タイラー・コーエン 「ドナルド・トランプとマイク・タイソン」(2016年3月3日)

●Tyler Cowen, “The Mike Tyson theory of Donald Trump”(Marginal Revolution, March 3, 2016)


プロボクシングの世界に足を踏み入れるや、スター街道を一気に駆け上がり、ヘビー級の世界チャンピオンにまで上り詰めたマイク・タイソン。一体いつ殴られたのかわからないままに、マットに沈められていく対戦相手たち。1990年に王座から陥落し、レイプ事件を引き起こして3年間の服役生活を送ることになるが、服役後の1996年に再び王座に返り咲く。しかし、その天下も長くは続かなかった。ウィキペディアでも言及されているように、「1997年にホリフィールドと再戦したが、ホリフィールドの耳に噛み付いて失格負けを喫した」。

タイソンにとって、一番手強い敵は自分自身だったと言えるかもしれない。劇的な勝利を重ねているうちに、危ない橋を渡る誘惑にますます駆り立てられてしまったのかもしれない。

2003年にタイソンは自己破産を宣告するに至る。その後は、色んな商品の宣伝役を務めたり、「俳優」としても活躍している。

タイソンが生まれたのは(ニューヨーク州)ブルックリンで、これまでに3度の結婚を経験している。この度の大統領選では、ドナルド・トランプを支持する意向を表明している。タイソンとトランプの間には、生まれ(同じニューヨーク州生まれ)や私生活面(同じく3度の結婚を経験)での類似点にとどまらず、もっと密接なつながりもあるようだ。

タイソンが戦ったビッグマッチのいくつかは、トランプが経営していたカジノホテルが会場になっている。トランプは、1988年のマイク・タイソン×マイケル・スピンクス戦のために、1100万ドルという当時としては最高額の会場誘致代を支払ってさえいる。タイソンがレイプ事件を起こして6年の懲役刑が言い渡された際には、このままボクシングを続けさせて、試合で稼いだお金を被害女性への慰謝料にあてさせるようにしたらどうだろうと提案している。タイソンがボクシングを続けたら興行主も当然儲かるわけだが、その当時のトランプは経営難に苦しめられていた。タイソンの試合が自分の経営するカジノホテルで組まれたら、トランプにとって大いに助かったことだろう。しかしながら、政府側から不適切な発言をしないようにと忠告が入ったのだった。

トランプが「政治家版のマイク・タイソン」になって、周りの誰もがアッと驚くようなかたちで自滅する確率も26%くらいはあるかもしれない。ところで、タイソンはトランプについてどんなことを語っているのだろうか?

「俺達は、似た者同士だ」とタイソン。「『力』。『力』だ。どんな分野であろうと、『力』が必要なんだ。『力』こそが俺達のアイデンティティーを形作ってるんだよ」。

続けて口を開いたタイソンは、こちらを惑わせにかかってきた。「俺達は、エネルギーの塊なんだ。本当の俺というのは、頭の中にある『俺はこういう人間だ』というイメージとは別物なんだよ。俺達は火だ。糞で出来てるんだ。水、糞、塵、ダイヤモンド、エメラルド。俺達はそういうもので出来てるんだよ。信じられるかい?」。

トランプ本人が語っているところによると、タイソン×ホリフィールド戦でホリフィールドが勝つ方に100万ドルを賭けて、(ホリフィールドが勝ったおかげで)大儲けしたそうだ。

比喩を使わせてもらうと、トランプは『誰の耳』に噛み付くことになるだろうか? どんな『商品』を宣伝することになるだろうか?

KKK絡みの騒動 [1]訳注;おそらくは、次の出来事を指しているものと思われる。 ●“KKK元幹部が「支持」表明 トランプ氏の対応に非難集中”(CNN.co.jp, … Continue readingは、トランプにとってプラスになるとは思えないし、トランプが「政治家版のタイソン」になる確率を高めているだけだというのが私の見立てだ。

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ミーガン・マクアードル(Megan McArdle)も関連する指摘をしているので、あわせて参照されたい。今回のエントリーの内容は、ダニエル・クライン(Daniel Klein)との会話に負っている。クラインに感謝。

References

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1 訳注;おそらくは、次の出来事を指しているものと思われる。 ●“KKK元幹部が「支持」表明 トランプ氏の対応に非難集中”(CNN.co.jp, 2016年2月29日)
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