ジェームズ・ハミルトン 「小人閑居して不善を為す ~バイオレンス映画の(短期的な)犯罪『抑止』効果~」(2007年5月1日)

●James Hamilton, “Idle hands are the devil’s workshop”(Econbrowser, May 1, 2007)


今回紹介するのは、ゴードン・ダール(Gordon Dahl)――カリフォルニア大学サンディエゴ校教授。私の同僚でもある――&ステファノ・デラヴィーニャ(Stefano DellaVigna)――カリフォルニア大学バークレー校教授――の二人が著者の興味深い論文だ。題して、「バイオレンス映画は暴力犯罪を誘発するか?」――“Does Movie Violence Increase Violent Crime?”(pdf)――。

まずはじめに二人の注意を引いたのは、アメリカで封切られたバイオレンス映画の観客動員数が週ごとに大幅に変動していることだった。二人の論文から拝借した以下のグラフをご覧いただきたいが、ブロックバスター映画(超大作映画)の最新作が封切られた週(公開第一週目)には、かなりの数の観客が映画館に足を運んでいることがわかる。

次いで二人の注意を引いたのは、アメリカ国内における暴力犯罪(暴行罪と脅迫罪)の発生件数が週ごとに大幅に変動していることだった。ダール&デラヴィーニャの二人は、ピンときた。両者(バイオレンス映画の観客動員数と、暴力犯罪の発生件数)の間には相関があるんじゃないか、と。念のために調べてみると、やはり相関があるのが確認された。しかしながら、どういう相関かとなると、おそらく読者の予想を裏切る結果に違いない。バイオレンス映画を観るために映画館に集まった人の数(観客動員数)が多い日ほど、暴力犯罪の発生件数が「少ない」傾向にあることが見出されたのだ。 観客たちが映画館に滞在している可能性のある時間帯(午後6時から深夜12時までの間)だけでなく、翌日の朝にかけての時間帯(深夜12時から午前6時までの間)においても。両者の間の負の相関は、映画会社によるブロックバスター映画の公開予定日の決定に影響を及ぼすような一連の季節要因――暴力犯罪の発生件数とも何らかの関係を持つと思われる季節要因――に調整を加えた後でも、相変わらず成り立つようだ。さらには、暴力犯罪を抑制する効果が一番大きいのは、最高度のバイオレンス度を誇る映画(kids-in-mind.comで、8~10のバイオレンス度 [1] 訳注;0から10までの値をとり、値が大きいほどバイオレンス度が高い。と判定されている映画)らしい。

ダール&デラヴィーニャの二人も指摘しているように、従来の膨大な先行研究では正反対の(そして、自然に思える)結論が導き出されている。すなわち、暴力的なシーンを見ると、暴力行為が誘発される可能性があるというのだ。しかしながら、ダール&デラヴィーニャの二人は、怯む(ひるむ)ことなく指摘する。従来の研究では、「隔離」(閉じ込め)効果が見逃されている、と。映画館の中に「隔離」されている間(映画館でバイオレンス映画を観ている最中)は、路上でたかりを働くのは無理なのだ。さらには、暴力行為を抑制する効果は、映画館を出た後も続くかもしれない。映画館に行かずに夕方の時間帯を過ごす時よりもアルコールの摂取量が減るようなら、誰かとトラブルになる(酔っ払って誰かと揉める)可能性が抑えられるかもしれないのだ。ダール&デラヴィーニャの二人によると、映画の内容が暴力的であればあるほど、荒くれ者たちが路上を離れて映画館に足を運ぶ可能性も高まるかもしれないという。

ハリウッドの皆さんには、血しぶきが飛び散るシーンをこれまで以上に盛り込んでいただきたいものです・・・なんていう結論を引き出したいわけじゃない。暴力行為に手を染めるおそれのある若者たちのために、建設的な活動の機会を確保せよと言いたいのだ。そうすれば、社会にとっても大きな利益になるかもしれないのだ。

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1 訳注;0から10までの値をとり、値が大きいほどバイオレンス度が高い。
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