ヒューストンの洪水を引き起こした原因について,あれこれと戯言が書かれている.反移民派の人たちは,移民がわるいと非難している.反開発派の人たちは開発がわるいと非難している.反トランプ派の人たちは共和党がわるいと非難している.
でも,事実を言えば,都市が建設されていらい,ヒューストンはずっと洪水にあってきた.さらに言うと,〔2005年に大災害を起こしたハリケーンの〕カトリーナとちがって洪水対策システムは大半が想定どおりに機能した――たとえばあふれかえる水をハイウェイに逃がしたのもその一例だ.問題は,とにかく水が多すぎたという点にある.
Phil Magness が秀逸な記事を書いて詳細を記してくれている.以下は Magness による文章だ.〔引用だが〕インデントはつけない.
この数日というもの,ヒューストンの洪水をあれこれとお気に入りの政治的な原因のせいにする評論家に次々とお目にかかった.「気候変動」を声高に語る定番の評論のほかにも……数名の評論家・ジャーナリストがここぞとばかりにヒューストンの有名なゆるい用途地域制度・土地利用規制をとりあげて,ハーヴィーによる破壊は「スプロール」のせいだ,今後は都市における建設をきびしく制限し規制する「スマート成長」政策が必要なのだ,と論じている.
この主張によると,ヒューストン北部と西部の無制限な郊外開発の副産物としてハーヴィーによる洪水が生じたのであり,雨水を十分なペースで吸収してくれるとされる平原がかつては「自然と」この目的に役立ってくれていたのに開発でこれを損なってしまったのだという.
この路線の主張には複数の問題点がある.そうした問題点からは,どうやらこの主張は実際にヒューストンの洪水問題を懸念しているというよりむき出しの政治的機会主義に根ざしているらしいのがうかがえる.
問題点その一.これまでの歴史の教訓として確立されたことだが,この地域の歴史記録のはじめからずっと,洪水はヒューストンの地勢につきものの特性だ.そして,破滅的な洪水は――19世紀に複数回おきた嵐や文書記録がしっかり残されている1935年12月の洪水も含めて――こうしたアームチェア都市デザイナーの憤怒をかき立てているどの「スプロール」よりも昔のことだ.
第二の問題点.ハーヴィーでみんなが目の当たりにした洪水は,上流から水が急激に流れ込んで小川や支流の水位が上がって堤防から水があふれ出た結果だ.「スプロール」でつくられた駐車場や道路によってこうした水流が流れやすくなったのは確かだが,問題の発生源とはとても言えない.流れがゆるく風に吹きさらされるブラゾス川はハーヴィーによって記録的な水位にまで上昇して堤防から水があふれたが,ヒューストンの「スプロール」からはほど遠いところにある.州間ハイウェイ10号からヒューストンのはるか西まで,田園部が大半を占める平野は,ブラゾス川の氾濫によって水量の観点で最悪の洪水を記録したが,さいわいなことに,田園部であるがゆえに,財産への損害はずっと少なくおさまった.
第三の問題点.「ヒューストンはコンクリートでかためられた巨大な貯水池となっている」という考えそのものが,たちの悪い神話だ.都市プランニング活動家やメディアの報道がこれを無節操に広めている.総面積で見れば,他のどのアメリカ大都市に比べてもヒューストンは公園や緑地が多く,1人あたり面積でみるとサンディエゴに次いで第3位につけている1.
だが,それ以上に説得力があるのは,ヒューストン=ガルヴェストン地域審議会による2011年の調査だ.この調査では,ヒューストン区域内の不浸透性土地と浸透性土地の比率を計測している(ようするに,水が地中に吸収されるのを妨げるコンクリートと吸水する緑地の比率のこと).同調査では,ある指標尺度を使って吸水性の土地利用を計測している.低いスコア(同尺度で 2.0 未満と定義される)は,コンクリートに対して緑地の割合が高いことを示す.高いスコア(5.0以上と定義される)は,緑地など吸水性の土地が低水準でコンクリートの割合が高いことを示す.その調査結果が下記の地図だ.都市の全域を示してある.灰色の部分は,浸透性の地表(緑地)の割合が高いことを示し,黒い部分は非浸透性の地表(基本的にはコンクリートか流出水をあつめる湖のどちらか)の割合が高いことを示す.この地図から読み取れるとおり,ヒューストンは土地の9割以上が灰色になっている.つまり,緑地が多く,吸水性が高い.この調査では区域外のハリス郡を計測していないが,ヒューストンより大幅に密度が低い傾向にある.
ということは,非浸透性の土地利用は問題ではなく,洪水になんら寄与していないということだろうか? そうではない.だが,ハーヴィーでおきた都市破壊の主要な原因として引き合いに出すのは,いくつものでしゃばりな規制政策の支持を引き出すのを狙った純粋に政治的な動きだ.
ヒューストンの洪水問題は,この土地の地形・地理に固有の特徴であって,どんな「スプロール」よりもずっと昔から存在している.これまで長年にわたって洪水問題の緩和策がとられて,洪水の深刻度は低下しているものの,きわめて洗練された洪水管理システムといえどもまれにしか起きない破滅的な事象に圧倒されるのは避けられない.ハーヴィーはまさにそうした事象だった――過去80年にヒューストンをおそったなかでも最大の洪水だったのはまちがいなく,もしかすると記録上最悪の大氾濫かもしれない.だが,それでも過去2世紀ちかくにおよぶ記録にある歴史的なパターンと完全に合致している.ハーヴィーによる洪水の原因を大きな視野で考えたとき,「スプロール」は意味をなす候補ですらない.
1. 以前のバージョンでは,「第2位」と書いてあったがこれは出典の報告書にある「第3位」のタイポ.出典によっては算出法や年度によって順位が異なる.↩
さらに歴史的な背景については全文を読まれたい.
zoning は、そのままゾーニングとするか、用途地域(用途地域制度)とするのが一般的です。
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