ビル・ミッチェル「日銀は金融政策の方向性を変更していない。マスコミの利益相反記事に騙されてはいけない」(2022年12月22日)

今回の決定は、金融政策の根本的な変化を意味するものではない。中央銀行の最も重要な役割である、金融の安定性の維持を目的に、国債市場と社債市場間の仲介機能を微調整した些細な変化に過ぎない。

日本銀行が、10年物国債のイールドカーブ・コントロールの上限を微調整し(2022年12月19日発表)、ヒステリーが引き起こされた。想定の範囲内であるが、ヒステリーの内容は、無内容で、既得権益からの話題に終始している。投資銀行〔の関係者〕がマスコミに向けて、「喫緊のインフレに備えるために金利を上げなければならない」とオウムのように繰り返し、金融メディアが同語反復している。マスコミは、このオウム発言に晒されている一般国民に、こうした発言は、金融関係者が利益獲得のために金利を上げさせようとするポジショントークだと伝えることは一切しない。これがここ数日、マスコミによる金融関係者の提灯持ち記事が蔓延している理由だ。私の理解では、今回の決定は、金融政策の根本的な変化を意味するものではない。中央銀行の最も重要な役割である、金融の安定性の維持を目的に、国債市場と社債市場間の仲介機能を微調整した些細な変化に過ぎない。「ヘッジファンドが勝利し、日銀の利上げは彼らへの屈服だ」と主張している人たちは、大局をまったく把握できておらず、私的利益のためのポジショントークを推し進めている。これは利上げではない。日銀の声明文を読み、人づてに聞いた限り、日銀は現在の政策ポジションーー(私の想定だが)インフレ圧力は一時的であり、〔利上げによって〕実体経済の不況と失業率の上昇を定着させ問題を引き起こすことで〔現状のインフレ〕に対処するのはありえないーーにコミットしているようだ。

今朝、ネットのニュースフィードには、こうした〔金融関係者によるポジショントーク的な〕見出しが踊っている。

〔ニュースの〕切り口、言葉等の全ては、これから災難が起こるだろうと示唆している。

全てが、ナンセンスだ。

今回、日銀が行ったこと

2022年12月20日、日本銀行は「当面の金融政策運営について」を発表し、以下のように述べている。

日本銀行は、本日の政策委員会・金融政策決定会合において、緩和的な金融環境を維持しつつ、市場機能の改善を図り、より円滑にイールドカーブ全体の形成を促していくため、長短金利操作の運用を一部見直すことを決定した。

https://www.boj.or.jp/announcements/release_2022/k221220a.pdf

フレーズに「緩和的な金融環境を維持」とあるように、ここでは金融政策の方向性が述べられている。

日銀は以下を決定した。

1.「短期金利:日本銀行当座預金のうち政策金利残高に▲0.1%のマイナス金利を適用する」
これが基幹となっている声明だ。

金利の変更は発表していない。

2.「長期金利:10年物国債金利がゼロ%程度で推移するよう、上限を設けず必要な金額の長期国債の買入れを行う」
これは、10年物国債の利回りを0%程度に保つように、流通債権市場からの継続的な国債購入に、上限を設けないとする処置だ。

つまり、毎月の国債購入額を20%程度増やすことを除けば、国債購入プログラムを変更していない。

円の発行者としての無限の資金力を使って、国債の利回りを目標範囲に維持するために必要なだけの国債を買い上げる用意があるとしている。

3.発表骨子の3つ目の項目で、既存の政策に若干の変更を加えることをアナウンスしている。

国債買入れ額を大幅に増額しつつ1、長期金利の変動幅を、従来の「±0.25%程度」から「±0.5%程度」に拡大する。10 年物国債金利について 0.5%の利回りでの指値オペを、明らかに応札が見込まれない場合を除き、毎営業日、実施する。上記の金融市場調節方針と整合的なイールドカーブの形成を促すため、各年限において、機動的に、買入れ額のさらなる増額や指値オペを実施する。

以上が、今回導入された変更点である。

日本銀行がコントロールしている10年物国債金利の上限は、0.25%ポイントから0.5%ポイントに引き上げられ、新しい金利となる。

国債の金利と価格は反比例していること、そして日銀は債券市場の投資家の思惑に関係なく金利を好きな目標に誘導できることを思い出してほしい。

これは極めて当たり前の事実だ。

中央銀行はいつでも好きなタイミングでこれを実施でき、債券市場の投資家の自己都合に関係なく、金利を好きな目標に保つことができる。

日本銀行はまた、非政府系金融資産(例えば、上場投資信託や不動産信託等を)や社債の購入を、コロナショック前の水準で継続すると言及している。

金融マスコミの反応

金融マスコミの反応は、控えめに見ても大げさなものだった。

エコノミスト誌は、日本銀行は声明ではっきりとそうではないと述べているにもかかわらず、「引き締めの時期の到来を告げているかもしれない」と主張した。

エコノミスト誌は、日銀の発表直後に10年物国債の金利が「急上昇した」と主張したが、これは政策変更に伴っての、0.25%から0.4%の小幅な上昇に過ぎない。

またエコノミスト誌は、今回の政策転換は、「以前までの〔誘導長期金利の〕上限を抑えるための数ヶ月に及ぶ国債購入による巨額の国債のポートフォリアからの大きな損失を免れるための」ものだと主張した。

