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スコット・サムナー「魔法の杖は振れないのだよ」

Scott Sumner ”Magical thinking”, The Money Ilusion, February 21st, 2019


ポール・クルーグマンがMMT(現代金融理論)を批判する記事いくつか書いている。彼は礼儀正しくも,ゼロ下限においてはMMTの政策提案は緊縮の擁護者ほどは悪くないと指摘している。しかし奥底ではこのモデルが純然たる狂気であることに気づいているに違いない。

ステファニー・ケルトンの返答は,その思想について明確な説明を与えることができないというMMT派の長き伝統に連なるものだ。莫大な財政赤字はやがて金利が納税者にとって大きな負担となって圧し掛かるほど高まるまで公的債務を積み上げかねない,というクルーグマンの懸念に対する彼女の回答は以下のとおり。

まず,経済学者ジェームズ・K・ガルブレイスが説明したように「金利の仮定には悪魔が潜んでいる」。審判の日シナリオを防ぐのは難しいことではない。ガルブレイスが説明するとおり,「慎重な政策的結論は,予想される金利を低く保つこと」,もっと雑にいえば「重要なのは金利なのだよ,馬鹿者め1 」ということだ。

ではどうやって政府は「予想される金利を低く保つ」とされているのだろうか。魔法を使って?

そう,魔法を使うらしい。 [Read more…]

  1. 訳注;ビル・クリントンの大統領選挙時のスローガン”It’s the economy, stupid”のもじり。 []

アレックス・タバロック「貧しい眠りは家も貧しくする:インド標準時のコスト」

Alex Tabarrok “Poor Sleep Makes People Poor: The Costs of India Standard TimeMarginal Revolution, February 5, 2019

独立後,インドは国土全体に単一の時間帯を採用した。インドは東西1,822マイルにまたがり,これは経度で29度に相当する。15度ごとに時間帯を分けるという慣習にインドが従っていれば,インドには少なくとも2つの時間帯があったことになる。時間帯が1つしかないことで,東では一番西よりも二時間早く日が昇るということがあり得る。

モーリク・ジャグナニは,その独創的かつ驚きの論文の中で,インドの単一の時間帯は睡眠の質,特に貧しい子供のそれを下げており,それによって彼らの教育の質を下げていると主張している。なぜ名目の変化が実質変数に影響を及ぼすのだろうか。学校はインド全土で大体同じ時刻に始まるが,日が沈むのが遅い場所では子供たちが床に就くのも遅い。そのため,西にいる子供たちは東にいる子供たちよりも睡眠が短く,これが彼らの教育水準,後々には彼らの賃金にさえ響くのだ! [Read more…]

アレックス・タバロック「2018年の記事ベスト10」

Alex Tabarrok “The Top Ten Marginal Revolution Posts of 2018” Marginal Revolution, December 20, 2018


ページビュー数で測った場合,本ブログMarginal Revolutionの記事で今年最も人気があったのは,警官とそれ以外の人たちでは違った法律が適用されているという話だ。「刑務所釈放カード(Get Out of Jail Free Cards)」

2位は「タイラー・コーエンの人生のための12のルール(Tyler Cowen’s 12 Rules for Life)」だ。7番目のルールの「自らを傷つけるものから学ぶ術を学びなさい」に今日は目を引かれたが,リスト全体を通して多くの知恵に溢れている。

3番目に人気があったのは,タイラーでも私でもゲスト投稿者ですらない本ブログの読者からのコメントだ。「主要IT企業で働くことに関してとある頭の良い人の見解(One smart guy’s frank take on working in some of the major tech companies)」

お気に入りの記事のうちの一つが4位に入った。「”The Profit”からの教訓(Lessons from “The Profit”)」 The Profitの新シーズンが始まったが,いまだに面白い。産業組織論の経済学者なら必見だ。

5位もお気に入りの一つだ。 [Read more…]

