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Gollin et al. 「農業が発展の原動力となるとき:グリーン革命からわかること」(2021年3月20日)

[Douglas Gollin, Casper Worm Hansen, Asger Mose Wingender, “When agriculture drives development: Lessons from the Green Revolution,” VoxEU, March 20, 2021]

【要旨】グリーン革命は,現代の育種技術と多収性品種の応用にもとづいて農業イノベーションがなされた重要なエピソードだった.本コラムでは,発展途上国におけるグリーン革命の文脈で農業生産性成長がもたらした経済効果を検討する.食用作物の収穫量,一人当たり GDP,学校教育,平均寿命に農業生産性はプラスの影響をもたらす.だが,その影響は国々で均等ではない.気候変動に直面するなかで,途上国向け農業科学への投資は,こうした利得を今後数十年にわたって維持する力を秘めているかもしれない.
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Taneja et al.「在宅勤務でイギリスの労働市場が様変わりしつつある」(2021年3月15日)

[Shivani Taneja, Paul Mizen, Nicholas Bloom, “Working from home is revolutionising the UK labour market,” VoxEU, March 15, 2021]

【要旨】 パンデミックが始まってから,在宅勤務についての考え方・評価は大きく変わってきている.本コラムでは,イギリスで勤労世代5,000名を対象に2021年1月から2月にかけて実施した調査から得られた知見を論じる.同調査からは,イギリスの労働力のおよそ半数がいま自宅から勤務しているのがうかがえる.ポスト・コロナウイルスの勤務パターンでもっとも多く予想されているのは,週2日を自宅で勤務するかたちだ.多くの大~中規模事業者にとって,これはさまざまな含意をもつ.

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マクリアド & ウルキオラ「合衆国に最良の研究大学がある理由:インセンティブ・リソース・好循環」(2021年2月22日)

[W. Bentley MacLeod & Miguel Urquiola, “Why the US currently has the best research universities: Incentives, resources, and virtuous circles,” VoxEU, February 22, 2021]

【要旨】1875年に,世界の先進的研究大学は合衆国内にひとつもなかった.今日,上位大学の大多数が合衆国内にある.多くの観測筋は,この逆転の要因として第二次世界大戦前後の出来事を引く.だが,合衆国の大学は第二次世界大戦の前から,研究の先頭集団になりはじめていた.本コラムでは,合衆国の大学が研究を先導するにいたった理由の説明は,もっと前の時期から始めなくてはならないと主張する.そこで注目するのは,南北戦争後にはじまった改革によって,制度が研究に振り向ける各種のインセンティブやリソースが強化された点だ.
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Ambrocio et al.「研究者たちは中央銀行のインフレ目標その他の目的についてどう考えているか」(VoxEU, 2021年3月6日)

[Gene Ambrocio, Andrea Ferrero, Esa Jokivuolle, Kim Ristolainen, “What academics think of central banks’ current inflation targets and other objectives,” VoxEU, March 6, 2021] 

【要旨】世界各国の中央銀行には,金融政策レジームの中核にインフレ目標をすえているものが多い.本コラムでは,613名の一流経済学者たちの調査データを提示する.この調査では,彼らが居住する国におけるこうしたインフレ目標も含めて広く多岐にわたる政策についての見解を調べた.調査結果からは,いま政策の主流を占めるインフレ目標を(経済学者本人の国で採用されている場合に)維持するのを支持する声の方が,変更を支持する声よりも多いことがうかがえる.だが,そうした目標を中央銀行が達成できるかどうかについて,悲観的な回答の方が多かった.これはとくにユーロ圏の経済学者たちで顕著だ.


連邦準備制度の金融政策戦略に関する近年のレビューや,欧州中央銀行 (ECB) での進行中のレビューをきっかけに,中央銀行が設定する最適なインフレ目標や,より広範な各種目標についての論争が再燃している.金利がゼロ近傍にあって金融政策が有効にはたらきにくくなっているなかで,こうした論点がよく取り上げられる――すなわち,中央銀行は現行のインフレ目標を引き上げて,実効的な下限 (effective lower bound; ELB) が将来において「
だが,インフレ目標をより高く設定すれば,平均的に変動がより大きい(そしてより高い)インフレ率にともなうコストが生じる.さらに,近年の出来事(および長期的な傾向)をふまえて,物価安定とそれ以外の中央銀行の目標との正しいバランスはどういうものかについて,疑問が提起されている.

