タイラー・コーエン 「バーター・クラブと貨幣理論」(2004年2月3日)

会員同士で物々交換をし合う「バーター・クラブ」が結成されるのはなぜ?
画像の出典:https://www.photo-ac.com/main/detail/849527

私がまだ小さかった頃の話だが、父親が「バーター・クラブ」――会員同士で物々交換(バーター)をし合う団体――に所属していた。父親は、商工会議所向けに販売している雑誌を作っていたが、その雑誌に広告を載せるのと引き換えに、レストランで無料で食事にありついていた。そのネットワークは州全域に張り巡らされていて、クラブの会員の間で通用するクーポン券や約束証書(商品との交換を約束する証書)も発行されていた。(ジャージー牛ならぬ)ジャージー・ボーイだった私は、父親と一緒に仔牛肉のピカタを無料で何度もご馳走になったものだ。

バーター・クラブは、デフレになるとその数が増える傾向にある。1930年代の大恐慌期にもかなり目立った存在だったし、2001~2002年の金融危機後のアルゼンチンでも蔓延(はびこ)った。

バーター・クラブが結成されるのは、なぜなのだろうか? 少なくとも3つの理由が頭に浮かぶ。

  1. 節税になるかもしれない。ただし、必ずしも合法とは限らない。

  2. 一部の相手を対象に価格差別を行うため。あなたの商品を売るのと引き換えに、一部の買い手に現金ではなく商品での支払いを求める(その買い手から何かモノを貰うなりする)というかたちで価格差別を行うわけだ。

  3. 金融政策の舵取りが滅茶苦茶な時に、実質値で測った貨幣量(名目貨幣量を物価水準で除した値)を増やすため。バーター・クラブが金融危機時に増殖しがちなのもそのためだ。物価が下がれば実質値で測った貨幣量は増えるが、物価は下がりにくいかもしれない。中央銀行が貨幣の量(名目貨幣量)を増やそうとしないせいで実質値で測った貨幣量が増えないようであれば、民間部門がスクリップ(臨時紙幣)を発行して貨幣の量を増やす仕事をある程度代行するわけだ。

ベルナルド・リエター(Bernard Lietaer)(pdf)の考えによると、スクリップは将来的に重要な貨幣制度の一つになるという。アーヴィング・フィッシャー(Irving Fisher)もスクリップと関わりのあるアイデアに強い興味を抱いていた。それで言うと、ドイツの貨幣経済学者であるハインリヒ・リッタースハウゼン(Heinrich von Rittershausen)もだ。

私の考え:スクリップは、今後も経済的にそこまで重要な存在にはならないだろうし、廃(すた)れていく可能性さえあるかもしれない。スクリップというのはあなた独自の貨幣だが、裏付けがいる。あなたが作る財(商品)という裏付けが。金融仲介機関が役割をうまく果たせば果たすほど、スクリップみたいな存在の必要性は薄れるだろう。不況になって金融仲介機能が鈍ると、スクリップを発行する動きが広がるのは偶然ではないのだ。ebayとかのおかげでモノを転売するのが容易になるにつれて、価格差別を目的としてバーター・クラブが結成されるケースは減っていくだろう。

有益な情報を寄せてくれた Carnival of the Capitalists に感謝。


〔原文:“Barter clubs and monetary theory”(Marginal Revolution, February 3, 2004)〕

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