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ボールドウィン & エヴェネット「COVID-19 と通商政策: pt.4」(2020年4月29日)

[Richard Baldwin & Simon J. Evenett, “Introduction,” in COVID-19 and Trade Policies. VoxEU, April 29, 2020]

[pt.3 はこちら

さまざまなショック,さまざまな保護主義

保護主義をとりたくなる誘惑は,さまざまなかたちをとって現れうる.「保護主義」という用語には〔よくない印象の〕負荷がかかっている.さらに,「保護主義」というともっぱら輸入制限ばかり連想されることも多い.そこで,もっといいアプローチをとりたい.それは,〔ある国の〕政府の行動が外国の通商に関わる利益関係者に反する差別となるパターンを網羅することに傾注するアプローチだ [n.9].そうした利害関係者には,輸入者・輸出者・製造業者・外国投資家・知的財産の外国の朱勇者・外国の労働者・外国データの所有者がいる.
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ボールドウィン & エヴェネット「COVID-19 と通商政策: pt.3」(2020年4月29日)

[Richard Baldwin & Simon J. Evenett, “Introduction,” in COVID-19 and Trade Policies. VoxEU, April 29, 2020]

[pt.2 はこちら]

保護主義の誘惑と,自由主義貿易体制への恐れ

景気後退は保護主義の召使いだというのが通説だ.すでに述べたように,1930年代序盤の経験という歴史の実例を見れば,この通説にもなっとくがいく.その帰結は,陰惨だった.傑出した経済史家たち Barry Eichengreen と Douglas Irwin はこう論じている:「大恐慌にはいまなお論争が続いている側面が多々ある.だが,それでもただひとつ,諸説が一致している点がある.それは,制限的な通商政策を採用したのは破壊的で逆効果だった,という点だ.」(Eichengreen & Irwin 2009).

2008年と同じく,今日も世界の指導者たちは過去の教訓にならわない陥穽を警戒している.世界銀行の David Malpass 総裁は,先日こう発言している――「諸国は踏み込んでこう発言する必要があります,『我々はこの危機を利用して自国市場を閉じたり自国市場を囲い込んだりする口実にはしません』と」(Malpass 2020).IMF のチーフエコノミスト Gita Gopinath 教授は,保護主義の難点を正しく見定めている:「グローバル化の利得を逆戻りさせてしまう未来を招かないことが非常に重要です.」[n.5] だが,指導者たちがもれなくこのように考えているわけではない.

保護主義は勝手に空から降ってくるわけではない――苦境につけこんで保護主義を主張する人々がいてはじめて存在するのだ.もちろん,保護主義を唱える人々も,内向きに閉じようという切り口で自説を述べたりはしない.供給を確保するといった主張で保護主義を唱えるのだ.2020年2月に,医療用品の供給が不足しそうな見通しに触れて,トランプ大統領補佐官のピーター・ナヴァロはこう主張した: [n.6]

「長年にわたって密かに合衆国の経済と国民の安全を脅かしていた問題にいよいよ目覚めてとりかかるときがきたのです(…).今般のコロナウイルスや2009年の豚インフルエンザ H1N1 から我々が学んだことがあるとすれば,それは,必要不可欠な物品は,マスクからワクチンにいたるまで,その供給を他国に必ずしも依存するわけにはいかないということです.たとえ関係の深い同盟国といえども,それは同じです.」

これほどあからさまではないまでも,もっと穏やかな〔保護主義的な〕心情は,他の高官たちも表明している.そうした表明は,必ずしも経済なしょなりすむと結びついてはいない.欧州委員会の保健衛生担当委員ステラ・キリアキデスは,問題をこう述べている:「中国をはじめとする諸国に対する EU の依存という問題は(…)COVID-19 以前は議題にのっておりませんでした」「[今回の危機によって]この問題が大きく浮かび上がり,これに目を向ける必要が生じています.他国への依存を減らす必要があります.」[n.7] キリアキデスの同僚で欧州委員会の域内市場委員のティエリー・ブルトンは,産業政策をはじめとする職務を担当している.彼は次のような意見を述べている:「グローバル化は行き過ぎています.」 さらに,こうも述べている:「今回の危機以後,我々と世界との関係はいままでとちがったものとなると確信しています.」[n.8]

