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サイモン・レン-ルイス「政府債務恐怖症とその治療法」(2017年12月5日)

Government debt phobias, and possible cures
(Mainly Macro, Tuesday, 5 December 2017, by Simon Wren-Lewis)

木曜の私の投稿邦訳)とNew Statesmanに書いた記事を受けて,たくさんのコメントをもらった.だいたいはこんな流れに沿ったものだ: 「言おうとすることはわかるけど,この国はこれ以上の債務に耐えられないじゃないか.」これはたいして驚くような話ではない.7年かそれ以上もの間,政治家やメディアがひっきりなしに英国はクレジットカードの限度額いっぱいまで使ってしまったなどという俗論を流し続けたのだから,たくさんの人々が,英国政府の債務は深刻な問題だと刷り込まれてしまっているのも無理はない.(英国だけの話ではない.米国の同様の話のまとめがここにある.)

7年以上にもおよぶ調教をどうやったら取り消せるだろう? 何を恐れているかによってある程度変わってくる.5つ挙げよう.

1. 国が破産してしまう
2. いったいいつ債務を完済する?
3. 利払いより役に立つお金の使いみちがあるだろう
4. ただ政府債務の利子を払うためだけの増税はいやだ
5. 子どもたちへの「負担」はどうなる?

1. 国が破産してしまう

単純な真実(ただしメディアは言わないこと)だが,変動相場制で自国の中央銀行を持っている英国のような国では,政府を無理やり破産させることは決してできない.中央銀行が政府の債務を買い取ってしまえるからだ.

これはもちろん,まさに世界中で起きていることだ — 中央銀行は政府が破産するのを避けようとしているわけではないが,長期金利を低位に保とうとして量的緩和(お金の創造)を行っている.たとえば,英国の中央銀行であるイングランド銀行は英国政府債務の約1/4を所有している(ソース).どういうことかというと,民間銀行が政府債務を買いたくないようなそぶりを少しでも見せたら,中央銀行がインフレを制御するという政策の一環として買い入れてしまっただろう 1ということだ.

結局のところ中央銀行は政府の一部門であり,したがって必要なら常に政府の債務を買い入れる.これが,政府を破産に追い込むことが不可能である理由だ.高水準で,上昇を続ける債務が制御不能なインフレにつながる可能性はあるだろうか? ある.ジンバブエが示すとおりに.インフレ率が目標よりずっと高いのに中央銀行が大量のお金を作り続けているならば,そういう心配をしてもいいだろう.インフレ率が低くて目標に近い場合にそんな可能性を心配したら,それは阿呆だということになるだろう.

2. いったいいつ債務を完済する?

とにかく,政府の債務を個人の債務と同じように考えるのはやめよう.どう違うかというと一つには個人は死ぬが国は(したがって政府も)決して死なないという点だ.永遠に生きるとしたら,債務を完済する心配なんかするだろうか?

〔債務を利用して〕やるべきことは2つ.1つ目は,債務を使って投資の費用を長い期間に薄く引き伸ばすことだ.これには馴染みがある人も多いだろう.たくさんの人が不動産ローンで家を買ったり,ローンで車を買ったりしているのだから.2つ目に,債務を使って収入の変動を均すことだ.つまり不調な時には債務が増えるのを容認し,好調なときに債務を減らすのだ.政府もこれと全く同じだ.だから,政府がすべての債務を返済しなければならない理由は全くないが,債務とGDPの比率は不況時に上昇し,好況時には減少する.

とても長い期間でみた時,GDPに対してどのくらいの水準の債務を政府は目指すべきなのだろう? これは非常に興味深い良い質問だが,答えたければ経済学者になるしかないと思う.マクロ経済学でも未解決の問題なのだから.

3. この債務の利子はぜんぶ,もっと役立つことに使えたはずじゃないか.看護師にもっと給料を払うとか.

この誤謬は,まさに私がNew Statesmanの記事で取り扱おうとしたものだが,この誤りを叩き潰す方法をもう一つここで挙げておこう.利子の支払いをただやめてしまうというわけにはいかない.そんなことをしたら政府が債務不履行(デフォルト)してしまうことになるからだ.すると,利子の支払いのかわりに看護師にもっと支出するための唯一の方法はすべての政府債務を完済することということになる.そのためには,増税するか支出を削減しなければならない.支出を削減するということは看護師への支払いを減らすということだ.また,債務の完済には(革命を起こしたくないとすると)おそらく30年はかかるだろう.つまり,30年間看護師への支払いを減らすと,その後やっと看護師への支払いを増やせるわけだ.

