ジェネリックの艱難:価格競争、非対称情報、そして販売戦略

The unexpected consequences of asymmetric competition: An application to Big Pharma

Micael Castanheira, Carmine Ornaghi, Georges Siotis 01 March 2017 

 

市場は競争的であればあるほどよい、経済学者は伝統的にそう信じてきた。しかし私たちの今回の研究では、経済学者たちの信条に反し、市場における競争と配分効率の間にはそれほどまでに強い関係がないことが検証された。先発薬の特許が切れるとジェネリック薬(後発薬)の参入が可能となり、市場は競争へと移行する。ここで製薬会社が用いる戦略には価格競争以外のものがあり、それゆえ競争の導入が配分効率を上げる結果とはならない。それはまた、社会福利への問題提起となる。

 

著者註:この記事はMaria-Angeles de Frutosと共著の論文を基としている。

 

 

医療費及び医薬費の上昇は新聞紙面のトップをにぎわせている。政府はあの手この手で経費削減を図るが、時にそれは品質を危うくする結果となりかねない。薬価高騰への対抗策として考えられたのがジェネリック薬の普及である。しかしこの記事では、ジェネリック導入策が期待ほどの効果を上げない理由を解説する。

 

ジェネリックの競争:強みと陥穽

 

ジェネリック薬について述べる際、1984年のハッチ・ワックスマン法は避けて通れない。それ以降について言うならば、ジェネリック薬の使用は時に規制を用いてまで推し進められることとなった。その考え方はごく単純なものだ。新薬(先発薬)の開発には膨大な経費がかかるのに比べ、特許が切れた後、先発薬と同一成分の薬(ジェネリック薬)を他社が作るのははるかに安上がりとなる。そこでジェネリック薬を後押しし価格競争を持ち込むことによって、巨大製薬会社が薬価を高値で維持することを抑制する。

 

ジェネリック政策の成功を示す指標はいくつか見ることができる。例えば、特許失効後一年で同一成分を持つ薬のうち元もとの先発薬の市場占有率は20%未満となる(Ellison他 1997, Berndt 2002, Grabowski他 2014)。さらには、2000年代初頭以降、ジェネリック薬との競争に晒されることになった先発薬の数は飛躍的に増えている(Aitken他 2013)。

 

それにもかかわらず、医薬品への支出は増え続けている。コンティ他(Conti et al. 2015)によるなら、「アメリカ合衆国における処方箋薬への全支出は2014年単体で13%増加している」。そして、がんの治療薬などいくつかの部門では増加は31%に達する。

 

 

何十年にもわたるジェネリック導入による競争奨励政策、それにもかかわらず、なぜ製薬会社は薬価を高く保つことができるのだろう。いくつか、その原因として確認され、既に文献として発表されているものもある(例えば技術革新や人口構成の変化など)。私達はそこから今回、直近の論文中でさらに踏み込んだ検証を行った(Castanheira他 2017)。ジェネリック競争は先発薬による市場独占に風穴を開けてきた。しかしその一方でジェネリック薬の使用率は平均で下がっている。この一見矛盾した現象を説明すると次のようになる。先発薬の特許期間が終了するとその市場には同一成分を持つジェネリック薬が参入し、数多くの製薬会社間の熾烈な競争状態となる。例えばプロザックというブランド名の抗欝剤の特許が切れると、それと同一の成分を持つ、テバ・フルオキセチン、ミラン・フルオキセチンといったジェネリック薬が参入することとなった。そして、先発薬(プロザック)は市場占有を失う。しかしそこで市場を得るのは別の成分を持つ先発薬となる。この例では、ゾロフトというブランド名を持つセルトラリン系抗欝剤がフルオキセチン全体の売上を奪う結果となった。

 

