●Tyler Cowen, “Why are Swedish meatballs so much smaller than their American counterparts?”(Marginal Revolution, November 2, 2009)
スウェーデン風ミートボールの話題がブログ界でにわかに注目を集め出しているようだ。
貴殿のブログを長年愛読させていただいているのですが、長い間不思議に思っている疑問があります。国によってミートボールの大きさが違うのは、なぜなのでしょうか? この件について、貴殿のお考えをお聞かせ願えたらと思っています。
先日、ガールフレンドが夕食にスウェーデン風ミートボールを作ってくれました。スウェーデン風ミートボールがあんなに小粒だとは、それまで知りませんでした。ひき肉をあんな感じに小さく丸めるのは、手間がかかって効率が悪いんじゃないでしょうか? アメリカ風のミートボールみたいに、大きく丸める方がいいんじゃないかと思うんですが、どうでしょうか?
遠い過去の出来事(歴史)に「履歴効果」が付け加わった結果という可能性がある。
スウェーデンでミートボールが産声を上げたのはいつかというと、ヤン=オイヴィン・スバーン(Jan-Ojvind Swahn)の『Mathistorisk Uppslagsbok』によると、1754年にまで遡れるらしい。1754年に出版されたカイサ・ヴァリ(Cajsa Warg)のレシピ本で、ミートボールが初めて登場しているらしいのだ。20世紀初頭に入っても、スウェーデンでは牛肉は依然としてぜいたく品のままだった。それとは対照的に、アメリカでは牛肉が容易に手に入った。 スウェーデンよりも気候が穏やかだったので、牛があちこちにいて、牛を養うための草(天然の餌)にも恵まれていたからだ。さらには、スウェーデンは「冷凍輸送革命」に乗り遅れたという事情もある。1920年代に「冷凍輸送革命」が起こり、そのおかげで [1] 訳注;肉の冷凍輸送が技術的に可能になったおかげで、遠隔地にまで肉が届けられるようになった、という意味。多くの家庭の食卓にこれまで以上にたくさんの牛肉が届くようになった。しかしながら、ヨーロッパの鉄道網から切り離されていたのに加えて、人口がごく少数の都市に密集していたせいもあって、「冷凍輸送革命」の恩恵がスウェーデンに及ぶまでにはしばらく時間がかかった。そんなこんながあって生まれたのが [2] 訳注;稀少な牛肉をできるだけ節約しようと工夫した末に生み出されたのが、という意味。スウェーデン風の小粒のミートボールであり、その伝統が今日までずっと続いてきているわけだ。
このようなロックイン効果 [3] … Continue readingの背後で働いているメカニズムについて純理論的な観点から切り込むとするなら、固定的な生産要素に足場を置くリカード流の説明が可能だ――あるいは、ソロー流の説明と形容すべきだろうか? ソロー流の新古典派成長モデルを細かくつつくと、非対称性が潜んでいるのが明らかになる。「資本」(資本ストック)の蓄積が進むと、ゆくゆくはその限界生産性がゼロになるのだ。そういう意味で、ソロー流の新古典派成長モデルは、現代版のリカードモデルだと言える――。大抵のスウェーデン風ミートボールには、それ以外の国のミートボールよりもずっと多くの牛乳が使われている。しかしながら、料理に関しては、「規模に関する収穫一定」は概して成り立たないのだ [4] … Continue reading。流体を含んでいて緩く結び付いている球状の物体となると、なおさらそうなのだ。
スウェーデン風ミートボールの謎をめぐって侃々諤々の議論が続けられている最中だが、私がこれまでに指摘した要因に目が向けられていないようで、不思議と言うしかない。
(追記)Lennart がコメント欄で次のように指摘している。「スウェーデン風ミートボールは、油で揚げるので表面がカリカリしています。そのことだけでも、他の調理法で作るミートボールよりもずっとおいしく仕上がります。ノルウェーやデンマークのミートボールのサイズが大きいのは、熱湯で茹でるだけだからです。油で揚げて表面をカリカリにしようとしないからです(それだからこそ、スウェーデン風ミートボールに敵わないのです)」。
References
↑1 | 訳注;肉の冷凍輸送が技術的に可能になったおかげで、遠隔地にまで肉が届けられるようになった、という意味。 |
---|---|
↑2 | 訳注;稀少な牛肉をできるだけ節約しようと工夫した末に生み出されたのが、という意味。 |
↑3 | 訳注;周囲の事情が変わったにもかかわらず、一旦確立された慣行が変わらず続くこと。今回のケースで言うと、牛肉を手に入れるのが容易になったにもかかわらず、スウェーデン風ミートボールが昔ながらに小粒のままであり続けていること。 |
↑4 | 訳注;「規模に関する収穫一定」が成り立つ場合は、すべての生産要素の投入量を倍にすると、生産量も倍になる。生産物の「量」ではなく「サイズ」が問題にされている今回のケースだと、「規模に関する収穫一定」が成り立たないというのは、(ミートボールを作るために使用する)材料の量をすべて倍にしてもミートボールの大きさが倍にならないことを意味する。牛乳を多めに入れても、使用される牛肉(固定的な生産要素)の量の少なさをカバーできず、その結果としてスウェーデン風ミートボールは他の国のミートボールよりも小粒になる、ということがおそらく言いたいのだろう。 |