マイルズ・キンボール 「経済学に興味がある一般人が読んでおくべきものは?」(2012年9月17日)

普通の一般人が経済学について学ぼうとするなら、その方面の(経済学を扱っている)ブログをチェックするのもいいし、秀逸な教科書を読むのもいい。私がこれまでに読んできた本を参考にしてもらってもいい。
画像の出典:https://www.photo-ac.com/main/detail/25439042

タイラー・コーエン&アレックス・タバロック執筆の革新的で心躍らされる教科書

billythekidatheart:質問が二つあります。「経済学に興味がある一般人が読んでおくべき本や論文は何でしょうか?」というのが一つ目の質問です。貴殿のお薦めが何なのか興味があります。私は、弁護士としての訓練を受けていますが、 経済学に関しては素人です。しかし、経済学の色んな理論について読むのが好きです。次に移らせていただきますと、私の政治的な立ち位置は若干左寄り(リベラル寄り)なのですが、「サプライサイド・リベラル」という貴殿の立場に興味を覚えました。そこでリベラル絡みの質問になりますが、フランクリン・ルーズベルト大統領についてどんな意見をお持ちでしょうか? 彼が大恐慌下で採用した経済政策についてどう思われるでしょうか? アメリカが大恐慌から抜け出すためにはどんな政策が必要とされたんでしょうか? 前もってお礼申し上げておきます。

私なりの答え:普通の一般人が経済学について学ぶために何を読むべきかという一つ目の問いから答えると、経済学界隈のブログをチェックすべしというのが第一候補の答えだ。例えば、時事的な経済論争について経済学の素人でも理解できるまとめを求めているようなら、(ノア・スミスが運営している)Noahpinionブログがその役割を見事に果たしてくれている。「学者としてのキャリアの一部として、現代マクロ経済学の思想史家としても身を立てられるようにしておくべきだ」とノアにちょこちょこアドバイスしたものだが [1] 訳注;キンボールは、ノア・スミスの大学院時代の指導教官。、Noahpinionブログを訪れたらその方面のノアの才能を目にすることができる。

次に第二候補の答えだが、経済学の教科書の中には秀逸(しゅういつ)なのがいくつかある。そういう教科書は、誰が読んでも為(ため)になる。大学の講義に出なくてもだ。ちょうど今、タイラー・コーエン(Tyler Cowen)&アレックス・タバロック(Alex Tabarrok)の二人が著(あらわ)している『Modern Principles of Economics』のマクロ経済学のパートを何章か読んでいる最中だが、素晴らしい内容だ。以下に引用するAmazonのレビューには同意するばかりだ。

本書は、私がこれまでに出会った中でも一番読み易い教科書の一つです。一般的で基礎的な話題が論じられているのに、驚くほど面白いんです。最新の時事がたんまり盛り込まれていて、まるで発売されたばかりの雑誌を読んでいるみたいなんです。

私が受け持つ講義でこの本(コーエン&タバロックの教科書)を使うかどうかを決めるにはもっと念入りに目を通さなくてはならないが、使おうかなと心が揺さぶられているのは確かだ。

もう少しレベルが高い教科書だと、デイヴィッド・ワイル(David Weil)の『Economic Growth』(邦訳『経済成長』)が個人的にお気に入りだ。経済成長というのは、経済学において極めて重要なトピックなのだ。“Leveling Up:Making the Transition from Poor Country to Rich Country”(「レベルアップ:貧しい国から豊かな国に移行するには」)と題したエントリーで、ワイルの教科書(の第一版)を読んで私なりに学んだことについてまとめているので、目を通していただけたらと思う。

「私が実際に何を読んだかをご覧あれ」というのが第三候補の答えということになろう(経済学者同士の会話の中で、「顕示選好」という言い回しが出てくることがしばしばある。その言わんとするところは、「私が語ることではなく、私がやることに目を向けよ」ということだ)。1995年以降の話になるが、読み終えた本をリストにしてまとめるようにしている。このリスト(読破リスト)を参考にして、ブログのエントリーをいつか書くつもりでいたのだ。ちょうどいい機会だから、読破リストの中から経済学絡みの本を抜き出させてもらうとしよう。

