アレックス・タバロック 「政府に進化を遂げたメキシカンマフィア?」(2011年10月21日)

●Alex Tabarrok, “The Mexican Mafia”(Marginal Revolution, October 21, 2011)


メキシカンマフィア(Mexican Mafia) [1] 訳注;メキシコ系アメリカ人によって構成されるギャング集団は、ごく小規模のギャング集団であり(構成員の数は、150~300人程度と見積もられている)、刑務所内を根城としている。いわゆる「プリズンギャング」というやつだ。行動範囲は、南カリフォルニアにある刑務所の内部だけに限られているが、その影響力はかなりのものだ。南カリフォルニアを縄張りとする何百というストリートギャングから、収入の10~30%を「税金」として徴収しているほどなのだ(相手の方が規模がデカイこともしばしば)。ここで一つの疑問が頭をよぎる。刑務所の中にいるというのに、娑婆をうろつくストリートギャングにどうして税金を課すことができるんだろうか? その答えは、American Political Science Review誌に掲載されているデイヴィッド・スカーベク(David Skarbek)の論文(“Governance and Prison Gangs”) (あるいは、こちら(pdf)を参照)で与えられている。スカーベクの論文では、メキシカンマフィアの組織構造、行動様式、行動成果(パフォーマンス)について詳細に説明されている。

メキシカンマフィアが刑務所の外の世界にまで強い影響力を持つ主たる理由は、大半の麻薬ディーラーは、遅かれ早かれ――大抵は、早かれだが――、刑務所にブチ込まれる運命にあるためだ。そのうち同じ刑務所で過ごす羽目になる可能性があるからこそ、メキシカンマフィアの脅し [2] 訳注;「カネを納めなければ、どうなるかわかってるな?」は、刑務所の外にいる麻薬ディーラーにも効くのだ。さらに、刑務所は、あちこちのギャングのメンバーが一堂に会する唯一の場所でもある。そんな刑務所の内部を取り仕切っているからこそ、メキシカンマフィアは何百というギャング集団から税金を徴収することが可能となっているのだ。

メキシカンマフィアは、その身に備わる力が大きくなるにつれて、公共財の供給に乗り出すようになったという。スカーベクの論文の中でも最も興味深い分析の一つだが、マンカー・オルソン(Mancur Olson)が語る「定住盗賊」(stationary bandit) [3]訳注;オルソン本人による説明としては、例えば、”Dictatorship, Democracy, and Development(pdf)”(The American Political Science Review, Vol. 87, No. 3 (Sep., … Continue readingのように、メキシカンマフィアは、その力が強まるにつれて、公共財の供給を始めたというのだ。言い換えれば、政府のように振る舞い始めたというのだ。納税者(ギャング)――刑務所で過ごす納税者+娑婆にいる納税者――の身の安全を守るだけではない。ギャングの縄張りに対する所有権を保護する役割も務めるし、ギャング間の抗争の仲裁役を買って出ることも。ただし、メキシカンマフィアがそのような行動に出るのは、あくまで「税収」の増加につながる場合に限られることは言うまでもない。その力があまりに強すぎるために、メキシカンマフィアが自ら手を下す必要すらない場合もあるという。一種の私掠免許状や復仇免許状を発行して、私掠船(pdf) [4] 訳注;暴力をふるってもいいとメキシカンマフィアから許しをもらったストリートギャングに不届き者(税逃れをするギャング)を懲らしめる許可を与えるわけだ。

メシカンマフィアは、「外部性の内部化」にまで乗り出したらしい。

メキシカンマフィアは、通り過ぎざまの銃撃行為(drive-by shootings)の規制にも乗り出した。・・・(略)・・・敵対するギャングとの抗争を解決するために、通り過ぎざまの銃撃に訴えると、メディアや警察から注目を集めることになる。しかしながら、メディアや警察の注目(監視の目)は、行為に及ぶ当人だけに集中するわけではない。一人ひとりのギャングの立場からすると、通り過ぎざまの銃撃に及ぶのと引き換えに負わねばならないコスト(メディアや警察の監視の目が強まること)はそれほどでもないわけで、結果として、通り過ぎざまの銃撃は、過大に行われてしまう恐れがある(Buchanan 1973)。1992年のことだ。メキシカンマフィアのメンバーから、方々の刑務所と近隣のスレーニョスに宛てて、一枚のメモが送り付けられた。そのメモにはこう書いてあった。我々(メキシカンマフィア)の承諾なしに、通り過ぎざまの銃撃に及んだ者には死が待っている、と。それから間もなくして、通り過ぎざまの銃撃行為は減ったのであった。

犯罪について、ガバナンスについて、メキシカンマフィアから学べることは多そうだ。

 

References

References
1 訳注;メキシコ系アメリカ人によって構成されるギャング集団
2 訳注;「カネを納めなければ、どうなるかわかってるな?」
3 訳注;オルソン本人による説明としては、例えば、”Dictatorship, Democracy, and Development(pdf)”(The American Political Science Review, Vol. 87, No. 3 (Sep., 1993), pp. 567-576)や、『Power and Prosperity』を参照のこと。
4 訳注;暴力をふるってもいいとメキシカンマフィアから許しをもらったストリートギャング
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