ノア・スミス「移民への反発と反動が日本にも現れた」(2025年7月22日)

いずれこうなるのは避けられなかった

「あんなところやこんなところで日本は他の先進国に先駆けている」なんて話をみんなよくする.昔だったら,その手の話題はテクノロジーだった.もっと最近だと,たいてい,セックスしない若者とかの社会の動向が語られる.ただ,ぼくが日本に暮らしていたときには,日本がアメリカの後追いをしてるところに気がつくことがよくあった.ファッション・音楽・文化では,なにかの流行がアメリカで最高潮を迎えてから5年から10年くらいあとになって日本で人気になるように見えた [1] … Continue reading

「アメリカを再び偉大に」(MAGA) やヨーロッパの「ドイツのための選択肢」党 (AfD) の特色である外国人嫌いで陰謀論を好み自国生まれ優先のポピュリズムは,長らく日本の主流政治には基本的に見られなかった.2012年から2020年まで首相をつとめた故・安倍晋三は右翼だともっぱらの評判だったけれど,その実態はといえば,レーガン風の保守色の強い統治をしていたし,ときにはリベラルっぽくすらあった.安倍は,移民流入に門戸を開き,女性の就業を支援した.2010年代の前半に嫌韓の憎悪扇動団体が台頭してきたときには,日本発のヘイトスピーチ禁止法を可決させて,その憎悪扇動団体を警戒リストに入れ,最終的にはその団体を政治勢力としては消滅させた.

でも,レイヴ文化や野球帽を逆さにかぶる流儀がそうだったように,トランプ風の政治流儀がついに日本に上陸してしまった.先日の参院選で,「参政党」という新しい政党 [2]「参政党」をそのまま英語に訳せば “Political Participation … Continue reading が驚くほどの議席を獲得した.この政党の政策綱領は,MAGA のそっくり引き写しみたいに見える:

この元スーパーマーケット店主の党首は(…)トランプ流の「日本ファースト」というメッセージを軸に選挙戦を展開した.(…)いまや,日本の新興右翼ポピュリスト政党「参政党」は(…)参議院248議席中14議席を獲得している.(…)

党首の神谷宗幣は,「インターネットで人を集めて」2020年にこの政治団体を結党した.その後,徐々に地方議会で議席を獲得しはじめた.(…)参政党はコロナウイルスのパンデミック期にワクチン接種やグローバルエリートの企てに関する陰謀論を拡散して,勢いをつけていった.(…)参議院選挙に向けた期間中に,参政党は「日本ファースト」キャンペーンで知名度を高めた――これは,観光客過剰や外国人住民の流入に対する不平不満に強く関心を向けるキャンペーンだ.(…)参政党は,この「日本ファースト」政策綱領でこうした苛立ちや不満を利用した.また,賃金の伸び悩みや高インフレ率や生活費に関する他の不満にも訴えかけている.

参政党は,各地の町や市の外国人住民に上限を設ける案をはじめ,移民制限の強化,外国人が利用できる給付の制限強化,日本の市民権取得条件を厳しくすることを支持している.(…)また,参政党は,安全保障措置の強化やスパイ防止法の厳格化,より大幅な減税,再生可能エネルギー,ワクチンを用いない医療制度を訴えている.

ここで言われていることのなかには,明らかにアメリカやヨーロッパからミームが伝播してきただけの項目もある――たとえば,反ワクチンや,グローバルエリートへの憤慨は,そういうミームだ.党首の神谷宗幣は,演説で「ユダヤ資本」がどうのこうのなんてことすら言っている.でも,日本の銀行にいるユダヤ人なんて基本的にゼロだから,たんにインターネットで読んだ話を言ってるんだとわかる.

でも,参政党の主要な論争点,つまり移民制限と観光制限は,ただトランプや AfD を模倣してるだけじゃない.これは,全世界に影響を及ぼしている現実の重要な傾向への反応だ.それが,他の国々から少し遅れて日本にも到来したんだ.

