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アンドレス・ロドリゲス・ポーセ「問題外の土地の逆襲」(2018年2月6日)

Andrés Rodríguez-Pose, “The revenge of the places that don’t matter“, (VOX, 06 February 2018)


恒常的な貧困、経済的な衰退、機会の欠乏。これらは凋落する地域に不満を引き起こすものである。ところが政策立案者は、成功した集積経済 (agglomeration economies) こそが経済ダイナミズムを突き動かしているのであり、都市再生政策はすでに失敗したと考えている。本稿では、こうした不満のために、これら 「問題外の土地 (places that don’t matter)」 の多くが政治的ポピュリズムの波及という形で反旗を翻している旨を論ずる。こうした動向は、社会的というよりむしろ強い領域的 (territorial) な基盤を持っている。いま求められるのは、潜在性を汲み上げることで、これら 「問題外の」 土地に住む人達に機会を提供するための、より優れた領域的開発政策である。

2008年10月16日、当時シンクタンクCentreForumで働いていた経済学者のティム・レウニグが、リバプールの大聖堂に姿を現した。そして、不安と困惑に包まれたリバプール人の聴衆に告げた。経済的にいえば、かれらが生まれ育った街の時代は、すでに終わっているのだと。イングランド北部の市や郡は 「国内平均や英国で最も成功している町に立ち遅れ」 ており 「都市再生政策は町の再生に [すでに] 失敗している」(Leunig 2008)。

イングランド北部では歴代の政権が開発の促進をめざし大規模な公的支出を行ってきた。しかし、結果は惨憺たるものだった。繁栄を謳歌するイングランド南部と凋落にあえぐ北部の経済的ギャップは、むしろ広まっていたのである (Martin et al. 2016)。開発政策は機能しておらず、したがって停滞や凋落が見られる英国内のこうしたエリアについて、開発戦略の再考が必要となった (Leunig 2008)。

そこで提案された解決策は至ってシンプルなものだった。まず、同国地域であって繁栄を謳歌し活発な展開を見せているところ (ロンドンと南東部) に注力する。つぎに、「リバプール、サンダーランド、等々といったところに住む人達」(Leunig 2008) が、供給された機会から利益を得るため、もっと豊かな土地に移動する。

レウニグは自ら聴衆の面前に姿を現した。この聴衆は、礼節は守るとはいえ基本的に敵意に満ちたものだったろうから、かれの示した勇気は相当なものだといえよう。しかしながら、そんなレウニグも気づいていなかったことがある。それはかれに先立つあるいは後を追う多くの学者も同じなのだが。つまり人々にたいし、かれらがどんな場所で生活し、どんな場所に帰属感を抱いているかなど問題外なのだと告げれば、きっと反発を生むだろうということだ。

ところが世界規模の反発は予想されていなかった方面からやってきたのである。近年 「問題外の」 土地の一部では、置き去りにされた、機会も無ければ将来の見通しも立たないといった感情に抗って、投票権を使った反乱に踏み切るところが増えている。個人間の格差にフォーカスした研究者 (Piketty 2014など) は、こうした反発 – その前例はタイや一部のラテンアメリカ諸国にすでに見られていた (Roberts 1995) – は、富裕層と貧困層の対立となると予測していたかもしれない。しかし実際に起きたのは、立ち遅れや凋落の見られる地域が、繁栄を謳歌している地域と異なる投票を行うという事態だったのだ。

以上のような問題外の土地の逆襲 (Rodríguez-Pose 2018) をわれわれは、英国の2016年ブレクジット投票、合衆国の2016年ドナルド・トランプ選出、2016年オーストリア大統領選挙、2017年フランス大統領選挙、2017年ドイツ総選挙に見いだすことができる。この逆襲は、最も活発な街や地域の繁栄を助けてきた、経済と社会の安定を転覆させかねない気勢を示している。

図 1 選挙における問題外の土地の反発

出典: Rodríguez-Pose (2018).

果たしてこれは驚きか?

