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アレックス・タバロック 「恒等式の扱いにはご注意を」(2019年5月15日)

●Alex Tabarrok, “Identity Economics is Bad Economics”(Marginal Revolution, May 15, 2019)


アイデンティティ経済学は悪い経済学なり1・・・と言葉巧みに訴えるのは偉大なるニック・ロウ〔optical_frog氏による全訳はこちら〕。

数多いる動物(Animals)は肉食動物(Carnivores)か非肉食動物(Non-Carnivores)のいずれかに分類できる。すなわち、A = C + NC. ・・・であるからして、羊(NC)の群れが住まう島に数匹のオオカミ(C)を連れ込めばその島に棲息する動物(A)の総数は増えることになる。

「いや、そうとは限らない」と反論するのは容易い。オオカミが羊を襲っちゃう(食い殺しちゃう)かもしれないからね。でも、オオカミや羊の生態について詳しくない(オオカミが羊を食べるなんて知りもしない)御仁には「羊の群れが住まう島に数匹のオオカミを連れ込めばその島に棲息する動物の総数は増える」という議論は説得的に聞こえることだろう。しかし、だ。A = C + NC という式は我々の眼前に広がる「世界」について一切何も教えちゃくれないのだ。件の式は定義によって常に正しい(常に成り立つ)会計恒等式であり、眼前に広がる「世界」をいくつかの要素(部分)に切り分けるとこうなります・・・と報告しているだけに過ぎないのだ。それでもって「世界」をいくつかの要素(部分)に切り分けるやり方は無数にあり得るのだ。

無数にある中から二つほど例をば。

1. Y = C + I + G + X – M.2 ・・・であるからして、政府支出(G)が増えるとGDP(Y)は増える。

2. Y = C + S + T.3 ・・・であるからして、増税される(Tが高まる)とGDP(Y)は増える。

どっちの議論に違和感を覚える? 段違いで二番目の議論・・・でしょ? おそらく一番目の議論(政府支出が増えるとGDPは増える)はどこかで目にしたことがあるだろうけれど、二番目の議論(増税されるとGDPは増える)は初耳なんじゃない? しかしね、式に関する限りはどちらも正しいことに変わりはないのだ。だって会計恒等式だからね。でもね、式の後に続く〔右辺のいずれかの変数の値が高まるとそれに応じて左辺の値も高まると説く〕議論はどちらも同じくらい眉唾物なのだ。

ロウも指摘していることだが、恒等式は思考に枠をはめることになる。その枠が現実をうまく捉える助けになるかどうかを確かめるには恒等式を別のかたちに書き換えてみるべし。

  1. 訳注;「アイデンティティ」(“Identity”)には「恒等式」という意味もある。アイデンティティ経済学は悪い経済学なり=恒等式だけを頼りに何かを言おうとしても見当違いに陥りやすい、といった意味が込められているのであろう。こちらの「アイデンティティ経済学」を揶揄しているわけではないので誤解なきよう。 []
  2. 訳注;GDP=消費+投資+政府支出+輸出-輸入 []
  3. 訳注;GDP(総所得)=消費+貯蓄+税金 []

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