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サイモン・レン=ルイス「財政政策は石器時代にとどまっている」(2018年5月10日)

[Simon Wren-Lewis, “Fiscal policy remains in the stone age,” Mainly Macro, May 10, 2018]

もしくは中世だろうか.ともあれ,1920年代より新しくはない.ケインズは1930年代に彼のいう流動性の罠において財政政策を使うことを提唱した.今日では,当時とちがった用語法を使って,金利がゼロ下限または実効的下限にあるとき場合に財政拡張の必要だという話がなされている.(私としては実効的下限という用語の方が少しだけ好ましく思う.金利の引き下げはどの地点からリスクが大きくなったり逆効果になったりするのかという判断は中央銀行しだいだからだ.) 今日でも,1930年代から論理は変わっていない.経済を管理する効果的で信頼のおけるツールを金融政策が失ってしまったときには,その次に効果的で信頼のおけるツールを持ち出す必要がある:それが財政政策だ.

目下,ユーロ圏全体は実効的なゼロ下限にある.金利はゼロで,欧州中央銀行 (ECB) はお金をつくりだして資産を大量購入している:この金融政策ツールの影響は,金利を動かしたり財政政策を変更したりするのに比べてずっと不確実だ(それでもなにもしないよりマシなのは確実だ).金融政策が経済刺激策として設定上の限度まで踏み込んでいるのは,いまユーロ圏のコアインフレ率が1パーセントかそれ未満に張り付いているように思われるからだ.明らかに,なんらかの財政刺激策で財政政策が手を貸すべき時が来ている.

だが,新しく就任したドイツの財務大臣は,左派と言われる社会民主党の出身でありながら,1パーセントの財政黒字の達成を目標に掲げている.そのために,彼は公共投資を来年度379億ユーロから2020年までに335億ユーロに削減しようとしている.一方,かつて世界に名高かったドイツのインフラは崩壊しつつある.ブロードバンド接続には改善の余地がたっぷりある

ドイツがもっと拡張的な財政政策をとるべきマクロ経済的な論拠は圧倒的だ.ドイツには GDP のおよそ8パーセントの経常黒字がある.ドイツがいくらか経常黒字になると予想していい構造的な理由もいくらかあるとはいえ,IMF の推計では,そうした構造要因はいまの経常黒字の半分も説明しない.経常黒字の3分の1は,引き締めすぎた財政政策の結果だと推計されている.Guntram Wolff が指摘するように,この経常黒字に主に対応するのが企業部門による貯蓄だ.さらに公共投資をすれば追加の民間投資が後押しされるかもしれない.

とはいえ,ここでまた改めて,ユーロ圏の他の地域を助けるためにドイツがどう〔財政政策を〕拡張する必要があるかについて述べることもないだろう.Matthew Klein が指摘するように,問題はユーロ圏全体が同じことをやっていることにある.ユーロ圏全体で,財政は危機以前の好景気の頃と同じくらい引き締められている.ユーロ圏の失業率はいまだに高すぎる.そして,財政政策を引き締めすぎている理由は,それが正しいことだとユーロ圏の政策担当者たちが考えているからだ.「正しい赤字はゼロです」とフランスの財務相は語っている.さらにこう言葉を続けている:「フランスは経済危機に陥ってはいないのですから,均衡財政をとる必要があります.もっと厳しい状況がやってきたときに赤字ができるように備える必要があるのです.」 同じ言葉がドイツからも聞こえる:経済は好景気なので,財政黒字にしなくてはいけません――

好景気というのは,急速に成長している経済のことではなく,インフレ率を目標水準にとどめるのと整合する水準を産出水準と雇用が超えている経済のことだ.産出ギャップをはかる各種の数値は,その水準がどのあたりなのかの推計でしかない:基底にあるインフレ率が最終的な目安だ.コアインフレ率はいま目標水準を大きく下回っている.そのために,金利は実効下限にある.これが,欧州(とイギリス)の大半の財務大臣たちがたんに間違っている理由だ.

グローバル金融危機後の景気後退につづいてさらに2つ目の景気後退を引き起こしてしまって,さすがに欧州の財務大臣たちも目が覚めてマクロ経済学をいくらか学んだだろうと思っている人もいるだろう.(なるほど ECB が2011年に金利を引き上げたのは助けにならなかったのはそうだけれども,大半のマクロモデルでは,〔各国の〕集合的な財政引き締めが大半の害をなしたということになるだろうと思う.) だが,なんともわずかしか学ぶことはなく,とてつもない失策はしなくても,大きな失策はなされている:危機にないなら財政を均衡させるべしというのだから.

これは,いまのイギリスのように左派と右派との論争ではなく,欧州での政策合意の問題だ.おそらく,いま起こっているのは2つの要因の強力な組み合わせだ:1つは,ドイツが財政均衡に執着していること.これはいま支配的なオルド自由主義/ネオリベラルのイデオロギーに根っこがある.もう1つは,ケインズの有名な警句で言う実践的な人々だ〔「自分は思想的な影響から免れていると思っている実践的な人々は,たいてい,とっくに死んで久しい経済学者の奴隷だ」〕:いま助言している人々が持ち合わせている経済学は,大中庸時代に学んだ経済学だ.その頃は,最悪の経済問題といえば比較的に穏やかな赤字バイアスだった.彼らはとっくに終わった戦争をひたすら戦っているのだ.


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