ドナルド・モイニハン「DOGEは政府を効率化するのか?:基本的なデータを確認する」(2024年11月17日)

残念ながらトランプ政権は、国家行使能力(state capacity)の再構築ではなくコスト削減を強調しており、今のところ希望は見出せない。

最近、Blueskyでマーク・キューバン〔アメリカの実業家〕が次のような質問を投稿していた。

マーク・キューバン:これは仮定の質問だけど、みんながどう考えているか気になる。DOGEが、連邦プログラムで節約できた総額の半分を適格受給者への給付の増額に回すという前提で動くとしたら、詳細はどんな感じになるだろう?

余談だが、これはBlueskyの成熟の良い面だ。有名な人物が、賢い人からの筋の通った回答を求めて、真摯な質問をしているからだ。マスクに買収される前のTwitterが素晴らしかったのはこういうところである。

以下は、キューバンの質問に対する私からの回答だ。この記事では、連邦政府の職員や支出の構成に関する、実に基本的な事実のいくつかにも触れる。こうした事実を考慮すれば、次のことが示唆される。(a) DOGEが約束しているような規模の政府の縮小は実現しないだろう、そして、(b) 節約されたお金は貧困層に再分配されず、その正反対のことが起こるだろう。

連邦職員を減らしても政府赤字は減らせない

イーロン・マスクとヴィヴェック・ラマスワミ [1] … Continue reading は、DOGEによって莫大な資金が節約できると主張している。マスクは、毎年2兆ドルの支出削減が可能だと述べている。彼らは職員の75%を削減すると提案した。こうした数字は絵に描いた餅でしかないが、本気でそれほどの大規模な削減を行おうとしていると仮定してみよう。

たくさんの連邦職員を削減して、同時に連邦政府の支出を劇的に減らすことは可能だ。だが、連邦職員を削減するだけで政府支出を劇的に減らすことはできない。

連邦政府は、人件費として毎年2710億ドルを支出している [2]原注:これは議会予算局(CBO)による数字。行政管理予算局(OMB)のAnalytical … Continue reading 。職員の75%を削減するという、ラマスワミの無責任で違法な提案について考えてみよう。これによって毎年、2000億ドルが節約できる。これはマスクが約束する2兆ドルの節約の約10%にあたり、連邦政府の年間の総支出額である6.75兆ドルと比べればごく一部に過ぎない。

比較の基準をもう1つ挙げると、トランプが2017年に行った減税を10年間延長した場合、そのコストは次の10年で4兆ドルから5兆ドルとなり、その減税の40%以上が、年収40万ドル以上の世帯を受益者としている。つまり、トランプ減税のコストは連邦職員の人件費よりはるかに高いのだ。高所得層への減税をとりやめるだけで、連邦職員の75%を削減するのと同じくらいの節約になる。その上、有能な政府機構はそのまま残せるのである! さもなくば、ラマスワミが狙っているように、政府の大規模な破壊を行いながら、政府赤字は大して減らせないという結果になるだろう。

政府職員は多すぎるわけではない

現在のアメリカの連邦職員の数は、1960年代と同じ水準である。政府支出の規模がはるかに拡大しているにもかかわらずだ。総人口に占める連邦職員の割合は歴史的な低さである。

私たちはむしろより多くの連邦職員を必要としている。若い職員や、高い専門技能を持つ職員が必要だ。さらに、契約職員(これは連邦職員の数を大きく上回っている)を上手く管理できる職員も求められている。

人々は連邦政府のプログラムを支持している

人々は、無駄な政府プログラムにたくさんの人員が割かれていると考えている。だがほとんどのプログラムは、人々がそれに価値を見出いしているために存在し、人員が割かれているのだ。人々は、抽象的なレベルでは政府の縮小を求めているが、特定のプログラムの削減を支持する声ははるかに小さい。

文官の政府職員のほとんどは、削減を比較的免れやすい分野で働いている

上のグラフから分かるように、退役軍人、国防、軍事への支出は強く支持されている。「文官の背広組(non-uniform personnel)」の71%以上が、こうした分野の職員だ。言い換えると、人気の高い連邦プログラムと、連邦職員が多く働いている分野は、ほぼ一致している。こうした分野で人員削減を行えないなら、莫大な削減を行う余地は端的に言ってない。

支出のほとんどは国防と社会プログラムである

乱暴に言えば、アメリカ連邦政府は「軍隊を有する保険会社」である。ではどれを削減するのだろう? キューバンの質問の前提には、無駄を削減できれば、資源の多くを貧困層に再分配できる、との想定がある。だがアメリカは既にそうした再分配を行っており、分野によっては非常に効率的なパフォーマンスを実現している。

ソーシャル・セキュリティ [3]訳注:アメリカ政府の提供する公的保険プログラム。一般名詞のsocial … Continue reading の管理コストは、支出の約0.5%だ。これは歴史的に見て低率(1960年代には約2%だった)なだけでなく、ジョージ・W・ブッシュによる民営化案への反対の主要な論拠にもなっていた。民営化すれば必然的に、運営コストが高くなってしまうからだ。同様に、セーフティネットはますます、高い管理コストのかかる官僚制によってではなく、管理コストが非常に低い税コードを通じて提供されている。