私たちは1994年以降10年間のアメリカ合衆国におけるほぼすべてのジェネリック導入事例について、四半期ごとの価格、販売量、及び販売促進の程度に関するデータを用いた。図1は95の事例について、ジェネリック薬の価格と販売量の推移をまとめたものだ。ジェネリック導入から四半期にして12単位分、つまり3年後には、同一成分を持つ元の先発薬とジェネリック薬の合計では、価格が45%下がっているにもかかわらず販売量は平均で25%減少している(その期間中、薬全体の販売量は増えているので、市場占有率の減少は更に顕著となる)。

 

1:ジェネリック導入前後の価格P)と販売量Q)

 

Mean P: 平均価格          Median P:価格の中央値

Mean Q: 平均販売量        Median Q:販売量の中央値

 

論理的解釈と実験検証

 

競争原理に反した結果はどこから来るのか。それを理解するためには、販売量を増やす手段として二つのものを考える必要がある。第一にそれは価格である。ジェネリック薬の価格弾力性は9、つまりその市場はほぼ完全な競争市場と言える(Ellison他 1997の論文で既に同一成分間の競争では高い弾力性があることが言及されている)。第二に販売促進活動がある。巨大製薬会社では販売額のうち販売促進に使われる割合は15%にも達する(DanzonとNicholson 2012)。最も高い利益が得られる製品に需要を向ける戦略については多くの論文で指摘されている(例えば、Caves他 1991, Kremer他 2016)。

 

ここで採り上げるのが価格競争と販売促進への投資額の関係である。製薬会社はより多くの利益を生む薬に対して、より多くの販売促進を行う。公平な条件で対称的競争をしているのなら選ばれるのは最も質の高い薬であり、それは患者にとって望ましい結果となる。しかし競争が非対称の場合は状況は変わってくる。ここではジェネリック競争に晒されている薬と特許に守られている薬があるため、競争に直面している薬の販売促進を止め、安価な薬の需要を減らしてしまう。図2からこの企業戦略が明らかに見て取れる。製薬会社は特許の切れる12四半期前には販売促進をすでに減少させ始めており、図の0期日、特許が切れた期日の直後にその現象の度合いを加速させている。

 

2:ジェネリック導入前後の価格(P)と販売促進投資(A)

Mean P: 平均価格        Median P:価格の中央値

Mean A: 販売促進の平均     Median A:販売促進の中央値

 

価格の下落による影響と販売促進の減少による影響、どちらが優勢になるのだろうか。私たちの理論モデルでは、直感に反し、A, B二種類の薬剤が強い代替関係にあった場合、販売促進減少の影響が勝り、結果として競争原理に反した現象が起こる。その理由は、この場合、ジェネリック導入以前から競争は熾烈になっているからだ。それゆえ、価格の引き下げと販売促進の強化、その両方が元より行われるようになる。

 

この状況ではジェネリック導入は価格に比較的小さな影響しか与えず、販売促進の減少の影響が勝る。ここで更に私達の理論を使い、需要の弾力性と市場規模によってそれぞれの影響がどう変化するのか予測してみよう。第一に、(例えば保険の適用範囲が大きいため)需要の価格弾力性が小さいときには、競争原理に逆行し価格の下落にもかかわらず販売量も減少する傾向が強くなることが予測される。第二に、市場規模が大きくなると、同様に、ジェネリック競争の導入と共に安価な薬の消費が抑えられることが予測される。これは、大きな市場では他のブランド薬が販売促進を強化することによってより利益を得ようとするからだ。

 

経済統計を用いた検証の結果は上記の予測を裏付けるものとなった。ジェネリック薬導入のみの影響により、それと競合状態にある特許薬は平均で市場占有率を12%伸ばしている。この効果は別の治療法が存在する場合、4%下落する。病院では未だブランド化されている薬の市場占有率は、薬局に比べてそこから更に3%下落する。病院は薬局に比べ、価格による影響を受けやすい。そして市場占有率の伸びは「小規模」市場で更に7%の下落が見られた。

 

デ・フルトス他によれば、製薬会社の販売促進投資が特定のブランド薬に対する患者の愛着を強める(De Frutos et al.)。これは私たちの研究と多く一致を見ることができる。私たちはこれに加え、製薬会社は利益を生まなくなった薬への愛着を他に向けるよう働きかけることも確認した。