世界規模のポピュリズム勃興の相はつとに出ていたのだという主張は今後も絶えないだろうが、政治家や主流派大学人はまだ驚きから立ち直っていない。かれらにとってポピュリズムのこのような膨張はまったく不意打ちだった。ポピュリズムの権力への上昇にも、それが突き付ける挑戦にも、後手後手となった。幾つか例外はあれ、われわれは誤ったタイプの負の外部性に注目し、ある重要な形の格差を見落としてきた。移動に関する個人の能力と意欲を過剰に見積りつつ、数多くの立ち遅れエリアの経済的潜在性を見落とし、あるいは無視してきたのである。

  • 誤ったタイプの負の外部性。経済地理学や都市経済学の研究が明らかにするところ、集積 (agglomeration) は、それがもたらすあらゆる利点の代償として、さまざまな負の外部性を惹起する可能性がある。従来われわれは、高い地代・混雑・汚染をそこでの主な負の外部性と見做してきた。これらが発展を窒息させる原因となりうるのは確かだが、これまでのところ本当のコストは多くの非集積エリアにおける予想外の社会経済的困窮だった (それが実際のものであれ、あくまでそうした認識に留まるのであれ)。
  • 領域的格差をほとんど関連性のないものと見做していること。ポピュリズム流行以前の格差懸念は、もっぱら個人間の格差をめぐるものだった (Sassen 2001, Piketty 2014)。1970年代以降、富は、ピラミッドの上部に位置し、いよいよ極一部となってゆく個人のもとに集中しつづけており、社会における経済的二極化の激化を生じさせている。だが、ブレクジット投票や、ドナルド・トランプおよびエマニュエル・マクロンの選出について、個人間格差が決定的な役割を果たした旨を示すエビデンスはほとんど存在しない。ポピュリズムが最も支持されていたのは最貧困層のあいだではなく、長い期間にわたり凋落に苦しんでいた貧困地域や貧困エリアの組み合わせだった。反発しているのは問題外の土地であって、「問題外の人達 (people that don’t matter)」 ではなかったのである。個人間格差も依然として問題だが、体制への挑戦は放置されてきた領域的格差から来ている。
  • 個人の移動能力と移動意欲を過剰に見積もっていること。 ティム・レウニグがリバプール人に南東部への移動を奨励した時、つまるところかれは都市経済学における前提を表明していたのである。すなわち、移動能力はタダだと。あるいは少なくとも、職を得るチャンスが限られている土地に留まるより、移動のほうが好ましいと (Kline and Moretti 2014)。しかし移動能力を奨励し、あるいは活発なエリアでの住居確保を容易化しても、そうしたエリアへの移動者数は増加しそうにないようである。立ち遅れや凋落の見られる地域に留まる人達が転居することは、生活する土地への愛着・年齢・十分な技能や資格の欠乏など、他にもあろうがこうした理由のために、なさそうなのではないか。
  • 立ち遅れや凋落の見られるエリアにおける経済的潜在性の見落としていること。問題外の土地はしばしば 「錆びついた地帯 (rustbelts)」 や 「飛行機で上から眺めるだけの州 (flyover states)」 と形容されてきた。経済学者の主張によると、「貧困あるいは非生産的な土地を助成するのは、貧しい人達に資源を移転する手法としては不完全である」(Kline and Moretti 2014)。とはいえ、立ち遅れや凋落の見られるエリアであっても、経済的な潜在性がまったく無いところはほとんどない。かつて立ち遅れていたエリアの多くは今や牽引地域となっている。これにたいし、以前の牽引地域が凋落する例も時折あった。Barca et al. (2012) の主張によると、「中堅エリアおよび立ち遅れエリアの活用されていない潜在性を汲み上げることは、総合的成長を阻害しないばかりか、実に地方レベルと国レベル、双方の成長を向上させる可能性がある」 のである。さらに、支援を必要としている土地から、より大きな繁栄を謳歌しより活発でもある土地へと関心をシフトさせれば、見捨てられた空間に困窮と怨恨が生じ、投票権をとおした逆襲の種を蒔くことになる。

