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ノア・スミス「ロボットが仕事とりよってん」

[Noah Smith, “Robuts takin’ jerbs,” Noahpinion, March 31, 2017]

K2SO

数学でモデルを書くといいことがある.まだ検証していないままでも,アイディアを具体的に詰められる.たとえば,最近ライアン・アヴェントとポール・クルーグマンがかわしたやりとりを考えてみよう.アヴェントが説明しようとしているのは,「生産性の向上が減速している最中にすらロボットが仕事を奪いうる」ということだ.この論は,これまでにいろんな人たちがめいめいのバージョンを語っている:「もしロボットがみんなの仕事を奪っているのだとしたら,いったいどうして生産性の向上がこうも鈍くなってるの?」 アヴェントの説はこんな具合:

デジタル革命によって,企業が利用できる実効的な労働力の量がものすごく増加した.労働力がたっぷりとうまれたのだ.(…)自動化は,この潤沢な労働力にどう貢献するのだろう? (…)いま自動化が労働力をたっぷり増やす方法としては,単純かつ重要なものが1つある.機械のおかげで人員が1人いらなくなったとき,その人はすぐさま労働力から消えてなくなったりはしない.(…)一般論としては,追い出された職場から別の職場へとすんなりと移行できることもある.だが,この場合にはそれはありえない.(…)この人は,ほどほどの技能レベルをもつ他の人たちとも,機械とも,競争する立場におかれることになる.こうして,ありあまる労働力が1人増える.〔だいたい同じような技能の持ち主ばかりで〕比較的に大差のない大量の労働力を経済が吸収しようとすると,賃金は停滞するか下がっていく.賃金が下がるにつれて,生産性が低い仕事に人を雇う方が経済的になる.すると,生産性の低い仕事の雇用が広まって,総生産性の数字に変化がおこる.(…)第二に,労働力がありあまり,賃金に押し下げ圧力がかかると,労働力を節約する新しい技術に投資するインセンティブが減る.(…)第三に,ありあまる労働力のおかげで,労働者の交渉力が壊滅する.(…)第四に,低賃金と低い労働分配率によって,マクロ経済のエンジンが不発をおこしはじめる.(…)もうおわかりだろう:賃金の伸びと生産性の向上が低調なままで雇用水準がずっと高くなっているからといって,それは技術進歩が残念な状況になっている証拠にはならない.セーフティネットが手薄なために労働力からの退場がすなわち貧困生活につながる世界で急速な技術進歩が起きているときには,まさにこうなるだろうと予想されるのだ.これで納得がいく部分もあれば,納得がいかない部分もある.交渉力の低下で賃金の停滞は説明がつく.だが,賃金の停滞が生産性向上の鈍化とどう整合するのかは説明がつかない.

フェルドーンの法則を信じるなら,マクロ経済の部分は理屈がとおる.でも,それだと自縄自縛になりそうだ――もし技術進歩がいっそう急速になることで賃金に押し下げ圧力がかかり,それが景気後退の悪化につながって,生産性向上がさらに鈍化することになったのだとしたら,景気後退によってロボット化の勢いが鈍ってふたたび賃金が上昇できるようになるはずだ(もしかすると,いま現に起きているのがこれなのかもしれない).

同じことは,長期的なイノベーションにも当てはまる.もしも急速にロボットの技術が進歩することで労働者がいらなくなって賃金が下がり,さらにロボットの技術革新を進めるインセンティブが低下するのだとしたら,そのときに生産性は鈍って労働者にちょっとした安らぎのときが訪れるはずだろう.

この論証でいちばん面白いのは最初の部分だけど,同時に,言葉で書き付けるといちばん理解しにくい部分でもある.「これってたんにボーモルのコスト病なのでは? だとしたら,以前には起こらなかったのにいまになって起きている理由はなんだろう?」

ありがたいことに,ポール・クルーグマンがやってきて,アヴェント説のこの部分を形式化してくれた.アヴェントが言おうとしたことをクルーグマンが正確にとらえたのかどうか,ぼくには確信がない.それでも,クルーグマンのモデルは単純だしそれ自体として面白い.ぼくがときどき軽蔑してる経済学への「単純に形式化された思考装置としてのモデル」をよしとする強力な論になっている.

クルーグマンのモデルは,財が1つと生産プロセスが2通りある経済だ――1つは資本集約的な生産プロセス,もう1つは労働集約的な生産プロセスだ:

graph 1

手法 A で機械を増やしてモノをつくってもいいし,手法 B で人を増やしてモノをつくってもいい.

さて,手法 A では徐々に進歩がなされている一方で手法 B では進歩がないと仮定しよう――ロボットを増やせば増やすほどいっそう安上がりにモノをつくれるようになっていく一方で,人が大勢いても安上がりにモノをつくれはしない.クルーグマンが示すとおり,これは賃金の下落につながる:

graph 2

また,労働集約的な B 部門に労働者が増えることにもつながる.アヴェントが語っていたのも,だいたいこういう感じのことだろう.