アレックス・タバロック「問題:子供2人のうちどちらも女の子である確率は?」

Alex Tabarrok “A Girl Named FloridaMarginal Revolution, July 9, 2008


レナード・ムロディナウの”The Drunkard’s Walk: How Randomness Rules our Lives”(邦訳「たまたま―日常に潜む「偶然」を科学する」田中三彦 訳)を読んだ。この本はモンティ・ホール問題,ベイズ理論,可用性バイアス,コントロール幻想等々を取り上げている。これらについて馴染みがない人にとっては,この本はこの上なく面白いものだろう。

他方,私としてはこの本から新たなことをたくさん学んだとは言えない。とは言え,それでもこの本には楽しませてもらった。うまく書かれてるし,興味深いネタに溢れているのだ(偉大な数学家であるポール・エルデシュは,ドアを変更すべきということを信じるのを拒んだ1 というのは知ってたかい?)。確率論や統計入門を教えている人にとっては,授業を活気づける良い例題をたくさん発見できることだろう。

私が目を引かれた問題は次のようなものだ。ある家庭に2人の子供がいると仮定する。両方とも女の子である可能性はどれだけか。そう,これはとても簡単。女の子である確率は2分の1,それぞれの確率は独立だから2人とも女の子である確率は2分の1×2分の1=4分の1だ。

それでは少なくとも1人の子供が女の子である場合,2人とも女の子である確率はどれだけか。 [Read more…]

  1. 訳注;モンティ・ホール問題を参照。 []

タイラー・コーエン「ウィリアム・ノードハウスがノーベル経済学賞を手にしたのはなぜ?」

Tyler Cowen “William Nordhaus and why he won the Nobel Prize in economicsMarginal Revolution, October 8, 2018


ローマーが経済成長論,ノードハウスが環境経済学でノーベル賞を受賞したのは素晴らしい選択だ。2人が選ばれたのは,富,富の真の性質,どのように国家や社会がマクロレベルで動いていくかを重要視したためだ。2人は互いに強く関連している。ローマーは,どのようにしてアイデアが生産性を押し上げて成長を持続させるかということの裏にある論理を組み立てた。これは例えば,僕たちがシリコンバレーで目撃してきたものだ。ノードハウスは,経済成長がどのように環境の価値と相互作用するかを説明した。公式の受賞理由は次のとおりだ。

2018年の経済学スウェーデン国立銀行賞は,「気候変動を長期的なマクロ経済分析に組み込んだ」ウィリアム・D・ノードハウスと「技術革新を長期的なマクロ経済分析に組み込んだ」ポール・M・ローマーに与えられる。

2人ともアメリカ人で,ともに非常に革新的であるけれども「主流派の枠内」のアプローチをとっている。というわけで賞はマクロ経済学に与えられたわけだけれども,それは景気変動に対するものというよりは成長論と長期的な経済展望に対して与えられたものだ。ノーベル賞委員会による説明はこちらから読める。毎度のとおり素晴らしい出来だ。 [Read more…]

リチャード・トル「ノーベル経済学賞受賞者の師弟ネットワーク」

Richard Tol ”The professor-student network of Nobel laureates in economics”, VOXEU, April 29, 2018
[訳者注記:登場する学者は可能な限り原文では付されていないwikipediaの説明リンクを付けています。]

ノーベル記念経済学賞は,経済学の世界で最も栄誉あるものとなっている。本稿では,新たなデータを用いて経済学賞受賞者の学問的な系譜を図式化する。その結果は,受賞者たちはそれぞれ繋がりのない4つのグラフに落としこむことができ,新たな受賞者は過去の受賞者と密接に関係していることが多いことを示している。今後受賞する可能性があるとされる候補者たちのうち,半分以上は受賞者から教えを受けている。 [Read more…]

ジョン・コクラン「中国と知的財産問題」

John H. Cochrane “Intellectual property and ChinaThe Grumpy Economist, August 13, 2018


中国にもっと技術を移転しよう,とスコット・サムナーは書いており,ドン・ブドローが賛成のコメントを付けている。彼らは全くもって正しく,左にも右にもいる保護主義者たち共通の防衛ラインを貫かんとしている。