世界規模の移民ブームには,主に3つの理由がある.一つ目の理由は,インターネットだ.発展途上国の人たちが豊かな国々への移住方法についての情報をより多く手に入れて,豊かな国での暮らしがどんなものか知るにつれて,「移住しよう」と考える人たちがたくさん現れた.二つ目の理由は,世界的な発展だ.あちらこちらの国が貧困から抜け出だしはじめると,そういう国々の人たちは,国外に出て行くだけのお金を手に入れるようになった [3]やがて,その国が十分に豊かになって国外に出て行くのが経済的に不利な選択になると,移住は減少していく.

三つ目の理由は,低い出生率だ.どの先進諸国でも,いまや出生率は低くなっていて,長期的に人口が減少し縮小していく水準に来ている.これによって,多くの産業で労働力不足が起こる.労働力不足にともなう経済と社会の大規模な混乱を受け入れるかわりに,ほぼあらゆる先進国が,最終的に移民を受け入れて労働力不足を補う方を選択している.日本がこの決定を下すのには少しばかり長くかかったけれど,結局は,ヨソがみんなやったことをやることになった.

なぜ・どのようにして日本が移民に門戸を開いたかって話を詳しく読みたい人は,この記事を読んでほしい.ともあれ,日本は移民に門戸を開いた:

Source: MrThe1And0nly via Wikimedia Commons

このグラフにある “Korean”(韓国・朝鮮系)は,ほぼすべて「在日」の人たちだ.かつて朝鮮半島から日本に移住した人たちの子孫で,彼らは韓国や北朝鮮のパスポートと市民権を有している(日本の市民権は出生地主義をとっていない).でも,実質的には彼らは日本人だ.外国人の本格的な流入がはじまったのは,1990年代に入ってからだ.それに,本物の恒久的な大量移民が始まったのは2013年だ.その移民の大半はベトナム・フィリピン・ネパールからの人たちが占めている.他の東南アジア諸国やアメリカ・台湾からの移民も,だんだん存在感を増してきている

かなり頻繁に日本を訪れているぼくからすると,この移民流入はすごく実感しやすい.コンビニ店員の多くはネパール人や中国人だし,レストランには大勢のベトナム人が調理人として働いている.また,上のグラフにある数字は,外国生まれの人数を数えていて,その外国生まれの人たちが授かった子供たちは数え入れていない点には留意しておきたい.日本人全体に比べて,日本の若者はずっと急速に多様化しつつある.

「じゃあ,そもそも日本をこんなにも暮らすのに素晴らしい場所にしている特有の性質のなかには,移民流入で劣化してしまうものも出てくるのか」というと,それはまだわからない.日本はアメリカとはちがう――日本は移民の国じゃない.伝統的に,外来の人たちと共通していない独自の文化でその国民性を定義してきた国だ.

移民流入で日本は悪化していってもおかしくない?

コンビニ店員と言葉を交わすのが前よりちょっぴり難しくなったとはいえ,大量の移民流入で東京・大阪など日本各地の大都市の様相はいまのところ大して変わっていない.ただ,特定の地域では,移民がやってきたことで日本の生活様式に局所的な変化が強いられている.いまや,日本には20万人以上のムスリムがいる.モスクやイスラム学校やムスリム用の墓地ができてきて,一部の地区は様変わりを遂げている [4] … Continue reading

それに,犯罪のおそれという問題もある.アメリカとちがって,日本の社会は暴力犯罪がほぼゼロだという前提で動いている.安全なことで有名な日本の街路では,夜間でも女性や子供たちが不安を覚えずに自由に通行できる――そんな自由なんて,アメリカ人にはまるっきり縁がないし,日本を訪れた人たちはすぐさまこれを体験して驚嘆する.公共の場は完全に安全だという前提があるおかげで,各地の都市の開発が実現している歩きやすさと密度は,犯罪まみれのアメリカでは望むべくもない水準にある.

