タイラー・コーエン 「『ゼロサム思考』と米国における政治的な分断の淵源」(2022年12月26日)

ゼロサム思考度――ゼロサム思考に侵されている度合い――の高さは、政府の重要性についての見方だったり、再分配政策の有用性についてだったり、移民の効果についての見方だったり、政治的な立ち位置(左派、右派)だったりと強い相関があることが見出された。さらには、各人のゼロサム思考度の高低は、その人の両親や祖父母がどんな経験をしたかによって説明できることも見出された。人生をゼロサムゲームと捉えるかどうかというのは、世代を超えて継承される属性である可能性があるのだ。
画像の出典:https://www.photo-ac.com/main/detail/972078

本稿では、「ゼロサム思考」という文化的・心理的な属性の原因(起源)と帰結を探る。人生をゼロサムゲームと捉える「ゼロサム思考」によると、誰かが得をすると他の誰かが損をすると見なされる。本稿では、 米国で暮らしているおよそ15,000人に対して聞き取り調査を行い、各人の「ゼロサム思考度」、政治観および政策観、家系に関する膨大な量のデータを収集した。ゼロサム思考度の高さは、政府の重要性についての見方だったり、再分配政策の有用性についてだったり、移民の効果についての見方だったり、政治的な立ち位置(左派、右派)だったりと強い相関があることが見出された。さらには、各人のゼロサム思考度の高低は、その人の両親や祖父母がどんな経験をしたか――親が祖父母よりも高い地位にいけたかどうか、両親や祖父母が経済面でどのような苦労を味わったか、米国に移民としてやってきた家系かどうか、両親や祖父母が移民と交わる機会が多かったかどうか、奴隷の先祖を持っているかどうか――によって説明できることも見出された。本稿で得られた一連の結果は、現代の米国における政治的な分断を説明する上で、各人の心理面の属性およびその世代間継承の重要性を物語っている。

サヒル・チノイ(Sahil Chinoy)&ネイサン・ナン(Nathan Nunn)&サンドラ・セケイラ(Sandra Sequeira)&ステファニー・スタンチェヴァ(Stefanie Stantcheva)の四人による共著論文(pdf)のアブストラクト(要旨)より。興味深い結果がたくさん得られているようだ。例えば、

平均的な傾向としてゼロサム思考度が一番低かった――ゼロサム思考に侵されている度合いが最も低かった――のは、ユタ州に住んでいる回答者だった。その一方で、平均的な傾向としてゼロサム思考度が一番高かったのは、モンタナ州/オクラホマ州/ミシシッピ州に住んでいる回答者だった。とは言え、ゼロサム思考度の高い人間が局地的にどこかに集中しているわけでもなければ、ゼロサム思考度の地理的な分布と政治的な立ち位置(左派、右派)との間に明確なつながりがあるわけでもない。

もう一丁。

海外(米国の外)で生まれた回答者は、ゼロサム思考度が低い――人生をゼロサムゲームと捉える度合いが低い――傾向にあった。

アフリカ系アメリカ人は、全体の平均よりもゼロサム思考度が高かったという。おまけにもう一丁。

ゼロサム思考度が高い人ほど、リベラルな経済政策〔リベラルだって? 誤用も甚(はなは)だしい!:引用者(コーエン)による突っ込み〕を支持しがちで [1] … Continue reading、共和党よりも民主党を支持しがちな傾向――左寄りな(リベラルな)傾向――にある。

お薦めの論文だ。


〔原文:“Zero-Sum Thinking and the Roots of U.S. Political Divides”(Marginal Revolution, December 26, 2022)〕

References

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1 訳注;「リベラルな経済政策」を支持しがちというのは、自由主義的な経済政策を支持しがちという意味ではなく、経済における政府の役割を重視しがちという意味。例えば、ゼロサム思考度が高い人ほど、富者から貧者への再分配政策を支持しがちという意味。
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