タイラー・コーエン 「ハイエクとピノチェト」(2013年6月26日)

●Tyler Cowen, “On the Hayek-Pinochet connection”(Marginal Revolution, June 26, 2013)


コリィ・ロビン(Corey Robin)が「ハイエクとピノチェトの交わり」をテーマに長文のブログエントリーを物している。その一部を引用しておこう。

ハイエクは、チリの独裁者(ピノチェト)の求めに応じた。自分の秘書に頼んで、執筆中の本の草稿の一部をピノチェトのもとに届けさせたのである。ピノチェトの手に渡ったのは、後に『Law, Legislation and Liberty』の第3巻(邦訳『法と立法と自由 Ⅲ』)の第17章――“A Model Constitution”(「立憲政体のモデル」)――として結実することになった箇所である。その中では「国家緊急権」(“Emergency Powers”)についても一節が割かれていて、自由社会の「長期的な存続」が危ぶまれるような場合に限っての一時的な独裁が擁護されている。「長期的」というのはどうとでも取れる曖昧な表現だが、ハイエクが「自由社会」というのを自由民主主義(liberal democracy)という意味で使っていないことだけははっきりしている。「自由社会」という表現には、もう少し特殊で癖のある意味合いが込められている。「政府による強制的な権力(権限)が行使される範囲が、正しい行為の一般的なルール(universal rules of just conduct)を執行することだけに限定されていて、政府による強制的な権力が具体的な目的を達成するためには利用できないようになっている」社会というのが、ハイエクが考える「自由社会」である。「政府による強制的な権力が具体的な目的を達成するためには利用できないようになっている」という最後のフレーズが肝だ。例えば、政策的に富の再分配を図ることは「具体的な目的を達成」しようとする行為に含まれるというのがハイエクの考えだった。つまり、自由社会への脅威となるのは、他国との戦争や内戦だけに限られるわけではないかもしれず、(自由社会への)脅威はすぐそこに差し迫っているわけでもないかもしれないわけである。『法と立法と自由』のその他の箇所ではっきりと述べられているように、国内でゆっくりと進行する社会民主主義化(福祉国家化)に向けた制度改革も自由社会への脅威となる可能性があるとハイエクは考えたのだ。グンナー・ミュルダールジョン・ケネス・ガルブレイスが抱いているビジョンが現実化されようものなら、「・・・(略)・・・何らかの独裁権力によってしか打破し得ないような経済構造のガチガチの硬直化」が招かれてしまうだろう、とハイエクは書いている。

ピノチェト体制を非難する国際的なメディアのキャンペーンに不公平さを感じながらチリを後にしたハイエクは、ピノチェトを非難する国際的なキャンペーンに反撃を加えようと試みた。

ハイエクは、人権団体によるピノチェト体制への批判に対する反論をすぐさま書き上げて、その文章を(ドイツの日刊紙である)フランクフルター・アルゲマイネ・ツァイトゥングに持ち込んだ。紙上に掲載してもらえないかと働きかけたのだ。しかしながら、市場経済重視の立場に立つこの日刊紙の編集者は、ハイエクの申し出を断った。その文章を掲載してしまえば、ハイエクを「第2のシュトラウス」にしてしまうかもしれないと恐れたためである――ドイツの右派(保守派)の政治家であるフランツ・ヨーゼフ・シュトラウスは、1977年にチリを訪問してピノチェトとも面会したが、ピノチェトを擁護する見解を述べたために、ドイツ社会民主党だけでなくドイツキリスト教民主同盟の側からも総攻撃を受けていた――。掲載を拒否されたことに激昂したハイエク。シュトラウスが「チリの現体制を支持したために非難を浴びているのだとすれば、彼のその勇気を讃えてしかるべきではないか」と語って、フランクフルター・アルゲマイネ・ツァイトゥングとは金輪際関わらないと言い渡したのだった。

上に引用したのは、ほんの一部に過ぎない。是非とも全文に目を通されたい。

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  1. 「フランクフルター・アルゲマイネ・ツァイトゥング紙」ですがツァイトゥンクが新聞という意味ですので、Süddeutsche Zeitungが「南ドイツ新聞」と訳されているようにフランクフルターアルゲマイネ紙の方が重複しないと思います。

  2. コメントありがとうございます。フランクフルター・アルゲマイネ・ツァイトゥングはF.A.Z.と略されることがあるようなので、ツァイトゥングを残すように表記を修正させていただきました。ご指摘いただきありがとうございます。

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