本稿では,この論争に寄与すべく,経済学・金融分野の一流研究者たちへの世界的な調査にえられた回答を分析する.この調査では,最適なインフレ目標値やそれに関連する論点についての見解を回答者に訊ねた.6,000名近くにおよぶ標本のうち, 613名から回答を得た.そのうち, 159件はユーロ圏からの回答,241件は合衆国からの回答だ.

回答者のおよそ 80% は,金融政策に関連した問題についての専門家であるか相当の知識を有していると自認している.およそ 40% は,自身の主な専門分野がマクロ経済学・金融経済学だと報告している.標本の平均的な学術経験は,24年だ.

大半が現状に近いインフレ目標を支持

まず,いま中央銀行で設定されているものと異なるインフレ目標の方がよいと回答者が考えているかどうかを検討しよう.すべての中央銀行で同じインフレ目標がとられているわけではないため,回答者には,当該の中央銀行(がインフレ目標を設けている場合)の現行インフレ目標を答えるよう依頼した.次に,中央銀行がインフレ目標を設定する方がのぞましいと回答者本人が考えているかどうか,そして,インフレ目標がある方がよいとしたらどのようなものを好ましく考えるを訊ねた.調査全体で一貫して,回答者本人が居住する国の金融政策に責任をもつ中央銀行について考えるよう,回答者には指示している.

回答者の大多数(525名)は,インフレ目標をもつ中央銀行がある国・地域の人々だった.この集団のうち,228名は当該の中央銀行がいま設けているインフレ目標を支持している一方で,188名は現行と異なるものの方がよいと答えた [n.1].後者の人々のうち,およそ3分の2(124名)は目標インフレ率をもっと高くする方がのぞましいと回答した一方で,64名は目標インフレ率を下げる方がのぞましいと回答した.より高いインフレ目標をのぞむ回答を見ると,その中央値は現行より1パーセントポイント高い目標インフレ率となっている.同様に,目標インフレ率を現行より下げるのをのぞむ回答では,中央値は現行より1パーセントポイント低い目標インフレ率となっている.図 1 には,こうした回答結果をまとめてある.

【図 1】 インフレ目標を設定している中央銀行がある国におけるのぞましいインフレ目標 vs 現行のインフレ目標 [n.2]

ユーロ圏と合衆国では,それぞれの中央銀行が 2% インフレ目標を設定している(ただしユーロ圏の場合は近似的に 2%).この2つの地域・国では,回答者がのぞましいと答えたインフレ目標の平均は 2% をわずかに上回っている.ユーロ圏からの回答は 0% から 5% までの範囲に分布しており,合衆国からの回答は 0% から 4% に分布している.

多くの回答者は,たんなる物価安定につきない目的を中央銀行が追及するのを支持している

さらに,中央銀行が追及する目的と観察可能な政策目標について全般的な質問に回答を求めた.以下,ユーロ圏と合衆国とを別々にわけて,回答結果を報告する.標本全体の回答結果は,この2つのグループの「重み付け平均」とおおよそ合致している.

図 2 に示してあるように,どちらの地域でも,次の (a)-(b) 2つのどちらかを回答者のおおよそ 8割~9割が支持している――すなわち,中央銀行が (a) 物価安定と他の目的を等しい重みで追求すること,あるいは (b) 物価安定を主,それ以外の目的を従とすること.ユーロ圏では,これら2つの選択肢が同等の支持を得ている.合衆国では,6割の回答者が「選択肢 (a)」を支持している.物価安定のみを追求するのを支持する回答は,合衆国で 9%,ユーロ圏で 16% だった.次の点に留意されたい:欧州中央銀行でも連邦準備銀行でも,その主要な義務には物価安定だけでなく他の目的も含まれている [n.3].

【図 2】 中央銀行の目標は何におかれるべきか?

次に,中央銀行が行う金融政策に設定する観察可能な目標に目を向けよう.図 3 を見てもらうと,インフレ率と失業率の組み合わせが回答者たちのあいだでもっとも支持されている選択肢であることがわかる.これは,ユーロ圏(支持 45%)でも合衆国(支持 51%)でも同様だ.これに次いで支持された選択肢は,インフレ率のみを目標として追究するもので,ユーロ圏では 38%,合衆国では 24% の支持を得ている.物価水準,名目 GDP 水準,名目 GDP 水準の成長率は,それぞれ 1%~7% の支持をどちらの地域でも得ている.

