ノア・スミス「高市時代が本格始動」(2026年2月9日)

日本は平和主義から脱却しつつある.これにともなって,興味深い経済的な機会があれこれと生まれそうだ.

from a photo by the Cabinet Public Affairs Office of Japan, CC BY 4.0.

日本は平和主義から脱却しつつある.これにともなって,興味深い経済的な機会があれこれと生まれそうだ.


日本は議院内閣制の国だ.大統領はいなくて,総理大臣がいる.なので,高市早苗が去年の10月に首相になったのは党内の総裁選で勝ったからであって,国民からの信任を得たからじゃなかった.これは彼女にとって問題だった.というのも,彼女が所属する自由民主党(略して「自民党」)は,だいたいいつも与党の座にいるけれど,実は議会で強固な多数派を制していなかった.高市政権が出来た後に長く連立パートナーだった小政党の公明党が自民党との連立を解消したとき,こう考える人たちもいた.「これで高市政権は短命に終わるかもしれない」「議席不足で政権が身動きとれなくなるんじゃないか」

そこで,高市は賢明ながらも危うい行動に出た.それは,総選挙の実施だ.その選挙が昨日終わったところだ.自民党は野党を圧倒する歴史的な勝利を収めた.高市の自民党は衆議院で議席の 68% を獲得し,自民党単独で 2/3 の多数を確保した.これは,自民党71年の歴史で最大多数だ――ここに新しい連立パートナーの日本維新の会を加えると,その割合は 76% に達する.これで,高市は自分の望む法案はほぼなんでも易々と成立させられるようになった.難しいのは憲法改正くらいだ(これだって不可能というわけじゃない)[n.1].こうして,高市時代が本格始動した.

近頃,アメリカ人も日本政治と日本社会への関心を前よりちょっぴり強めている.おそらくは,日本観光ブームのおかげだろう.なので,高市時代の到来にともなってどんなことが起こりそうなのか,解説を試みようと思う.

まずとりあげるべき問いは,これだ.「どうして日本ではいつも自民党が勝ちそうな情勢が続いているの?」 短期的に下野した2つの時期(1993年と2009~2012年)をのぞくと,自民党は1955年の結党以来,ほぼずっと政権の座にある.ほぼ切れ目なしに連勝を重ねてきているのを見て,こう疑う人たちもいる.「もしかして日本って,ニセモノ民主制か,一党独裁国家みたいなものなのでは?」

ちがうよ.ぼくが知るかぎりだと,この件に関する最良の本は,イーサン・シャイナーの『競争なき日本の民主主義:一党優勢国家における野党の失敗』だ.シャイナーによれば,自民党がずっと与党の座にある理由は基本的に2つある.第一に,2000年代中判まで,日本の選挙制度にはいくつか構造的なクセがあって,そのせいで一つの政党が優勢でありつづけやすかった――ようするに,自党にどの有権者が投票したのかを把握して,その人たちに政府の資金を直接に配分できていたんだ.これは「利益誘導型政治」というやつで,ある程度まではたいていの国で見られる――たとえば,トランプが民主党色の強い州に連邦政府資金を流さないように試みたのを思い浮かべてもらうといい.ただ,20世紀後半の日本では,この利益誘導がとりわけやりやすかった.当てにできる票田(地方の建設業とか)に利益を配分できたおかげで,自民党が政権維持しやすくなっていた.

ただ,自民党がずっと政権をとっているのにはもっと大きな理由がある.それは,ずっと単純でより民主的な理由だ――自民党は,とにかく有権者の心配事にうまく対応するんだよ.1970年代には,政治腐敗や環境問題をめぐって人々の怒りが高まり,経済成長も鈍くなったこともあって,社会党が自民党を打倒する寸前までいった.すると自民党はいきなり方向を変えて,環境保護の姿勢をぐっと強めたり,80年代に経済成長復活につながる各種政策を実施したりした.

90年代に資産バブルが崩壊すると,自民党はいっときだけ政権の座を追われたけれど,財政刺激の巨大プログラムでこれに対応した(これが日本の政府債務をあんなにふくらませた一因だ).スキャンダルやグローバル金融危機で2009年に政権から追いやられると,自民党は2012年に安倍晋三を総裁にして,成長志向の経済プログラムでこれに対応した.これによって,日本は再びうまく回り出した.