焦点となっているのは,中国がアメリカの技術を買うことができるか,あるいはアメリカ企業が中国に進出する条件として中国のパートナーに技術移転を行うことを要求できるかという点だ。スコットとドンの回答は私のそれと意を同じくしつつも,より洗練されている。すなわち,中国へのアクセスにそれに見合うだけの価値がないなら取引してはならないということだ。

技術や知的財産を盗むことは悪いことで止めなきゃならない,というのは正論だ。関税を課すのがそのための優れた方法であるかどうかはまた別のところでろんじよう。しかし,経済学的な観点からは,そうした正論すら疑問視されるのだ。 [Read more…]

タイラー・コーエン「間違ったAmazon批判」

Tyler Cowen “The rant against Amazon and the rant for Amazon” Marginal Revolution, September 19, 2018


ワオ!こうした問題すべては買い手独占と売り手独占(monopsony and monopoly)タイプの市場集中によって引き起こされているってことをこんなにも一生懸命否定しようと頑張ってるなんて驚きだ。Amazonと競合するのが簡単だと思うかい?Amazonが各産業に参入を考えたとき,それによってその産業の競合他社の株価がどうなったか考えてみなよ。従業員への支払いを低く抑えるためにAmazonがその市場影響力とブランドネームを使っていないとでも?同じものを使って政治家のインセンティブを引き出してない?経済に占める企業利益の割合は記録的な高さになっているけど,それはどうやって維持されてると思う?こうしたことに目をつぶって企業の力が増しているのを否定しているのはどんな思惑からかな?論理的とは思えないね。

上はSteven Wolfによるコメント1 。Amazonについては正当な非難というものもありうるけれど,このコメントはこれだけの短い中に驚くほど多くの間違いを含んでいる。 [Read more…]

  1. 訳注;景気回復にも関わらず賃金の上昇が鈍い,資本収益率が高い,国内投資が弱いといったアメリカ経済の異変について,その原因は資本の移動が自由であることや投資家が高利益を求めるようになったからだではないかという趣旨のコーエンの過去記事についたコメント。つまりSteven Wolfは,コーエンはごちゃごちゃ屁理屈をこねているけれど,今の経済問題はAmazonが市場の支配力を濫用して人々から搾取しているのが原因だろうということを述べている。 []

ブラッドフォード・デロング「グローバル化に関して読むべき5冊 by ラリー・サマーズ」

Bladford Delong”Larry Summers:TheFive Best Books on GlobalizationGrasping Reality with at Least Three Hands, September 17, 2018


ラリー・サマーズが挙げている「グローバル化に関する最も優れた5冊」は次のとおり1

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  1. 訳注:以下では原文のGoogleへのリンクをamazon.co.jpのものへと差し替えた。 []
  2. 訳注:ほかに「ケインズ全集 第2巻」収録の早川忠訳と救仁郷繁訳「講和の経済的帰結」があるがどちらも絶版。 []

タイラー・コーエン「現金給付に効果はあるか」

Tyler Cowen “Chris Blattman is becoming more skeptical of cash transfersMarginal Revolution, September 12, 2018


以下はネイサン・フィアラとセバスティアン・マルティネスとの共著によるクリス・ブラットマンの新しい論文だ。

2008年,ウガンダは数百の小集団に対し,しっかりと訓練を受けた上で個人商売を始められるよう一人当たり400ドルを給付した。その4年後に行われた実証評価では,給付によって収入が38%上昇したことが確認された。9年後に再度確認したところ,こうしたスタートアップ給付は貧困からの脱脚というよりもスタートダッシュとして機能したことが分かった。現金受給者による投資は頭打ちとなる一方で,対照群1 は事業や一時的な雇用を通じて次第に所得を増加させたため,両者の雇用,収入,消費において収斂した。現金給付は資産,技能労働,そして場合によっては児童の健康に対して持続的な影響を与えたが,死亡率,出産率,保健,教育に対してはほとんど効果が見られなかった。

以前に僕が行ったクリス・ブラットマンへのインタビューはここから読めるけど,そこでも同じような結果について議論されている。

  1. 訳注:現金給付を受けていないグループ []