もうひとつ興味をひくことがある.回答者の大多数は中央銀行が2つ以上の目的を追求するのがのぞましいという回答が大多数を占めている一方で,観察可能な目標を2つにする選択肢(すなわちインフレ目標と失業率)の支持は,それほど高くないのだ.

【図 3】 中央銀行が設定すべき観察可能な目標としてもっとものぞましいのは何か?

インフレ目標を設定している中央銀行は,その目標を達成しそうにないと見られている

我々の調査結果の簡略な報告のしめくくりに,今後3年間(i.e. 中期)で中央銀行がインフレ目標を達成する見込みについて回答者たちがどう考えているかを述べよう.この見込みを,5段階にわけて回答者に評価してもらった.尺度は「1 = とてもありそうにない」から「5 = とてもありそう」としている.スコアが 4 または 5 の回答を「楽観論」,1 または 2 の回答を「悲観」に分類する.図 4 を見てもらうと,ユーロ圏では 60% 対 20% で悲観論が楽観論を上回っている.合衆国では両者の差はもっと小さく,悲観 41% に対して楽観 31% となっている.

【図 4】 中央銀行が(今後3年間で)インフレ目標を達成する見込みはどれくらいか?

結び

我々の調査データからは,現行のインフレ目標を変えずにおく意見が回答者たちのあいだでもっとも多くを占めていることがうかがえる.この結果は,欧州中央銀行に関心を限定した CFM 調査(2020年)とおおむね一致している.また,物価安定に加えて他の目的(たとえば失業率)も明示的に追究することが強く支持されているのが見出される.我々の調査には,他にも多くの情報が含まれており,今後の研究で検討していく計画だ.

著者の註記: フィンランド銀行の同僚たち,とくに Jarmo Kontulainen, Juha Kilponen, Tuomas Välimäki,そして Guido Ascari, Wouter den Haan, George Pennacchi に著者一同から感謝申し上げる.調査の実施では onna Elonen-Kulmala に協力いただいた.また,研究補助 Minna Nyman にお世話になった.本研究の内容については,ひとえに著者たちが責任を追う.

参照文献

原註

[n.1] 他の回答は,「中央銀行が明示的インフレ目標を設定しない」方がよいというものか,あるいは,数値的なインフレ目標についてなんら意見をもたないというものだった.

[n.2] 一部の回答は,数値での回答に加えて言葉での説明を加えて限定したり,固定した数値ではなく数値の範囲を回答したものもあった.こうしたちがいは,それ自体として興味を引くものではあるが,調査結果を出す際には,数値範囲ならその中央の値をとるなどして回答を標準化してある.同様に,欧州中央銀行の「2% 近傍だがそれを下回る」といった現行の近似的なインフレ目標については,欧州中央銀行のそれを 2% とするなどして,それにもっとも近い整数にして標準化してある.

[n.3] 「欧州連合の機能に関する条約」の第127条(1) および「1977年連邦準備改革法」を参照.

アセモグル et al. 「AIと雇用:合衆国における求人からの証拠」(2021年3月3日)

[Daron Acemoğlu, David Autor, Jonathon Hazell, Pascual Restrepo, “AI and jobs: Evidence from US vacancies,” VoxEU, March 3, 2021]

人工知能技術が急速に改善するにつれて,それが労働者たちにおよぼす影響に関心が高まっている.本コラムでは,2010年以降に投稿された求人広告でのスキル要件に関するデータを用いて,人工知能が合衆国の労働市場におよぼした影響を検討する.我々の推定からは次のことがうかがえる.すなわち,特定のタスクでこそ AI が労働者に置き換わりはじめているものの,いまのところ,労働市場全体では影響をおよぼしているようには見えない.


人工知能 (AI) とは,知的にふるまうアルゴリズムの一種をさす.すなわち,構造化されていないデータ(たとえば人のおしゃべりや画像のデータ)にパターンをつきとめ,その情報を用いて,通常なら人間の判断や専門知識を要するタスクを完遂するアルゴリズムをいう.この10年間に,新たな機械学習技術や利用しやすくなった大規模データセットにもとづく AI が急速に発展してきた.その変化のペースは,今後数年で加速すると見込まれている  (e.g. Neapolitan and Jiang 2018, Russell 2019).また,AI の応用事例はすでにさまざまな企業に影響をもたらしはじめている (e.g. Agarwal et al. 2019).

