ブラッド・デロング 「マーティン・ウルフは経済学の理解が深い」(2010年9月27日)

民間部門が借金を返そう(債務を減らそう)と試みている最中に、政府に財政赤字の削減を求める論者は、「合成の誤謬」に陥っていると言える。すべての部門が同時に支出を収入の範囲内に抑えるのは不可能なのだ。
画像の出典:https://www.photo-ac.com/main/detail/3043459

それとは対照的に、ジョン・コクラン(John Cochrane)はというと・・・。

コクランがポール・クルーグマン(Paul Krugman)に不満をぶつけている。その理由はというと、自分の発言をクルーグマンに「正確に」引用されたからだという。

クルーグマンは増える一方の敵に泥を投げつけていると指摘しているのは、シカゴ大学のジョン・コクラン。「議論するなかれ。中傷せよ。昔のインタビューから相手が恥ずかしがるような発言を見つけ出してきて引用せよ。・・・ってなわけだ。ポール殿の幸運を祈るばかりだ。ただし、貴殿がやっていることが経済学と関わりがあるかのようなフリだけはしないでもらいたい」。

「恥ずかしくなるような過去の発言」を引用されたのどうのというのが問題なんじゃない。コクランは、初歩レベルの間違いを何度も繰り返し犯して、論争のレベルを引き下げている。無知を晒してばかりいる。そこが問題なのだ。

例えば、マイク・サンディファー(Mike Sandifer)も次のように指摘している。

無知と言えば、コクランが何週間か前のブルームバーグのインタビューで語っていたことが思い出される。コクランによると、政府が支出する1ドルは誰かから調達された1ドルだから、財政刺激策は効果がないという。明白な間違い・・・に思えるのだが、私の方が間違っているようなら正してもらいたいところだ。今回の財政刺激策の財源は、国債を発行して賄われている。国債の購入に回されたお金のうちの少なくとも一部は、国債を買わなければ退蔵されていたんじゃなかろうか? インタビューの動画のリンクは以下だ:http://www.youtube.com/watch?v=HO4E1bs4CbE

マーティン・ウルフ(Martin Wolf)も参戦してきたようだ。以下に引用するように、コクラン一派に我慢強く論戦を挑んでいる。

“We can only cut debt by borrowing” [1] 訳注;リンク切れ。(「借金を減らす――債務を削減する――には、新たに借金をするしかない」): 「借金をして借金を減らすことなどできない」。金融危機後に政府の財政赤字が大きく膨らんでいる事実に不満を漏らす「オーステリアン」(緊縮派)――「オーストリアン」(オーストリア学派)から枝分かれした一派――がそう語るのを何度も目にしたり耳にしたりしたことがあるのではなかろうか?

私の脳裏には「それでどうしたっていうんです?」という声が響き渡る。借金を背負う余裕のない主体の代わりにその余裕がある主体(現世代および将来世代の国民全体)が借金を背負うのは、まったくもって理に適(かな)っているように思える。そうしなければ、経済が壊滅して、足許の産出量や設備投資が落ち込んで、所得が長らく低迷してしまうかもしれないのだ。経済が壊滅してしまったら、緊縮策に訴えたところで財政赤字は(仮に減るにしても)ほとんど減らないだろう。イギリスでそのことが裏付けられようとしているところだ。

結論にひとっ飛びする前に、借金の返済――債務の削減――という論点についていくらか分析を加えるとしよう。

・・・(中略)・・・

家計部門、法人部門、政府部門、海外部門のそれぞれの資金過不足(収入と支出の差)を合計するとゼロにならなければならないので、家計部門の資金余剰(黒字)幅が拡大すると、他の部門の資金余剰幅が縮小するか資金不足(赤字)幅が拡大しなければならない。金融危機が起きた後の不況下では、法人部門の資金余剰(黒字)幅は拡大するのが常だ。・・・(略)・・・投資支出が切り詰められるからである。・・・(略)・・・先進国における民間非金融法人部門は、この度の金融危機が勃発する前から大幅な黒字(資金余剰)を計上していたが、黒字幅は危機が起きてからなお一層拡大している。・・・(略)・・・経常収支が黒字の国は、アメリカやイギリスといった経常収支赤字国の経常収支が完全雇用下で大幅に黒字になるために欠かせない調整を受け入れるつもりはないようだ。・・・(略)・・・あれもダメこれもダメとなると、金融危機後の不況下で家計部門の資金余剰(黒字)幅が大きく拡大するのを相殺できて、その方向に向かいそうな――大幅の資金不足(赤字)を計上できるし、計上することになりそう――部門は、政府部門だけということになる。そして、現実に目を向けると、その通りの展開になっている。

結論をまとめよう。・・・(略)・・・金融危機後の不況にあえぐ中で、先進国の民間部門が借金を返済する(債務を削減する)のに成功するためには、政府が借り入れを増やすしかない。経済のあらゆる部門が同時にどうにかして借金を減らすことなどできない相談なのだ。すべての部門が同時に借金を減らそうとすると、大量倒産が相次いで不況がさらに深まる運命が待っているのだ。・・・(略)・・・民間部門が借金を返そう(債務を減らそう)と試みている最中に、政府に財政赤字の削減を求める論者は、「合成の誤謬」に陥っていると言える。すべての部門が同時に支出を収入の範囲内に抑えるのは不可能なのだ。


〔原文:“Martin Wolf Understands Economics…”(Grasping Reality on TypePad, September 27, 2010)〕

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1 訳注;リンク切れ。
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