日本に暮らす移民たちは,総じて,驚くほど行儀がいい.アメリカとちがって,日本にいる平均的な移民は現地住民よりも少し騒々しくて決まりを守らない傾向がある.なぜかといえば,そもそも日本が地球上のどの国よりも平和な場所だからだ.ただ,文化的な同化は現に起きていて,強力だ.人々は,まわりの人たちの社会規範にしたがう傾向がある.だから,無作為にアメリカ人やオーストラリア人を選んできて日本の都市の真ん中に放り込んだら,たとえその人が故国ではギャングだったとしても,きっと他のみんなと同じように決まりにしたがうはずだ.(実は,まさしく元ギャングでいま大阪に暮らしている人を2人知ってる.)

平均で見ると,日本生まれの日本人に比べて,外国人が逮捕される率は2倍近くに上るようだ.そもそも日本の犯罪率がすごく低いのを考えれば,それほど外国人がたくさん犯罪をしているわけじゃない.日本の殺人率は,約 0.23 だ.これが2倍になったとしても,まだ韓国や中国より安全だ.だから,移民が入ってきてこの数字が2倍どころかずっと小さなパーセンテージで増えたところで,日本の根本的な性質が変わりはしないだろう.移民の犯罪は,日本では大した問題じゃない……いまのところは.

「そうは言うけど,外国生まれで日本に暮らすたちがどんどん増え続けていったら,そのうち大問題に変わるんじゃないの? 外国生まれ人口が 3% から 16% に増えて,イギリスと同水準になったら,外国人とその子孫が日本人とふれあわずにもっぱら同国人で固まって生活する大きな民族的飛び地があちこちにできるよね〔民族的飛び地とは,リトル・ブラジルやコリアンタウンのような場所のこと〕.」

「そうなった時点で,低犯罪率への文化的な同化が効かなくなるんじゃない?」 おそらく,フランスではまさにそうなった.フランスは全体的に平和だけれど,「バンリュー」移民居住区は犯罪率が高く頻繁に暴動が起きている.日本がフランスみたいになるのを余儀なくされて,あちこちの街角に機関銃で武装した警備員が立ちはじめたら悔やまれる.夜でも女性や子供が一人で安全に出歩ける自由が失われたら,悲劇だ.そうなるかどうか本当にはわからないし,どれくらい多くの移民が増えるとそうなるのかもわからない……しかも,いざわかった時点では,とっくに手遅れになっているだろうってこと,これがおそろしい.

というわけで,日本の人たちが移民の大量流入が続く可能性について不安を覚えるのはしごくもっともなことだ.実は,かくいうぼくもアメリカで今後も大量の移民流入が続くのは個人的に支持しているけれど,日本ではどうかといえば,とても危惧している.だから,日本にも同じように危惧する人たちがいる理由は理解できる.

観光客過剰(オーバーツーリズム)

実は,母国生まれ優先の政治が日本で台頭しているのには,他にも理由があると思っている.それは,観光客過剰の問題だ.

日本政府が何十年にもわたって組織的に取り組んできたおかげもあって,近年,世界中の人たちが「日本はかんたんに訪れて見て回れる場所だ」と知るようになった.さらに,翻訳アプリ,グーグルマップ,安価な国際ローミング,アップルペイによって,これがいっそうかんたんになっている.日本はとても独特で心地よくて楽しい場所だし,最近の円安傾向のおかげで外国人にとっては物価の安い場所でもある.おすすめの旅行先に詳しい人たちは口を揃えて言ってる:「日本に行きなよ」

その結果,日本ではまさしく旅行客の洪水がおきている.2024年に日本が迎え入れた旅行客は,おそらく 3,700万人ほどにのぼる:

Source: JITTI

このブームが時間・空間で均等に分散していたなら,それほどの負担にはならないだろう.どの観光客も1週間だけ滞在して,季節を問わず一年に均等に分布していたら,年間3,700万人の訪日客といっても日本の人口の 0.6% にしか当たらない.わずかなものだ.

