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サイモン・レン=ルイス「最低賃金、買い手独占、田舎街」

[Simon Wren-Lewis, “Minimum Wages, Monopsony and Towns,” Mainly Macro, January 4, 2018]

アラン・マニングが、『フォーリンアフェアーズ』誌に最低賃金に関するじつにいい論考を書いている。最低賃金が雇用におよぼす影響は経済学でも政治的な負荷のかかった問題で、その点でたいていのマクロねたに似ている。最低賃金の場合、戦場となっている舞台は実証だ。人々が主流経済学について「どうしようもないほどネオリベラルだ」と非難する時、よくこの最低賃金論争を思い浮かべる:マニングがいう経済学101(学部1年生むけの講義)〔が教える最低賃金のはたらき〕とデータが食い違っているのを示したのは主流経済学者たちだった(デイヴィッド・カードとアラン・クルーガー)。それに、いまもこうした結果を見つけ続けているのも主流経済学者たちだ。
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サイモン・レン=ルイス「移民の政治化」

[Simon Wren-Lewis, “The politicisation of immigration,” Mainly Macro, December 16, 2017]

ここに書く話はイギリスの経験にもとづく議論だけれど,アメリカにも同じように当てはまるように思う.

どうして右派の政治家たちは反移民プラットフォームを押し出しているんだろう? わかりきった答えを言えば,「移民は彼らの支持者にとって重要な問題だから」だ.これは確かに正しい.しかし,他にもさらに要因があると思う.これを例示しているのが,下記のグラフだ.先日『フィナンシャルタイムズ』にセバスチャン・ペインが書いた記事に載っている.
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サイモン・レン=ルイス「長期停滞と3世代OLG(世代重複モデル)」(2014年4月13日)

Secular Stagnation and Three Period OLG (mainly macro, 13 April 2014) Posted by Simon Wren-Lewis 

 

マクロ経済学者用。このポストはEggertssonとMehrotraによる長期停滞に関する新しい論文の紹介である。例のごとく、あらゆる解釈ミスは私の責任である。

長期停滞の裏にある基本的なアイデアは、長期にわたって自然実質金利がマイナスになっているであろうことである。実質金利が定常的にマイナスになるモデルができればシンプルだ。それは基本的な代表的個人モデルでは生じない。代表的個人モデルでは(成長の無い場合の)定常状態の実質金利(r)は以下のようになる。

1+r = 1/β

β<1は効用割引因子である。 人口成長(人口成長率=n)を入れると、以下のようになる。

1+r=n+1/β

人口成長率nの低下が実質金利を下げるということに留意してほしい。このことは、長期停滞と人口成長低下を結び付けようとするときに有用な分析結果だが、この分析では金利は時間選好率以下にはならない。

スタンダードな2世代OLGでは、より柔軟な結果が得られる。仮に主体が第一期だけ労働を行うとすると、当該主体は労働期から退職後の間のスムーズな消費を可能にするために貯蓄する必要がある。資本に投資することで貯蓄を行うことを可能にし、 αをコブ・ダグラス型生産関数の資本指数とすると、対数効用を含めた定常状態の実質金利は以下のようになる。

r=k+kn ただし k = α(1+β)/β(1- α)

仮に1期を約25年とすると、βは0.5となり(単年 β = 0.973)、α = 0.4ならk=2となる。そうすると人口成長減少の実質金利に対する影響は増幅される。しかし、定常状態の実質金利は代表的個人の場合より高くなるだろう。(もしn=0でb = 0.5,なら、r=1とr=2がそれぞれ得られる。25年間の場合、これは単年金利2.8%~4.5%に相当する)

三世代OLGの設定では、資本抜きで貯蓄を成立させることができる。中間年齢層が働き(所得Yを受け取る)、彼らが若年層に貸し付け、引退層は現在の中間年齢層から払い戻しを受ける。しかし、信用摩擦から若年層の借入可能量である利払い総計がDに固定されると仮定し、d=D/Y<1であるとしよう。中間年齢層は引退後も消費出来るように彼らに貸し付けたいと考えるため、定常状態における融資供給は(対数効用を用いて)以下のようになる。

