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Funke et al.「ポピュリズムのコスト:歴史からの証拠」(2021年2月16日)

[Manuel Funke, Moritz Schularick, Christoph Trebesch, “The cost of populism: Evidence from history,” VoxEU, February 16, 2021]

【概要】過去20年間でのポピュリズムの台頭を受けて,その原動力に関する研究が大いに行われてきた.だが,ポピュリズムの経済的・政治的な帰結については,それほどよく知られていない.本コラムでは,1900年までさかのぼるポピュリズムに関する包括的・国家横断的なデータベースを用いて,歴史的・長期的な視座を提示する.本稿では次の点を示す:(1) ポピュリズムには長い歴史があり,〔同じ国で〕連続して存続し続ける性質をもつ――ひとたびポピュリストに統治されると,その国では将来に別のポピュリストが権力を握る見込みがずっと大きくなる; (2) ポピュリスト体制は消費と産出が長期的に顕著に低下して経済的に高くつく; (2) ポピュリズムは政治に混乱をもたらし,不安定と制度の腐敗を促進する.本稿の分析からは,ポピュリズムが今後も存続することが示唆される.


過去20年間で,ポピュリズムが隆盛してきた.これを受けて,ポピュリストへの投票を決定する要因に関する多くの研究がなされている(研究の状況をまとめた論文は,Guriev and Papaioannou 2020, または Guiso et al. 2017 および Rodrik 2017 を参照).これと対照的に,ポピュリズムがもたらす経済的・政治的な帰結についてわかっていることはいまなお限られている.ポピュリストが権力を握っているなかで,経済のパフォーマンスはどうなるのだろうか? ポピュリズムは,自由民主主義にとって脅威なのだろうか? こうした問いは,これまで十分に検討されていない.さらに,既存の分析の大半は,個別の国にのみ関心を限定しているか,あるいは/さらに,過去20~30年のデータにもとづいている.ここで描けているのは,全体の長期的視野から見たより大きな見取り図だ.

こうした問いを検討すべく,新論文 (Funke et al. 2020) では,ポピュリズムに関する国家間をまたいだ包括的データベースを構築し,1900年~2018年の期間に現れたポピュリストの大統領・首相50名を特定した.ポピュリスト指導者をコードするために,我々は政治学における今日の主流定義に依拠した.この定義によれば,ポピュリズムとは「人々」と「エリート」の対立に関心を集中する政治戦略をいう (e.g. Mudde 2004).精密に言えば,エリート(「奴ら」)と人々(「我ら」)との闘争があると言って,これを政治キャンペーンと統治スタイルの中核に据えている場合に,その指導者をポピュリストとここでは呼ぶ(たとえば,この定義でいくと,プーチン,レーガン,オバマはポピュリストに分類できない一方で,ボルソナーロ,ベルルスコーニ,トランプはポピュリストに分類できる).

ポピュリズムに関する2万ページを超える科学文献を我々は収集してコーディングし,前述のポピュリスト政治家の定義にはっきりと該当する指導者50名を特定した.もっと具体的に言うと,我々は1900年以降または独立後の60カ国におけるおよそ 1,500名の指導者たち(i.e. 大統領,首相,あるいはこれらに相当する人々)を評価した.起点を1900年にしているのはなぜかと言えば,これ以前には,連邦政府のレベルでのポピュリストたちの証拠がほとんどないためだ(1896年にはポピュリストのウィリアム・ジェニングズ・ブライアンが合衆国大統領選挙に出馬したが敗北している).この標本を用いて,本項では過去120年間にわたる世界中でのポピュリスト体制の浮沈に関する歴史分析を行い,その政治・経済への副次的な影響を計測する.この分析からは,3つの発見が浮かび上がってくる.

ポピュリズムの歴史は長く,連続的な性質をもつ

図 1 はポピュリズムの歴史上の変遷を要約している.ここには,1900年以降に,我々が集めた60カ国の標本のうちポピュリストが支配した国々の割合がどう変わってきたかをプロットしてある(赤い太線).図を見てもらうと,一国レベルでのポピュリズムは100年以上にわたって存在してきたこと,そして,近年になってポピュリズムが歴史的な高水準に達していることが見てとれる.

最初のポピュリスト大統領は,イポリト・イリゴージェンだった.イリゴージェンは1916年にアルゼンチンの総選挙で権力の座についた.その後,2度の主なピークがやってくる:1930年代の大恐慌期と,2010年代だ.1980年代には,権力をもつポピュリストはもっとも低調だった.だが,ベルリンの壁崩壊の後,1990年代以降にポピュリズムは復活を遂げる.2018年は,全期間での最高潮を記録している.この時,政治学の文献でポピュリストと記述される人物に支配される国々が16カ国にのぼっている(標本の25%以上).ごく近年の増加をもたらした要因は,ヨーロッパその他における新しいポピュリスト右派の台頭に帰せられうる.