評論家たちのなかには,ここに雇用なき未来の兆しを見る者たちもいる (e.g. Ford 2015, West 2018 Susskind 2020).その一方で,来るべき AI 革命によって人間の生産性と労働経験が豊かになる可能性を見る人たちもいる (e.g. McKinsey Global Institute 2017).AI が労働市場におよぼす影響に関する証拠がかぎられていることを思えば,こうした好対照な未来像が長らく併存しているのも,驚くにあたらない.

これまでのところ,AI が労働市場におよぼす影響に関する研究はほんのわずかしかない.そればかりか,AI 採用が大幅に増えているかどうかに関する系統的な証拠も,比較的にわずかしかない――メディアで AI が広く取り上げられているのと対照的だ.さらに,AI 技術が人々の仕事を奪っている事例も人々の仕事を補完している事例も見つけられる.なぜなら,他でもなく,広範な技術プラットフォームとしての AI にはそのどちらもできるからだ.そのため,AI によって生じる雇用消失をどれくらいにするかは,社会や企業の選択の問題といえる部分もあるのだ.

新研究において  (Acemoglu et al. 2020),我々は合衆国における AI 採用とその帰結に関する証拠を提供する.我々の出発点となるのは,次の点だ――教師なし機械学習・自然言語処理・機械翻訳・画像認識といった AI に関連した活動を専門とする従業員を雇用するとき,AI を採用する組織・団体には「足跡」が残る.この着想を実践にうつすにあたって,我々は合衆国内でのオンライン求人投稿とその技能要件の詳細をほぼすべて網羅して AI 活動の組織レベルのデータセットを構築する.求人情報は Burning Glass Technologies から提供を受けた.求人情報の期間は 2007年と2010年から2018年までだ.AI 分野の技能を必要とするかどうかによって,団体の求人を1つ1つ分類した.

我々のデータからは,2010年以降に合衆国で AI 利用は増えており,いまや相対的に広まっていることがわかる.図 1 の左パネルには,合衆国において AI を必要とする求人全件がしめる割合をプロットしてある.期間は2007年と2010年以降だ.我々が用いている「広義」と「狭義」の数値は,それぞれ,求人の文章に基づいて AI を2とおりに分類している.AI 利用は時の経過とともに増えており,2016年に上向いている.

【図 1】

AI 利用は,経済全域に均等に普及しているとはおよそ言いがたい.図 1 の右パネルでは,広義の産業部門による AI 求人の割合をプロットしている.「情報技術および専門・企業向けサービス」部門は,とりわけ AI 求人の割合が大きい.こうした部門は,主に AI を経済の他の分野に供給している業者たちだ.だが,ここで重要なのは,金融や製造といった他の多くの部門でも AI が急速に広まっている点だ.そうした部門は,AI を生産に用いている見込みが大きい.

実証研究の指針となる,タスクにもとづく枠組み

まずは,タスク基準の視野からはじめよう.AI が採用されたとき,それにともなって組織のタスク構造にどのような影響が生じうるのかを検討する.この視野では,現行の AI 応用事例が特定タスクを遂行できていることを強調し,そうしたタスクに従事している企業がいずれ AI 技術を採用すると予測する (Acemoglu and Autor 2011, Acemoglu and Restrepo 2018, 2019a).AI についてとりうるアプローチは,これ以外にもある.たとえば,AI は特定のビジネスモデルを補完している(のであってそうしたモデル内で特定タスクを遂行しているわけではない)と考えたり,AI によって企業が新製品を生み出したり商業化したりできているのだと考えることもできる  (Agarwal et al. 2019, Bresnahan 2019).だが,タスク基準アプローチは,我々の実証的アプローチにとりわけ適しており,我々の実証的な発見から支持を受けている.この点は,のちほど解説しよう.