つまり,まともに機能している民主制のもとでおよそ合理的な与党ならやるべきことを自民党はやっている――「国民が求めるものを与えるべし」を実践しているわけだよ.そして,自民党が国民の求めに対応しているかぎり,国民も無難に「いつものやつ」に投票し続けてこれに応じている.これは完璧に民主的だ.与党が選挙に真面目に取り組み,選挙結果にしたがい,のぞむものを国民に与えることで政権を維持しているかぎりは,べつに「民主制」だったら与党がたびたび入れ替わらないといけないなんて道理はない.

今回,日本の国民が主に望んだのは,ますます危険になっていく世界での安全保障だった.そして,高市こそ,それを彼らにもたらそうと立ち上がった人物だった.

第二次世界大戦後,世界最強国だったアメリカによる揺るぎない軍事的な保護を日本はいつも当てにできた.これは,すでに過去のことだ.ドナルド・トランプはアメリカを再び孤立主義的な姿勢にもどしつつある.トランプはヨーロッパの同盟諸国に攻撃的に振る舞い,同盟諸国への関税を引き上げ,伝統的に日本の敵国であるロシアに擦り寄った.これまでのところ,トランプは引き続き日本防衛を約束しているし,高市のことは本当に気に入ってる様子ではあるけれど,「あの気まぐれなアメリカの指導者ときたら,ちょくちょく瞬時に同盟国に背を向ける」と全世界がすでに思い知っている.

さらに,アメリカの安全保障の約束は,かつてほどの値打ちがなくなっている.たとえアメリカが中国から日本を守ろうとしたところで,実際に守れるのか定かじゃない.アメリカの戦時生産能力は,すでに中国のはるか後塵を拝しているし,地政学的に中国はアメリカよりもずっと日本に近い.それに,かりにアメリカが日本を直接攻撃から防衛できるとしても,日本は食料と燃料を輸入に大きく依存している.そして,中国の潜水艦とミサイルは日本に海上封鎖をかけて飢餓と貧困に追い込むこともできなくはない.

いきなりおそろしいものに変貌したこの国際環境で,日本にはなにができるだろう? 最重要事項は,再軍備だ.日本は,GDP に占める防衛支出の割合を高める必要がある.それに,軍事力を全体的に最新テクノロジーに更新する必要もある.これはすごく困難だろう.その理由は,少しあとで解説しよう.

ただ,それだけではまだ足りない.中国の規模は日本の10倍以上だ.それに,中国は比類ない製造業大国にまで築き上げられている [n.2].核兵器を開発しないかぎり [n.2],この中国の力に日本が抗するのぞみはほとんどない.そこで,防衛力を強固にするには,日本は同盟諸国を取り込む必要がある――ブレがちなアメリカ合衆国だけでなく,インド・韓国・ヨーロッパその他と組まないといけない.それには,これまで日本があまり発揮してこなかった種類の外交手腕が必要になる.

そういう取り組みを進めつつ,重大局面で足を取られかねない大きな落とし穴を避ける必要がある.もちろん,これには経済の崩壊も含まれる.けれど,他にも,アメリカでトランプ当選をもたらしヨーロッパの多くで右派勢力の台頭につながったのと同種の社会・政治の分断も避けないといけない.

高市は,これら3つをぜんぶやると約束している.そして,これまでのところ,実際にやり遂げる見込みがほどほどにありそうに見える.高市といえば防衛に関してタカ派で知られているし,11月には中国が台湾を攻撃したら台湾防衛のために動くと発言した.これに中国は激昂して反応し,日本に対してあれこれと戦争の脅しをかけ,観光を抑制し,「軍国主義だ」と非難して日本を外向的に孤立させるキャンペーンを展開した.

ところが,中国による電撃的な行動は,意図したのと真逆の効果を発揮した.「日本が中国を脅している」なんて,ほぼ誰も本気で信じなかった.信じたのは,ごく一握りのネット左翼と欺されやすい一部のアメリカ人ジャーナリストくらいだ.実態は逆だと誰もが認識した.韓国は地域内の脅威の深刻さを認識しつつ,同時に,「トランプのアメリカは当てにできるパートナーではないだろう」とも認識して,すぐさま日本といっそう接近しようと試みはじめた.韓国の李在明大統領は日本を訪問して,高市とドラムを即興で演奏し,何曲か K-POP を披露して,この名画が生まれた:

Photo by 内閣広報室 / Cabinet Public Affairs Office, CC BY 4.0.

