ノア・スミス「エネルギーが潤沢だってことは水が潤沢だってこと」(2024年8月26日)

グリーンエネルギーは安価なエネルギーでもあるって話を,ここではたくさん書いている.

グリーンエネルギーは安価なエネルギーでもあるって話を,ここではたくさん書いている.太陽光発電とバッテリーによって,地球を煮えたぎらせずに産業文明を維持できるようになるばかりか,石油時代がはじまっていらい初めてエネルギーテクノロジーが根本から改善される.ずっと停滞が続いてきた一人あたりエネルギー使用量も増加してほしいところだ.実のところ,エネルギーは「安上がりすぎてメーターで測るまでもない」ほどになりはしないだろう――人々がエネルギーの新しい使い途をあれこれと見つけていって,需要も伸びるだろうからね.でも,エネルギーはいまよりも潤沢になるはずだ.

「でも,だからどうだっての? 誰がもっとエネルギーを必要としてるって? 豊かな国々に暮らす人たちは,もう住居を明るく照らすのも車で通勤するのもコンピュータを動かすのも冷蔵庫を稼働させておくのも,みんなまかなえてるじゃん.エネルギーにいっそう安上がりになってもらう必要なんてあるの? せいぜい,AI やらビットコイン採掘やらにバカスカ電力を使うくらいでしょ?」

大事な使い途のひとつは,脱塩だ.いまのところ,ぼくらは水資源の制約を受けた世界に暮らしてる――水が希少であるために,食料価格が高くなっているし,他のありとあらゆるモノも高くなっている.アメリカはすごく水の豊かな国だけれど,他の多くの国々は必ずしもそうじゃない.そういう国のなかには,世界屈指の人口を抱えてるところだってある:

「再生可能な真水資源の一人あたり水量」

真水は,限られた資源だ――ほしくなったらポンと増やせるものじゃない.

いやまあ,つまり,これまではそうだった.安価な太陽光発電のおかげで,じきに脱塩は大規模にいまよりずっと安上がりになりそうだ.そうなったら,いまの世界のありようの決め手になっている水資源の制約はいきなり緩み,人間ができることの領域はものすごく広がる.Anna-Sofia Lesiv が書いた2023年のすぐれた記事では,脱塩の仕組みがどうなっていて,それがどうして重要で,中東みたいな乾燥した地域の水資源の希少性を緩和するには脱塩をどう利用できるかについて解説されている.もっと大胆な書き手たちもいて,新しい貯水区を創り出そうと提案したり,「干ばつはもはや人間の選択の問題だ」と宣言したり,広大な土地を再び森林に変えようと提案したりしている.

そうなったら,たんに安価な食料やもっと強力なシャワー・食洗機が手に入るだけじゃない.地球全体の経済地理を根本から変えてしまう.中東や北アフリカなどすごく乾燥した地域が,突如として,もっと人の住みやすい場所に一変する(気候変動で状況が悪化しなければ).そうなったら,世界の経済的な力関係にも影響が出るし,移住圧力は弱まるし,大勢の人類の生活水準が引き上げられる.

エネルギーが潤沢になるってことは,水が潤沢になるってことで,それがいままさに進行中なんだよ.


[Noah Smith, “Energy abundance is water abundance,” Noahpinion, August 26, 2024]
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