だからといってこのアイデアが間違いということにはならない.しかし,”債務の利子を明日にでも何か役立つものに取り替えられる”なんていう不可能なアイデアほど魅力あるものには見えないのはたしかだ.

4. ただ政府債務の利子を払うためだけの増税をなぜ受け入れなきゃならないんだ

この問いに答えるには,利子の支払いを受け取るのが誰なのか尋ねる必要がある.すでに述べた理由から,こうした利払いの1/4は量的緩和政策の結果としてイングランド銀行へ渡ることになる.そしてイングランド銀行はこの利子を政府に返す.言い換えると,英国政府の債務の1/4は政府自身に返済することになるわけだ.2

英国政府債務の半分は英国の民間部門が所有している.このうち大多数は保険会社や年金ファンドだ.言い換えれば,政府債務の利子は部分的にあなたの年金の支払いの助けとなるわけだ.そして,もし何かの魔法のせいで政府債務が消え失せ,年金ファンドが買えなくなったとすると,ファンドはかわりに他の,政府債務より望ましくないものに投資せざるを得ないことになる.英国に住んでいて,いくらかでもお金をnational savings3 として貯金しているなら,それも政府の債務だ.この債務の利子はその人に渡る.

ここでぜひ覚えてほしい重要なポイントは,政府の債務は必ず誰かの資産になるということだ.もしこの債務の利子のせいで,年金の受け取りその他で取り返すより多くの税金を結局支払うことになると思うならば,債務は分配に関する問題だということになる.あなたが不満な点は,税を払う(そのほんの一部が債務の利払いに使われる)のに,政府債務を買い入れ利払いを受け取ることができるほどの財産はないということに対してであるわけだ.これは正当な不満ではあるが,所得と財産がどのように分配されるかというもっと一般的な問題に関する不満であって,政府債務に固有の問題ではない.

それに,こういう論点もある.〔債務が多いと〕支払う税金が増えるのに,それがちっとも自分には(あるいは自分の年金には)戻ってこないから政府債務を減らしたいと思うわけだよね.政府が債務を減らすにはどうやると思う?あなたが払う税金を上げるんだよね,もちろん.

さて英国の政府債務の残りの1/4,あなたが払った税金を政府が債務の利子として結局海外へ払うぶんへとたどり着いた.たしかに利子のこの部分は無駄だ.海外の誰かに渡って,英国に居るものには渡らないのだから.でもこう考えてみよう.政府債務が全て国内で保有されているとしよう.そして,どこかの年金ファンドが,自分の持っている政府債務と,ある海外の資産を交換した方が得になるとわかったとしよう.この年金ファンドは損するだろうか?いいや,計算があっていれば得をするだろう.こうして政府債務の利子のいくらかが海外に支払われるようになったからといって,英国内の他の誰も損をしたりしないだろう?英国の多くの人々が同じことをしても,やはり問題はない.したがって,海外に債務を直接的・間接的に売ったとしても全く何の違いもない.懸念すべきはやはり分配の問題だということになる.

この点について別の言い方で説明すると,政府債務を再編成して,利子を補うための増税分を支払った人が全員,その利子を(直接に,あるいは年金を通じて間接的に)受け取って自分の財産とすることも可能だろう.この意味で,政府が債務について支払っている利子は,我々自身に支払っているようなものだ.ある個人にとってそうなっていないとすれば,その差異こそが分配の問題4なのだ.5

5. 子どもたちはどうなるの?

理論的には,現在の世代の政府が莫大な支出と減税の大盤振る舞いをして,請求書の支払いを将来の世代にまわすということも考えられる.しかし,この10年に起きているのはそういうことではない.債務が積み上がったのは大規模な不況のせいだし,政府の赤字は不況のインパクトを和らげる役に立った.赤字が増えるのを避けるために子どもの教育をやめるべきだっただろうか?もちろんそんなことはない.そんなことをすれば将来の世代に害をもたらしてしまっただろう.政府は赤字が増えるのを避けるために失業者への福祉をカットするべきだっただろうか?それもまた,子どもたちにダメージを残すというはっきりしたエビデンスがある.政府は,緊縮策に乗り出して,公共投資を削減し,将来の世代に損をさせるべきだったか?そんなことをすべきではなかった.