日本銀行の当局者たちは、金利の変動が以前に購入した国債の売却価格に影響することでの、〔日銀の〕バランスシート上に現れる「帳簿上の」損失など気にしていないにも関わらずだ。

現在、世界中で議論されている「中央銀行が損失を出して〔危機となる〕という」話は、中央銀行は商業銀行ではないので、永遠にマイナス資本でも営業を続けられるという点が完全に失念されている。

エコノミスト誌が引用した投資家によるなら、今回の事態は、投資家が再び支配権を握り、日本国民を犠牲にして利益を得るという「オペレーション・フリーダム(自由作戦)」の始まりだとしている。

〔これは勘違いで〕日本銀行は、たとえ金融市場がこれを望んでいたとしても、許容はしないだろう。

すると、今回の措置とは何なのだろう?

金融資産には様々な資産(政府系、非政府系等)があり、日常的に取引されている。

そうした金融資産の満期は、短期のものから非常に長期のものまで様々であり、10年物国債は、取引可能な資産で満期の長い方の際にある。

国債資産はまとめて「イールドカーブ」と呼ばれており、これは基本的に現時点での満期利回りを超短期から長期にかけてプロットしたものだ。

国債市場で何かが起こればイールドカーブは変化し、そこから社債やJ-REITなどの非政府系金融資産はさらに影響を受ける。

つまり、中央銀行は特定の満期の国債の金利に影響力を行使し、その後に「市場」が国債以外の非政府系金融資産の利回りを〔中央銀行によって〕コントロールされた国債金利に沿って調整するのが、量的緩和の主な目的だ。

中央銀行は、流通債権市場で、特定の国債の満期への需要を増やす(買いオペで取引価格を強制的に引き下げ)、金利を低下させている。

中央銀行は、購入規模を変更することで、金利を好きな水準にコントロールできる。

そして、この処置によって、他の非政府系金融資産等の利回りを引き下げるように誘導する。

中央銀行は、イールドカーブの「投資」側の金利低下、つまり長期金利を引き下げることで、生産能力の資本形成(つまり投資)のための借り入れを刺激し、経済の活性化に繋がることを期待しているのだ。

量的緩和は、民間銀行にさらなる現金や流動性を「供給している」のではない。

生産能力への民間投資支出を刺激することを期待して、長期金利を引き下げているのだ。

問題は、経済が低迷しているときは、たとえ借り入れ金利が大幅に低下しても、誰も借り入れを増やそうとしないことにある。

話を戻すと、日本銀行は金融政策決定会合による声明で、企業が社債発行して自己資金を調達することが困難になってている可能性を懸念していると述べている。

「本年春先以降、海外の金融資本市場のボラティリティが高まっており、わが国の市場もその影響を強く受けている」とも述べている。

さらに以下のように続けている。

債券市場では、各年限間の金利の相対関係や現物と先物の裁定などの面で、市場機能が低下している。国債金利は、社債や貸出等の金利の基準となるものであり、こうした状態が続けば、企業の起債など金融環境に悪影響を及ぼす惧れがある。

この部分が、今回の政策変化を理解するための核心だ。

長期にわたって、様々な満期の国債の取引が非常に少なくなっており、このことで、日本企業が妥当な金利で社債を発行する環境に影響を及ぼすようになったのだ。

日本銀行は、10年物国債の金利の上限を若干高めに設定することで、イールドカーブに沿った〔非政府系金融資産との〕関係性を改善させ、日本企業がより有利な条件で社債を発行できるように期待しているのである。

今回の政策変更は、それだけに過ぎない。

日本銀行は、インフレ懸念の高まりに対応したわけではなく、現在の状況は一過的なものであり、すぐに収束すると考えている。

今回の政策変更は、債券市場での売買状況を改善するために行われた技術的な調整にすぎない。

一方で、日本政府は1月に、燃料・光熱費補助制度を実施する予定で、これによって家計の生活費負担が大幅に軽減されるだろう。

我が国とは大違いだ。

結論

日本銀行が、声明の最後で以下のように述べている部分を読めば、〔今回の政策変更の目的は〕一目瞭然だ。

当面、新型コロナウイルス感染症の影響を注視し、企業等の資金繰り支援と金融市場の安定維持に努めるとともに、必要があれば、躊躇なく追加的な金融緩和措置を講じる。政策金利については、現在の長短金利の水準、または、それを下回る水準で推移することを想定している。

これは、私的利益しか考えていない民間の市場関係者の願望など、日銀は気にしておらず、「オペレーション・フリーダム(自由作戦)」の引き金を引こうとはしてないことを示している。

おまいらおちつけ。

今日はここまで!

Bank of Japan has not shifted direction on monetary policy
Postec by Bill Mitchell on Thursday, December 22, 2022 〕

〔訳注:日銀の声明の引用文は、日本語版から引用している〕

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