タイラー・コーエン 「パジャマを着て交渉、スーツ姿でブログ書き」(2007年9月24日)/「カウンター・シグナリング」(2006年7月18日)

●Tyler Cowen, “Bargain in your pajamas, or blog in suit and tie”(Marginal Revolution, September 24, 2007)


本ブログの熱心な読者の一人である Johan Almenberg から次のような質問を頂戴した。

くつろいだ気分だと仕事も捗る(はかどる)という理由で、仕事着と運動着(部屋着)の区別がなくなってきています――ラフな格好での勤務を認める会社が増えてきています――が、この件についてどう思われますか?

シグナリングの誘惑もあって、全社員がパジャマ(部屋着)という均衡もやがては掘り崩される可能性がまず考えられる(ところで、少し変わっているのかもしれないが、私は運動着だとそんなにくつろげない)。「出世欲の塊」たるジェイミー氏が、同僚たち(職場のライバル)よりも少しでも見栄えをよくしようとして、ネクタイを締める可能性があるのだ。

社内でのシグナリング競争が行き過ぎて浪費が生じている [1] … Continue readingようなら、シグナリングに伴う外部性を内部化するために打てる手はたくさんある。来客が少ない職場だったり他社に社用で出かける機会が少ない職場だったりしたら、社員に「これこれを着用せよ」と求めるよりも、「ネクタイの着用を禁ず」とかいう感じで「これこれは着ちゃだめ」って定めるといいだろう。Google社だとかは、全社員に職場でラフな服装を身に付けるように求めているそうだが――社員に「これこれを着用せよ」と求めている例の一つ――、「これこれは着ちゃだめ」って定めている例というのは珍しいようだ。「これこれは着ちゃだめ」って定めたとしても、その決まりを巧みにかいくぐろうとする「ごまかし」が発生する可能性も忘れるべきじゃないだろう。ネクタイの着用が禁じられていても、豪勢な(そして、着心地の悪い)Tシャツをどこかから見つけ出してきてそれを身に付けようとする――そのようにしてシグナルを送ろうとする――社員も出てくるかもしれない。そんな「ごまかし」はどのくらい頻繁に起こりそうだろうか?

シグナリングどうこうは別にして、スーツを着て身なりをきっちりしていた方が仕事が捗る(はかどる)という人もいるかもしれない。誰からも見られていないのに、スーツ姿にネクタイを締めてブログを書いているなんていう例も、案外近くに見つかるんじゃなかろうか?

正直なところ、職場での身なりについて現実のデータにうまく当てはまる理論は持ち合わせていない。服装を通じたシグナリングは、社員のタイプを見分ける――例えば、出世欲が強いのは誰かを見分ける――ために役立つことが多いので、会社側としても社員が服装で自分をアピールするのをやめさせようと思わない・・・ってことくらいは言えそうだ。

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●Tyler Cowen, “Counter-signaling bleg”(Marginal Revolution, July 18, 2006)


「カウンター・シグナリング」の格好の例をいくつか探しているところだ。「カウンター・シグナリング」の典型とも言えるのは、浮浪者みたいな身なりをしたお金持ちのケースだ。誰かの歓心を買う必要がないからこそ、やれてしまえるわけだ。お金持ちのカジュアルな服装は、社会的な地位の高さだけでなく、ボス(上司)がいないこと(「私にはボスはいません」ということ)も伝える(シグナルする)役割を果たしている。カジュアルな服装が社会的な地位の高さを伝えるシグナルとして機能する場合でも、模倣から完全に自由というわけではないのは言うまでもない(浮浪者みたいな格好は、誰にでもできる)。それゆえ、お金持ちがカジュアルな服装を纏う(まとう)ことによって社会的な地位の高さを伝えられるのは、「この人は社会的に地位の高い偉い人間に違いない」と周囲に思わせることのできるような別の手段が他にもある場合に限られるだろう。

オタク気質のトッププログラマーは、時として職場でネクタイを締めない。絶世の美女は、あえて軽装で済ますかもしれない。他に何かこれはという例はないだろうか? 神秘的な雰囲気を纏(まと)っているからこそ、「カウンター・シグナリング」の使い手になれるのだろうか? これはという例を教えてもらえたら幸いだ [2]訳注;「カウンター・シグナリング」については、次の記事も参照されたい。 ●“Dressing down: Can this actually boost your social status?”(Phys.org, February 11, … Continue reading

(追記)「カウンター・シグナリング」については、過去にもこちらのエントリー〔拙訳はこちら〕で話題にしたことがある。

References

References
1 訳注;社員の誰もが「アイツよりも高価なネクタイを締めてやる」と対抗意識を燃やす結果として、みんな似たようなネクタイをつける羽目になって周囲との差別化が大して図れずに終わる、というオチが待っているかもしれない。服装代に給料の多くを持っていかれて、生活が困窮するなんていう笑えない事態が待っているかもしれない。
2 訳注;「カウンター・シグナリング」については、次の記事も参照されたい。 ●“Dressing down: Can this actually boost your social status?”(Phys.org, February 11, 2014) 「カウンター・シグナリング」という現象に理論的な観点からメスを入れている(それに加えて、実験による検証も試みている)論文もある。以下がそれ。 ●Nick Feltovich&Rick Harbaugh&Ted To, “Too Cool for School? Signalling and Countersignalling(pdf)”(RAND Journal of Economics, vol. 33, no. 4, Winter 2002, pp. 630-649)
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