ノア・スミス「アメリカで肥満率がついに下がりだしてる」(2024年10月14日)

「アセトアミノフェン / ほらお薬だよ / ああキミったら」

―― The White Stripes

大きな吉報がやってきた.何十年も手が付けられないほど上昇を続けた末に,ついにアメリカの肥満率が下がりだしてる.国民健康栄養調査(医師の診察にもとづくすごく信頼できるデータソース)から得られたデータをジョン・バーン=マードックが分析したところ,2020年以降に肥満率が下がってきているのがわかった:

Source: John Burn-Murdoch

このグラフにはひとつ問題点があるのには留意したい(折れ線の末尾に矢印を描くと誤解を招くのにいまだにジョンが矢印をつけてるのとは別の問題点だ).実際の国民健康栄養調査データは2年の時間をかけて収集されている.だから,バーン=マードックが「2023年」とラベルを貼ってるデータは,実のところ2021年8月から2023年8月までのデータだ.このちょっとしたラベルの貼り間違いで,トレンドの変化をもたらしてる原因について間違った推測をしてしまうかもしれない.

で,なにが起きてるんだろう? すぐに思いつく説明要因の候補は,オゼンピックその他の減量薬だ.そうした減量薬の使用量は,この数年で急増している.アメリカ人の 13% がこれまでにオゼンピックを使ったことがある.そして,たしかにオゼンピックがメディアで話題になったのは2022年後半からではあるものの,実際にオゼンピックが糖尿病治療で処方された量は,2018年から増えてきている(糖尿病は肥満と強く相関してる).

Source: Sherwood

ただ,バーン=マードックは他にも興味を引くささやかな情報にも触れている.大卒のアメリカ人の肥満率が下がりはじめるよりも数年前から,大卒でないアメリカ人の肥満率が横ばいに転じていたというんだ:

Source: John Burn-Murdoch

大卒でないアメリカ人は,平均的に,受けている医療が劣り,新しい医薬品の知識も乏しいと察しがつくはずだ.だから,肥満率低下には複数の原因がはたらいている可能性が思い浮かぶ――つまり,オゼンピックという奇跡の薬に加えて,なんらかの文化的・制度的な要因も効いているかもしれない.

ともあれ,ここでテクノロジーの力が発揮されてるのは明らかだ.ぼくはときおり冗談半分に「テクノロジー決定論者」を自称してる.テクノロジーによってできるようになったあれこれの選択肢に人間の文化は適応すると考えがちだからだ.今回の場合だと,すぐに思い浮かぶ筋書きはこういうものだ――「文化的に肥満を恥ずべきことと蔑む風潮が何十年も続いても肥満がどんどん増えていくのに歯止めはかけられなかったのに,奇跡の薬が登場して,肥満を個人の資質による失敗ではなく医学的な問題ととらえられるようになった.」 スコット・アレクサンダーがかつて言ったように,「社会は固定している,生物としての性質は柔軟だ.」 もちろん,大卒でないアメリカ人の肥満率が少し早くから横ばいになっていたことを考えに入れると,文化が独自に動いて肥満率上昇をせき止めた可能性は残る.だから,確かなことはわからない.

ただ,ともあれ,個人の資質による失敗ではなく解決されるべきテクノロジーの課題として捉え直せる個々人の問題って,他にどんなのがあるだろう.中毒はどうだろう? さいわい,オゼンピックはそっちでも助けになるって証拠がいくらか出てる.というか,オゼンピックこそ,近年,記憶にあるかぎりでいちばん奇跡の薬に近いかもしれない

どれくらいの楽観なら正当化できるのかはさておき,オゼンピックが肥満に及ぼす影響を見るにつけ,ぼくら自身の生物としての性質と健康に関する考え方を評価し直すべきだろうね.人間って動物は機械だ.そして,機械は修理できる.


[Noah Smith, “Obesity is finally falling,” Noahpinion, October 14, 2024]
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