サイモン・レン=ルイス 「“G”という文字を嫌った王様の物語 ~真似するなかれ~」(2013年9月27日)

ちなみに、政府支出(Government expenditure)の頭文字も“G”。
画像の出典:https://www.photo-ac.com/main/detail/24068124

このエントリーを投稿しようとしていたら、ポール・クルーグマン(Paul Krugman)に(毎度のごとく!)先を越されているのに気付いた。でも、私のバージョンの方が個人的に好きだし、折角だから投稿することにした。

昔々あるところに、一人の王様によって治(おさ)められている国がありました。その国は生産性が高く、たくさんの小企業によってあらゆる種類の財貨が作られていました。そんなある時のことです。その国に突如として世にも奇妙な不幸が襲いかかってきたのです。店を畳(たた)むところがちらほらと出てきて、そのせいで働くところがなくなった人が出てきたのです。

その国の王様は、迷信深いことで知られていました。例えば、文字には、「縁起のいい文字」と「縁起の悪い文字」があると信じて疑わず、“G”という文字がとりわけ縁起が悪いというのが王様の考えでした。ある日のこと、王様は臣下たちを呼び寄せて、この国で異変が起きているのはなぜなのかについて自分なりの考えを述べました。名前の頭文字が“G”で始まる人物が経営している企業がすべての元凶だというのが王様の言い分でした。名前の頭文字が“G”で始まる連中がこの国に不幸をもたらしているというのです。王様は早速命令を下しました。名前の頭文字が“G”で始まる人物が経営している企業をすべて潰すように臣下たちに命じたのです。

王様に命令の取り消しを求めた臣下も数名いました。“G”が縁起の悪い文字であることには誰も異を唱えませんでしたが、景気が悪い中で企業を潰すというのは賢明な策ではないと感じたのです。王様は気分を害して、その数名の臣下を幽閉しました。こうして王様の命令は滞(とどこお)りなく実行に移されたのでした。

名前の頭文字が“G”で始まる人物が経営している企業の数はかなりの数に上りました。そのため、王様の命令が実行に移されると、国中にさらなる不幸が襲いかかることになりました。国全体で生産される財貨の量がますます減り、王様の命令で事業を畳むのを余儀なくされた企業で働いていた人たちは失業してしまいました。そして、失業した人たちは、支出を減らしました。支出に回せるお金が減ったからです。しかし、忠誠心が強い臣下たちは、王様の命令は国中を襲う不幸と何の関係もないと言い張りました。彼らが言うには、この国で生産される財貨に対する国外からの需要――輸出――が減ったのが不幸の理由だというのです。その言い分も多少当たっているところがありました。この国の王様の例に倣(なら)って、名前の頭文字が“G”で始まる人物が経営している企業を潰すように命じた国が他にもいくつかあったからです。

国中に不安が広がり、王様の人気は落ちる一方でした。忠誠心が強い臣下たちは、王様が引きずり降ろされるのではないかと心配し始めました。そこで、王様に隠れて、名前の頭文字が“G”で始まる人物が経営している企業を潰すペースを緩めたのでした。それと時を同じくして、王様の命令で潰された企業で働いていた失業者の中から、他の企業で雇われる人がちらほら出てきました。そして、雇用を増やした企業は、生産規模を拡大しました。名前の頭文字が“G”で始まる人物が改名して、一旦畳んだ事業を再開したという噂も耳にするようになりました。景気も回復し始め、国全体の財貨の生産量の伸び率も再びプラスに転じたのでした。

かくして、臣下たちは王様の知恵を持て囃(はや)しました。国から“G”という文字が一掃されて、そのおかげで国に再び活気が戻ってきたのです。王様に命令の取り消しを求めた数名の臣下は、間違っていたのです。彼らの幽閉期間は倍に延ばされたのでした。国のあちこちで読まれている新聞では、王様の知恵が称えられました。新聞に書いてある以上の情報を持たない下々の民たちは、再び王様への忠誠を誓ったのでした。

ある時、王様がポツリと漏らしました。「実は“H”という文字も好きになれんのだよ」。


〔原文:“The king who disliked the letter G:a cautionary tale”(mainly macro, September 27, 2013)〕

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