アレックス・タバロック「学資ローン徳政令は,機械工学専攻に課税して演劇専攻に助成することになるよ」(2022年9月19日)

[Alex Tabarrok, “Taxing Mechanical Engineers and Subsidizing Drama Majors,” Marginal Revolution, September 19, 2022]

この前の記事では,バイデン政権の「学資ローン減免」法案が実現すると,学生にはさらに債務を抱え込むインセンティブがはたらき,学校には学費を値上げするインセンティブがはたらくと論じた.さらに,そうやって増えたコストの大半は,所得にもとづく気前のいい返済プランによって,納税者に転化されるとも論じておいた.Brookings の Adam Looney は,学資ローン減免案をさらに深掘りして,ぼくが思った以上にこの法案がひどいという結論を下している.Looeny の主な論点をちょっと抜粋しよう:

近くは2017年時点でも,議会予算局 (CBO) の試算で,学資ローンの借り手が返済する平均金額は,ローン1ドルあたり 1.11ドルに近い(金利を含む).大学の学費をやりくりするのに,借金はもっとも好ましくない方法だと考えられている場合が多い.ところが,バイデン政権の「所得別学資ローン減免」(IDR) 法案(さらに他の規制の変更)にもとでは,このプランに登録した学部生の借り手は,1ドルの借り入れあたりおよそ 0.50ドルを払うことになるかもしれない――さらには,まったく払わなくてすむと確かに予想できる学生も一部にでてくるかもしれない.その結果として,借り入れこそが学費をはらう最良の方法になる.学資ローンを全額返済しなくてすむ見込みがあるなら――学部生の過半数がそうなりそうなのだが――借りれる上限まで学資ローンを借りておくのが金銭面で当然の一手になるだろう.

データを見ると,なんらかの大学に在学経験がありながらも学士号はもっていないアメリカ人のおよそ半数は,この法案によって返済額ゼロを認められるのがわかる.また,学士号をもつ人たちの約 25% も返済額ゼロになる.だが,学生の大多数は(学士号をもつ人たちの 80%以上も含めて)返済の減額を認められる.

学資ローンの多くは,生活費のための借り入れに充てられている.このため,「所得別学資ローン減免」法案のもとでは,免除される金額のかなりの割合が,そうした支払いに充てられるだろう(…).コロンビア大学の大学院生を一人思い浮かべてもらうとして,この院生は,学費のために借りた額をこえて,生活費のために年間 30,827ドルを借り入れられる.こうした院生たちのうち,かなりの人数が債務を免除されると予想される.それはつまり,連邦政府がコロンビア大学の院生の家賃を助成する金額の方が,「セクション8」の住宅バウチャープログラムで低所得者に渡す金額の2倍にも相当するということだ.(…)

〔政府による学資ローン減免に乗っかった〕学費値上げインセンティブが,大学院課程や専門職幼生課程のプログラムの一部にも当てはまることは,Looney も同意している.同時に,学部課程のプログラムでは学費値上げの余地はそうしたプログラムほど大きくないとも彼は考えている.というのも,借り入れは(いまのところ[タバロック註])かなり低い率に上限が設定されているからだ.

「所得別学資ローン減免」による助成は主に卒業後の収入にもとづいているため,いい仕事につながらない学位をもつ学生や中退した学生の方が,より多くの助成金を得ることになる.いい大学の学生やリターンの大きい課程に進んだ学生は,学資ローンをほぼ全額返済するよう求められる.「タダで大学進学したい? いいとも,ただし化粧品学やらリベラルアーツやら演劇やらを学ぶ場合にかぎるけどね.あと,できれば営利目的の大学がいいね.なに,看護師になりたい? エンジニアになりたい? コンピュータ科学や数学をやりたい? だったら学費は全額負担してもらおうか(とくにそういう分野でも最高の課程に進学する場合はね).」 これは問題だ.だって,進学した課程の品質・勝ち・卒業率・卒業後収入にもとづいて,学生がどうなるかは――いい結果もわるい結果も――とても予想しやすいからだ.「所得別学資ローン減免」は,うまく設計すれば機能しうるけれど,いまの合衆国の高等教育制度にこの「所得別学資ローン減免」をおしつけると,実績が最悪な課程や大学こそが,いちばんたくさんの助成金をかき集めることになってしまう.

Looney は,ざっくりした計算もやっている.彼の推計では,機械工学専攻の典型的な卒業生が受け取る助成金はローンの 0% なのに対して,音楽専攻の卒業生は 96% の助成金を受け取る.演劇専攻なら平均 99%,マッサージなら平均 100% を受け取る.もちろん,こんなのはまるっきり間違ったアプローチだ.助成するなら,マッサージじゃなくて,プラスの波及効果を及ぼしそうな学位にすべきだ.

マズイのは助成することそのものじゃなくって,価値の低いプログラムをつくりだすのをこうした助成が促進してしまう点だ.

(…)教育機関には,無価値なプログラムをつくりだして,「所得別学資ローン減免」プランなら無料になりますよと喧伝してそこに学生をかき集めるインセンティブが生じる.(…)学生は,ローンをつくって生活費に当てることができる(さらにはそういうローンをつくるためにどこかのプログラムに進学できてしまう).これによって,学資ローンプログラムが悪用しやすくなってしまう.お金を借りた人たちのなかには,学資ローン制度を ATM みたいに利用する人たちもでてくるだろう.そういう人たちは,返済免除に該当すると承知のうえで学資ローンをもらい,返済しないで済むのを見越して現金を受け取る.(…)貪欲な教育機関が,こういう悪用法を利用しやすくはかるんじゃないかと思う.

全体として,いまでてる法案のままだと,学資ローンプログラムは21世紀でも屈指の高コスト・非効率・無思慮な政府プログラムになりそうだ.最初の記事でも書いたように,このプログラムを「手直し」しようとしても,医療分野で起きたのと同じくらい,高等教育への政府介入をいっそう増やすことになりそうだ.この馬鹿げた案を立てた人たちのなかには,案をまともに考え抜いてみた人なんていないんじゃないかな.

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