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サイモン・レン=ルイス「移民の政治化」

[Simon Wren-Lewis, “The politicisation of immigration,” Mainly Macro, December 16, 2017]

ここに書く話はイギリスの経験にもとづく議論だけれど,アメリカにも同じように当てはまるように思う.

どうして右派の政治家たちは反移民プラットフォームを押し出しているんだろう? わかりきった答えを言えば,「移民は彼らの支持者にとって重要な問題だから」だ.これは確かに正しい.しかし,他にもさらに要因があると思う.これを例示しているのが,下記のグラフだ.先日『フィナンシャルタイムズ』にセバスチャン・ペインが書いた記事に載っている.

見だし: EU離脱派と残留派の分断はアイデンティティ政治に突き動かされている一方,支持政党は経済に関する左派的見解と右派的見解に結びついている.

  • 所得再分配といった伝統的な左派-右派の話題については,残留派は離脱派とほとんど変らない――その一方で,二大政党のどちらを支持するかについては右派-左派の軸がもっと強力に効いている.(保守党のもっとも企業寄りかつ再分配反対の立場から,労働党の社会主義的左派までの軸)
  • EU離脱をめぐる2つの派は,犯罪と刑罰や「伝統的英国の価値」の重要度といった文化問題でより大きくわかれている.――その一方で,労働党・保守党それぞれの支持層はイデオロギー問題に関しての方が共通部分が大きい.

グラフの右側を見てほしい.これは「イギリス選挙研究」(British Election Study) のデータにもとづいたものと思う.いろんな政治的見解を2次元で表している(こうした政治的見解は前に論じたことがある).この縦軸の呼び方はさまざまだ(文化,アイデンティティ):私としては,「社会的保守」と「社会的リベラル」というラベルが好ましい.*** 保守党支持の有権者は,右派かつ社会的保守の傾向がある.一方,労働党支持の有権者には,明確に左派であると同時に社会的保守でもある層も含まれる.その結果として,もし右派系政治家たちが社会的保守にとって重大な問題(法と秩序,移民,アメリカなら人種と中絶)をめぐるものに選挙を仕立て上げられたら,左派候補に投票していただろう労働党支持の有権者をとりこめる好機が生まれる.

移民が右派の政治家にとってとりわけ魅力的な理由については,先日の記事でとりあげて論じた.「賃金低下や公共サービスのアクセス悪化といった経済的なわるいことを移民はもたらす」という誤解がある.そこで,労働党支持の有権者に「経済的な懸念を払拭する」と信じさせて,経済的見地から投票先を左派系候補支持から反移民の候補にふりかえさせる好機が右派政治家に生まれる.

イギリスで放送メディアによって広められた標準的な筋書きによれば,過去10年で移民をめぐって有権者のあいだに醸成された懸念は,移民数の増加に応じて高まったということになっている.Shifting Ground の研究には,下記に示す興味深いグラフが掲載されている.

青い線は,移民問題に有権者が与えた重要度を示す.灰色の線は,イギリスにやってきた移民の数だ.黒い線は,印刷メディアにおける移民をめぐるニュース記事の数を示す.(出典はこちらを参照.) 標準的な筋書きどおりなら,青い線(重要度)は灰色の線(移民数)に2~3年遅れて反応して変動し,人々の関心・懸念を反映する黒い線(ニュース記事)はまったく遅れずに変動するはずだ.ところが,見るからに,まるでちがった筋書きが浮かび上がってくる:移民の重要度に関する人々の捉え方は,新聞で彼らが読むものを反映しているのだ.

「新聞が世論を誘導する」という標準とちがうこの筋書きは,大いに腑に落ちる.90年代後半に移民が増えたことと,移民の重要度に関する世間の態度に,これだけ長い遅れがはさまっているのはどうしてだろう? 周知のとおり,移民をめぐる世間の懸念がいちばん高まりがちなのは,一番移民が少ない地域だ.『サン』紙が2007年に実施した世論調査では,「自分の居住地域で移民が問題を起こしている」と回答したのはたった15パーセントしかいなかった一方で,「よい影響であれわるい影響であれ,移民は地元地域に強い影響を及ぼしていない」と回答したのは69パーセントだった.これについて,ニック・クレッグ〔元自由民主党党首〕がこう語っている