β (Y-D)/ (1+β)

ここでは、Y-Dは、若い時の借入の返済を加味した中間年齢層の純所得である。融資需要は以下の通り。

D(1+n)/(1+r)

借入制限は利子総計である。したがって、何の人口成長もない場合、実際の借入はD/(1+r)となる。人口成長がある場合は、若年層が中間年齢層より多くなるので、それに応じて融資需要を大きくする必要がある。実質金利は需給を均衡させ、以下の通りとなる。

1+r=j+jn ただし j = (1+β)d/β(1-d)

ここで、dが小さい場合、jは1より小さくなり、(人口増加率減少によってなお金利が減少するとは言えども)人口増加率の金利への感応度は小さくなる。しかし、このことは総金利(1+r)が1より小さくなることも意味しており、こうして定常状態の実質金利がマイナスになりうる。
中間年齢層は引退後のために貯蓄する必要があるが、その唯一の方法は若年層に融資することである。実質金利が高ければ高いほど、(信用摩擦のせいで)借入できる若年層は少なくなる。そうした状況では、実質金利は容易にマイナスになる。なぜなら、そのときにしか、中間年齢層の引退後のスムーズな消費を可能にするのに十分なだけ若年層が借り入れ可能にならないからである。

EggertssonとMehrotraの研究の重要な分析成果は、信用収縮――Dの下落――が実質金利をマイナスの領域まで引き下げ、それによって長期停滞を生み出し得るということである。彼らはどのようにして不平等をモデル内に取り込むかを考え、モデルを名目のフレームワークに埋め込むことにした。名目賃金硬直性を(私がここで議論したSchmitt-Grohe and Uribeのペーパーと似たメカニズムを用いて)加え、金融政策・財政政策のインプリケーションを考察した。私はここのペーパー(リンク切れ)にしか目を通していないが、三世代OLGセットアップはスタンダードではないので、このポストは有用だろうと考えている。

サイモン・レン=ルイス「金権政治を民主制扱いしていたら民主制は死ぬ」

[Simon Wren-Lewis, “If we treat plutocracy as democracy, democracy dies,” Mainly Macro, December 2, 2017]

「ガマの油売り」

イギリスのEU離脱とトランプには類似点がたくさんある.どちらも権威主義的な運動で,ただひとりの人物についてであれ,ただひとつの国民投票(みんなの目をくらませてしまった投票)についてであれ,権威者が嘘をついている.この権威者は,運動のアイデンティティを体現している.どちらの運動も非合理な運動だ.つまり,運動の願望と衝突してしまうときには専門知識を脇に置いてしまう.その結果として,運動の支持基盤はあまり教育水準の高くない人々になっているし,大学は彼らにとって敵と目されてしまっている.どちらのグループもナショナリズム色が強い:どちらもアメリカやイギリスを再び偉大にしたがっている.
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サイモン・レン-ルイス「政府債務恐怖症とその治療法」(2017年12月5日)

Government debt phobias, and possible cures
(Mainly Macro, Tuesday, 5 December 2017, by Simon Wren-Lewis)

木曜の私の投稿邦訳)とNew Statesmanに書いた記事を受けて,たくさんのコメントをもらった.だいたいはこんな流れに沿ったものだ: 「言おうとすることはわかるけど,この国はこれ以上の債務に耐えられないじゃないか.」これはたいして驚くような話ではない.7年かそれ以上もの間,政治家やメディアがひっきりなしに英国はクレジットカードの限度額いっぱいまで使ってしまったなどという俗論を流し続けたのだから,たくさんの人々が,英国政府の債務は深刻な問題だと刷り込まれてしまっているのも無理はない.(英国だけの話ではない.米国の同様の話のまとめがここにある.) [Read more…]

サイモン・レン-ルイス「マスコミ式マクロ経済学は(残念ながら)健在なり 」(2017年11月30日)

Mediamacro is alive and well, unfortunately
(Mainly Macro, Thursday, 30 November 2017, by Simon Wren-Lewis)