なるほどなるほど,ロボットが人に取って代わることと生産性向上の鈍化と賃金の成長鈍化または低下とがどう整合するのか,これで説明がつく.だが,これでは(まだ)説明がつかないのが,2つの傾向の変化だ――ロボット化がいっそう急速に進むことで生産性向上が鈍化すると同時に賃金の伸びも鈍化するという事態は,いったいどういう風に起こりえたんだろう? クルーグマンのモデルだと,もし手法 A の技術進歩が加速すると,賃金の伸びは鈍化していく一方でこの経済における生産性全体の向上は加速していく点に注意しよう.

言い換えると,このモデルだと,「ロボット」部門での生産性加速によって経済全体での生産性向上が鈍化することはありえない.でも,だったらどうすればおこりえるんだろう? 答え:手法 B における生産性向上の鈍化だ.

当初は手法 A と B の生産性が同じ率で伸びていると仮定しよう.すると等量曲線は左下にスライドしていく.このとき,賃金と生産性はともに伸びている.次に,いきなり B の生産性向上が止まり,しかし A の方はさらに向上を続けたとする.すると,経済全体の生産性向上が鈍化し,賃金も伸び悩んだり下がったりする.

つまり,このモデルでは,経済全体での生産性と賃金を低下させるのはロボットの進歩ではないことになる.人間がロボットと競争するのを許す技術停滞が生産性と賃金の同時低下をもたらすんだ.

これを実証的に確かめるのは難しそうだ.というのも,人間を補助するかたちで生産性が向上している場合と人間を機械で置き換えるかたちで生産性が向上している場合をそれぞれ見分けるためには,なんらかの大きな理論的仮定をおく必要があるからだ.だが,ただなんとなくデータを眺めるだけでも,だいたいそれに相当していそうな生産性向上の分岐があるのがわかる.たとえば,1970年代序盤以来,耐久財の全要素生産性は,耐久財以外の全要素生産性よりも急速に伸びている

graph 3

もし耐久財の生産の方が耐久財以外の生産(多くのサービスも含む)よりもずっと資本集約的だと考えるなら,これは,労働集約的な生産プロセスの鈍化が一般的に進行中だというサインなのかもしれない(エネルギーが高価になった結果? 教育の普及が一段落した? なんらかの政府政策?)

ともあれ,アヴェント説がクルーグマンのモデルで機能するためには――ロボット化が生産性向上の鈍化と賃金停滞の両方の原因となるためには――ロボット以外の技術で鈍化が起きているのでないといけない.

面白いことがあって,この文章を書いている途中で,アヴェント説が Autor et al のいう「産業集中」仮説と組み合わさる可能性が思い浮かんだ.Autor et al. は,所得の労働分配率が企業内で上がっていないという観察から「ロボット化」説に疑いを投げかけている:

関連要因の価格変化はさまざまな企業で似たり寄ったりなので,関連設備の価格が下がるとあらゆる企業で資本の採用が伸びると同時に労働分配率が下がる傾向にある.Autor et al. (2017) では,その逆が見いだされている:さまざまな企業での重み付けをしていない労働分配率の平均値は,1982年からあまり伸びていない.このため,平均的な企業では労働分配率がわずかに下がっている.全体の労働分配率低下を説明するには,さまざまの異質な企業から労働分配率が低くしかも低下中の企業に活動の再配分がおきているのを研究しなくてはならない.Autor et al. では,ごく一握りの「スーパースター」企業がますますその産業分野を支配するようになり,独占力が高まることで市場は縮小し計測される生産性も低下しているにもかかわらず利益は伸びていると主張している.

では,どうすればアヴェントの「ロボット化」説をこれと調和させられるだろう? まあ,クルーグマンのモデルを見てみよう.そして,こう想像してみるといい――「スーパースター」企業は手法 A を使う企業なのに対して活力のない企業は B を使っているとしよう.クルーグマンの理論には独占競争は含まれていないけれど,資本集約的な手法 A に規模の経済がはたらいて A を使っている企業は大きくなり B を使っている企業は少なくなっていくというのは想像にかたくない.すると,B の進歩が鈍化すると,A を使う企業にリソースが移っていき,ますます産業集中が起こる一方,全体の労働分配率は低下しつつも各企業での労働分配率には影響がでない結果となる――これこそまさに,Autor が見いだしていることだ.そして,これが経済全体の生産性を鈍化させ賃金を停滞させることにもなる.

よくできた話だ.とはいえ,根本のところでこれが意味することは昔ながらの話だ.つまり,経済におこるいろんな問題の根っこの原因は技術の加速ではなくて技術の鈍化だってこと――ロボットが隆盛するのが問題なのではなくて,いま隆盛しているのがロボットしかないのが問題なんだ.


Comments

  1. 山形浩生 says:

    全要素生産性のグラフの直後の段落、「エネルギーが効果になった結果」は「エネルギーが高価になった結果」でしょうか?(最初は省エネが進んだ話かと思ってしばらく考えてしまいましたが)

    • optical_frog says:

      ご指摘の通り「高価」の変換ミスです.修正しておきました.ご指摘助かります.

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