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「消費バスケット一杯の企業異質性」

消費バスケットの中の企業異質性:家庭と店舗スキャナーデータからの証拠 from VoxEU

2017年8月2日

  Benjamin Faber、カリフォルニア大学バークレー校経済学部助教

Thibault Fally、     カリフォルニア大学バークレー校助教

概要: 近年の文献は労働者の所得への企業異質性の影響について論じるようになってきている。このコラムでは家計の生活費への影響という観点から企業異質性について考えてみる。富裕層と貧困層はその消費財を異なる企業から購入しており、ゆえに企業の異質さの非対称性から異なる影響を受ける。分析はほどほどの貿易自由化により、合衆国の最も豊かな20%の家計は最も貧しい20%と比べて小売財消費での生活費インフレ率が1.5ー2.5%ほど低くなりえる事を示している。

名目所得の不平等は合衆国とその他の多くの国において上昇を続けており、政治家や一般層から継続的な関心をひきつけている(Piketty and Saez 2003, Acemoglu and Autor 2011)。この文脈において、近年、労働者の名目所得について観察される不平等の説明として産業内での企業(雇用者)の異質性の役割を論ずる文献が増加してきている(例えば、Bloom et al. 2017、Helpman et al. 2017、Card et al. 2013)。

最近の研究(Faber and Fally 2017)において、我々はMelitzタイプ(2003)の企業の異質性が所得分布上での家計の価格指標にとってどういう意味を持つのかを探り、この文献を補完した。実質所得の分子である名目所得に注目するのではなく、その分母である家計の価格指標への影響を調べたわけである。とりわけ、次の3つの中心的疑問に答える事に取り組んだ。

(1)富裕な家計と貧困な家計のそれぞれがその消費バスケットを購入する企業は、企業規模分布上でどの程度異なるのか?

(2)この違いはどのように説明できるのか?

(3)この(1)と(2)への答えは実質所得の不平等に対してどういう意味を持つのか?

これらの疑問に答える為、4つのステップを踏んでいった。まず第一に、詳細かつ組み合わされた家計と店舗のスキャナーからの消費マイクロデータを用いて、合衆国の富裕な家計と貧困家計がその消費財を購入している企業の加重平均企業規模が大きくかつ有意に異なっている事を示し、複数の説明を考察した。第二に、その発見を説明する為に、生産側の企業と需要側の消費者双方の異質性を組み合わせた解くことの出来る(tractable)定量的モデルを組み立てた。第三に、マイクロデータを用いてこのモデルをキャリブレートし、観察される定型化された事実の基盤となるチャンネルを特定した。第四に、モデルベースの一般均衡反実仮想をつかって、家計が異質な企業からその消費財を購入するという状況で、経済ショック(貿易統合なりビジネスへの規制など)が所得分布上の生活費インフレ率への非対称的な効果へどのようにつながるかを明らかにした。

我々の分析の中心には、非常に詳細なマイクロデータから構築されたデータセットがある。これによって初めて、所得分布上での個々の家計の消費バスケットにおける企業規模の分布を追いかけることが出来るようになった。これは、2006年から2014年におけるAC Nielsen US Home Scannerデータからの家計×小売業者×バーコード×半年間レベルに集計された3億4500万の消費者取引のデータセットと、同じ18の半年期間をカバーするAC Nielsen US Retail Scannerデータからの店舗×バーコード×半年レベルに集計された122億の店舗取引のデータセットを組み合わせたものだ。この家庭と店舗レベルでのスキャナーマイクロデータの組み合わせにより、各種ブランドの生産者の規模の分布(店舗のスキャナーデータを平均して2万7000の小売事業所で集計した半年ごとの全国売上に基いて)を1000以上の非集計小売商品モジュール(炭酸飲料、シャンプー、痛み止め、デスクトッププリンターなり電子レンジといったもの)について家庭スキャンデータの半年ごとに平均5万9000の個々の家計の消費バスケットの中で追っていく事ができるようになった。  ((Nielsen dataはシカゴ大学ブース・スクール・オブ・ビジネスのKiltsセンターとのアカデミック・ユーザー・アグリーメントを通して利用可能である。))

こうしたデータを利用して、富裕な家計と貧しい家計がその消費財を購入する企業の加重平均した規模には有意で大きな違いがあることが推定できた。この発見はデータセットのすべての半年期間についてNielsenデータがカバーしている異なる製品部門全体で見いだされる。図1に表されているように、合衆国の家計のもっとも豊かな20%はもっとも貧しい20%と比べて、その消費財を非集計製品グループの中で平均して20%規模の大きい生産者のブランドから購入している。図1から分かるように、この加重平均した企業サイズの違いは、トップ10%とボトム10%を比べると更に大きくなる。我々はまた、製品モジュールの中で異なる生産者へと支払われる家計の予算シェアの順位は所得分布上で変わらない事を説明していた。つまり、全ての所得グループで最大規模の企業が最大の予算シェアを押さえている。さらに、以前の研究同様、我々は大きな企業はより高い価格をつける傾向がある事を発見した。これは彼らがより高い品質の製品を売る傾向がある事も示している。

 

図1 消費バスケット上での企業異質性

注:この図は2006年から2014年の間の18の半年期間の間の平均して5万9000の合衆国の家計の消費バスケットの入る企業の売上の対数の加重平均での乖離を表している。Y軸は1000以上の製品モジュールにおいて生産者の売上の対数値の乖離の加重平均を表している。ウェイトは生産者のブランド上での家計支出である。X軸は半年間ごとの家計の一人当たり小売支出の全国100分位を表している。回帰は局所多項回帰による。両方の曲線の標準偏差は郡ごとにクラスターされており、信頼区間は95%のものである。