問題は,観光客が時間・空間で均等に分散していないことだ.観光客たちは,一年のごく限られた時期に,ごく一握りの場所に押し寄せている――東京の〔山の手線の〕西部,京都の古い町並み⁠などが彼らの行き先だ.3月から4月初めまでの桜の見頃には,東京西部〔の新宿御苑や代々木公園や目黒川など〕はまるでニューヨーク市なみに国際的に感じられる.あちこちの喫茶店やレストランや公園は,外国人でごった返す.しかも,日本語を話せる人はほとんどいない.鉄道の駅は改札口で決済カードをうまく使えずまごついて人の流れを詰まらせる.ディナーの予約をとるのはほぼ不可能だ.

オフシーズンに入れば,一部の地区ではこの混雑も収まるけれど,日本でも指折りに美しくて活気に満ちた場所のなかには,すっかり観光地になって本来の魅力がそこなわれてしまっているところもある.東京でもとびきりいい感じの小さなバーが集まった飲み屋街だったゴールデン街は,いまやほぼ完全に観光客に占拠されている.かつて日本の若者文化の中心地だった渋谷は,もはや自らを展示した博物館のような有様だ.秋葉原は,もはやアニメオタクや社会のはみ出し者の聖地じゃない.だんだん画一的になりつつ数を減らす店舗に観光客が買い物にやってくる場所になっている.

最悪の状況に陥っているのが,京都だ.先日,〔ジャーナリストの〕リーヴズ・ワイデマンが『インテリジェンサー』誌に載せていた秀逸な旅行記では,京都を興味深く独特な場所にしていたなにもかもが,絶え間なく押し寄せる観光客の群れによって追い払われてしまったり,外国人目当てに下品な商業化を遂げてしまったりしているさまが描かれている.

これは,経済学者の言う「混雑の外部性」というやつだ.ただ一人きりの旅行者が渋谷を訪れたなら,その人はネオンきらめく不思議の国に迷い込める.ところが百万人の旅行者が渋谷にやってきたら,そのネオンきらめく不思議の国は雲散霧消して,かわりに空虚で下品な場が生まれる.そんなところに行っても,誰も楽しくはない.

また,かの有名な効率的公共応援や優れた設計の町並みにも混雑の外部性は負荷をかける.日本各地の都市は,そこに継続して生活する人々のためにつくられている場合にいちばんうまく機能する.ところが,観光は季節で変動する.すると,ピーク時の観光客をさばける鉄道システムをつくったとしても,一年の多くはそのキャパを利用者数が大きく下回ってしまう.それじゃあというので,収益性を維持するべく平均的な利用者数をさばく鉄道システムをつくったら,今度は観光客が押し寄せる時期に使い物にならない.この問題に完全に満足のいく解決策はない.

しかも,これはぜんぶ,観光客のふるまいを考慮に入れる前の話だ.シカゴやフィラデルフィアなら,地元住民よりも観光客の方が大人しくて,法の遵守ぶりでもまさるはずだ.ところが日本ではその正反対になっている.移民と比べて,観光客はそんなに文化に順応しない.彼らは,地域の決まりや規範にしたがうにはどうしたらいいかを理解する前に日本から去って行く.

その結果,日本で観光客が我が物顔に振る舞う動画が大量に溢れかえっているわけだ.ほんの一握りだけ,以下に載せておこう:

それにもちろん,日本にやってきて,注目を集めようとロクでもない行動をとった配信者たちの有名な事例には事欠かない.

もちろん殺人や窃盗ほど悪くはないけれど,こういうことが日本みたいな国の品格を貶めている.参政党の台頭を勢いづかせた反外国人の憤慨は,たんに移民たちだけが理由なわけじゃない.観光客によって生じている部分もある.

