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アレックス・タバロック 「『歴史に関する偉人理論』はあながち的外れとは言えない? ~国家元首はその国の経済の行方を左右し得るか?~」(2006年1月19日)

●Alex Tabarrok, “Would I be a Good Dictator?”(Marginal Revolution, January 19, 2006)


カサブランカからマラケッシュに向かう列車の中は大勢の乗客でひしめき合っていた。その移動の間、私は窓際に立ったまま外の風景を眺めていた。窓の外に見えるモロッコの土地は肥沃そのものだ。しかしながら、この国に暮らす大半の人々は貧しい生活を余儀なくされている(モロッコの一人当たり国民総所得(GNI)は購買力平価(PPP)で換算するとおよそ4200ドルである)。仮に私が国家元首として国の運営を任されたとしたらこの国を変えることができるだろうか? 私は優秀な独裁者になれるだろうか? この疑問に対して親しい友人の一人であるブライアン・カプランは「なれるさ!」と力強く応答し、また別の親しい友人であるタイラー・コーエンは「どうだろう。よくわからない」と回答した。この疑問を二人にぶつけてみた理由は私という人間についてどう考えているかを聞きたいと思ったからではもちろんない。「貧しい国々の経済発展を制約している条件は一体何なのか?」ということが問いたかったのである。利用可能なアイデアに限りがあるのが問題なのか? 政治的・社会的な要因が障害となっているのだろうか? それとも地理的な条件というずっと根深い要因が縛りとなっているのだろうか? 国のトップに立つ一個人にその国の経済の行方を左右し得るだけの力は果たしてあるのだろうか?

「歴史に関する偉人(英雄)理論」(great man theory of history)1に支持を与えるような興味深い研究結果がつい最近になって公にされた。QJE誌に掲載されたばかりのベンジャミン・ジョーンズ(Benjamin Jones)とベンジャミン・オルケン(Benjamin Olken)の共著論文(“Do Leaders Matter? National Leadership and Growth Since World War II”)がそれである2。この論文では国家元首が在任中に自然死ないしは突然死で帰らぬ人となったケースに着目した上で国家元首の突然の(予期しない)交替がその国の経済成長率に違いを生むかどうかが検証されている。その検証を通じて明らかになった結論を一言でまとめるとこうなるだろう。国家元首はその国の経済の行方を左右する上で重要な役割を果たしている――それも独裁国家においては特にそうだ――、と。国家元首の「質」が1標準偏差だけ高まるとその国の経済成長率は年率で1.5%ポイントも高まるというのだ。

とは言え、国を繁栄させるよりは国を衰退させる方がずっと容易であることを考えると、国家元首の「質」がその国の経済成長率に及ぼす甚大な効果は私が優秀な独裁者になり得る可能性を物語っている以上に劣悪な独裁者になり得る可能性――毛沢東(中国の元国家主席)やムガベ(ジンバブエの現大統領)、アミン(ウガンダの元大統領)のような独裁者になり得る可能性――を物語っていると言えよう。そういう意味でジョーンズとオルケンの研究は「歴史に関する極悪人理論」(great evil man theory of history)に支持を与えるものだと言えるかもしれない。

しかしながら、順風満帆な国史(国の伝記)3の編纂を切に願う貧しい国があるかもしれない。そういう国があれば是非とも私宛にメールを送ってもらいたい。待遇面で話し合う用意はできている。

  1. 訳注;「世界の歴史は偉人の伝記に外ならない」(「世界の歴史は英雄によって作られる」)というトマス・カーライルの言葉に代表される歴史観。偉人あるいは英雄と呼べるような一個人の行動が歴史の流れを左右する上で決定的な役割を果たすと捉える見方。 []
  2. 訳注;この論文の概要については次の記事(英語)も参照のこと。 ●Brad Wible, “Do Leaders Matter?”(KelloggInsight, June 1, 2007) []
  3. 訳注;リンク先では「偉人が無為の日々を過ごすことはない。世界の歴史は偉人の伝記に外ならない」(“No great man lives in vain. The history of the world is but the biography of great men.”)というカーライルの言葉が引用されている。 []

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