アンドリュー・ニールがジョン・マクドネル1インタビューした番組は見なかったが,どうやらマスメディアがいつもの政府債務の利子(と,労働党政権になったらそれがどんなに増えるか)に対する妄念を見せはじめたらしい.ペストンのインタビューは見た.彼も似たような質問をしていた(ここ).マクドネルはうまく答えていたが,ペストンがその質問をしなければと感じたということは,マスコミ式マクロ経済学(mediamacro)が未だに健在だということだ. [Read more…]

  1. 訳註: 労働党の影の内閣の財務大臣 []

サイモン・レン=ルイス「政府負債は将来世代の負担か?もしくは最後の世代のパラドックス」(2011年12月30日)

Is government debt a burden for future generations? or the paradox of the last generation.mainly macro, December 30, 2011)
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クルーグマンが「負債は(ほぼ)我々が自分自身に負うカネだ」と題された良いエントリーを書いている。その論点は、学生がマクロ経済学がミクロ経済学とどう異なるか理解するのを助けるために私もしょっちゅう使っているものだ。政府は負債の金利を支払うために増税しなければならないので、政府負債は納税者の「負担」であるように見える。しかし当の納税者が貸し手であるならば金利を受け取るわけで収支は全く悪化しない。さて、この考え方はもっと拡張することができるだろう。政府が(必要と思われているより)余分に借り越す分について、それが将来世代の負担になると考えるのは確かに筋が通る。

議論に踏み込む前に二つのファクター、非常に重要だがここでは無視するファクターについて述べておくべきだろう。第一に、増税はインセンティブを歪めるため、そのコストがかかると言える。第二に、政府負債は資本を創出する他の貯蓄ツールと置き換えることができるので、投資や資本蓄積を減らし、さらに産出も減らす面がある。以上のこの二点についてはもっと論じるべきことがあるが、それは別の機会に譲る。ここではトータルの収支に焦点を当てたいので上記二点は考えない。

次のような明白なパラドックスを考える。一時的な減税によっていくぶん負債が増えたとする。この減税された世代を「減税世代」と呼ぼう。また、この負債は「永続的」なものとする。決して返済されることはなく、また貸し手は金利を受け取り続ける。この債権は国内に売られるものとする。当然、減税された人の収支は改善する。ここで上に書いたように、将来世代の単純収支は悪化しない。つまり、全体としては税金は取られるが、金利で返ってくる。フリーランチを得ているように見える。減税世代は恩恵を受け、将来世代は損をしない。
(ここはミスがある。下のニック・ロウのコメントと私の返答をみよ。どういうミスなのかは別のエントリにて。ここの議論への影響はない。)

このパラドックスの原因は何だろう。では、この負債が永遠ではなく千年後に返済しなければならないものだとしてみよう。その時政府は増税して負債を返す。千年後に税金を払うこの世代はずいぶん損をする。この世代の収支は減税世代の恩恵と同じだけ悪化する。この場合パラドックスは消えている。返済しなければならない最後の世代が存在しない場合にパラドックスが現れる。

賦課方式の社会保障スキーム(未積立て)にも同パラドックスが現れる。政府が年金制度を創設するとする。働いている世代が拠出したお金を使って年金を支払われるというものだ。この制度を導入する際にちょうど引退の時期に当たった人の収支はとても良くなる。「タダで」年金を受け取れる。引退の時に受け取る年金を支払った人も基本的に損はしない(基本的に、と書くのはこの「強制貯蓄」からのリターンがどのくらいかの心配もするべきだからだが、この議論では戻ってくるということ自体が重要だ)。ここでもまたフリーランチを得ることになるが、それはこの年金制度に終わりがないということが前提だ。終わりがあるならば、最後の世代が積立を支払ったのに年金が受け取れないということになる。彼らの損失は導入の時に引退した人々が得た恩恵に相当する。

このように、必ずしも政府負債が将来世代の負担であるとは限らない。決して返済されないとしたら。ただし、これは現実的で賢明な想定ではない。私の考えでは意味を持つのは次の場合だ。長期の負債計画を持つ政府は、目標値を超えた分の負債はどこかで返済しなければならないとする。もしそうなら、いま負債増加はそれを返済する将来諸世代の負担になる(政府はゆっくり負債を目標水準に戻すので)。