そして,観光客問題の本当の核心部分はこれだ:「いったいいつ終わるの?」 これが一時的な問題だったら,まだしも耐えられる.ところが,ヴェネツィアみたいな場所を見れば「これはいっときだけのことじゃないぞ」と日本の人たちにはわかる.なにも対策が講じられなかったら,日本の「第一級」都市は永遠にテーマパークになってしまう.

観光客過剰を減らせば,日本で台頭しつつある外国人ぎらいの反発も大幅に緩和されるだろう.各都市でできる単純な政策をひとつ挙げるなら,外国の銀行口座でホテルの予約がとられたときに追加料金を課す,という方法がある.そうすれば,東京や京都はああいう人が押し寄せてる場所への観光の価格を選択的に引き上げられる.すると,海外からの旅行者はそれよりもっと安上がりな都市や田舎に誘導できる.新たな行き先になった都市や田舎も,そういう観光客が落とすお金をもっと必要としている.(それに,自治体の増収にもつながる.)

また,犯罪的な迷惑行為におよぶ旅行者たちを逮捕して罰するのも役立つはずだ.「あそこは観光客の悪ふざけを許さない」という評判を確立するのにシンガポールが必要としたのはただひとつ,破壊行為を行った一人の輩を鞭打ち刑に処すことだけだった.

日本には,移民の選択的な受け入れと能動的な同化政策が必要だ

とはいえ,過剰な観光客を減らしたところで,問題がまるごと片付きはしない.日本は,とにかく伝統的に移民の国じゃない.だから,大量の移民流入に対応する方法を学ぶのにも,アメリカに比べてずっとゴタゴタを経験するはずだ.(そのアメリカにしたって,ゴタゴタは多かった……まさにいまみたいに.)

さいわい,日本にはいくらか時間がある.移民に向けられた憤慨は,まだ国全体の雰囲気をそれ一色に染めるにはいたっていない.世論調査を見ると,移民に対する態度はとても好意的だ.2024年の調査をひとつ見てみよう.これを見ると,移民受け入れに前向きな感情はここ数年で弱まるどころか強まっている

Source: Asahi

参政党の反動も,まだ日本の人たちの間では少数派にとどまっているわけだ.でも,アメリカの MAGA で目にしたように,すごく熱心で怒りに満ちた人たちが集まった少数派は,一国にとって多大な問題をもたらすことがある.

日本の与党である自民党は,対策をとらなくてはいけなくなる.伝統的に,自民党はイデオロギー面で柔軟で,有権者のあいだに心配事が現れるとそれに対処することで勝利してきた.今回も,自民党はそうする必要がある.移民問題が発端になってトランプみたいな人物が台頭する結果にならないように,対処しないといけない.

日本の指導者たちがすべき第一の対応は,移民の選別を改善することだ.これまで日本は高技能移民を大量に引き寄せようとしてなかなか上手くいっていない.そうした人材に払う給料が〔アメリカなどの〕新卒並だったり,日本語という言語の壁があったりするからだ.ただ,日本政府はこの取り組みをさらに倍プッシュすべきだ――アメリカが前ほど魅力的な行き先でなくなるにつれて,日本は魅力的な代替の選択肢として浮上してくるかもしれない.というか,それこそが,ぼくが最近出した『ウィーブ・エコノミー』の主な話題のひとつだったりする(残念ながら,同書は日本語でしか出ていない).

ただし,技能だけが選別の条件というわけじゃない.日本は,文化的・宗教的に自分たちに近い国々からの移民に対象を狭めてもいい――たとえば,ベトナムやタイといった地域の人たちを対象にするわけだ.中国から政治的な不満分子を招き入れたり香港からの難民を引き寄せたりしようと試みる手もある.

日本が打つべき第二の手は,同化政策の改善だ.移民を取り扱う日本の制度がつくられた時点では,「やってくるのは一時的な滞在者やゲストワーカーたちであって,いずれ彼らは故国に帰る」という前提があった.外国人の子弟はその外国人向けの学校に通う場合が多いし,そうした子供たちのなかには日本語能力が限定的なままに留まるケースもある.