これは,外交上のすごい成果だ.ほんの10年前には戦争の歴史・植民地支配・領土問題で激しく対立していた二国なのを考えれば,なおさらすごい.韓国と日本の人たちも,近年はお互いに対してずいぶん温かい態度をとるようになっているけれど,両国の指導者がこれほど公然と親しげな姿を見せたことから,日韓の協力に彼らがどれほど真剣に心を砕いているかわかる.

一方,中国がとった攻撃的ないじめキャンペーンを受けて,高市のもとで日本の社会は結束している.最近の各種世論調査を見ると,高市の支持率は 60%台前半~70台後半くらいになっている:

Source: Nippon.com

しかも,こうした世論調査では,日本の若い有権者のあいだで高市支持がいっそう強いことが示されている.なかには,支持率 92%強を示した調査すらある.これはホントにすさまじい.日本の若者が高市をこれほど好んでいる理由についてはたくさん記事が書かれているけれど,理由のひとつは単純にこれだとぼくは思う――高市は,このおそろしい世界で安全保障を彼らに約束している.

また,高市は移民問題で保守的立場をとっていることでも知られている.ただ,高市はトランプとはちがう.入国管理の改善帰化要件の厳格化(これまではとても容易かった),ビザ要件をもうちょっと厳しくすること,などを高市は約束している.これは,とても抑えの効いた対策だ.去年に勢いをつけた参政党という反外国人の小政党と比べると,なおさらそこが際立つ.参政党はまさしくトランプの同類に見える政党で,去年は自民党から票を吸い取った.

ところが,移民問題に対して理にかなった対応を提案し,「問題行動を起こす外国人たち(大半は観光客であって移民じゃなかったりする)に国民がもらしている不満に政府は耳を貸していないわけじゃないですよ」と国民に納得させることで,高市は参政党の勢いを一気に削いだ [n.3].一部のヒステリックなネット民がなにを言っていようと [n.4],日本は移民問題に関して穏健な路線を進んでいくだろう.労働力不足の緩和と資本呼び込みのために移民受け入れは継続しつつ,ヨーロッパの失敗から学んで受け入れる外国人をもっと選別する構えを日本はとっている.

というわけで,高市が記録的な大勝をした理由は,国際的には日本を守るべく立ち上がり,国内では日本社会をまとめると約束したことにある.次に考えるべき大きな問いはこれだ――「高市は実際に約束を守れるか?」

まずは再軍備について語ろう.その主な障害は,憲法第9条によって形式上は日本が軍隊を保持するのを禁じられていることじゃない.2014年に9条は「再解釈」されて,軍備増強にかかっていた法的な制約はほぼすべて取り払われた.それよりも大きな障害は,何十年も続いてきた疑似平和主義と,長期にわたる財政の引き締めとが合わさって,日本の軍需産業基盤が衰弱していることだ.

この状況はみんなが思うほど深刻じゃないかもしれない.というのも,日本企業は「軍民両用」の製造をたくさん手がけていて,いざとなったら戦時生産に切り替えられるし,アメリカよりも国内完結型の製造サプライチェーンを備えている場合が多いからだ(そのおかげで,中国からの供給が途絶した場合にアメリカよりは脆弱でない).これについては,ジェスパー・コールの記事がおすすめだ.

というわけで,状況は絶望的ではないんだけど,やるべき仕事はたくさんあって,しかもかなり大変そうだ.

しかも,日本の財政面の困難によって,その厳しさはいっそう強まりそうだ.各部門が保有している分を差し引いても,日本政府がかかえている未償還債務は巨額だ.その債務の利子を政府は払わないといけない.長らく,日本の金利は極めて低く抑えられていた.なぜ低く抑えられていたかといえば,インフレ率が低かったからだ.だから,債務の利払いは大問題にならなかった.でも,インフレ圧力がいまや復活していて,近年はインフレ率が 2% を超えている:

Source: World Bank

このインフレ率がさらに上昇していくのを防ぐために,日本銀行は短期金利を引き上げないといけない.ところが,そうすると政府債務の負担はいっそう高くつくようになって,日本は歳入の大きな割合を利払いに毎年割かないといけなくなる.もちろん,その利払いをまかなうためにさらに借り入れる手もあるにはある.でも,それをやると債務はいっそう膨らみ,「将来,日本は本当に返済できるのか」という疑いを招いてしまう.そういう疑念が出はじめている様子は,おそらくもう現れている.日本の長期国債の利回りは上がり始めている:

Source: Bloomberg

こうなると,日本は既存の債務の返済がいっそうむずかしくなる.それに,日本経済にも打撃を与えるおそれがある.すると,税収が打撃を受け,問題が悪化する.