緊縮でなく財政出動を推進する我々は、これによって今考えを改める必要があるのだろうか。ノー。トータルで見て、便益がコストを上回り続けているだろう? 1930年代の大恐慌を避けるためだった拡張的財政が今の税を少し高くしているからといって、やらないほうがよかったという議論を本当にしたいだろうか? そんなわけはないだろう。

(以下、コメント欄から訳者抜粋)

Nick Rowe 14 January 2012 at 21:26

サイモンへ。もし自分が誤解していなければ、少しおかしい。
標準的な世代交代モデルで、永続的な負債とすると、その金利を支払うための税を課される世代はすべて収支悪化となる。生涯消費の現在価値という意味でも、生涯効用の意味でも。直感としては、有利子の場合、全員が消費を後ろに延期する形になるとし、得られる利子の方は代表的個人にとって(一括税として)得た瞬間に課税されて相殺となる。

しかしながら、永遠にその金利が成長率を下回るならば、その負債は増税することなく永遠にロールオーバーすることができる。将来世代の負担がゼロになるのはその場合だけだ。サミュエルソン58。

一時点で捉えるとこの負担を見逃してしまう。そうではなく、各世代の生涯消費(または生涯効用)の現在価値で見る必要がある。

僭越ながら、クルーグマンはこの見逃しをしている。

君はこれについての私のエントリを読んでくれただろうか。


Mainly Macro 15 January 2012 at 11:11

ニックへ。君が正しい。超過負債は返済すべきものであるがゆえに将来世代の負担になるという論点に注力したので、クルーグマンの展開した議論には無批判になってしまった。基本的な論点を混乱させないように、ここでは他の貯蓄ツールとの比較や、動学効率性、リカードの等価定理を避けたのだが、上で書いた返済されない負債の例はご指摘の通り、少しおかしい。(悔しいが、おそらくポールに対するブラッドの言い回しに気を取られてしまったせいで、知っていたはずのことを忘れてしまった。)
とは言え、これでエントリの基本的なメッセージが変わるとは思わない。これは税の歪みやクラウディングアウトと同種の問題で、超過負債が永遠であるべきと考えるのは間違いだ。だからもしそうだったら(それが負担であろうがなかろうが)何が起こるかについての議論は、政策的な関心と言うより、学術的な関心からの議論だ。

サイモン・レン=ルイス「バーナンキと民主的ヘリマネ」(2016年5月4日)

Simon Wren-Lewis, “Ben Bernanke and Democratic Helicopter Money (Mainly Macro, 4 May 2016)

「責任のある政府は文字通りお金を空から降らしたりはしないが、その事実を持ってフリードンマンの思考実験の理論を探求することを妨げてはならない。フリードマンの思考実験とは、極端に明確な形で、政府がデフレに屈してはならないのはなぜかという理由を示すために考えられたものだからだ。」 [Read more…]

サイモン・レン=ルイス「アマチュア科学者としてのジャーナリスト」

[Simon Wren-Lewis, “The journalist as amateur scientist,” Mainly Macro, November 4, 2017]

ポール・ローマーが2種類の言説についてここで語っている.政治的な言説と科学的な言説の2種類だ.この区別を使って,ローマーはいま経済学者たちがやっている営みのいろんな側面を批判している.ここでは,同じことをジャーナリズムについてやってみたい.
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サイモン・レン=ルイス「イギリスで利上げすべきでない理由: 手短に」

[Simon Wren-Lewis, “A short guide to why we should not raise UK interest rates,” Mainly Macro, October 30, 2017]

木曜に金融政策委員会が利上げするだろうと誰もが予想している.そんなことをすれば,失敗になるだろう.金利変動をめぐる報道の議論は,通例,経済状況に関する大量のデータやグラフが盛り込まれる.ここでは,その反対のことをやりたい:つまり,イギリスでいますぐ利上げするのが過ちだということを理解するのに必要最小限のことだけを提示したい.
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