【図 1】権力を掌握したポピュリストたち:標本に占める割合の推移

我々の長期データからえられる知見のなかでもとりわけ興味をそそるのは,時間経過とともに繰り返し現れるパターンだ.図2 には,ポピュリスト体制の履歴(i.e. 1900年以降または独立後に少なくとも1回はポピュリスト政権があること)がある国々27ヶ国を示してある.各国ごとに,灰色のバーでそのポピュリスト指導者の統治期間を示してある.

ポピュリズムは,同じ国で何度も繰り返し観察される.ポピュリスト支配の期間が,長く,繰り返されているのが見てとれる.過去にポピュリストに支配されたことがあるという一事は,その国に今後数年でポピュリスト支配が到来することを強く予想する要因となる.興味深いことに,図 2 でポピュリスト支配期間が繰り返されている国々の半数で,左派ポピュリズムと右派ポピュリズムが交互に切り替わっている.

【図 2】 国別に見たポピュリスト指導者の支配期間:繰り返されるパターン

ポピュリズムは経済的コストが高くつく

図 3 からは,近年のポピュリスト政治の世界的隆盛からどんな経済的帰結がもたらされると予想できるかがうかがい知れる.パネル B を見てもらうと,各国でポピュリストが政権を取ったあとの年率実質 GDP 成長のギャップを無条件に平均して4とおり示してある.これは,合衆国の戦後で0他に見られる民主党と共和党それぞれの大統領の実績を測定した Blinder & Watson (2016) に着想を得たものだ.結果は,「ポピュリズムは経済的コストをもたらす」という考えを裏付けている.当該の国の典型的な長期成長率と比べても(白いバー),当時の世界の成長率と比べても(灰色のバー),ポピュリストが政権をとったあとには,おおよそ1パーセントポイント成績で後れをとっている.これは,ポピュリストが政権をとってから5年の短期で見ても,15年の長期で見ても,当てはまる.

パネル A に示した結果は,ポピュリストが政権をとった時点の経済的な状況や年を追っての変化を考慮していない無条件な数字で,厳密な対照群を用いていない.この点は重要だ.というのも,ポピュリスト政権が成立するかしないかの選別は,経済に無関係なランダムな事象ではないと見込まれるからだ.

このため,我々はパネル B ではより厳密を期している.Abadie et al. (2010) が提案した人為的対照法 (synthetic control method; SCM) を用いて,我々は各事例ごとにドッペルゲンガーを構築した.ドッペルゲンガー構築にあたっては,ポピュリストが政権をとる前のその国の成長トレンドにできうるかぎり正確に合致する「ドナー経済」の組み合わせを決定するアルゴリズムを用いている.

この人為的ドッペルゲンガーの推移をポピュリスト経済の実際のデータと比べることで,ポピュリスト「処置群」の総コストを計量化できる.さまざまなポピュリストたちが政権をとった前後の経路の平均をとって,推定される反現仮想的な経路の平均と比較する.処置群の数値から対照群の数値を差し引くと,ポピュリズムに起因する経済成長の平均的な差を測るドッペルゲンガー・ギャップがえられる.

【図 3】 ポピュリズムの経済的コスト:成長ギャップ

パネル A:無条件の平均

パネル B:人為的な対照群との差の平均

パネル B には,こうして得られた結果を示してある.青い線は,処置群(ポピュリスト群)と人為的対照群(非ポピュリスト群)それぞれの GDP がたどった経時変化の差の平均を表す.対象期間は,ポピュリストが政権をとった時点の前後15年間だ.

ドッペルゲンガー経済との累積的な差は大きく,15年後には10パーセントを超える.ポピュリストが政権をとるとまもなく,人為的な反実仮想から GDP 経路は目に見えて乖離を見せはじめ,しかも,その経済は回復することがない.

ここで重要なのは,左派・右派の尺度で標本を区切ってみても,他のいくつかの尺度で標本を区切ってみても,結果は変わらない点だ.左派・右派以外の尺度には,地理的な地域・歴史上の時代区分,支配期間の長さ,初期条件がある.ここでいう初期条件には,たとえば選挙年の前あるいはその年の金融危機などがある.さらに我々は,我々のこうした主要な結果を支持する「国プラセボ」「時間プラセボ」テストを実施する.

ポピュリズムは政治に混乱をもたらす

ポピュリズムは民主的な各種制度にもコストを生じさせる.一例として,我々は行政への制約の推移を検討する.図 4 のパネル A には,SCM の結果を示してある(図 3 のパネル B に示した GDP のものと類似).これには,「民主主義の諸種」(the Variweties of Democracy; V-Dem) から引用した司法による行政の制約の指標を用いている.指標の数値が大きいほど,司法の独立度合い・憲法との整合性・司法判断の遵守が高い.図から見てとれるように,行政の制約度合いで測った〔三権のあいだでの〕抑制と均衡はポピュリストが権力をとったあとに顕著に減少する.とくに,ポピュリストが権力をとらなかった場合の反実仮想と比べると,その下がり方が際立つ.こうした結果は,右派・左派の事例別に標本を切り分けても変わらない.選挙の自由・報道の自由といった他の制度の変数でも,同様の結果が見出される.

