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Ambrocio et al.「研究者たちは中央銀行のインフレ目標その他の目的についてどう考えているか」(VoxEU, 2021年3月6日)

[Gene Ambrocio, Andrea Ferrero, Esa Jokivuolle, Kim Ristolainen, “What academics think of central banks’ current inflation targets and other objectives,” VoxEU, March 6, 2021] 

【要旨】世界各国の中央銀行には,金融政策レジームの中核にインフレ目標をすえているものが多い.本コラムでは,613名の一流経済学者たちの調査データを提示する.この調査では,彼らが居住する国におけるこうしたインフレ目標も含めて広く多岐にわたる政策についての見解を調べた.調査結果からは,いま政策の主流を占めるインフレ目標を(経済学者本人の国で採用されている場合に)維持するのを支持する声の方が,変更を支持する声よりも多いことがうかがえる.だが,そうした目標を中央銀行が達成できるかどうかについて,悲観的な回答の方が多かった.これはとくにユーロ圏の経済学者たちで顕著だ.


連邦準備制度の金融政策戦略に関する近年のレビューや,欧州中央銀行 (ECB) での進行中のレビューをきっかけに,中央銀行が設定する最適なインフレ目標や,より広範な各種目標についての論争が再燃している.金利がゼロ近傍にあって金融政策が有効にはたらきにくくなっているなかで,こうした論点がよく取り上げられる――すなわち,中央銀行は現行のインフレ目標を引き上げて,実効的な下限 (effective lower bound; ELB) が将来において「
だが,インフレ目標をより高く設定すれば,平均的に変動がより大きい(そしてより高い)インフレ率にともなうコストが生じる.さらに,近年の出来事(および長期的な傾向)をふまえて,物価安定とそれ以外の中央銀行の目標との正しいバランスはどういうものかについて,疑問が提起されている.

本稿では,この論争に寄与すべく,経済学・金融分野の一流研究者たちへの世界的な調査にえられた回答を分析する.この調査では,最適なインフレ目標値やそれに関連する論点についての見解を回答者に訊ねた.6,000名近くにおよぶ標本のうち, 613名から回答を得た.そのうち, 159件はユーロ圏からの回答,241件は合衆国からの回答だ.

回答者のおよそ 80% は,金融政策に関連した問題についての専門家であるか相当の知識を有していると自認している.およそ 40% は,自身の主な専門分野がマクロ経済学・金融経済学だと報告している.標本の平均的な学術経験は,24年だ.

大半が現状に近いインフレ目標を支持

まず,いま中央銀行で設定されているものと異なるインフレ目標の方がよいと回答者が考えているかどうかを検討しよう.すべての中央銀行で同じインフレ目標がとられているわけではないため,回答者には,当該の中央銀行(がインフレ目標を設けている場合)の現行インフレ目標を答えるよう依頼した.次に,中央銀行がインフレ目標を設定する方がのぞましいと回答者本人が考えているかどうか,そして,インフレ目標がある方がよいとしたらどのようなものを好ましく考えるを訊ねた.調査全体で一貫して,回答者本人が居住する国の金融政策に責任をもつ中央銀行について考えるよう,回答者には指示している.

回答者の大多数(525名)は,インフレ目標をもつ中央銀行がある国・地域の人々だった.この集団のうち,228名は当該の中央銀行がいま設けているインフレ目標を支持している一方で,188名は現行と異なるものの方がよいと答えた [n.1].後者の人々のうち,およそ3分の2(124名)は目標インフレ率をもっと高くする方がのぞましいと回答した一方で,64名は目標インフレ率を下げる方がのぞましいと回答した.より高いインフレ目標をのぞむ回答を見ると,その中央値は現行より1パーセントポイント高い目標インフレ率となっている.同様に,目標インフレ率を現行より下げるのをのぞむ回答では,中央値は現行より1パーセントポイント低い目標インフレ率となっている.図 1 には,こうした回答結果をまとめてある.

【図 1】 インフレ目標を設定している中央銀行がある国におけるのぞましいインフレ目標 vs 現行のインフレ目標 [n.2]

ユーロ圏と合衆国では,それぞれの中央銀行が 2% インフレ目標を設定している(ただしユーロ圏の場合は近似的に 2%).この2つの地域・国では,回答者がのぞましいと答えたインフレ目標の平均は 2% をわずかに上回っている.ユーロ圏からの回答は 0% から 5% までの範囲に分布しており,合衆国からの回答は 0% から 4% に分布している.