日本は,財政に関して板挟みになっている.防衛費拡大を本当に賄える方法はひとつしかない.それは,他の分野の政府支出を削減することだ――そうなると,急増している高齢者層への給付がなによりも削減対象になる.おばあちゃんへの給付を減らしてミサイルをつくるなんて,ふつう,政治でウケはよくない.ただ,この犠牲を日本国民に納得させられる人物がいるとしたら,それはおそらく高市だ.

さいわい,防衛支出によって日本はたんに中国に対抗するのにとどまらない経済面の利点もいくらか得られる.なにより,経営に失敗した企業の救済措置みたいなもっと非効率な経済刺激策を段階的に縮小させる格好の口実を政府は手に入れる.もちろん,現時点の日本経済には景気刺激策はぜんぜん必要ない.ただ,日本の人たちのなかには,「政府支出がガクンと減ったら経済成長がガタ落ちするんじゃないか」と心配する向きもあるはずだ.企業救済から防衛に支出を振り向けるのは,生産性向上にとっていいことだ.

もっと大事な点は,防衛支出が日本の製造業復活の助けになるということだ.この20年ほど,日本の製造業は中国との競争による極度の圧力を受けてきた.防衛支出は,中国からの輸出洪水で製造業者が受ける圧を緩和するし,サプライチェーン全体への投資も刺激する.

国防という要請は,日本が技術面でとっている遅れを挽回する助けにもなるかもしれない.日本が遅れをとっている理由はいくつかある.その一部はソフトウェアの弱さにあるし,日本の研究開発の大半はリスクを厭う企業による漸進的改良にとどまっている点にもある.防衛支出によって,日本政府がそこに大きく関与して,ただ一社だけを利するのではなく多くの企業に恩恵をもたらすもっと大胆な研究開発に資金提供できるようになる.それに,防衛上の差し迫った必要から AI 技術の導入にも弾みがつくだろう.そうなったら,日本のいろんなソフトウェア問題も解決されるだろう.

最後に,防衛は日本にグリーンフィールド投資を呼び込む格好の分野になるだろう――〔外国企業が日本国内に支社や工場を建設して現地住民を雇用するグリーンフィールド外国直接投資は〕日本経済のパズルに欠けている大きなピースだ.本国の硬直した法律による規制に煩わされずにドローンや艦船やミサイルを建造・製造できる場所を探しているアメリカの防衛企業にとって,日本に工場を建設するのは賢明な選択になるだろう.日本では迅速かつ円滑に工場を建てられるし,サプライチェーン・労働力の質・インフラがすべてとても優れている.

というわけで,高市の行く手には大きな課題もいくつか待ち構えている一方で,大きな機会も転がっている.日本が長く続けてきた平和主義の時代に別れを告げざるを得ないのは悲しいことではある.でも,指導者が正しく導けば,この必要な変化は,経済の停滞から日本が脱出する助けにもなりうる.


原註

[n.1] 改憲には参議院でも 3分の2 の多数が必要となる上に,国民投票で過半数の賛成が必要とされる.

[n.2] 実際,日本はできるだけ早く核兵器を開発すべきだ.ただ,第二次世界大戦で日本が核兵器で苦しんだ歴史があって,これは政治的にすごくむずかしい.

[n.3] ここには,安倍晋三のアプローチと似通ったものがある.安倍は日本の有権者たちに伝統的な保守主義を提示しつつ右翼を取り締まった〔ヘイトスピーチ規制などのこと〕.

[n.4] そのなかにはぼくの友人たちもいるかもしれなくてね…


[Noah Smith, “The Takaichi Era begins for real,” Noahpinion, February 9, 2026]
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