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G.オッタヴィアノ「経済地理の逆襲:ヨーロッパの地域格差と選挙動向」(2019年7月3日)

[Gianmarco Ottaviano, “The economic geography of sovereignist Europe,” VoxEU, July 3, 2019]

経済地理が逆襲しつつある――グローバル化の時代に「距離は死滅する」とお手軽な論議が20年ほど続いてきたが,みんなの生活水準が上がっていく世界という約束は,各国内部の地域差のしぶとさによって突きつけられる挑戦はますます強まってきている.多くの人々や企業が地理的に流動的でないかぎり――そして地理的に流動的な人々がおうおうにして高技能で生産的な人々や企業であったりするかぎり――遠く離れた人々どうしのやりとりがさらに簡単になっても,集積の経済は弱められるどころか,むしろ強化される.この角度から見たとき,ヨーロッパで近年見られる選挙傾向は驚くほどよく理解できる.

計量経済分析から,EU から離脱するかどうかをめぐるイギリスの国民投票の離脱票は,移民よりもグローバル化への反対票だった部分が大きかったことでかなりの程度まで説明できる.このグローバル化への反対票は,とくに,〔グローバル化の〕コストと便益の分配が不公平だと人々が認識してこれに反対した票だった (Colantone and Stanig 2018a).筆者は,EU離脱をはじめとするヨーロッパの近年の選挙動向は地域格差の収縮がなされていないというレンズを通して見ることでどう理解できるかを論じた (Ottaviano 2019).

イギリスの EU離脱という選挙結果は,グローバル化の負の影響ばかりを被ったと考えている人々が投じた抗議票だった:つまり,外国との競争,悪化するインフラや公共サービス,高まる社会的な排除,頭脳流出,地域の伝統や個性の弱体化,そして強まる将来の不透明感といった影響ばかりを自分たちは被っているのだと考えた人々による抗議だったのだ.離脱支持がもっとも票を集めたのは,外に出る選択肢が限定されていると感じている人々だったことは,この点に目を開かせてくれる.地元でもヨソでも前より職を確保しにくくなった低技能の労働者たちや,いまとちがう選択肢を探し求めるにあたって時間が見方になってくれない高齢の人々が,離脱賛成にもっとも票を投じた人々だった.

さらに目を見張るのは,こうした離脱支持票には「社会・対人関係重視」の次元 (‘sociotropic’ dimension) が関わっている.人々が負の影響をうらむのは,個人的に痛手を被ったときにかぎられない.地元のコミュニティが痛めつけられたときにも同様だ.この点で,自分たちの共通利害の意志決定を下す権利がヨソ者(i.e. ロンドンやブリュッセルにいるいわゆるエリート)によってハイジャックされてしまったと思った人たちが「保護」を求める票が離脱支持票だった.グローバル化から生じる利益と損失の再分配がこのように欠如していたことから保護の要求が生じたこと,これはイギリスやヨーロッパでなされた選挙結果のかなりの部分を説明する (Colantone and Stanig 2018a).

ヨーロッパ統合と新しい経済地理(ついに)

EU離脱はコストをもたらす見込みが大きい――そのコストは,イギリスにとってはかなり大きくなる一方,アイルランドをのぞく EU加盟国にとってはもっと限定されたものになるだろう (Dhingra et al. 2017).なぜなら,単一市場は加盟各国の平均的な市民にとっては便益をもたらすからだ.そもそも EU 創設の理由のひとつがこれだった.ヨーロッパ統合という企図を産み出したのは戦後のこんな信条だった――「平和は一軒一軒の戸口に繁栄を届ける.そして,自由貿易は平和を促進する.こうして,平和と繁栄のうるわしい円環が始動されるのだ.」

国際貿易が平和に寄与する役割があるかどうかをめぐる議論は一般的にいまも決着がついていないものの,ヨーロッパ統合がこの旧大陸におけるかつてない長期の平和につながったのは事実問題だ.現行の加盟国のなかには,EU 加盟以前にお互いに戦争を経験した国々もある.だが,加盟国となって以降,EU諸国のどれひとつとして,互いの紛争を起こしていない.

