Paul Krugman, “Troubles in Turkey,” Krugman & Co., Feb 7, 2014. [“Istanbearish,” January 30, 2014]
トルコの問題
by ポール・クルーグマン
「来週は危機など起こりえない.もう私のスケジュールはいっぱいだぞ」
――ヘンリー・キッシンジャー
はあ,そんなん必要でしたっけ? トルコ? トルコに注意を向けてた人なんていたっけ? もちろん,一部にはそういう人もいただろう.仕事でね.
ちょうど1ヶ月前,国際通貨基金は,国の経済情勢調査 (Article IV consultation) の最新結果を公表した――これは,一種の早期警戒システムを提供するよう想定されてる定期報告書だ.読んでみると,いくつか懸念事項が述べられている.たとえば,IMF によると:「もっとも懸念される側面は,金融以外の企業の短期 FX ポジションが広まっていることが挙げられる.これは,2008年に780億アメリカドルだったが,いまでは1650億アメリカドルになっている.」
ところが,同報告書はさらに進んで,このリスクは大きくないと示唆している.理由はあれこれあるけれど,その1つは「変動為替制度は為替レートの急激かつ大幅な調整がなされる確率を減少させる」からだそうだ.
ええっとね,ちょっとこのグラフを見てもらおうか.
定性的に言って,これは古典的な新興経済市場危機らしく見える:外国資金がなだれ込んで,急激に民間部門の外国通貨建て債務が伸び,そのあと外国のお金はきびすを返して逃げ出してしまう,というパターンだ.
定量的に見ると,これはそんなにわるくないはずだ:トルコの対外債務は GDP のたった40パーセントにすぎない(または,同国の通貨「リラ」が急落する前はそうだった).おそらく,トルコ企業がどこもかしこもそんなにレバレッジをかけているわけじゃないだろう.他方で,通貨危機だけでなく,政治的な危機もある.
そうね,それに新興経済市場での悪影響の伝染もね.すてき.
こうしたことはすべて,いまだに低調でますますデフレのリスクを高めつつある西洋諸国の景気回復で起きている.最近のコラムで,「BRICSの信用バブル終息にともなう世界的なデフレショックのリスク」と題して,『テレグラフ』の国際ビジネス編集者アンブローズ・エヴァンズ=プリチャードは,ぼくならそこまで言わないくらいの調子で文章をつづってる――こうした経済は,非常に小さいか(トルコ,南アフリカ),あるいは多大な債務を負っているか(インド),そのどちらかだそうだ.でも,これは明らかにいま必要とされることじゃない.それに,偶然こうなってるわけでもない.
長期停滞論を真剣に受け取るなら――真剣に受け取るべきだ――いい投資機会があまりに少ないなかで,それをとりあう貯蓄はあまりに多すぎるという慢性的な問題を考えなきゃいけない.つまり,実際にはそうでもないのにお金の方で「いい行き先がたくさんある」と思い込むと,人々は先行き順調だと感じるけれど,まもなく実態が判明してひどい結果がもたらされることになるって問題がある.
ボスフォラス海峡でおきてる展開に追いついたら,この件についてはまたたくさん書くかも.
© The New York Times News Service
【バックストーリー】ここではクルーグマンのコラムが書かれた背景をショーン・トレイナー記者が説明する
投資の苦しみ
by ショーン・トレイナー
先日,アメリカ連邦準備制度は,量的緩和刺激プログラムの規模縮小をはじめる意志決定を下した.この決定により,投資家たちはアメリカ資産に再び引き寄せられ、間接的に、一部の新興経済市場で問題を引き起こしている.外国資本の流入が劇的に減速しているのだ.
たとえば,トルコの対外債権は干上がってしまっている.これにより,リラの価値は急落することになった.1月下旬に開かれた緊急会議で,同国の中央銀行は主な金利を急激に引き上げた.7.75パーセントから 12パーセントへという上げ幅だ.これは,外国資本にとってトルコへの投資をより魅力的にし,通貨を安定させようという試みだった.ところが,この動きは外国投資家たちにほとんどなんの効果ももたらさなかった.外国投資家たちは,もっと安全な先進国経済の資産で利回りがもっと高くなるだろうと見ているのだ.
1月29日に,Marketfield Asset Management の最高経営責任者 Michael Shaoul は,覚え書きでこう主張した――トルコは「両方の世界で最悪の状況を迎えているように見える.」 彼はこう続ける:「地域の経済活動は,大規模な金融引き締めによって制約されると予想できる.その一方で,上下変動と通貨がまだ下落する可能性があることから,利回りを上げたところで外国投資家たちは引き寄せられそうにない.」
この難局に加えて,トルコ首相レジェップ・タイイップ・エルドアンは,汚職スキャンダルの渦中にある.このスキャンダルは,トルコ建設業界の大物と結びつきがあるとされたを発端に拡大している.『ニューヨークタイムズ』の Tim Arango 記者はこう記している:「ある程度まで,トルコとエルドアン氏はみずからの成功の犠牲者でもある.魅力的な投資環境をつくりだし,ドル建ての貸し付けを何十億ドルももたらしたという成功の犠牲者だ.」 しかし――と Arango氏は指摘する――「そうした資金の多くは,インサイダーたちの集団に集中して流れ込んだ.彼らはモールその他の建設で一財産を築いたが,そうした建設は,時を追ってますます頑健な経済的基礎を欠くようになっていった.」
© The New York Times News Service