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ジュリア・カジェ「メディア競争激化の帰結に関する新たな実証成果は教える 」(2017年12月23日)

Julia Cagé, “Lessons from new evidence on the consequences of increased media competition“, (VOX, 23 December 2017)


社会通念はいう。すなわち、メディア競争の激化をとおし市民はより多くを知るようになり、それにより民主制の働きが向上する、と。本稿はこの主張を、フランス地方紙の発行部数データを活用することで検証する試みである。結果、メディア競争の激化は、顧客奪取をひきおこし、地方紙による公の問題にかかわるニュース報道の減少につながることが判明した。またメディア競争の激化は、地方選挙の投票率にもネガティブな影響を及ぼす。競争はメディア環境の質の鍵だが、以上の研究結果はメディア競争の激化が必ずしも社会的に効率的なものではないことを浮き彫りにする。

連邦通信委員会 (FCC: Federal Communications Commission) はつい最近になって地方メディアの所有に関する規制を幾つも撤廃した。これら規制は42年ものあいだ合衆国に保たれてきたもので、今回の撤廃はメディア部門におけるさらなる統合に扉を開くこととなった。かくして、市民のあいだの情報周知状況にたいしメディア競争が及ぼす影響を解明することは、これまでに増して重要となっている。一方では、Hamilton (2004: 21) が強調するように、「ニュース市場をめぐる議論では、『便りが多いは良い便り (more news is better news)』 との方針が1つの公理として支持されているように見える」。競争には数多くの恩恵があるが、その中心に位置づけられるのがイデオロギー的多様性である (Gentzkow et al. 2014)。しかし他方でメディア産業は、高い固定費用と規模に対する収穫逓増を特徴とする。クオリティの高い情報を生み出す能力をめぐって同産業への懸念が高まるなか、一部には市場をとおして支え得る多様性は一定限度にすぎない主張する者もいる。

私は最近のワーキングペーパーのなかで、メディア競争の激化が、提供されるニュースの質と量、そして最終的には政治参加率にまで及ぼす影響を調査した (Cagé 2017)。その際、地方紙プレゼンス・新聞社のニュースルーム・コストと収入・1944-2014年のフランス政治関連投票率 を扱った独自データセットを構築した。本サンプルには287の地方日刊紙が含まれている。これらの新聞は一般情報紙にあたり、ソフトなニュースから (紙面のおよそ三分の二)、ハードなニュース (三分の一) まで提供している。平均すると、各紙で働くジャーナリストは59名。デジタル時代に突入してなお、フランスの地方日刊紙産業は重要な役割を担い続けている。2014年度における同産業の総収入は23億ユーロ; これは活字メディア産業の総収入のほぼ30%に匹敵する。その上、地方ニュースと公の問題に関するかぎり、地方紙は依然として最重要メディアの座に留まっているのだ。

地方ニュース市場におけるメディア競争激化の影響はいかなるものなのだろうか? 私は新聞社の参入の影響を推定するにあたり、ある年に参入が観察された郡と、そうした郡と似ているが同年に参入が観察されなかった郡との比較を試みた (本稿でいう 「郡 (counties)」 とは、フランス本土 (metropolitan France) における (départements) をさす)。図1は、各年度のネットでみて新聞の参入があった郡の数 (図1a)、および各年度のネットでみて新聞の撤退があった郡の数 (図1b) を示している。

図1a ネットでみて参入があった郡の数 (1944-2014)

図1b ネットでみて撤退があった郡の数 (1944-2014)

つづいて新聞一紙の参入が諸既存紙の発行部数をほぼ20%分も減少させることを明らかにした。換言すれば、仮に一定の市場拡大が観察された場合でも (該当郡における総発行部数が多少増加しても)、非常に強い顧客奪取効果がうまれるのである。図2にこの事情を図示する。

図2a 総発行部数 (1944-2014)

図2b 諸既存紙の発行部数 (1944-2014)

こういったネガティブな影響はどのように説明できるのだろうか? 次のような極端なシチュエーションを考えて見て欲しい。そこでは所与の市場における全ての消費者が同一の趣味趣向を持っている – 例えば、新聞のクオリティにたいする支払意思額や政治的選好について。すると新たな一紙がこの市場に参入すれば、その市場の半分を獲得し、唯一の既存紙として存在していた一紙の発行部数を半減させることになる。無論、現実においては、市民の趣味趣向は多様であるし、参入者は自らに固有の市場シェアを創出する。しかしそれも部分的な話だ。言い方を変えれば、メディア競争の激化は顧客奪取につながるのである。

顧客奪取効果は重要な含意をはらんでいる。私は競争の激化が諸既存紙の収入38-43%分の減少 (売上・広告の双方からの収入)、そしてさらに重要な点だが、諸既存紙で働くジャーナリスト数の19-35%分の減少につながることを明らかにした。ニュースルームサイズの落ち込みは、不均一性の低い郡では (すなわち、消費者が類似した選好を持っている郡) 50%にもなる。その上、このジャーナリスト数の減少は、ニュース市場レベルで見たジャーナリスト総数の全体的な増加によっても補償されていない。これは図3に示されている。このことはどうすれば説明がつくのか? 私の論文では、一種の 「切り替え効果 (switching effect)」 を裏付ける事例的な傍証を提示している。ある既存紙のニュースルームで働くジャーナリストの一部が、参入者のニュースルームに切り替えていたのである。

図3a 該当郡で働くジャーナリスト総数 (1944­–2014)

図3b 諸既存紙で働くジャーナリストの数 (1944–2014)

