●Tyler Cowen, “Hysteresis for legally protected ZMP elephants in Myanmar”(Marginal Revolution, January 31, 2016)
「失業の問題は、本当に厄介ですね。どうしたらいいのやら」と語るのは、ウー・ソオ・タ・ペイニョ氏。ペイニョ氏は6頭の象を所有しているが、その象たちに仕事がない状態が過去2年間にわたって続いているという。「木が少なくなっていて、伐木の仕事がないんですよ」。
ミャンマーを代表する「象専門家」のダウ・カイン・ウー・マー氏によると、失業中の象の数は現時点で2,500頭に上ると推計されているという。その多くは、ミャンマー東部にあるジャングル――タイの国境から2時間半のところにある――を主戦場とする象だという。失業率に換算すると、およそ40%。ちなみに、ミャンマー国内の人間の失業率は、およそ4%だ。
カイン・ウー・マー氏は語る。「象たちの多くも、何をしたらいいかわからなくて途方に暮れている状態ですね。象の持ち主たちにも、かなりの負担がかかっています。象を養うためには、お金がかかりますからね」。
大人の象の体重はおよそ1万ポンド(およそ4500キログラム)に上り、一日に食べる餌の量は400ポンド(およそ180キログラム)にもなるという。象の仕事としては、サーカスへの出演や伐木があるが、それ以外の働く機会となると限られているという。
伐木の仕事は、きつくて大変だ。しかしながら、ミャンマーの象が比較的健康な体を維持できている理由の一つは、伐木という重労働のおかげだと語る「象専門家」もいる。2008年に実施された調査によると、ミャンマーで伐木に従事している象――「よく働き、よく遊ぶ」を日々実践している象――は、ヨーロッパの動物園にいる象よりも倍近くも長生きする傾向にあるという。ヨーロッパの動物園にいる象の寿命の中央値(メディアン)は、19年。その一方で、ミャンマーで伐木に従事している象の寿命の中央値(メディアン)は、42年だというのだ。
全文はこちら(Michelle Dawson および Otis Reid 経由で知った記事)。ところで、ミャンマーの象は、労働法で厳重に守られているらしい。
ミャンマーの歴代の軍事政権は、イギリスに統治されていた時代に作られた規則ずくめの労働法を象にも適用し続けてきた。週5日8時間労働制、55歳定年制、産休の義務付け、夏季休暇、適切な健康管理が象にも適用されているのだ。さらには、妊娠中の象のためのマタニティキャンプもあるし、定年退職した象のためのコミュニティも用意されている。どちらも政府が管理している。軍事政権による独裁が続いていた最中に、人間向けの基本的な社会保障の仕組みは未整備のまま放っておかれていたのに、象向けの労働法は概(おおむ)ね遵守されていたのだ。
はじめから終わりまで全体を通じて、興味深い内容になっている。ところで、象に対する労働法の適用が緩められたとしたら――労働市場の自由化が試みられたとしたら――、象の「自然失業率」はどれくらいになるんだろうね?