ピーター・ターチン「アメリカで急増している暗殺事件は、『不和の時代』がまだ続くことを示している」(2025年9月14日)

現在の暗殺事件の件数は、以前のピークの1960年代を上回っている。

このブログでは通常、何か個別の事件が起こっても、それについてコメントするのを控えている。私が関心を寄せているのは、個々の事件ではなく、もっと広範な社会的トレンドにあるからだ。また、特定の事件についての理解は、新しい情報が入手できるようになるにつれて、変化することも多い。この数日間のチャーリー・カークの暗殺事件についての混乱した報道(そしてその訂正)は、その好例だ。この記事では、暗殺事件を扱うが、内情を打ち明けると、最近になって暗殺事件が増加していることと、その広範な社会的背景について執筆するつもりだったからであり、今回の悲劇の直後に公開されたのは偶然だ。

我々は、「アメリカ政治暴力データベース(USPVDB)」を作成している。このデータベースによると2020~2024年の5年間で7件の暗殺事件が発生している。これは〔暗殺が激しかった〕1860年代後半の半分に過ぎないが、以前のピークである1960年代を上回っている。

この7件には、ドナルド・トランプ暗殺未遂事件、ミネソタ州議会議長メリーサ・ホートマンとその夫の暗殺事件、ジョン・ホフマン州上院議員とその妻への銃撃事件、ルイジ・マンジョーネによるユナイテッドヘルスケア社CEOブライアン・トンプソン殺害事件、そしてその他数件のあまり知られていない事件が含まれている。しかし、今回チャーリー・カーク暗殺事件は含まれていない(カークの事件は2025~2029年期にカウントされる予定だ)。

同時に、アメリカ国民は、大量のテロリズムに遭遇している。そのほとんどが、無差別銃乱射事件という形をとっている。我々のデータベースでは、なんらかの社会集団や社会全体への攻撃意図を持った政治的暴力事件を「テロリズム」と分類している。一方で、「暗殺」は、そうした社会集団の具体的な代表(多くの場合、その集団のリーダーやその著名な構成員)への攻撃と分類している。私の研究グループが、暗殺、テロリズム、都市部での暴力的な暴動、(全面的内戦へと至ることもある)地方反乱のデータ収集に多大な労力を割いている理由は、政治的暴力の激しさが時間とともにどう変化するかを定量化できるからだ。そしてこれにより、政治的不安定性を突き動かす要因の理解を目的としている構造=人口動態理論による予測を、実証的に検証する手段を与えてくれる。このプロジェクトについての詳細は、私の20212年の論文『1780年から2010年までのアメリカにおける政治的不安制性のダイナミクス』で読むことができる(最近になって2024年までデータを更新している)。

こうしたデータ構築を行うのには、いくつかの判断を要している。例えば、暗殺とテロリズムの間に明確な境界線はない。〔4人が犠牲となった〕ブラックストーン社の重役ウェスリー・レパトナー殺害事件を考えてみよう。レパトナーは同社のマンハッタン本社で発生した銃乱射事件で殺害された。警察や当局よるなら、ニューヨーク市のビルで発生したウェスリー・レパトナー殺害事件において、銃撃犯は、同ビルのNFL事務所を標的としていたようだが、エレベーターを乗り間違えて別の階に行ってしまったようである。もっとも、これが奇妙な帰結となっているのが、ブラックストーン社は広く嫌われている企業の一社であり、経営陣は住宅価格高騰危機を助長する「貪欲さを駆り立てるアジェンダ」によって左派グループから非難されていたことだ(例えば、「住宅は人権だ:これをあらわにしたブラックストーンCEOで億万長者の大家スティーブン・シュワルツマン」を参照)。我々の「アメリカ政治暴力データベース(USPVDB)」ではこの事件を「テロリズム」と分類しているが、もし銃撃犯がブラックストーンの重役をターゲットにしていたなら、暗殺事件と分類されただろう。