残念ながら,〔グローバル化の〕利得と損失の再分配が縮小していくのにともなって,各国内部の地域格差はますます開いていき,「平和と繁栄のうるわしい円環はみんなにわかちあわれるものではない,最初からとっくに技能が高く生産的な地域にだけ選択的にうまくいくのだ」という印象が人々の間に広まっていった.かつて経験されたことのないこの帰結をヨーロッパ統合がもたらしうるという議論は,1980年代後半から1990年代前半のいわゆる新しい経済地理によって提起されていた論点だ (Fujita et al. 1999, Baldwin et al. 2003).この議論は,もとをたどれば,ノーベル賞を受賞されたクルーグマンの研究 (Krugman 1991) に結びつけられている.

当時,やがて単一市場の創出と共通通貨の導入にいたるプロセスを知的に導いていたのは,完全に競争的な市場と「規模に対して収穫一定」なテクノロジーの伝統的な新古典派パラダイムだった.このパラダイムでは,典型的にこう予測する.「経済が統合されれば,その後,市場のさまざまな要因が働いて自然にヨーロッパ各地域の生活水準の経済的な収斂にいたるだろう.」

一方,クルーグマンが主張した論点はこういうものだった――「そうではなく,企業の市場支配力と,生産規模が大きくなると収穫も大きくなること,これが現代世界ではもっと現実味のある特徴であり,これらから統合により逆の帰結がもたらされうる.つまり,栄える「中核」地域と衰退する「周縁」地域の格差拡大が引き起こされうる.」 とはいえ,新しい経済地理は理論偏重で実証が手薄だったため,大きなトラウマもなくヨーロッパ統合が進んでいくとともにそのメッセージは失われた.

ところが,グローバル金融危機とともに事態は劇的に変化しはじめた.グローバル化の2つの所産について証拠が積み上がっていったのだ.世界全体を見ると,生産拠点の海外移転と技術移転により,製造業と GDP シェアは G7 からごく少数の発展途上国(とくに中国)に移っていった.これがいわゆる「大収斂」だ (‘Great Convergence’; Baldwin 2016).一方,地域に目を移すと,技能偏重的な技術変化と技能偏重的なグローバル化により,G7 各国の経済地理は国外志向の活発な成長の中枢地域と国内志向の停滞した後背地への二極化がいっそう進んでいる.これが「大分岐」だ (‘Great Divergence’; Moretti 2012).結局,クルーグマンは正しかったのかもしれない.

「中国シンドローム」と「東風」

西ヨーロッパでは,ヨーロッパの夢に対する失望が有権者のあいだで強まっていく傾向には,強固な地理的側面がたしかにある.また,並行して展開した2つの変化でより大きな痛手を受けた地域経済でいっそう顕著だ (Colantone and Stanig 2018a,b).その2つの変化とは,「中国シンドローム」(Autor et al. 2013) と「東風」だ.一方では中国をはじめとする低賃金の新興経済が世界経済のプレイヤーとして台頭したことと結びついた競争上のショックが中国シンドロームをもたらし,他方では低賃金の東ヨーロッパ諸国が EU に加盟したことと結びついた「東風」が生じた.

この2つのショックによって地域経済が負の影響を受ければ受けるほど,その地域の有権者たちは急進的な右派とその政策パッケージにより強く支持を移していった.そうした政策パッケージは,典型的に,国際的な開放性と国内市場の自由化に対する頑強な抵抗を示しつつ,有権者のあいだから出てきた保護の要求にもっと説得力ある対応をするものとなっている.グローバル金融危機につづいてなされた緊縮政策の後,外国との関係にもっと自由主義的な態度をとりつつそれと並行していっそう強力な福祉国家を約束する他の選択肢を彼ら有権者はもはや信頼していないのだ.

第二次世界大戦後にヨーロッパの自由民主主義国家が比較的に安定していた大きな理由は,生活がこの先よくなっていくという希望をたいていのヨーロッパ人が抱いていたことにある.ヨーロッパの数カ国で急進勢力への投票が近年になって増えてきている大きな理由は,そうした票を投じる有権者たちがこの希望を失っていることにある.「自分たちどころか自分の子供たちの生活もよくなっていかないのではないか」「競争の場が公平でないのではないか」という不安は,ますます強くなっている.