 

結論

 

市場は競争的であればあるほどよい、それは経済学者共通の信条となっている。情報の非対称性が著しい場合など、いくつか、明らかにその信条に反する例外も確認されている。しかし、競争は市場効率と社会福利を向上させる、という認識は大筋で変わっていない。

 

しかし私たちは、経済学者共通の信条に反し、競争と配分効率の関係はそこまで強いものではない、と主張する。価格の引き下げのみが企業が顧客を惹きつける手段ではない。広告もブランド管理への投資もまた、その手段である。それら多くの手段が市場に影響を与え、そして時には競争の導入が予想とは逆の結果を招くことになる。なお、競争圧力が強まると、企業の持つ価格以外の手段が効力を持たなくなる。そしてこれら私たちの主張が机上で練られただけの理論ではないことに留意いただきたい。私たちは1兆ドル規模の製薬市場の現実に即してこれらの予測を確認した。特許が切れていない薬剤に対しては競争圧力が有効にかけられていないのだ。

 

以上のことをふまえてもう一歩話を社会福利に進めてみよう。ジェネリック薬の市場参入後に患者の余剰(消費者余剰)が増えるための十分条件は、均衡状態で特許薬の市場占有率が下がることになる。現実にはその条件がかなうことは滅多にないので、非対称型の競争は往々にして患者に不利益となる。更には、ジェネリック薬の参入による市場占有率の変化が市場配分を最も効率のよい状態近くまで導くのは何時か、その答を私たちのモデルを使って裁定するなら、それは決して起こらない、となる。そして、販売促進活動の禁止はその解決策とはならない。

 

市場の自由に任せた結果を見るなら、ジェネリック促進への公的な介入は当然と考えられる。ヨーロッパにおいてはそれは主に社会保障制度のための仕事、となる。政府介入の範囲が限られているのなら、治療を可能な限り安価に受けられるようにするのは、個々の消費者の手に委ねられる。アメリカ合衆国ではジェネリック導入後に他の特許薬に転換しないように、第三者である負担者が強い誘引策を始めている。これらの動きは競争のもたらした逆効果への内発的な反応と言える。市場は価格が調整役となることによって効率的に機能する、という見解は薬の市場では成り立っていないように見える。

 

 

References

Berndt, E R (2002), “Pharmaceuticals in US Health Care: Determinants of Quantity and Price”, Journal of Economic Perspectives 16(4), 45-66.

Castanheira, M, C Ornaghi, G Siotis, and M-A de Frutos (2017), “The Unexpected Consequences of Asymmetric Competition. An Application to Big Pharma”, CEPR Discussion Paper 11813. 

Caves, R E, M D Whinston, and M A Hurwitz (1991), “Patent expiration, entry, and competition in the US Pharmaceutical Industry”, Brookings papers on Economic Activity: Microeconomics, 1-23.

Conti, R, E Berndt, and D Howard (2015), “Cancer drug prices rise with no end in sight”, VoxEU.org.

Danzon, P M, and S Nicholson (2012), Oxford Handbook of the Economics of the Biopharmaceutical Industry, Oxford University Press.

De Frutos, M A, C Ornaghi, and G Siotis (2013), “Competition in the pharmaceutical industry: how do quality differences shape advertising strategies?”, Journal of Health Economics, 32, 268-285.  

Elison, S, I Cockburn, Z Griliches, and J Hausman (1997), “Characteristics of Demand for Pharmaceutical Products: An Exploration of Four Cephalosporins”, RAND Journal of Economics, 28 (3), 426-446.   

Grabowski H, G Long, and R Mortimer (2014), “Recent trends in brand-name and generic drug competition”, Journal of Medical Economics 17 (3):207-14.

Kremer, M, C Snyder, and N Drozdoff (2016), “Vaccines, drugs, and Zipf distributions”, VoxEU.org

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