経済学絡みの本は、読破リストのごく一部を占めるにすぎない。経済学、経済政策、ビジネスがテーマの本を抜き出してある。読み終えた日時も著者名の後に記しておく。私なりに見つけられた範囲で最新の版のリンクを貼ってある。以下に掲げているうちで、重要な点で同意できないところがある本が二冊ある。バリー・シュワルツ(Barry Schwartz)の『The Paradox of Choice』(邦訳『なぜ選ぶたびに後悔するのか』)と、リチャード・レイヤード(Richard Layard)の『Happiness』 だ――どちらも大変面白い内容ではある――。もう一つ付け加えておくと、ヴェブレン(Thorstein Veblen)の文章は読み易いとはとても言えない。そういうわけなので、『The Theory of the Leisure Class』(邦訳『有閑階級の理論』)を楽しく読めるかというと疑問だ。

  1. The Unbound Prometheus』(邦訳『西ヨーロッパ工業史』) by デビッド・ランデス(1997年4月)
  2. The Lever of Riches』 by ジョエル・モキイア(1997年5月)
  3. The Wealth and Poverty of Nations』(邦訳『「強国」論』) by デビッド・ランデス(1998年5月)
  4. Luxury Fever』 by ロバート・フランク(1999年3月)
  5. The Evolution of Retirement』 by ドラ・コスタ(1999年8月)
  6. The Return of Depression Economics』(邦訳『世界大不況からの脱出』) by ポール・クルーグマン(2001年9月)
  7. The Wealth of Man』 by ピーター・ジェイ(2001年10月)
  8. Digital Dealing』 by ロバート・ホール(2002年11月)
  9. The New Culture of Desire』 by メリンダ・デイビス(2003年8月)
  10. The Rise of the Creative Class』(邦訳『新 クリエイティブ資本論』) by リチャード・フロリダ(2003年8月)
  11. The Overspent American』(邦訳『浪費するアメリカ人』) by ジュリエット・ショア(2003年12月)
  12. The Matching Law』 by リチャード・ハーンスタイン(2004年3月)
  13. The Sense of Well-Being in America』 by アンガス・キャンベル(2004年4月)
  14. Macroeconomics(第11版)』(原書第9版の邦訳『マンキュー マクロ経済学Ⅰ 入門篇』&『マンキュー マクロ経済学Ⅱ 応用篇』) by グレゴリー・マンキュー(第5版を2004年4月に読了)
  15. The Progress Paradox』 by グレッグ・イースターブルック(2004年5月)
  16. False Prophets』(邦訳『経営理論 偽りの系譜』) by ジェームズ・フープス(2004年5月)
  17. The Paradox of Choice』(邦訳『なぜ選ぶたびに後悔するのか』) by バリー・シュワルツ(2004年7月)
  18. The Elusive Quest for Growth』(邦訳『エコノミスト 南の貧困と闘う』) by ウィリアム・イースタリー(2005年2月)
  19. Growth Theory』(邦訳『経済成長』) by デイヴィッド・ワイル(2005年3月)
  20. Happiness』 by リチャード・レイヤード(2005年3月)
  21. The Joyless Economy』(邦訳『人間の喜びと経済的価値』) by ティボール・シトフスキー(2005年5月)
  22. The Winner-Take-All Society』(邦訳『ウィナー・テイク・オール:「ひとり勝ち」社会の到来』) by ロバート・フランク&フィリップ・クック(2006年8月)
  23. The Theory of the Leisure Class』(邦訳『有閑階級の理論』) by ソースティン・ヴェブレン(2006年9月)
  24. The 2% Solution』 by マシュー・ミラー(2007年1月)
  25. The World is Flat』(邦訳『フラット化する世界』) by トーマス・フリードマン(2007年1月)
  26. The Harried Leisure Class』(邦訳『時間革命:25時間への知的挑戦』) by スタファン・リンダー(2007年2月)
  27. The Age of Abundance』 by ブリンク・リンジー(2007年12月)
  28. Utilitarianism』(邦訳『功利主義』) by ジョン・スチュアート・ミル(2007年12月)
  29. Super Crunchers』(邦訳『その数学が戦略を決める』) by イアン・エアーズ(2008年4月)
  30. Principles of Macroeconomics(第9版)』(原書第8版の邦訳『マンキュー経済学Ⅱ マクロ編』) by グレゴリー・マンキュー(2009年4月)
  31. Macroeconomics』(邦訳『クルーグマン マクロ経済学』) by ポール・クルーグマン&ロビン・ウェルス(2009年11月)
  32. In Fed We Trust』(邦訳『バーナンキは正しかったか?』) by デイビッド・ウェッセル(2010年1月)
  33. The White Man’s Burden』(邦訳『傲慢な援助』) by ウィリアム・イースタリー(2010年2月)
  34. A Beautiful Mind』(邦訳『ビューティフル・マインド:天才数学者の絶望と奇跡』) by シルヴィア・ナサー(2010年2月)
  35. Sonic Boom:Globalization at Mach Speed』 by グレッグ・イースターブルック(2010年6月)
  36. The Quants』(邦訳『ザ・クオンツ:世界経済を破壊した天才たち』) by スコット・パタースン(2010年6月)
  37. The Rational Optimist:How Prosperity Evolves』(邦訳『繁栄:明日を切り拓くための人類10万年史』) by マット・リドレー(2010年7月)
  38. The Nature of Technology』(邦訳『テクノロジーとイノベーション:進化/生成の理論』) by ブライアン・アーサー(2010年8月)
  39. The Philosophical Breakfast Club』 by ローラ・スナイダー(2011年4月)
  40. Thinking, Fast and Slow』(邦訳『ファスト&スロー:あなたの意思はどのように決まるか?』) by ダニエル・カーネマン(2012年1月)
  41. Grand Pursuit:The Story of Economic Genius』(邦訳『大いなる探求』) by シルヴィア・ナサー(2012年2月)
  42. The Road to Serfdom』(邦訳『隷従への道』) by フリードリヒ・ハイエク(2012年4月)
  43. Free to Choose』(邦訳『選択の自由』) by ミルトン・フリードマン(2012年5月)
  44. A Theory of Justice』(邦訳『正義論』) by ジョン・ロールズ(2012年7月)