かくして、競争の下では、ニュースルームの平均サイズは独占時よりも小さくなる。同じジャーナリストでも、現在は様々な発行体で働くようになったことで、自らの活動を – 非効率的な形で – 水増しし、同じ様なニュース事件を報道している。ジャーナリストの数をもって一紙のクオリティを捉える優れた代理物と見做すことできるとすれば (Angelucci and Cagé 2016)、以上の事情は競争が情報クオリティを引き下げることを示唆する。

またさらに、このニュースクオリティの低下については追加的な実証成果も提示した。具体的にいうと、近年のデータ (2005-2012) を活用しつつ、新たな一紙の追加が、新聞サイズの16-53%の減少 [訳註1]、ハードニュースが占める割合の9-13%の減少、該当紙に掲載されたハードニュース量の25-32%の減少につながることを示した。換言すれば、競争の激化は地方紙による公の問題の報道の減少につながるのである。

そもそもニュース報道のこうした落ち込みを我々はなぜ気に掛ける必要があるのか? それは市民のあいだの情報周知水準が、民主制というものの活力の鍵を握っているからだ。第一に、メディアの監視は汚職削減の手掛かりになりうる (Ferraz and Finan 2008)。第二に、もし情報周知された投票権者ほど投票をおこなう傾向が高いならば、競争の激化は、情報クオリティにたいするそのネガティブな影響をとおし、政治参加率の低下につながってしまうだろう。競争が投票率に及ぼす効果を市長選挙において調査したところ、まさにそうした結果が得られた。新聞競争の激化が地方選挙の投票率にたいし頑健かつネガティブな影響を持っていることが明らかになったのである。新たな一紙の追加は、得票率をおよそ0.3%ポイント低下させる。

1970年代の終わり以降、フランス – そして大多数の西欧民主主義国 – では、地方選挙の投票率が継続的に低下している。ところで本研究成果は、これをその他のメディアに外挿したばあい、昨今観察されている政治参加率の歴史的な低下について、その相当部分が、直近数十年間にわたるメディア競争の大きな激化により説明できてしまう可能性があることを示唆するものとなっている。

当然だが、私の発見はメディア競争を緩和すべきことを示唆するものではない。すでに強調したように、競争はメディア環境水準の鍵を握っているが、その理由はわけても競争が多数性を確保してくれるところにある。とはいえ次の点を強調しておくことは重要だ。すなわち、メディア競争の激化は必ずしも社会的に効率的ではないのである。具体的にいうと、本研究結果は、一定の条件の下では、過剰競争から生じうる厚生上のロスを補償するため、政策的介入が必要となる可能性を示唆している。第一に、ある種のケースでは、競合紙間で共同業務協定を締結するよう働きかけ、事業運営を統合することが望ましくなるかもしれない。合衆国では歴史的に、メディア産業には幾つかの反トラスト規制の免除が認められてきた。その筆頭は1970年アメリカ新聞保存法 (American Newspaper Preservation Act) である。最近では、「ニュースメディア連合」(合衆国における最大の新聞産業団体) が合衆国議会にたいし、FacebookとGoogleとの交渉を加盟企業が集団的に行うための特例的な許可を獲得しようと画策している。こうした対応策はメディア部門の統合をこのうえさらに強化するよりも望ましいかもしれない。

第二に、本論文での研究結果は、1つの興味深い方策として、メディア組織をより厚遇する方向にその法的・財政的ステータスを発展させてゆく道も示唆している。ほとんどの国のメディア組織は非営利ステータスから恩恵を得ることを許可されていない。そこで私は、例えば、「非営利メディア組織」 ステータスの創出などを提案している (Cagé 2015)。代わって、ジャーナリスト向け税額控除の設定、あるいは一般情報メディアアウトレットにたいする他の形の独創的助成金の創出をとおし、ニュースエージェンシーの支援を強化してゆくというのも、この先のメディア多元性とクオリティの高い情報提供、この双方の確保を考えるうえで興味深い方向性だと思われる。

参考文献

Angelucci, C and J Cagé (2016), “Newspapers in times of low advertising revenues“, CEPR Discussion Paper 11414.

Cagé, J (2015), Sauver les médias: Capitalisme, financement participatif et démocratie, Seuil (English version: Saving the Media: Capitalism, Crowdfunding and Democracy, Harvard University Press, 2016).

Cagé, J (2017), “Media competition, information provision and political participation: Evidence from French local newspapers and elections, 1944-2014“, CEPR Discussion Paper 12198.

Ferraz, C and F Finan (2008), “Exposing corrupt politicians: The effects of Brazil’s publicly released audits on electoral outcomes”, Quarterly Journal of Economics 123(2): 703–746.

Gentzkow, M, J Shapiro and M Sinkinson (2014), “Competition and ideological diversity: Historical evidence from US newspapers”, American Economic Review 104(10): 3073–3114.

Hamilton, J (2004), All the News That’s Fit to Shell: How the Market Transforms Information Into News, Princeton University Press.


訳註1. 元論文には、新聞サイズ (the size of newspaper) というものを、(i)「一紙あたりの記事数」、(ii)「一紙あたりの総文字数」、(iii)「新聞第一面あたりの総文字数」 の3つの基準で計測したとの記述がある。そして新たな一紙の参入があると、(i) は42%、(ii)は53%、(iii) は16%、それぞれ減少するという。これが 「新聞サイズの16-53%の減少」 にあたるようである。論文p. 4、pp. 26-27を参照。


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