現行の AI にできることはさまざまだ.そうしたことと両立するタスクをつきとめるため,我々は3とおりのたがいに相補的な数値を用いる:すなわち,
Felten et al. (2018, 2019) の AI 職業インパクト数値,Brynjolfsson et al. (2018, 2019) の機械学習適合度 (SML) 指標,Webb’s (2020) の AI 接触スコア,この3つだ.こうした指標は,どれもさまざまな仮定にもとづいており,AI 技術にもっとも影響を受けると判定するタスク・職務もそれぞれに異なっている.我々は,3つの指標それぞれに照らして,その企業の基本的職務構造のベースライン (2010) から,各企業の AI 接触度合いを構築する.そして,分析全体で一貫してこれら3つすべてを AI 接触の代理変数に用いている.我々の目標は AI を用いる企業に AI がもたらす影響を研究することにあって,AI を産み出している企業の研究を目指してはいない.そのため,我々の実証分析では専門・企業向けサービス企業と情報技術部門の企業を除外している.これら2種の企業は,もっぱら AI サービスの供給業者だ.

AI が雇用におよぼす影響

こうして得られる分析結果を述べよう.第一に,AI 採用をすすめている企業は,そのタスク構造が現行の AI にできることと両立する企業だ.これは,タスク基準での AI 観と整合する.図 2 にこの発見をまとめてある.我々は,AI 〔の知識・技術〕を必要とする求人がしめる割合の変遷をプロットした.前述の数値を基準に AI 接触が多い企業と少ない企業をわけてプロットしてある:1つ目のパネルは,Felten et al. (2018, 2019) の数値によるもの,2つ目のパネルは SML 数値によるもの,そして3つ目は Webb (2020) の数値によるものだ.回帰分析にかけると,AI 接触とその後の AI 雇用が示す強い相関は頑健で,the Felten et al. (2018, 2019) と Webb (2020) の数値を用いた場合にはコントロールや仕様のチェックで変わらない.ただし,SML を用いた場合にはそこまで頑健ではない.

【図 2】

次に,求人投稿で求められる技能の内容と AI 接触が関連しているかどうかを我々は調査した.Felten et al. (2018, 2019) とd Webb (2020) の数値(および,度合いは下がるものの SML 数値)を用いたところ,それまで求人で求められていた技能の一部の顕著な減少と新しい技能の台頭の両方に AI 接触が関連していることが見出された.AI によって仕事のタスク構造が変わり,人間が遂行してきたタスクの一部が置き換えられる一方で,それと同時に,新しい技能の需要をともなう新しいタスクが創出されているという主張を,この証拠は支持している.

AI に適したタスクがある企業は AI 職位に従業員を雇用し特定タイプの技能の需要を変えるという発見からは,もちろん,そうしたタスクに従事してきた従業員を AI が置き換えているのか補完しているのかわからない.この問いについて知見を得るべく,我々は近年の AI の台頭によってさまざまな企業での労働需要にどのような影響が及んでいるのかを検討した.

原則として,AI がなんらかのタスクで従業員を直接に補完して彼らの生産性を高めるか,あるいは,なんらかのタスクで従業員を代替するものの(全要素)生産性が十分に高まって AI に無関係のタスク・職位で需要が高まる場合には,AI 接触を経た企業で(非 AI の)雇用が増えるかもしれない (Acemoglu & Restrepo 2019a).逆に,多くのタスクが AI で代替される一方で自動化されないタスクでの追加雇用が AI に後押しされて増えても代替された分を埋め合わせるに足りない場合には,AI 採用によって雇用は減少するかもしれない.

我々の研究結果は,AI 接触と企業での雇用に正の関係がないことを一貫して示している.むしろ,Felten et al. (2018, 2019) の数値を用いた仕様のほぼすべてと Webb (2020)  での仕様の大半において,雇用の減少と AI 接触の増加は関連しているという証拠が見出される.こうした〔雇用減少とAI接触増加〕の関係のタイミングは蓋然性がある.どちらも,AI 求人の投稿が急増した 2014年から2018年の期間に集中しているからだ.こうした研究結果が示すパターンに加え,AI との接点が多いタスクを多く抱える企業に AI 採用が集中しているのを示す我々の推計を考え合わせると,近年の AI の急増をうながす原動力となっている要因には,いままで人手で遂行されていたタスクの一部を AI が自動処理することによるタスク代替があるらしいことがうかがえる.こうした企業で人と AI の大きな補完関係があるという説や,AI が生産性に大きな影響をおよぼすがゆえに雇用が増えるという予想には,実証的な支持が見当たらない――とはいえ,もちろん,本研究でとらえられていない他の AI 応用事例がそうした影響をもたらす可能性は排除できない.