「何年も前,まだ私が議員になっていなかった頃,私はダービーシェアのチェスタフィールドで家々を回っていた――トニー・ブレアが政権の座にいて,イギリス中に散見されるようになった亡命希望者をめぐる論争が最高潮を迎えていたときのことだ.タブロイド紙は毎日このネタに血道を上げていた.自宅のフェンスに寄りかかっていた男性に話しかけたときのことをいまも覚えている:「自由民主党に投票する可能性はありますかね?」 彼の答えは「まさか.」 私が「何でです?」と聞くと,こんな答えがかえってきた:「なんでって,亡命希望者どもがあんなにいるからだわな.」 チェスタフィールドには亡命希望者なんて一人も流れてきていない事実を知っていたので,ちょっと彼にたずねてみた:「ははあ,その亡命希望者をスーパーや病院で見かけたりしました?」 これに彼が返した言葉は,いままで脳裏から消えたことがない.彼はこう言った:「いいや,一人も見たことはないねぇ.だけど,そこら中にいるってのは知っているよ.」 この恐怖を消し去ることはできない.だが,いったいどうやってこれに対応すればいいのだろう?」

もっと最近の例はこちら

2004年に,Shifting Ground の報告書が目をつけたものは,政治問題として移民増加が重要だと有権者が考えたかどうかをいちばんよく説明する変数だ.いちばん説明力の高い変数とは,『メール』『イクスプレス』『サン』それぞれの購読だった.1位から3位まで,この順番にならぶ.保守党に投票したかどうかよりも,3紙いずれの購読もうまく移民に関する懸念度合いを予測する.このことを見ても,移民とは右派系政治家が「自然な」労働党支持層から票を獲得する方法だという点がさらに強まる.

このことを考えてもらえば,「有権者は移民数の増加を見てその結果として懸念を表明するようになった」という標準の筋書きで暗黙のうちに踏まえられている考え(印刷メディアではずばりそのまま表明されている考え)が少しばかり信じにくくなる.この期間に有権者が公式統計の数字を見ていたというのは,ありそうにない:どちらにせよ,有権者は移民数をはるかに過大に見積もりがちだ.もっとありそうな筋書きは,「有権者は新聞を読んでいた」というものだ.こうした新聞各紙はべつに読者を「洗脳」していたわけではないという点は強調しておかないといけない.そうではなく,新聞各紙はヨソ者に対する永久不滅の恐怖を刺激していたのだ.とくに,そのヨソ者がシステムをごまかしてズルをしていると見られているときには,大いに恐怖を刺激した.

どうして印刷メディアは移民に関する記事を前より書くようになったのだろう? 「たんに移民数の増加を反映していただけだ」と言う人もいるかもしれない.移民が増えると,ずいぶん長いタイムラグを挟んで,記事も増えたというわけだ.それよりもっともらしい説明は,政治的な説明だ.2001年に,ウィリアム・ヘイグ〔保守党の政治家〕はトニー・ブレアを評して,イギリスを「外国の土地」に変えたがっていると語った.2005年総選挙戦のさなかに,マイケル・ハワード〔元保守党党首〕は保守党の総選挙キャンペーンの柱に移民問題をすえた.ティム・ベイルが,こうした発言とその後の政治的な反応をここで論じている.

とくに右派系タブロイドは,敵対心をあおるように仕向けたかたちで移民問題をとりあげた.イアン・ダントが2013年に記しているとおり:

オックスフォード大学の「移民調査会」(Migration Observatory) による新しい研究では,この憎悪をあおるキャンペーンがいかに念入りかつ体系的だったかを明らかにしている.イギリスのあらゆる全国紙の記事58,000件――実に4300万語以上――を調査したところ,「移民」(immigrant) にいちばん密接に結びついていた単語は――お察しのとおり――「違法」(illegal) だった.(…)タブロイドの場合,「移民」と密接に結びついていた「違法」以外の単語は「やってくる」(coming),「とめる」(stop),「流入」(influx),「住居」(housing),「偽装」(sham) だった.

