ダロン・アセモグル、他「産業用ロボットが労働者に:勝者と敗者」(2023年3月31日)

本コラムでは、オランダのデータを用いて、直接的に影響を受ける労働者は収入と雇用率の低下に直面する一方、その他の労働者はロボット導入によって間接的に利益を得ることを示します。

    (著者情報)

    • Daron Acemoğlu マサチューセッツ工科大学(MIT) 教授
    • Hans Koster アムステルダム自由大学 教授
    • Ceren Ozgen バーミンガム大学 准教授

    理論的には、ブルーカラーの定型的な職業に従事する労働者など、代替可能な作業を行う「直接影響を受ける」労働者は、ロボット導入によって損失を被る可能性が高く、一方で、ロボットがもたらす生産性の向上は、補完的な作業を行う労働者に利益をもたらす可能性があるとされています。しかし、こうした一次保護に関する証拠は驚くほど少ないです。本コラムでは、オランダのデータを用いて、直接的に影響を受ける労働者は収入と雇用率の低下に直面する一方、その他の労働者はロボット導入によって間接的に利益を得ることを示します。これは、ロボット導入企業に雇用される労働者にも、その競争相手にも言えることです。


    国際標準化機構(ISO)によると、産業用ロボットとは、2軸以上でプログラム可能な作動機構で、ある程度の自律性を持ち、環境内を移動して意図された作業を行うものであるとされています。産業用ロボットは、塗装から溶接、仕分け、組み立てまで、さまざまな生産作業をすでに自動化しており、その数は増加傾向にあります。例えばアメリカでは、産業労働者1万人あたりのロボット数は、1993年の35台から2014年には149台、2020年には255台へと増加しています。オランダではさらに顕著で、産業労働者1000人あたりのロボット数は、1993年の12台から2020年には209台に増加しています。

    これまでのVox.EUのコラムや急増する文献は、自動化が労働者に与える影響が不均一であることを認めています。例えば、Golin and Rauh (2023)は、認識された自動化リスクは、再分配や雇用対応に対する労働者の選好と強く関連していることを指摘しています。Prettner and Bloom (2020)は、ロボットが主に低スキル労働者のルーチン業務を代替する一方で、裕福な資本所有者が受益者になる可能性が高いと指摘しています。産業用ロボットが特に定型的で低スキルの労働者に影響を与えるという事実を一つの理由として、Rebelo et al.(2020)では非定型的なスキルを習得できない労働者を保護する方法として、少なくとも短期的にはロボット税を課すこと提唱しています。こうした視点はともかくとして、産業用ロボットが実際に特定の労働者グループに悪影響を与えるのか、また、他のタイプの労働者が同時に利益を得るのかについては、ほとんど実証的な証拠がありません。

    最近の論文で、私たちは産業用ロボットの導入がオランダの労働者に与える影響について研究しました(Acemoglu et al.2023)。オランダ経済は興味深い文脈を提供しています。上記の数字が示唆するように、産業用ロボットの普及の最前線にあることに加え、オランダの労働市場には、混乱や失業から労働者を保護するための広範な労働市場規制があります。したがって、オランダの文脈から得られる教訓は、ロボット導入の異質な効果と、労働市場規制が最も影響を受ける労働者を負の結果からうまく保護できるかどうかの両方について、我々に情報を与えてくれるのです。

    私たちは、製造業企業の輸入を追跡することで、ロボット導入に関する信頼性の高い情報を得るために、商業登記のデータを用いました。これを、2009年から2020年の間に製造業に従事した約100万人のオランダ人労働者を対象とした高品質の雇用主と従業員の組み合わせのデータと合わせています。

    その結果、まず、ロボット導入の企業レベルの効果は、オランダでは他の先進工業国と同様であることが確認されました。ロボット導入企業では、雇用と付加価値が増加し、労働分配率は低下します。この全体的なパターンと私たちの推定値の量的な大きさは、フランスのAcemoglu et al.(2020)やスペインのKoch et al.(2021)で示されたものと非常に似ています。加えて、フランスやスペインの製造業と同様に、ロボット導入企業におけるこれらのプラス効果はコインの一面に過ぎません。もう一方の面は、同じ産業に属する競合他社に対する重大なマイナス効果であり、付加価値や雇用を低下させています。また、このようなパターンは、労働者への影響がスキルだけでなく、彼らがロボット導入企業と非導入企業のどちらに雇用されているかによっても異質なものになるのではないかという疑問を提起しています。