これまでのところ,新たな産業政策・貿易差別などの具体的な提案は出ていない.だが,反貿易の地域主義が勢いを得るのは容易に予想がつく――欧州復興開発銀行 (EBRD) のチーフエコノミストをつとめる Beata Javorcik 教授が,この eブックへの寄稿で指摘しているとおりだ.

pt.4 に続く


原註

[5] Rappeport & Smialek (2020) での引用.
[6] Politi (2020) での引用.

ボールドウィン & エヴェネット「COVID-19 と通商政策: pt.2」(2020年4月29日)

[Richard Baldwin & Simon J. Evenett, “Introduction,” in COVID-19 and Trade Policies. VoxEU, April 29, 2020]

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きたるべき世界貿易の崩壊: 2008-2009の規模を上回るか?

2008年の第4四半期に,突如として世界貿易はいっせいに深刻な崩壊を経験した.これが「大貿易崩壊」(‘Great Trade Collapse’) と呼ばれるのにも,もっともな理由がある [n.2].この貿易崩壊では,大恐慌いらい,歴史の記録に残っているなかでももっとも急激かつ深い貿易の減少がおきた.貿易の崩壊はありとあらゆる国におよび,財とサービスのほぼ全カテゴリーにまたがった.
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ボールドウィン & エヴェネット「COVID-19 と通商政策: pt.1」(2020年4月29日)

[Richard Baldwin & Simon J. Evenett, “Introduction,” in COVID-19 and Trade Policies. VoxEU, April 29, 2020]

訳者の註記: この記事は,VoxEU の電子書籍「COVID-19 と貿易政策」の序文を訳したものです.長文のため,セクションごとに区切って掲載していきます.なお,この電子書籍全体の要約を山形浩生さんが公開しています: こちらを参照.

アブストラクト
COVID-19 パンデミックによって,医療用品や食品に輸出制限をかけようという動きが広まっている.本 eブックでは,次の問いを立てる:「政府は健康面・経済面・貿易面での危機に対して,内向きになる対応をとるべきだろうか?」 本書の寄稿者たちは,共通の答えを提示する:「否.」 内向きになっても,COVID-19 に対する今日の戦いの役には立たない.製造プロセスが国際化されている世界で,国々が貿易障壁を強くすれば,必要不可欠な医療用品の生産がどの国にとってもいっそう困難になる.貿易が問題なのではない.貿易は解決法の一環なのだ.また,内向き政策は経済の回復をはぐくむのにも失敗するだろう.さらに,内向き政策は,今回の脅威を退けるために人類が必要とする協働の精神も脅かすことになる.
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ボウルズ&カーリン「COVID-19物語で次にくる戦い」(VoxEU, 2020年4月10日)

[Samuel Bowles & Wendy Carlin, “The coming battle for the COVID-19 narrative,” VoxEU, April 10, 2020]

大恐慌や第二次世界大戦は,経済や公共政策についての考え方を変えた.同じく,COVID-19 パンデミックも(気候変動とならんで)同様だ.変わるのは,セミナーや政策シンクタンクの考え方だけではない.ふつうの人々が生計や将来について語る日常の言葉も変わることだろう.政策のさまざまな選択肢がなす政府 vs. 市場の尺度では,左寄りの〔政府重視の〕方向への移行が促されるだろう.だが,もっと重要なのは次の点だ――そうした政府 vs. 市場という一次元の尺度に選択肢を並べる時代錯誤なメニューに替わって,コンプライアンスと物質的な利益を超えた社会的な価値を用いたアプローチが取り込まれるかもしれない.
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Kapoor & Buiter「コロナウイルス・パニックと戦うため,政策担当者は迅速に動きタブーを破るべし」(VoxEU, 2020年4月6日)