大学の講義で読んだ本――ロバート・ハイルブローナーの『The Worldly Philosophers』(邦訳『入門経済思想史:世俗の思想家たち』)とか、ポール・サミュエルソンの『経済学』の1977年あたりに出た版とか――以外でとなると、読破リストを作り始める前に読んだ経済学の本となると、数冊くらいしか思い出せない。少ない中から良書を三冊ほど挙げておこう。

大恐慌に関する二つ目の問いに移らせてもらうと、ミルトン・フリードマン&アンナ・シュワルツの言う通り――彼らが『A Monetary History of the United States, 1867-1960』(第7章の邦訳『大収縮 1929-1933』)の中で述べている通り(この本を読んでなかったらと思うと、ぞっとするばかりだ)――というのが私の答えだ。すなわち、大恐慌があんなにも深刻でしぶとかったのは、金融政策がお粗末だったせいなのだ。ここ数年の間、物事がうまく回っている理由は、私には一つしか考えられない。金融政策の舵取りがうまくいっているおかげなのだ。ベン・バーナンキ〔2012年9月当時のFRB議長〕のおかげというのが大きいし、経済学者たちが過去の過ちから学んだおかげという面もある(ポール・クルーグマンが「バーナンキ叩き」と題されたニューヨーク・タイムズ紙の昨日のコラムで、共和党の政治家であるミット・ロムニーらが唱える「清算主義」にまっとうな批判を加えている。 Fedが第三弾の量的緩和に踏み切る意向を示したわけだが、もっと踏み込むべきだったかどうかについては議論があろう。とは言え、Fedが正しい方向に向けてゆっくりと歩み出したことは間違いなく、拍手喝采を送ってしかるべきだ。ミット・ロムニーやポール・ライアンなんかが金融政策について表明している意見が本気なのだとしたら危険極まりないし、選挙に勝つための方便として口から出てしまった発言だとしても不健全というしかない)。

フランクリン・ルーズベルト大統領についてどう思うかという質問に関しては、私がこれまでに出席した経済学のセミナーで学んだ事柄を踏まえて答えさせてもらうとしよう。経済政策のテクニカルな側面に限って言うと――戦争絡みの決定については脇に置いておくとしよう――、ルーズベルト大統領が経済政策の面で下した決定は混乱に満ちていて、1930年代には事態を概ね悪化させたと言える(ルーズベルト大統領が採用した政策の長期的な功罪は今もなおその影響をとどめており、政治の場での論争の根っこに潜んでいる)。テクニカルな面に目を向けると心を動かされるところは大して見つからないとは言え、 国民にどうにか自信を持たせて、社会主義への転換を求める政治的な圧力を跳ね返すのに成功したのは、ルーズベルト大統領の大きな手柄だ。さらには、ルーズベルト大統領の「大胆で、しぶとく、実験も辞さない」姿勢は、称賛に値する(オバマ大統領が就任演説で同様の精神を語ったのを耳にして嬉しかったものだ)。私も「大胆で、しぶとく、実験も辞さない」姿勢を主旋律にしたエントリーをいくつか物したことがある。以下がそれだ。


〔原文:“Books on Economics”(Confessions of a Supply-Side Liberal, September 17, 2012)〕

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1 訳注;キンボールは、ノア・スミスの大学院時代の指導教官。
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