同じく「移民調査会」からでた最近の報告書では,移民を記述するのにいちばんよく使われているのは「大量」(mass) だという.タブロイド紙で移民についてなされた主張は,事実と異なる場合が多い.ほぼいつも否定的な記事で,極度に否定的なこともしばしばある.これは偶然ではないし,売り上げを伸ばすための手段でもない:これは,意図的な編集方針だ.

野党の保守党は,じぶんたちの支持基盤と右派系タブロイド紙読者のあいだでこの移民問題をいっそう盛り上げていくばかりだった.労働党は全体として中道を模索していた.2010年選挙で移民の経済的影響について意見表明をせまされたゴードン・ブラウンが口にした有名な発言では,反移民論に関する労働党の見解を述べると同時に,中道を探るじぶんたちの問題についても述べている.2010年に連立政権の一角として保守党が政権につくと,主要問題としての移民は公式のものとなった.

さらに,移民となんら関係ない経済問題を移民につなげる主張も公式のものになった.公共サービスへのアクセスに緊縮財政がおよぼした影響と低下する実質賃金の両方について,保守党が移民を便利なスケープゴートに利用したためだ.すると今度は,これが印刷メディア全体にフィードバックをもたらした:2006年には,移民を擁護する記事が右派形タブロイド紙以外に多く見つけられたのに対し,2013年までにそうした擁護記事の数は減少した

イギリス各地で右派系タブロイド紙が反移民の雰囲気をつくりだしたのだとしたら,流出入を差し引きした正味の移民流入数を「10万人以下の目標」におさえるという保守党の方針のあと,これが政府の政策になった.とはいえ,ここで論じたように,これは――タブロイド紙と同じように――欺瞞から生まれた政策だった.テリーザ・メイ〔保守党党首〕が移民削減のための目立った経済策を提案するたびに,ジョージ・オズボーンとヴィンス・ケイブルのコンビが「それでは経済に打撃を与えてしまう」という至極もっともな理由で叩き潰した.メイがとれる唯一の選択肢は,文字どおり,移民に敵対的な環境をイギリスにつくりだすことだった.

この政策は公式には違法移民対策としてつくられているものの,これによってタブロイド紙の反移民のレトリックが公式政府政策になるのはさけられない.賃貸住居の家主たちは,書類がそろっていないのではないかと懸念して EU移民に住居を貸し渋っている.同じことは,医療にも当てはまる.外国人学生に対して示された官僚的な無情ぶりについては前に書いた.きっと,大抵の大学教員は似たようなことをみずから経験しているはずだ.コリン・タブロットは,EU離脱国民投票後に起きた EU大学教員のいろんな経験について述べている.この政策の冷酷そのものの性質は,海外では目に止められずにはすまない(たとえば Heiner Flassbeck のこれこれ,どちらも一読の値打ちあり).さらに,ドイツの難民政策との対比は先鋭だ.[1]

EU離脱は,移民に対するこの政策が頂点に達したものだ.EU残留派は,リベラルな保守党支持者からわずかな票を獲得したものの,左派の社会的保守層から失われた票はこれを上回った.冒頭のグラフの左側を見てもらえばわかるとおりだ.もちろん,右派系タブロイド紙は,この点で罪なき傍観者ではなかったが,ここで大事な点は,そうしたタブロイド各紙がせいぜい反移民記事をどんどん増やしそうした記事で必ず EU に言及するようにするだけで,あとはべつに新しいことをする必要がなかったというところだ.このポストの要点を言おう.EU離脱の国民投票で起きたことは,たんに,右派の政治家と新聞がこれまで20年近くにわたってやろうとしてきたことにすぎない:左派内の社会的保守層が労働党支持に回るのを妨げるために移民を利用したのだ.

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原註 [1] 海外から見ると,いまのイギリス人が視野狭窄で思いやりのない,ずいぶん頑迷な国民に見えたとしてもしかたないかもしれない.とはいえ,トルコの海岸で波にさらされる3歳の移民の遺体をうつした写真が世間で物議をかもしたとき,『サン』は(いつもはどれだけニュースを歪曲できるかすぐさま限界まで試そうとする,あの新聞が)難民支援の募金をつのって2日で35万ポンドを集めてみせた.自然な同情・共感の方が長年にわたる条件付けよりも強固だと証明された,ほんのつかのまの出来事だった.

***追記(2017年12月18日) ジョン・カーティが同じ用語をここで使っている.


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