企業レベルのパターンと対照的に,産業や職業レベルでの AI 接触と全体的な雇用・賃金にはなんらの関係も検出されていない.AI への接触度合いがより大きいタスク構造をもつ産業での雇用になんら顕著な影響はなく,また,AI との接触がより大きい職業の雇用や賃金への影響も見られない.全体を総合したレベルで AI 技術の影響が見られるにはまだ時期が早すぎるというのが,いちばんありそうな理由だ.

まとめの考察

我々の研究結果は次の点を示している――AI 採用が顕著に進んできたにもかかわらず,合衆国の労働市場の規模に比べて AI の影響はあまりに小さく,AI 採用そのものをのぞいて,雇用パターンに大きな影響は生じていない.しかしながら,自社が従事するタスクの大きな割合が AI に適している企業で顕著に AI 採用が進んでいるのが見出されているのに加えて,企業レベルでの 非 AI 雇用との負の相関を示す証拠もある.これらを考え合わせると,現時点で,AI で仕事から追いやられる影響に比べて,AI による生産性向上や相補関係による効果は小さいと考えられる.

参照文献

  • Acemoglu, D and D Autor (2011), “Skills, Tasks and Technologies: Implications for Employment and Earnings”, Handbook of Labor Economics 4: 1043–1171.
  • Acemoglu, D, D Autor, J Hazell and P Restrepo (2020), “AI and Jobs: Evidence from Online Vacancies”, NBER working paper No w28257.
  • Acemoglu, D and P Restrepo (2018), “The Race between Man and Machine: Implications of Technology for Growth, Factor Shares, and Employment”, American Economic Review 108(6): 1488-1542.
  • Acemoglu, D and P Restrepo (2019a), “Automation and New Tasks: How Technology Displaces and Reinstates Labor”, Journal of Economic Perspectives 33(2): 3-30.
  • Acemoglu, D and P Restrepo (2019b), “The Wrong Kind of AI? Artificial Intelligence and the Future of Labour Demand”, Cambridge Journal of Regions, Economy and Society 13(1): 25-35.
  • Agarwal, A, J S Gans and A Goldfarb (2018), Prediction Machines: The Simple Economics of Artificial Intelligence, Cambridge: Harvard Business Review Press.
  • Bresnahan, T (2019), “Artificial Intelligence Technologies and Aggregate Growth Prospects”, Unpublished manuscript, Stanford.
  • Brynjolfsson, E, T Mitchell and D Rock (2018), “What can Machines Learn, and What Does it Mean for Occupations and the Economy?”, AEA Papers and Proceedings 108.
  • Brynjolfsson, E, T Mitchell and D Rock (2019), “Machine Learning and Occupational Change”, Unpublished manuscript, MIT.
  • Felten, E, M Raj and R Seamans (2018), “A Method to Link Advances in Artificial Intelligence to Occupational Abilities”, AEA Papers and Proceedings 108.
  • Felten, E, M Raj and R Seamans (2019), “The Effect of Artificial Intelligence on Human Labor: An Ability-based Approach.”, Academy of Management Proceedings 1.
  • Ford, M (2015), The Rise of the Robots, New York: Basic Books.
  • McKinsey Global Institute (2017), “Artificial Intelligence: The Next Digital Frontier?”, Discussion Paper.
  • Neapolitan, R E and X Jiang (2018), Artificial Intelligence: With an Introduction to Machine Learning, London: Chapman and Hall/CRC, Second Edition.
  • Russell, S (2019), Human Compatible: Artificial Intelligence and the Problem of Control, London: Penguin.
  • Susskind, D (2020), A World Without Work: Technology, Automation and how We Should Respond, London: Penguin.
  • Webb, M (2020), “The Impact of Artificial Intelligence on the Labor Market”, Unpublished manuscript, Stanford.
  • West, D M (2018), The Future of Work: Robots, AI, and Automation, Washington, DC: Brookings Institution Press.