問題外の土地の逆襲に対処する

問題外の土地の逆襲 – ポピュリズムの急速な勃興に反映されたそれ – は、現在の経済政治体制にたいする深刻かつ現実的な挑戦の現れである。賭金は大きい。しかし解決策は僅かだ。

何もしないというオプションはない。この問題の根にある領域的格差は今後も拡大を続け、社会・政治・経済の領域での緊張を高めるだろうから。国内移住が実行可能なのは、レウニグの提案にもあるように、十分な技能を持つ者に限られると思われる。

複数の大規模な集積区に賭けるのも、安全ではない。先進国でも、成長の原動力として大都市がつねに最も活発だとはいえない (Dijkstra et al. 2013)。発展途上国では、成長なき都市化がいよいよ常態と化している (Jedwab and Vollrath 2015)。

権力を脱中心化しつつ発展度の劣る街や地域へ委譲する方策にも、残念な経済アウトカムが出ている (Rodríguez-Pose and Ezcurra 2010)。既存の社会政策と福祉政策に固執すれば、恒久的に依存的な人口集団と領域が生じかねず、これが経済成長を停止させ社会と政治の緊張の高まりにつながる可能性もある。

最も現実的なオプションを提示するのは、立ち遅れ凋落するエリアに向けた開発政策である。これは政策の量の増加ではなく、政策の質の向上を意味する。こうした政策は各領域の潜在的発展性の最大化をめざすものとなるだろう。それは理論とエビデンスの堅牢な基礎づけをもち、人間基盤アプローチと土地基盤アプローチを結合しながら、地方の利害関係者に自らの未来をよりコントロールできるような力を持たせる (empower) ものとなるだろう (Iammarino et al. 2017)。

こうした政策で関連リスクを減少できる保証は無いが、それでも個人や労働者が豊かに栄えるための機会を向上させる絶好のチャンスにはなる。こうした政策オプションを無視すれば、経済的発展機会を迂回したあげく、問題外の土地の逆襲が経済・社会・領域をめぐる長引く軋轢として完全に正当化されてしまうような世界に漂着してしまうかもしれない。こうした事態は、われわれの現在と未来の厚生の礎たる、経済・社会・政治の基盤を侵食せずにはいないだろう。

 

参考文献

Barca, F, P McCann, and A Rodríguez-Pose (2012), “The case for regional development intervention: place-based versus place-neutral approaches”, Journal of Regional Science 52(1): 134–152.

Dijkstra, L, E Garcilazo, and P McCann (2013), “The economic performance of European cities and city regions: Myths and realities”, European Planning Studies 21(3): 334-354.

Iammarino, S, A Rodríguez-Pose, and M Storper (2017), “Why regional development matters for Europe’s economic future”, Directorate-General for Regional and Urban Policy working paper 07/2017, European Commission.

Jedwab, R and D Vollrath (2015), “Urbanization without growth in historical perspective”, Explorations in Economic History 58: 1-21.

Kline, P and E Moretti (2014), “People, places, and public policy: Some simple welfare economics of local economic development programs”, Annual Review of Economics 6: 629–62.

Leunig, T (2008), “The regeneration game is up“, The Guardian, 13 August.

Martin, R, A Pike, P Tyler, and B Gardiner (2016), “Spatially rebalancing the UK economy: The need for a new policy model”, Regional Studies 50(2): 342-357.

Piketty, T (2014), Capital in the twenty-first century, Harvard University Press.

Rodríguez-Pose, A (2018), “The revenge of the places that don’t matter (and what to do about it)”, Cambridge Journal of Regions, Economy and Society 11(1): forthcoming.

Rodríguez-Pose, A, and R Ezcurra (2010), “Does decentralization matter for regional disparities? A cross-country analysis”, Journal of Economic Geography 10(5): 619-644.

Sassen, S (2001), The global city: New York, London, Tokyo, Princeton University Press.

 


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