ステファニー・ケルトン「リズ・トラス首相は正統派の財政政策から脱却できるのか?」(2022年9月22日)

今朝は、イギリス政府による経済計画についての文献を読んでいる。すでに多くの評者が、いわゆる「トラスノミクス」(Trussnomics)、つまりリズ・トラス新首相とクワジ・クワーテング財務相が提示した経済計画を「正統派経済学に対する攻撃」であり、公的債務に対する「より気楽な態度」への「急激な転換」を示している、と評している。

Stephanie Kelton, “Can Liz Truss Do It?”, The Lens, Sep 22, 2022

今朝は、イギリス政府による経済計画についての文献を読んでいる。すでに多くの評者が、いわゆる「トラスノミクス」(Trussnomics)、つまりリズ・トラス新首相とクワジ・クワーテング財務相が提示した経済計画を「正統派経済学に対する攻撃」であり、公的債務に対する「より気楽な態度」への「急激な転換」を示している、と評している。

彼女の経済プログラムの全容は、明日、政府が 小型補正予算 (“mini-budget”)を発表する際に明らかになると思われる。とりわけ、印紙税の引き下げ、消費者のエネルギー支出の自己負担上限(エネルギー会社には全額が支払われる)、広範囲な減税などが予算案に盛り込まれると予想される。

「トラスノミクス」は、サッチャー政権時代に失敗した「トリクルダウン」経済学への回帰に過ぎないと断じる向きもある。トラス政権の閣僚の一人であるジリアン・キーガン(外相)は、この主張に反論する

私たちがやったことはトリクルダウン経済学とは言えない。私たちは大規模な政策パッケージを導入したばかりで、財務相はそのコストと対処方法について概要を説明する予定だ。

もっとも、この時期に人々を確実に支援するために導入したパッケージは大規模なものだ。トリクルダウン経済学の定義に照らし合わせると、これは間違いなく当てはまらない。

「私たちのやり方を“トリクルダウン”と表現するのは無理がある。」

彼女のコメントの中で眉をひそめさせるのは、経済プログラムを実行するための(財政)コストにどう対処するかという部分である。通常、経済計画は英国予算責任局(OBR)(アメリカの法案を評価する米国議会予算局〔CBO〕のようなもの)によって精査される。しかし、ラリー・エリオットの報告によると、「財務相は同省のトップ官僚を解任し、自身の“財政イベント”を(OBRの)精査の対象にしないことにした」。

これが、「トラスノミクス」が正統派財政政策から脱却していると解釈される理由の一つである。しかし、これは保守的な政府が「常に」行っていること、つまり、規制緩和と減税を推し進め、その結果生じる財政への影響を軽視または無視することと本当に違うのだろうか。それとも、私が何かを見逃しているのだろうか。この二つの記事が、私の思考を促している。

確かに私は、正統派財政政策からの根本的な脱却を目撃していると信じたい。「政府が問題を解決できないのは政府こそが問題だからだ」というレーガン及びサッチャーのマントラからも脱却すると信じたい。結局のところ、失敗した正統派の政策を覆すことが、私の本 [1]邦訳:ステファニー・ケルトン『財政赤字の神話: MMTと国民のための経済の誕生』、2020年、早川書房 の要点なのだ。しかし、私がこれまで見てきたものは、そのような変革が進行中であることを納得させるものではない。「Truss but verify」(信ぜよ、されど確認せよ)[2]Trust, but … Continue reading といったところだろうか。

エリオットは、少なくとも有意義な転換の可能性を見出している。

現実には、右派の政府だけがトラス氏のようなことを考えることができる。労働党政権なら、金融市場の反発を恐れて、何千億ポンドもの借金をすることで成長を促進するという経済計画をあえて口にすることはないだろう。1970年代初頭、共和党右派の大統領リチャード・ニクソンでなければ北京に歩み寄るリスクを冒せなかったように、自称サッチャー派にとっては財務省の正統派を攻撃するのは簡単なことなのだ。

もっとも、サッチャーが政権を握ったのは1970年代後半のエネルギー危機の時であり、知的・政治的環境は変化している。当時はポンド高と高インフレで、英国の製造業は地獄のような生活を強いられていたが、サッチャーは製造業の救済にほとんど関心を示さなかった。企業は沈むか泳ぐかの状態に置かれ、強者が生き残り、弱者は廃業していった。サッチャーの意図は、国家があらゆる問題を解決することを期待する考えから、国を引き離すことだった。

しかし、このような考えでは、過去2年半の二重の危機、すなわち最初に起きたパンデミックと現在のエネルギー料金の高騰を乗り切ることができなかった。政府は、最初の危機には自宅待機と数々の企業支援で対応し、2番目の危機には平時において最大規模の国家経済支援策を打ち出した。家計や企業にできる限りの対応をさせるだけというのは、トラス首相にとって全く選択肢にはならなかった。ウェストミンスターでの議論は、政府が経済に介入すべきかどうかではなく、介入の規模や資金調達の方法についてである。

明日の小型補正予算がどうなるかを見守ることとしよう。今朝、リチャード・マーフィーと私がメールで議論した理由から、現時点では、トラス政権が経済政策を実行するための実現可能な計画を持っているとは思えない。ツイッターでマーフィーをフォローすれば、彼の考えを詳しく説明した長いスレッドがすぐに立ち上がるだろう。マーフィーが説明するように、トラスノミクスは、正統派の財政政策からの全面的な脱却なしには成功しない。そのためには、トラス首相に「MMTのレンズ」が必要なのだ。

References

References
1 邦訳:ステファニー・ケルトン『財政赤字の神話: MMTと国民のための経済の誕生』、2020年、早川書房
2 Trust, but verifyのtrustを、ケルトンはTrussトラスにもじっている。元々の言葉はロシアのことわざから来ており、アメリカのレーガン大統領が、ソ連との核軍縮に関するやり取りで用いたことから英語圏で知られることとなった。参照
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