いずれにせよ、構造=人口動態理論の観点からは、暗殺と銃乱射をキレイに区別することは大きな問題ではない。なぜなら、これら二種類の政治的不安定性事件の根本的原因は同じだからだ。私が多くの著作・論文(『エリート過剰生産が国家を滅ぼす』最も体系的に)で論じているように、暗殺とテロリズムの爆発的増加の根底にある構造的条件は、大衆の窮余化と資格を有するエリート志望者の過剰生産である。そして、長年の読者はご存知のように、この要因によって、暗殺者・テロリスト・過激派グループへの支持の増加も説明できる。

簡潔にいえば、庶民や過剰生産された学位保持者の間でのウェルビーイング(幸福健康度)の低下と「プレカリティ(将来・雇用・物質的・精神的不安:Precarity)」の増大に、超富裕層の人数とその富の爆発的増大が相まって、非エリート層の間で根深い不正義感情が生まれる。非エリート層の多くは、自身の将来の悪化を黙って受け入れるが、一部は過激化し、不当なシステムに打撃を加えんとする動機を持つことになる。社会心理学では、こうした個人を道徳的懲罰を与える者として分類している。

エリート過剰生産が国家を滅ぼす』(第4章)では、架空の人物「ジェーン」を用いて、過激派組織に加わる人の動機を説明している。ジェーンのような人は、既存のエリートに対して大衆の不安を組織化するカンター・エリートとなる。しかし、過激化する少数派の多くは、組織化できるだけのスキルを持っていない一匹オオカミであり、単独行動を決意し、テロリスト/暗殺者へと変貌する。

テロリストと革命家が近しい存在であることを示す好例が、知名度の低く、短い生涯を遂げたウラジーミル・レーニンの兄アレクサンドル・ウリヤノフだ。ウリヤノフは、1887年、ロシア皇帝アレクサンドル3世の暗殺未遂事件に関与したとして処刑された。処刑の日の若きレーニン(当時の性はまだウリヤノフ)とその母を描いた、ソ連時代の有名な絵画『我々は別の道を選ぶ』がある。

出展

現在に話を戻すと、こうした自己犠牲を払う動機を抱えた人はほとんどいない。しかし今でも、そうした人を支持し、応援する人は相当数存在する。

2024年12月の世論調査によるなら、回答者の10%が(保険会社ユナイテッドヘルスケアのCEOブライアン・トンプソンを射殺した)ルイジ・マンジョーネを「英雄」と見なしている(「わずか10%が殺害犯を英雄だと考えている」)。「悪党」と見なしたのは53%で、英雄視はそれよりはるかに少ないが、それでも10人に1人のアメリカ人が冷酷な殺人者を支持・応援していることになるかもしれない。興味深いのが、暗殺への支持は、過剰生産された学位保持者の間で特に高かったことだ。「大学院学位を持つ有権者のうち15%が殺害犯を英雄と見なしている。学士号保持者では8%、非大卒者では9%だ」。

重要なのは、政治的暗殺やテロリズムという手段だけでは、既存エリートを打倒できないことだ(少なくとも、私はそうした事例を想定できない)。国家統治者を暗殺すれば、革命や内戦を開始するトリガー事件として機能するかもしれないが、革命や内戦が起こるには組織化され献身的なカウンター・エリート政党が必要だ。アレクサンドル・ウリヤノフの失敗と、弟の最終的な成功は、この原理を完璧に説明している。

アメリカで今回のような不安定性の「些細な事件」の頻度が増加していることの重要性は、そうした事件を発生させている社会システムの内部において、何かが根本的に壊れていることを示す信号となっていることにある。私は、2008年当時に、銃乱射事件の増加に対して注意喚起を行った(これについては2012年の記事「炭鉱のカナリア」で読むことができる)。炭鉱夫の持っているカゴの中でカナリアが死ねば、それは起こるであろう爆発の原因ではなく、事前警告である。

同じように、暗殺事件とテロリズムの発生率の増加は、我々がまだ危機を脱しておらず、まだ長く続くことを伝えている。

〔原題直訳:暗殺事件の爆発的増加〕
[Peter Turchin, “An Eruption of Assassinations” Cliodynamica, Sep 14, 2025]

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