スコット・サムナー 「驚きの一致」(2015年3月29日)

所得税がない州が移住先として心底好かれている。所得税がない州と、周囲と比べて人口増加率が高い州とが驚くほど一致しているのだ。

サンベルトにまつわる神話を繰り返し否定し続けているわけだが、何でこんなことをしなくちゃいけないのか自分でもわからなくなってきた。暑い気候が(移住先として)好かれているわけじゃないのだ。過ごしやすい気候が(移住先として)好かれているのだ。そして、所得税がない州が(移住先として)心底好かれているのだ。

アメリカを大きく4つの地域(北東部、中西部、南部、西部)に区分けした以下の地図をご覧いただきたい。

2000年~2010年の国勢調査のデータがこちら(pdf)にまとめられているが、この間の全米の人口増加率は9.7%(2億8140万人→3億870万人)。まずは、南部の中央にある州――暑くて湿気が多い州――から見ていくとしよう。ケンタッキー州(KY)とテキサス州(TX)の間に、紫色で色付けされた州が8つある(ウェストバージニア州も含めるなら9つ)。その8つのうちの6つの州(9つのうちの7つの州)の人口増加率は、全米のそれ(9.7%)を下回っている。石油に恵まれているルイジアナ州(LA)にしても、オクラホマ州(OK)にしても、全米の人口増加率を下回っているのだ。サン「ベルト」という表現がいかに不適切かを物語る証左だ。南部の中央にある州で全米の人口増加率を上回っているのは、テネシー州(TN)とテキサス州(TX)だけだ。ところで、(南部の中央にある州の中で)州の所得税がないのも、テネシー州(TN)とテキサス州(TX)だけなのだ。

西海岸にある州に目を転ずると、どの州の人口も全米の人口増加率を上回る勢いで増えている。南部の中央に比べると気候面で過ごしやすいというのはその通りだが、データを詳しく調べてみると明らかになることがある。太平洋に面している5つの州のうちで人口増加率が最も高いのはどこかというと、アラスカ州(AK)と、暑くて日当たりのいいワシントン州(WA)なのだ。ところで、(西海岸にある州の中で)州の所得税がないのも、アラスカ州(AK)とワシントン州(WA)だけなのだ。

北東部にある9つの州はどうかというと、どの州の人口増加率も全米のそれを下回っている。のろまばかりの中でも一番マシなのは(人口増加率が一番高いのは)、温暖なニューハンプシャー州(NH)だ。ところで、(北東部にある州の中で)州の所得税がないのも、ニューハンプシャー州(NH)だけなのだ。

中西部にある12の州はどうか? 中西部は、北東部と同じく、人口の伸びが緩やかな地域だ。駄目な面子ばかりの中でも一番調子がいい(人口増加率が一番高い)のは、サウスダコタ州(SD)だ。アメリカ人じゃない読者に知らせておくと、サウスダコタ州(SD)には何もない。(隣のミネソタ州にある)ミネアポリス・セントポール都市圏(ツインシティーズ)からサウスダコタ州(SD)に引っ越すというのは、(スウェーデンの)ストックホルムからベラルーシに引っ越すようなものだ。(ノースダコタ州最大の都市である)「ファーゴ」をちょっと暖かくしたのがサウスダコタ州(SD)と考えるといい。ところで、(中西部にある州の中で)州の所得税がないのも、サウスダコタ州(SD)だけなのだ。

南西部にある5つの州はどうかというと、いずれも人口が急速に増えている。その中でも先頭を走っているのが、ネバダ州(NV)だ。ところで、(南西部にある5つの州の中で)州の所得税がないのも、ネバダ州(NV)だけなのだ。

例外も勿論ある。南東部の州で所得税がないのはフロリダ州(FL)だけだが、フロリダ州の人口増加率は「わずか」17.6%に過ぎない。同じ南東部の中だと、ジョージア州(人口増加率18.3%)やノースカロライナ州(人口増加率18.5%)に一歩及ばずという結果になっている。とは言え、フロリダ州の人口増加率は何十年にもわたってどこよりも高くて、人口数でニューヨーク州を上回るまでになっている。人でごった返していて、新たに移住者を受け入れる余地がもうそんなにないのかもしれないのだ。カリフォルニア州(人口増加率10%)についても同じことが言える。

所得税がない9つ目の州は、ワイオミング州(WY)だ。西部の北にあってロッキー山脈が通っている地域の中だと、人口増加率でモンタナ州(MT)を上回っているが、アイダホ州(ID)の後塵を拝している。とは言え、アイダホ州とは違って、ワイオミング州には都市というのが無いも同然だ。(ニューヨーク州の)バッファローに住んでいるうちにイライラが募ってきて、「牧場で牛を飼いたい」とふと思ってワイオミング州に引っ越そうとする人がどれくらいいるだろうか?

アメリカ全体で州の所得税がないのは、9つの州だけ。アメリカで人口増加率が一番高い州は、ネバダ州(人口増加率35.1%)。州の所得税がない9つの州のうちの一つだ。

所得税がない州と、周囲と比べて人口増加率が高い州とが驚くほど一致しているのだ。

ところで、ポール・クルーグマンが次のように述べている。

サンベルトにある州の方が北東部にある州よりも成長率が高かった理由を誰かに尋ねられたら、アーサー・ラッファーのおかげじゃなくて、(エアコンを発明した)ウィリス・キャリアのおかげなんだよって答えるようにするといい。

新規のヒトの出入り(人口移動)に限れば、ラッファーのおかげでもあり、キャリアのおかげでもあるというのが私の言い分だ。過ごしやすい気候だけでなく、税金の低さも重要なのだ。州の所得税を無くさない限り、南部の中央にある州が(移住先として)好かれることはないのだ。

とは言え、今後はどうなりそうかというと、どこで暮らすかを決める上で税制の違いが果たす役割は、これまでほどには重要じゃなくなるだろう。その一方で、コーエンも指摘している〔拙訳はこちら〕ように、国が豊かになるにつれて、(どこで暮らすかを決める上で)アメニティ(快適な環境)が果たす役割がますます重要になっていくだろう――あまり注目されていないが、ニューハンプシャー州の人口増加率の急激な鈍化は、サプライサイダーにとっての「炭鉱のカナリア」(不吉な前兆)なのだ――。

日当たりのいいロサンゼルスにいつの日か引っ越したいというのが私の願いだ。


〔原文:“Amazing coincidences”(TheMoneyIllusion, March 29, 2015 )〕

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