これはおしまいにすべきだ.日本で外国人のもとに生まれた子供たちは,日本の学校に送られるべきだ.そうすることで,その子たちは日本語を身につけるし――こっちがさらに大事なんだけど――回りにいる日本人の子供たちの規範に順応することにもつながる.インターナショナルスクールに通う子供たちは,その親たちが近いうちに日本を去る予定の子たちだけにかぎられるべきだ.

また,民族的飛び地が形成されて日本文化への順応に抵抗するのを防ぐために,住居の分散という考えも検討する値打ちがある.シンガポールは,集合住宅のブロック一つ一つの内部で人種の多様性を強制することでこれを実施している.おそらく日本にはそこまでのことをやる能力や意思がないだろうけれど,自治体ごとの外国人比率に上限を設けるという参政党の考えは,実はもしかしていいところをついているのかもしれない.もちろん,そうした上限はうまく機能しない.ただ,政府は外国人が少ない地域に住んでいる外国人にバウチャーを提供する手がある.これには,外国人たちの同化を加速させる助けになる.また,デンマークで行われたように,貧しい移民たちの飛び地を解体する施策をとってもいい.

他に,こんなアイディアもある.定住する意思がある移民に,無料で日本語集中講座を提供する,というものだ.そうした日本語講座は,人脈をつくる場としても機能するはずだ.講座に,日本語話者や会話パートナーを招いてもいい.これを業界別にマッチングさせてもいいだろう――たとえば,日本人エンジニアが移民のエンジニアと出会ったりするような機会をつくったりするのはどうだろう.これによって,移民たちは日本に暮らす現地の人脈をつくり,より迅速に日本の社会に組み込まれやすくなるだろう.

ともあれ,日本が方針を180度転換して移民を締め出すと決めないかぎり――そんなことをすれば経済に悪影響があれこれと生じるだろう――現に日本にやってきて定住している人たちを同化させるにはどうしたらいいか学ぶしかない.ヨーロッパ諸国は,すでにこっちの方向に強く向かっている.日本は,別にあちらの政策をそっくり真似なくてもいい.ただ,ヨーロッパの取り組みをじっくりと観察することで学べる教訓は間違いなくいくらかある.

なんにせよ,トランプ流の政策が日本で優勢になるとはぼくは予想していない.参政党が日本の主要な野党になる見込みは小さい.まして,日本を乗っ取るなんて,なおさらありそうにない.ただ,日本の指導者たちは自分たちの伝統的な機敏さを発揮して,参政党が台頭してきた背景にある憤慨の主な源泉を弱めるために行動すべきだ.それには,問題がいっそう厄介になる前に動き出した方がいい.


[Noah Smith, “The anti-immigration backlash comes to Japan,” Noahpinion, July 22, 2025]
〔アイキャッチ画像引用元:Photo by Mottinn via Wikimedia Commons

References

References
1 実は,日米間には,文化の伝播と再伝播が繰り返されてきた長い歴史がある.この主題で最良の本は,W.デイヴィッド・マークスが男性ファッションを取り上げた『アメトラ』だ.
2 「参政党」をそのまま英語に訳せば “Political Participation Party”(政治参加党)だけど,「ポピュリスト党」と訳した方がよさそうに思う.また,「参政」は「賛成」と同じ発音なので,耳で聞くと「あなたが賛成する党」みたいに聞こえる.やるね!
3 やがて,その国が十分に豊かになって国外に出て行くのが経済的に不利な選択になると,移住は減少していく.
4 伝統的に,日本の墓地はとても小さくまとまっている.日本では誰もが火葬されるからだ.宗教的ムスリムたちは遺体の火葬を拒否しているため,墓地のためにもっと土地を必要としている.日本ほど土地利用の誓約が厳しい国では,これはすぐさま大きな問題になっておかしくない.
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