【図 4】 ポピュリズムの政治的帰結:

パネル A: 司法の制約の減少 (SCM)

パネル B:ポピュリスト指導者の退陣パターン(1970年以降)

二つ目の例として図 4 のパネル B に示したのは,ポピュリストが退陣した際の状況のあらましだ.これには,我々の標本に含まれる41の現代ポピュリスト政権を用いている(1970年以降,すなわち,現代の政治経済環境でのポピュリスト政権).これを見ると,ポピュリストの退場がドラマをともなわないケースがめったにないことがわかる.おうおうにして,ポピュリストは民主主義的な手続きを無視して退陣している.退陣の大多数(32例)は不規則なものだ.つまり,選挙に敗北したり任期が満了したりしても退陣を拒んだり(8例),任期中に死去したり(3例),辞任したり(13例),あるいは政変によって退任に追い込まれたり,弾劾や不信任決議を受けたり(8例)している.

ポピュリズムが執拗に存続することやそれが経済にマイナスの影響を及ぼすことは,民主主義の規範の浸食で説明されるかもしれない (e.g. Acemoglu et al. 2005, 2013, 2019, Guriev and Treisman 2019).後者,すなわち経済成長への負の影響について言えば,政府の政策の中核的な領域でありポピュリズム研究文献で際立った役割を果たしている他の2つのチャンネルを裏付ける証拠も我々は見出している:その2つのチャンネルとは,経済的ナショナリズムと分裂だ.とくに,保護主義的な貿易政策によるもの (e.g. Born et al. 2019) や古典的な Sachs (1989) や Dornbusch & Edwards (1991) のマクロ・ポピュリズム研究で言われる持続不可能なマクロ経済政策で生じた公的債務とインフレの悪循環によるものが重要だ.

結び

ポピュリストが権力をとると,彼らは持続的な経済的・政治的な打撃をもたらしうる.ポピュリストが統治した国々では,平均でみて,一人当たり実質 GDP の大幅な低下が生じている.権力をもったポピュリストたちの共通点としては,保護主義的な貿易政策・持続不可能な債務の推移・民主主義的制度の浸食がとくに目立つ.

今後の展望について言うと,〔同じ国で〕ポピュリズムが繰り返されるのが主なリスクだ.我々が収集した歴史データからは,ポピュリズムは執拗に続く現象であり,アルゼンチンやエクアドルといった国々ではポピュリスト指導者が入れ替わり立ち替わり権力をとる歴史が1916年までさかのぼれる.ここで出てくる大きな問いは,これだ――先進国も,今後そうした国々と同様の運命を共有して,これから数年,数十年にわたって「連続的なポピュリズム」を目の当たりにすることになるのだろうか? 歴史に照らしてみると,残念ながら,これはありそうにないシナリオでもない.
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著者の註記: ここで表明した見解はひとえに著者たちの責任にのみ帰するものであり,ニューヨーク連銀や連邦準備制度理事会の見解を反映するものと解釈されるべきではない.本コラムへのコメントとフィードバックにつき,Sergei Guriev に感謝する.

参照文献

  • Abadie, A, A Diamond and J Hainmueller (2010), “Synthetic control methods for comparative case studies: Estimating the effect of California’s tobacco control program”, Journal of the American Statistical Association 105(490): 493–505.
  • Acemoglu, D, G Egorov and K Sonin (2013), “A Political Theory of Populism”, The Quarterly Journal of Economics 128(2): 771–805.
  • Acemoglu, D, S Johnson and J A Robinson (2005), “Institutions as the Fundamental Cause of Long-Run Growth”, in: Agion, P and S Durlauf (eds.), Handbook of Economic Growth, Vol 1A: 385–472, Elsevier.
  • Acemoglu, D, S Naidu, P Restrepo and J A Robinson (2019), “Democracy Does Cause Growth”, Journal of Political Economy 127(1): 47–100.
  • Blinder, A S and M W Watson (2016), “Presidents and the US Economy: An Econometric Exploration”, American Economic Review 106(4): 1015–1045.
  • Born, B, G J Müller, M Schularick and P Sedlacek (2019), “The Cost of Economic Nationalism: Evidence from the Brexit Experiment”, Economic Journal 129(623): 2722–2744.
  • Dornbusch, R and S Edwards (eds.) (1991), The Macroeconomics of Populism in Latin America, University of Chicago Press.
  • Funke, M, M Schularick and C Trebesch (2020), “Populist Leaders and the Economy”, CEPR Discussion Paper No. 15405.
  • Guiso, L, H Herrera, M Morelli and T Sonno (2017), “The spread of populism in Western countries”, VoxEU.org, 14 October 2017.
  • Guriev, S and E Papaioannou (2020), “The Political Economy of Populism”, CEPR Discussion Paper No. 14433.
  • Guriev, S and D Treisman (2019), “Informational Autocrats”, Journal of Economic Perspectives 33(4): 100–127.
  • Mudde, C (2004), “The populist zeitgeist”, Government and Opposition 39(4): 541–563.
  • Rodrik (2017) “Economics of the populist backlash”, VoxEU.org, 03 July 2017.
  • Sachs, J D (1989), “Social conflict and populist policies in Latin America”, NBER Working Paper No. 2897.

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