Funke et al.「ポピュリズムのコスト:歴史からの証拠」(2021年2月16日)

[Manuel Funke, Moritz Schularick, Christoph Trebesch, “The cost of populism: Evidence from history,” VoxEU, February 16, 2021]

【概要】過去20年間でのポピュリズムの台頭を受けて,その原動力に関する研究が大いに行われてきた.だが,ポピュリズムの経済的・政治的な帰結については,それほどよく知られていない.本コラムでは,1900年までさかのぼるポピュリズムに関する包括的・国家横断的なデータベースを用いて,歴史的・長期的な視座を提示する.本稿では次の点を示す:(1) ポピュリズムには長い歴史があり,〔同じ国で〕連続して存続し続ける性質をもつ――ひとたびポピュリストに統治されると,その国では将来に別のポピュリストが権力を握る見込みがずっと大きくなる; (2) ポピュリスト体制は消費と産出が長期的に顕著に低下して経済的に高くつく; (2) ポピュリズムは政治に混乱をもたらし,不安定と制度の腐敗を促進する.本稿の分析からは,ポピュリズムが今後も存続することが示唆される.
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Margalit & Shayo 「金融市場は社会的価値観と政治的見解をどう変化させるのか」2021年1月31日

[追記:opitical_frogさんのからのアドバイスを受けて一部訳を変更しました。あと、タイトルもすこし変更。]

Yotam Margalit, Moses Shayo

2021年1月31日 原文

概要:

市場が参加者の価値観や政治的選好に与える影響は長い間論争の的となってきた。このコラムでは、金融市場への参加の効果を評価するために大規模なフィールド実験を用いた。英国全土のサンプルからなる参加者へ、6週間の間に株式や非金融資産に投資できるある程度の金額が無作為に与えられた。その結果は株式への投資が、個人の責任や成果、経済的成功における運の役割などの問題を含めた社会や経済に対する右傾化した見方につながることを示している。また市場へ友好的な政策や規制緩和への支持も高まっていた。

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Cagé et al.「英雄と悪漢:影響力ある有名人ネットワークがいかにして世界屈指の民主主義体制の崩壊と人種差別的かつ権威主義的国家の正当化に寄与したか」(2021年1月17日)

[Julia Cagé, Anna Dagorret, Pauline Grosjean, Saumitra Jha, “Heroes and villains: How networks of influential individuals helped destroy one of the world’s most durable democracies and legitimise a racist, authoritarian state,” VoxEU, January 17, 2021]

要旨

合衆国のキャピトルヒルで今月おきた出来事を彷彿とさせる重大局面が歴史上にはいくたびか起きている.そうした局面では,退役軍人や政治的英雄までもが国家に反抗する暴徒たちに加わっていた.このコラムでは,フランスにおける極右支持者やナチ協力者たちに関する新しい証拠を利用して,軍事的英雄などの影響力ある人々の外生的ネットワークによって民主的価値観がいかに損なわれうるかを示す.「オーバートンの窓」を広げてそれまで極めて不快だと思われていた考え方をまともなものに思わせるうえで,英雄たちは特別な立場にある.そうしたアイデンティティを共有する人々の社交ネットワークは,この影響を伝播し強化して,思想信条への傾倒を深め政治的立場を固くしバイアスの修正をいっそう難しくすることにつながりうる.

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エグザビア・ヴァイヴス 「スーパースター企業の登場:マクロ経済学において寡占を真剣に考える」(2021年1月20日)

(訳者注:コメントでの指摘を受けて、タイポを修正しました。)

Xavier Vives 2021年1月20日

Rise of the Superstar firms: Taking oligopoly seriously in macroeconomics

ビッグテック、そしてその他の「スーパースター企業」の支配によって、市場支配力が研究の分野においてもだけでなく、政治家達の問題としても戻ってきた。しかし、寡占市場はマクロ経済学や貿易モデルに導入されてはいるものの、それは主に産業分野の大きな「連続体」の中において、一企業が自身の分野においては市場支配力を持つが経済全体には影響を及ぼさないという設定によってである。このコラムは寡占がマクロ経済学のツールボックスに完全に組み込まれて然るべき時が来ていることを主張する。

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VoxEUアブストラクト「経済研究に最良のプログラミング言語はどれか:Juliaか,Matlabか,Pythonか,Rか」(2020年8月20日)

[Alvaro Aguirre & Jon Danielsson, “Which programming language is best for economic research: Julia, Matlab, Python or R?” VoxEU, August 20, 2020]

経済研究でとりわけ広く使われているプログラミング言語は,Julia, Matlab, Python, R だ.本コラムでは,3つの規準でこれらの言語を比較する:すなわち,利用できるライブラリの力,大規模データセットを取り扱う際にできることと速度,計算の負荷が大きいタスクでの速度と使いやすさ,この3点で比較する.R はよい選択肢ではあるものの,著者が一般的に推奨するのは Julia であり,著者が新規プロジェクトによく選ぶのもこの言語だ.