    これらの疑問を探るため、直接的に影響を受ける労働者と間接的に影響を受ける労働者を区別します。直接的な影響を受ける労働者とは、ロボットによって遂行されうる業務に従事する労働者であり、したがって、置き換えのリスクに直面します(Acemoglu and Restrepo, 2020)。ロボット導入の労働市場への影響は、置き換えだけでなく、ロボットがもたらす生産性向上にも依存します。これらの生産性効果は、間接的に影響を受ける労働者(業務から離脱しないはずの労働者)がロボット導入から利益を得ることを意味します。

    我々は、直接的な影響を受ける労働者について、3つの補完的な尺度を構築しました。1つ目は、現在ロボットが最も一般に採用されている、ルーチン業務に従事するブルーカラー労働者です。2つ目の指標は、Graetz and Michaels(2018)の置換可能性指数に基づくもので、同様に、ロボットが行うことができる作業を伴う職業に従事する労働者を捉えるものです。3つ目の指標は、低学歴の労働者はロボットで代替可能な手作業に特化する可能性が高いため、労働者の最高修了教育水準に単純に着目したものです。

    結果は、3つの指標すべてで非常によく似ており、また、同じ労働者への影響を時系列で追跡するために労働者の固定効果を含めた場合も同様でした。図1に示すように、直接影響を受けた労働者はロボット導入後に時間当たり賃金が低下し、一方で直接影響を受けていない労働者はより高い収入を享受しています。

    図1 ロボット導入による労働者の賃金への影響

    例えば、パネルAでは、労働者の固定効果を考慮しない場合、直接影響を受ける労働者(この例ではブルーカラーのルーチン業務を行う労働者)の賃金はロボット導入後に約6%低下しますが、一方で、間接的に影響を受ける労働者は約3.5%の賃金上昇を享受していることがわかります。労働者の固定効果を考慮すると、定量的な影響はやや小さくなりますが、これはおそらく労働者のセレクションをコントロールするためでしょう。こうした結果は、直接影響を受ける労働者に関する他の指標でも同様です。

    競合他社における雇用と付加価値の変化がマイナスであることから、産業用ロボットの労働者レベルの影響を全体的に把握するためには、他の企業の労働者への影響も考慮する必要があるとわかります。これを確認したところ、ほぼ同様のパターンが得られたました。競合他社で働く間接的な影響を受ける労働者は得をしますが、直接的な影響を受ける労働者は得をしません。これらの結果は、ロボット導入企業における機会だけでなく、他の労働者と比較して、産業用ロボットで代替可能な作業に特化した労働者の市場機会全体が悪化することを示唆しています。

    また、雇用に対する不均一な効果もありますが、規制の厳しいオランダの労働市場において調整が遅れていることもあってか、やや精度の低い推定値となっています。

    まとめると、ロボットの導入は、理論から導かれる予想に沿って、労働者に極めて不均一な影響を与えるようです。ブルーカラーのルーチン作業もしくは代替可能な作業を行う労働者の指標を用いても、労働者の教育による違いに注目しても、直接影響を受ける労働者はロボット導入で損をしますが、間接的に影響を受ける労働者は得をするようです。したがって、これらのパターンは、自動化がもたらす主要な分配の結果を何度も主張しているのです。


    参考文献

    Acemoglu, D, H R A Koster and C Ozgen (2023), “Robots and workers: Evidence from the Netherlands”, NBER Working Paper 31009.

    Acemoglu, D and P Restrepo (2020), “Robots and Jobs: Evidence from US labor markets”, Journal of Political Economy 128(6): 2188-2244.

    Acemoglu, D, C Lelarge and P Restrepo (2020), “Competing with robots: Firm-level evidence from France”, AEA Papers and Proceedings 110: 383-388.

    Golin, M and C Rauh (2023), “Workers’ responses to the threat of automation”, VoxEU.org, 8 March 8.

    Graetz, G and G Michaels (2018), “Robots at work”, Review of Economics and Statistics 100(5): 753-768.

    Koch, M, I Manuylov and M Smolka (2021), “Robots and firms”, Economic Journal 131(638): 2553-2584.

    Prettner, K and D Bloom (2020), “The macroeconomic effects of automation and the role of COVID-19 in reinforcing their dynamics”, VoxEU.org, 25 June.

    Rebelo, S, P Teles and J Guerreiro (2020), “Robots should be taxed, for a while”, VoxEU.org, 20 August.


    〔原文:“Industrial robots on workers: Winners and losers“Daron Acemoğlu, Hans Koster, Ceren Ozgen, Friday, March 31, 2023)〕

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