多くの回答者は,たんなる物価安定につきない目的を中央銀行が追及するのを支持している

さらに,中央銀行が追及する目的と観察可能な政策目標について全般的な質問に回答を求めた.以下,ユーロ圏と合衆国とを別々にわけて,回答結果を報告する.標本全体の回答結果は,この2つのグループの「重み付け平均」とおおよそ合致している.

図 2 に示してあるように,どちらの地域でも,次の (a)-(b) 2つのどちらかを回答者のおおよそ 8割~9割が支持している――すなわち,中央銀行が (a) 物価安定と他の目的を等しい重みで追求すること,あるいは (b) 物価安定を主,それ以外の目的を従とすること.ユーロ圏では,これら2つの選択肢が同等の支持を得ている.合衆国では,6割の回答者が「選択肢 (a)」を支持している.物価安定のみを追求するのを支持する回答は,合衆国で 9%,ユーロ圏で 16% だった.次の点に留意されたい:欧州中央銀行でも連邦準備銀行でも,その主要な義務には物価安定だけでなく他の目的も含まれている [n.3].

【図 2】 中央銀行の目標は何におかれるべきか?

次に,中央銀行が行う金融政策に設定する観察可能な目標に目を向けよう.図 3 を見てもらうと,インフレ率と失業率の組み合わせが回答者たちのあいだでもっとも支持されている選択肢であることがわかる.これは,ユーロ圏(支持 45%)でも合衆国(支持 51%)でも同様だ.これに次いで支持された選択肢は,インフレ率のみを目標として追究するもので,ユーロ圏では 38%,合衆国では 24% の支持を得ている.物価水準,名目 GDP 水準,名目 GDP 水準の成長率は,それぞれ 1%~7% の支持をどちらの地域でも得ている.

もうひとつ興味をひくことがある.回答者の大多数は中央銀行が2つ以上の目的を追求するのがのぞましいという回答が大多数を占めている一方で,観察可能な目標を2つにする選択肢(すなわちインフレ目標と失業率)の支持は,それほど高くないのだ.

【図 3】 中央銀行が設定すべき観察可能な目標としてもっとものぞましいのは何か?

インフレ目標を設定している中央銀行は,その目標を達成しそうにないと見られている

我々の調査結果の簡略な報告のしめくくりに,今後3年間(i.e. 中期)で中央銀行がインフレ目標を達成する見込みについて回答者たちがどう考えているかを述べよう.この見込みを,5段階にわけて回答者に評価してもらった.尺度は「1 = とてもありそうにない」から「5 = とてもありそう」としている.スコアが 4 または 5 の回答を「楽観論」,1 または 2 の回答を「悲観」に分類する.図 4 を見てもらうと,ユーロ圏では 60% 対 20% で悲観論が楽観論を上回っている.合衆国では両者の差はもっと小さく,悲観 41% に対して楽観 31% となっている.

【図 4】 中央銀行が(今後3年間で)インフレ目標を達成する見込みはどれくらいか?

結び

我々の調査データからは,現行のインフレ目標を変えずにおく意見が回答者たちのあいだでもっとも多くを占めていることがうかがえる.この結果は,欧州中央銀行に関心を限定した CFM 調査(2020年)とおおむね一致している.また,物価安定に加えて他の目的(たとえば失業率)も明示的に追究することが強く支持されているのが見出される.我々の調査には,他にも多くの情報が含まれており,今後の研究で検討していく計画だ.

著者の註記: フィンランド銀行の同僚たち,とくに Jarmo Kontulainen, Juha Kilponen, Tuomas Välimäki,そして Guido Ascari, Wouter den Haan, George Pennacchi に著者一同から感謝申し上げる.調査の実施では onna Elonen-Kulmala に協力いただいた.また,研究補助 Minna Nyman にお世話になった.本研究の内容については,ひとえに著者たちが責任を追う.

参照文献

原註

[n.1] 他の回答は,「中央銀行が明示的インフレ目標を設定しない」方がよいというものか,あるいは,数値的なインフレ目標についてなんら意見をもたないというものだった.

[n.2] 一部の回答は,数値での回答に加えて言葉での説明を加えて限定したり,固定した数値ではなく数値の範囲を回答したものもあった.こうしたちがいは,それ自体として興味を引くものではあるが,調査結果を出す際には,数値範囲ならその中央の値をとるなどして回答を標準化してある.同様に,欧州中央銀行の「2% 近傍だがそれを下回る」といった現行の近似的なインフレ目標については,欧州中央銀行のそれを 2% とするなどして,それにもっとも近い整数にして標準化してある.

[n.3] 「欧州連合の機能に関する条約」の第127条(1) および「1977年連邦準備改革法」を参照.


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