他方で,近年,「タックスヘイブン」を制限する試みがいくらか進捗を見せているものの,今日ほどタックスヘイブンに巨額の富が集まった時代はかつてない (Zucman 2015).これは不公平だと見られている.なぜなら,そうやってタックスヘイブンに集まった富の出所となっている地域に公共財や公共サービスを提供するためには(「グリーン経済」への移行を助けるの必要なものも含めて),法律を守っている世帯にかける税率をさらに高くして失われた税収の埋め合わせに当てなくてはいけないからだ.

他方で,社会的流動性の低下も公正さを損なっている.この数十年に,先進諸国のかなりの部分で社会的流動性が減速している (OECD 2018).世代内の流動性も,世代をまたいだ流動性も,両方ともだ.各国の内部で,社会的流動性は地域によって大きく異なっており,経済活動・教育・社会資本と正の相関を示す一方で格差と負の相関を示している (Güell at al. 2018).金融危機後に,ヨーロッパ南部から北部への移民流入がふたたび活発になっている (Van Mol and de Valk 2016).これは,低賃金の国々との競争でもっとも痛手を受けた地域で相対的に機会の欠如が深刻になっていることの証だ.

結び

グローバル化は,世界中の国々の「大収斂」といくつかの先進国内での「大分岐」をともなって到来した.同じことは,EU 内部にも当てはまる.近年,地域間格差の増大を反転させる面では,再分配政策はごく限定的な効果しかもたらしていない.その結果,対外的な自由化と対内的な再分配という伝統的自由主義の政策パッケージは有権者にとって魅力を失っている.こうして,対外的な保護主義と対内的な自由化からなる急進的右派の代替パッケージに地歩が譲られるにいたった.これは非効率でありいっそうの地域間の格差縮小にはつながりそうにない.ヨーロッパの政治論議と政策論議に欠けているのは,おそらく,国内制度と国際制度に対して人々が不信を募らせている主な原因にもっと明瞭に関心を向けるこっとだ:その主な原因とは,財政的な公平と社会的流動性だ.

参照文献

Autor, D, D Dorn and G Hanson (2013), “The China syndrome: Local labor market effects of import competition in the United States”, American Economic Review 103: 2121-68.

Baldwin, R (2016), The Great Convergence, Cambridge, US: Harvard University Press.

Baldwin, R, R Forslid, P Martin, G Ottaviano and F Robert-Nicoud (2003), Economic geography and public policy, Princeton: Princeton University Press.

Colantone, I, and P Stanig (2018a), “Global competition and Brexit”, American Political Science Review 112, 201-218.

Colantone, I, and P Stanig (2018b), “The trade origins of economic nationalism: Import competition and voting behavior in Western Europe”, American Journal of Political Science 62: 936-953.

Dhingra S, H Huang, G Ottaviano, J Pessoa, T Sampson and J Van Reenen (2017), “The costs and benefits of leaving the EU: Trade effects”, Economic Policy 32: 651-705.

Fujita, M, P Krugman and A Venables (1999), The spatial economy: Cities, regions, and international trade, Cambridge, US: MIT Press.

Güell, M, M Pellizzari, G Pica and J V Rodríguez Mora (2018), “Correlating social mobility and economic outcomes”, Economic Journal 128: F353-F403.

Krugman, P (1991), “Increasing returns and economic geography”, Journal of political economy 99(3): 483-499.

Moretti, E (2012), The new geography of jobs, New York: Houghton Mifflin Harcourt.

OECD (2018), “A broken social elevator? How to promote social mobility”, Paris: Organisation for Economic Co-operation and Development.

Ottaviano, G (2019), Geografia economica dell’Europa sovranista, Rome: Laterza.

Van Mol, C, and H de Valk (2016) “Migration and immigrants in Europe: A historical and demographic perspective”, in B Garcés-Mascareñas B and R Penninx (eds.), Integration Processes and Policies in Europe: Contexts, Levels and Actors, IMISCOE series, Springer.

Zucman, G (2015), The hidden wealth of nations, Chicago: Chicago University Press.


Comments

  1. “As long as many people and firms are not geographically mobile – and those who are tend to be the most skilled and productive”
    省略されている”those who are X”のXは”geographically mobile”であって”not geographically mobile”ではないように思うのですがいかがでしょう。most skilled and productiveはmanyと対比されているように思えるからです。

    • optical_frog says:

      ご指摘のとおりです.修正しました.
      コメントに気づかず,対応が遅くなってすみません.

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