 

データの豊富さを利用して多くの仮説を試してみた後、我々はこれらの定式化された事実を、消費者と企業の双方が製品の特性を最適に選択する状況での両サイドの異質性を持つ定量モデルの均衡の結果であると解釈した。我々のフレームワークでは、豊かな消費者と貧しい消費者は価格への反応の程度と製品の品質をどう評価するかについて異なっている。モデルの生産側では、企業の生産性が異なっており、その価格と製品品質の特性を、その選択が異質な製品購入者の構成比を内生的に決定する状況で選択する。

そして我々はマイクロデータを使って選好と技術パラメータの推計をしてみた。この推計は二つの反対の力が働いている事を明らかにしている。これらは均衡において、消費バスケット上での企業規模と製品品質特性上での企業の配置の両方を決定する。一方では、より大きい企業がより安い品質調整済み価格を提供し、これが彼らの売り上げの中で価格に敏感な低所得消費者からの売り上げのシェアを引き上げる。こういった消費者は品質を比較的低く評価する為、このチャンネルは、他の条件を一定にして、貧しい家計が平均してより大きな企業から消費財を購入するようにさせ、またそういった企業に低品質で生産する事を選択させる。もう一方では、我々の推定はより高品質な商品の生産での規模の経済を示しており、これがより大きな企業に裕福な家計の嗜好に合わせてより高品質な製品をつくるインセンティブを与えている。実証的には、この第二のチャンネルが第一を圧倒している事を我々は見出した。これにより、より大きくより生産性の高い企業が富裕な家計によって相対的により評価される製品へと内生的にソーティングされるわけである。

こういった発見は家計の価格指標への非対称的な効果を通じて実質所得の不平等への含意を持つ。経済ショックは異質な企業に異なる影響を与えるが、その状況で豊かな家計と貧しい家計が消費バスケットを異なるタイプの企業から購入しているわけである。最後のステップで、この点を明らかにする為に、キャリブレートされたモデルを利用し、貿易自由化やビジネスの規制や税についての幾つかの一般均衡反実仮想の名目所得不平等の変化の分配への影響を調べた。

 

図2 貿易自由化の価格指標への影響

注: 「パネル分析」と「クロスセクション分析」は、それぞれ異なる計量テクニックによる規模の経済の程度の推定である。Faber and Fally (2017)により詳しく説明されているように、我々はパネルデータ推定の方がより安全な 推定であるとみなしている。95%の信頼区間は18の半年期間をまたぐロバストな標準誤差にもとづいている。ブートストラップ標準誤差については Faber and Fally (2017) を参照。

 

図2は、対称的な2国の間の貿易で輸入浸透率が10%上昇した場合の、合衆国の豊かな家計と貧しい家計の間での推定される家計生活費のインフレ率の違いを表している。これは(この文章で扱われている要素が組み込まれている)事を除けば基本通りのMelitz (2003)のフレームワークを使っており、我々が調べている価格指標への効果を除くと分配への効果がゼロとなっている。我々はこのほどほどの貿易自由化によって、合衆国の最も豊かな20%の家計は最も貧しい20%とくらべて、小売の消費において生活費インフレ率が1.5%から2.5%低くなる事を発見した。

我々の反実仮想分析からのこの発見は、両サイドに異質性がある場合に発生する調整の豊かで新しい相互作用を明らかにしている。こういった効果は観察される名目での不平等を徐々に強化し、国際貿易からの利益をより逆進的に分配し、そしてビジネスの規制に分配上の新しい含意をもたらすという事を我々は発見した。

総合すると、我々の発見は企業異質性が実質賃金の不平等に、既存の文献が注目してきた労働者の名目所得を通してだけでなく、より複雑なルートを通じて影響を及ぼす事を示唆している。実証的には、我々の発見は時間を経ての実質所得の不平等における全般的な変化の計測の為と、貿易なり規制の導入などのような政策ショックの不平等への効果を調べる為の両方で、製品集約のより詳細なレベルで価格指標における非対称的変化を理解する重要性を強調するものとなっている。

参照文献

Acemoglu, D, and D Autor (2011), “Skills, tasks and technologies: Implications for employment and earnings”, Handbook of Labor Economics, 4, 1043-1171.

Bloom, N, J Song, D J Price, and F Guvenen (2017), “Firming up inequality”, NBER Working Paper.

Card, D, J Heining, and P Kline (2013), “Workplace heterogeneity and the rise of West German wage inequality”, The Quarterly Journal of Economics, 128 (3), 967-1015.

Faber, B, and T Fally (2017), “Firm Heterogeneity in Consumption Baskets: Evidence from Home and Store Scanner Data”, Berkeley University Working Paper.

Helpman, E, O Itskhoki, M-A Muendler, and S J Redding (2017), “Trade and inequality: From theory to estimation” Review of Economic Studies, forthcoming.

Hsieh, C-T, and P J Klenow (2009), “Misallocation and manufacturing TFP in China and India”, Quarterly Journal of Economics, 124 (4).

Melitz, M (2003), “The impact of trade on intra-industry reallocations and aggregate industry productivity” Econometrica, 71 (6), 1695-1725.

Piketty, T, and E Saez (2003), “Income inequality in the United States, 1913-1998”, The Quarterly Journal of Economics, 118 (1), 1-41.


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