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アレックス・タバロック「テクノロジーの文化的継承:試行錯誤で学習…はしないけど改善はするみたい」

[Alex Tabarrok, “Improving But Not Learning by Doing,” Marginal Revolution, October 4, 2018]

名著『人類が成功した秘訣』で,ジョー・ヘンリックは知性がもたらしたのではない複雑な技術製品や営みの事例をいくつも挙げている.そうした製品や営みを産み出したのは,仕組みをろくに理解しないまま文化的に世代をまたいで継承されてきた無数のささやかな改善の積み重ねだ.Derex et al. は,この文化的な世代継承仮説を検証するたくみな実験を披露している.

実験の参加者たちには, いくつかの重りがついた車輪が用意された.重りは4軸にそって動かせる.重りをうまく動かして車輪がレールを下る速度をできるだけ速くするのが,参加者たちの仕事だ.この問題はかんたんではなかった.最適な解決法には,重りを別々の位置において慣性と位置エネルギーを利用する必要があるからだ.参加者たちは5列にわけられた.各参加者は5回の試行ができる.最後の2回の試行で決めた重りの配置と結果は,同じ列にいる次の参加者に伝えられた.こうして,列のあとの方にいる人たちほど,より多くの文化的知識を「継承」できるわけだ.

「で,結果はどうなったの?」 まず,世代交代を経たすえに,車輪の速度は上がった.第一世代の試行1回目では 123.6m/h だったのが,第5世代の最終試行では 147.7m/h にまでのびている.さらに,車輪の速度を変える原因について参加者たちが理解を深めたのかどうかを検証するために,研究者たちはいろんな車輪の重みの配置のうちどれが最速になるか参加者たちに予測してもらった.もしも,第5世代で速度が向上しているのには参加者たちが試行錯誤によって〔速度向上の仕組みについて〕学習したことが反映しているのであれば,第5世代の方がうまく予測するだろうと予想される.実際には,時間とともに学習がなされてはいなかった.テクノロジーは改善した一方で,理解は深まっていなかったんだ.

次に,著者たちはとりわけ賢いテストをやった.各世代の参加者たちが車輪の速度の「理論」を残せるようにしたんだ.この「座学」によって,テクノロジーの進化速度は向上したと思う? しなかったんだなこれが.さらに,理論の継承は大して学習を増やす結果にもならなかったときてる.それどころか,いくつかの観点では,理論は学習をかえって損ねている.というのも,なんらかの理論を継承した人たちはその理論によって他のいろんな理論が除外されると考えがちになり,その結果として,デザインを試行錯誤する範囲をせばめてしまったからだ.

理論を受け継いだ参加者56名のうち,(…)15名は慣性に関連した理論を,17名はエネルギーに関連した理論を,6名は完全な理論を,18名はさまざまな無関係な理論を受け継いだ.

(…)どの理論を継承したかによって,車輪システムを参加者がどう理解するかが強く影響された.なんの理論も継承しなかった参加者たち(「配置」グループ)は,慣性に関する質問にもエネルギーに関する質問にも同じようなスコアを(しかも偶然より優れたスコアを)とった.これと対照的に,慣性かエネルギーに関連する理論を継承した参加者たちは偏った理解パターンを示した.慣性に関連した理論を継承した人たちは慣性についての理解を向上させる一方でエネルギーに関する理解は低下した.これとちょうど鏡うつしのように,エネルギーに関連する理論を継承した参加者たちはエネルギーに関する理解は向上させる一方で,慣性に関する理解は低下した.このパターンを説明するひとつの案としては,〔慣性なりエネルギーなりどちらか1つだけを考慮する〕単一尺度の理論を継承すると,個々人はあるパラメータの効果に関心を集中させて他のパラメータの効果を見えなくなるという考えがある.だが,参加者たちの理解はさまざまな探索パターンからもたらされているのかもしれない.たとえば,慣性に関連した理論を継承した参加者たちが主につくりだしたのはバランスをとった車輪だった(Fig 3F).そのため,彼らは車輪の重心位置をさまざまに変えてみた場合の効果を観察しないままになっていたのかもしれない.

(…)こうした結果から,単一尺度の理論を継承した参加者たちに見られる理解パターンは理論の継承が探索の範囲を一定方向に限定する水路効果の結果である見込みが大きいのではないかと考えられる.今回の事例では,この水路効果は成績に中立的だという点に留意されたい:我々が用意した2尺度問題では,一方の尺度をよりよく理解しもう一方の尺度の理解が低下した結果,単に両者が相殺されている.だが,複数の尺度がある問題では,ある尺度の理解が向上したとしても他のすべての尺度の理解低下を相殺することにはなりそうにない.

知識伝達には,もっと研究しにくい側面がある.その1つは,天才の役割だ.文化の生成は,局所的な最適にはまり込むことがある.天才だけが,〔その局所的な最適という高みから〕いったん谷をくだって別の山を登る見通しをもてる.ときおり出現する天才は,科学以前の時代にも知識生成で重要だったかもしれない.それに加えて,こうした種類の文化的進化プロセスがいちばんうまく機能するのはフィードバックが迅速で明快なときだ.入力に出力がかえってくるまでの時間が長くなれば,すべては白紙になってしまう.それでも,文化的伝達がどれほどのことを成し遂げうるのか,そして理論がぼくらの思考を支配するあまりに活発な試行錯誤がいかに損なわれてしまいうるのかということを,この独創的な実験は例証している.


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