々のプレイヤーを慎重に振る舞わせようとすると、金融システム全体がかえって不安定になったり――「合成の誤謬」というやつだ――、多くの金融規制が景気循環を増幅させるフィードバック・ループの勢いを強めてしまったり、金融取引に対するトービン税が金融資産の価格変動を増幅させてしまったり。そういう話がいくつも紹介されているが、イアン・ゴールディン(Ian Goldin)の『The Butterfly Defect』――ファイナンスの話題に一章が割かれている――での指摘に対する強力な援軍になっているように思える。アデア・ターナー(Adair Turner)の『Between Debt and the Devil』(邦訳『債務、さもなくば悪魔:ヘリコプターマネーは世界を救うか?』)でも同様の論点がいくつか取り上げられている。
『Between Debt and the Devil:Money, Credit, and Fixing Global Finance』
〔原文:“Alone and together in the economy”(The Enlightened Economist, October 5, 2015)〕