確かに、莫大なコストのかかる医療システムには非効率性が存在するし、コスト削減の方法を探るのは有益なことだ。議会予算局(CBO)が政府支出を大きく節約できる分野として指摘しているのは(そう、政府内の賢い人々は、マスクとラマスワミが約束していることを既に実行しているのだ)、職員の削減ではなく、医療費である。退役軍人省の医療提供者の方が民間の医療システムより低コストで良い結果をもたらしていることを思い起こせば、民営化よりもずっと創造的な解決策が必要なことは明らかだ。その上トランプは、メディケアやソーシャル・セキュリティの削減は行わないと言っている。繰り返すが、こうした領域を考慮から外すなら、マスクが約束している大幅な削減がいかにして可能なのか理解するのは非常に難しくなる。

共和党は再分配プログラムをより官僚的なものにしてきた

第1期のトランプ政権は、再分配プログラムの適格受給者を判断するための政府職員を減らそうとしなかった。それだけではなく、そうしたプログラムへのアクセスを困難にした。例えばトランプは、福祉給付に就労報告要件を課した。これによって、適格受給者に行政上の負担(administrative burden)が重くのしかかり、その多くは給付を失った。そして、書類をチェックするためにより多くの職員が必要となった。そのため私は、節約された資金が貧困を減らすための再分配に使われるというのには懐疑的である。

イギリスの経験:緊縮財政は破滅的な影響を及ぼした

トランプやマスクの他にも、政権を取ってコスト削減を宣言した右翼政治家たちがいる。それはイギリスの保守党だ。イギリス保守党はこれに成功した。では、そこから得られる教訓はなんだろう?

保守党の緊縮政策はたくさんの負の帰結をもたらした。基本的な公共サービスが破壊され、寿命は低下し、貧困と不平等が増大した。メイク・イギリス・グレート・アゲインには程遠く、イギリスの衰退を加速させたのである。サム・ナイト(Sam Knight)の次の文章は厳しい現実を映している。

イギリスは未だに2008年に始まった金融危機から回復していない。ある推定によると、平均的な労働者は、所得が金融危機以前の率で上昇し続けた場合よりも、1万4千ポンドも悪い状況にあるという。この賃金成長率の低迷は、ナポレオン戦争以来、最悪の水準だ。「イギリスで現在暮らし働いている人の誰も、これほどの状況は見たことがないはずだ」と、レゾリューション財団のトルステン・ベル事務局長は昨年、BBCで述べていた。彼曰く、「失敗とはこういうことを言う」。

一般市民も最終的には、学校が解体され、図書館が閉鎖され、警察が通報に応じなくなっていることに気づいた。マスクとラマスワミが約束している類の節約を実現するには、必然的に、大規模なサービス(セーフティネットなど)の削減が伴うだろう。トランプ政権は例えば、メディケイドやSNAPを削減することで、〔イギリスのような〕悲惨な事態を生み出すかもしれない。

トーリー党〔保守党〕は選挙で大敗を喫した。選挙に勝った労働党は現在、責任ある賢明な政権として自己演出している。だが労働党はかなりの程度、保守党が配った手札を使って勝負してしまっている。経済が弱く税収も低い中で、緊縮財政を意味のある規模で逆転させていないのだ。労働党の政策で恐らく最も注目を集めたのは、冬季の燃料手当の削減だ。国家の衰退を責任ある態度で見守るだけなら、保守党が再び政権をとることになってしまうだろう。

***

政府には無駄、不正、濫用が溢れているというのはほとんどの場合、願望思考だ。そう考えれば、政治家も一般市民も、税金を低くしながら人気でコストの高いプログラムの多くも残せると主張できる(あるいは信じ込める)のである。一方で、政府において最も投資収益率(ROI)が高いのは徴税能力への投資だ。マスクとラマスワミは、既に成果を上げている内国歳入庁(IRS)の現代化(modernization)〔IT技術導入〕を支持するだろうか? それともトランプ政権はこれを台無しにしてしまうのだろうか? これは、トランプ政権が政府の問題の解決と現代化に本気なのか、それとも単に政府を破壊して、税金を低くしビジネスへの規制を減らしたいだけなのか、をはかるよい試験紙だ。残念ながらトランプ政権は、国家行使能力(state capacity)の再構築ではなくコスト削減を強調しており、今のところ希望は見出せない。

[Don Moynihan, Some basic math about cutting government, Can We Still Govern?, 2024/11/17.]

References

References
1 訳注:ラマスワミは当初DOGEの主要メンバーとして参加すると報道されていたが、最終的にはオハイオ州知事選の準備のために参加しないこととなった。なお本エントリは不参加の発表がなされる前に公開された記事である。
2 原注:これは議会予算局(CBO)による数字。行政管理予算局(OMB)のAnalytical Perspectivesという文書では3840億ドルと数値はやや高くなっているが、桁は違わない。この数値を使うと、連邦職員の75%の削減はマスクの宣言している2兆ドルの削減の14%以上、あるいは総支出の約4%となる。
3 訳注:アメリカ政府の提供する公的保険プログラム。一般名詞のsocial securityは社会保障と訳されるが、アメリカの特定の制度を指す場合は大文字でSocial Securityと表記される。ここでは区別のために、社会保障ではなく「ソーシャル・セキュリティ」と訳した。
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