将来の世代への債務の負担が心配だからといって赤字を減らすために公共投資をカットしたり,長期間続く効果をもたらす教育や健康への政府支出をカットしたりするのは,率直に言わせてもらえば,馬鹿げている.助けたいと言っているまさにその人々を傷つけていることになるのだ.

じゃあ,政府債務の心配は絶対しちゃいけないの?

今日の経済において,政府債務が全く問題にならないと言ったら大きな過ちということになるだろう.ある種の単純な黄金律がここでは成り立っている.良い時期には,政府は債務を減らすべきであり,すなわち債務のGDP比を小さくしていくべきである.良い時期かどうかどうすればわかるだろう?政治家に聞いてもわからないのは明らかだ.時期が良いことを示す信頼できる徴候のひとつは,利子率が下限よりも充分に高いということだ.利子率がそこまで高ければ,利子率を引き下げることで財政健全化(赤字の縮小)がもたらす需要へのマイナス効果を完璧に和らげることができる.この理由から,緊縮策 – 悪い時期の財政健全化 – は英国のような国の経済にとって全く不必要なのである.

MMT派の読者へ

おっとそのコメントを書き始める前にちょっとした点を.MMTの世界では金融政策でなく財政政策がインフレを安定化するので,政府債務や政府の赤字については(インフレへの影響を除けば)心配する必要が全く無い.そういう世界がお望みなら,”財政政策こそが政府がインフレを制御すべき方法だ”と言えばいい.しかし現状(ゼロ下限にある場合を除いて)政府はインフレ率の制御手段として利子率を用いている.だから,”債務については心配しなくていいよ”と主張する際にはインフレの制御法の部分についても言及しないと(控えめに言っても)混乱を招く.

要約

以上すべては,次のようにまとめられる.政府が債務を増やすのが全く適切であるような場合はたくさんある.利子率が非常に低い時に投資するというのは,そういう場合の一つであり,不況時もまたそうである.どんな場合でも,どんな代償を払ってでも政府は債務を減らすべきだというやつらは無視せよ.そいつらは馬鹿か,何らかの思惑を隠しているかのどちらかだ.

良い時期,すなわち利子率が今より高い時に政府が債務を減らすのも適切である.6 しかし,民主政の経済先進国において,債務の増大(債務バイアスと呼ばれる)が問題となるのはディスインセンティブ効果などといったエコノミッキー(経済学っぽい用語)に関連した話であり,「俺たちみんなもう破滅しちゃう」なんていう話ではないのだ.債務を増大させるのを恐れてはいけない.増大させなければならない状況では.

 

  1. 訳註: 金利が少しでも上がった(国債価格が下がった)ら買い入れる政策をとってきたので金利が低く保たれてきたということ. []
  2. 原註[1]: 中央銀行が保有する政府債務は,なぜ債務として扱うのか?答えの一つは,いつか中央銀行が民間部門に売却するかもしれないから,潜在的には支払い義務のある債務だというものだ.しかし,中央銀行は償還期限まで保有し続けるかも知れず,その場合支払い義務は生じないことになる.別の理論は,中央銀行が保有する政府債務も数字に含めたほうがより恐ろしげに見えるからというものだ. []
  3. 訳註: 郵便貯金を起源とする英国の公的貯蓄銀行 []
  4. 訳註: 総計としては,国民全体が国民全体へ払っているのと同じだが,個々人を見ると,支払いより多く受け取る人と少なく受け取る人が出て来るので,その間の分配の問題ということ. []
  5. 原註[2]: もちろん自分の税が〔ちょうど〕この利子の支払いになっているかどうかは誰にもわからない.たとえそうなっているとしても,まだ問題は残っている.税が一括税ではないためディスインセンティブ効果が働くというものだ.これは政府債務を低位に保ちたいという理由付けとして正当なものだが,ほとんどの人が心配するような理由ではない. []
  6. 原註[3]: 現在の米国はどうだろう?共和党の税制法案が赤字を増やすという心配をするべきだろうか?利子率が下限を離れて上昇しつつある現在,私は心配すべきだと言いたい.特に,減税の恩恵を最も受ける層がその分を消費に回しそうにないからだ.だが,もっとずっと懸念すべき理由は,これが大多数の人々から富裕層エリートへの移転であるからだ. []

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