[Sony Kapoor, Willem Buiter, “To fight the COVID pandemic, policymakers must move fast and break taboos,” VoxEU, April 6, 2020]

COVID-19 の影響により GDP は激減し,これまでに報告されている以上に税収は崩壊し,財政赤字は急増するだろう.ありとあらゆる手段で医療・雇用・国家の支援と財政救援策を講じるのをためらっていれば,文字通り市民の命を奪い経済を破壊することになる.COVID-19 に対処するべく,欧州中央銀行もふくめ各国の中央銀行はマネタリーファイナンシングというルビコン川を渡って,この対応のコストにかかる GDP の 20%-30% 相当の現金をすぐに国庫に移転すべきだ.
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ドレシェル&カレムリ=オズカン「雇用を守るため中小企業にマイナス税を支給せよ」

Thomas Drechsel, Sebnem Kalemli-Ozcan “Standard macro and credit policies cannot deal with global pandemic: A proposal for a negative SME taxVOXEU, March 24, 2020

新型コロナウイルス・パンデミックでは,経済を支援する強力な政策介入が必要だ。本稿では,中小企業に対する給与総額に基づくマイナスの定額税の費用とコストについての推定を示す。従業員500名未満の全ての企業の給与総額を3か月に渡ってまかなう政策により,アメリカの6,100万が恩恵を受けることができ,その費用はGDPの3%である。

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カムルル・アシュラフ、オデッド・ガロー「文化的同化、文化伝播、諸国民の富の起源」(2007年9月13日)

[Quamrul Ashraf, Oded Galor, “Cultural assimilation, cultural diffusion and the origin of the wealth of nations,” VoxEU 13 September 2007]

一千年前、アジアが先進地域であった。なぜ現在ではヨーロッパの方が豊かなのだろうか。アジアはヨーロッパに比べて地理的に文化伝播に対してあまり脆弱ではなく、それゆえ文化的により高い同化の程度やより低い文化伝播、より多くの社会特殊的人的資本の蓄積から恩恵を受けていた。これは農業の段階では強みであった。しかしながら、より高度の文化的な硬直性は新しい技術のパラダイムに適応する能力を減少させ、その結果工業化を遅らせた。

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サイモン・エベネット「汝の隣人を愛せよ:パンデミックにおける医療物資の輸出規制」

Simon Evenett “Sickening thy neighbour: Export restraints on medical supplies during a pandemicVOXEU, 19 March 2020

多くの国際サプライチェーンにおける中国の中心性から,世界の貿易フローに対する新型コロナウイルスの影響については大きな関心が払われている。さらに,貿易政策のやっかいな一面が今や明るみに出てきている。本稿では,24か国が最近になって医療物資に輸出規制を課したというGlobal Trade Alertによる発見の紹介と評価を行う。

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ロバート・バロー他「過去のインフルエンザ・パンデミックに照らした新型コロナウイルス危機」

Robert Barro, Jose Ursua, Joanna Weng ”Coronavirus meets the Great Influenza Pandemic”, VOXEU, 20 March 2020

新型コロナウイルスによる被害の最悪のシナリオとして妥当なものはどんなものだろうか。本稿では,1918年から1920年にかけてのインフルエンザ・パンデミックからの教訓を示す。43か国のデータから分かるのは,インフルエンザに関連する当時の死者数は3,900万人,世界人口の2%に及び,これを現在の人口に当てはめると1億5,000万人になる。第一次世界大戦による影響を取り除いた場合でも,GDP及び消費は平均的な国でそれぞれ6%と8%減少し,株式と短期国債による実質収益も有意に下落した。大規模な潜在的損失が人命と経済活動に見込まれることは,被害を抑えるための現在の政策を正当化するものであるが,そこには死者と失われる産出との間の困難なトレードオフが存在する。このトレードオフについて議論することが必要だが,これまでのところそうした議論がなされていないのだ。

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