クルーグマン「欧州に必要なのは穏やかなインフレだ」

Paul Krugman, “What Europe Needs Now Is Moderate Inflation,” Krugman & Co., November 15, 2013.


欧州に必要なのは穏やかなインフレだ

by ポール・クルーグマン

AMMER/The New York Times Syndicate
AMMER/The New York Times Syndicate

欧州のインフレ問題:それは,低すぎるってこと

実のところ,穏やかなインフレは現代経済にとっていいことだ.理由は2つある――1つは需要にかかわり,もう1つは供給にかかわる.

需要の方について言うと,インフレは金利のゼロ下限問題を弱めてくれる:名目金利はマイナスになりようがないけれど,穏やかなインフレが予想に定着しているかぎり,実質金利の方はマイナスまで下がりうる.

供給の方について言うと,インフレは名目賃金の下方硬直性の問題を軽減してくれる:人々は賃金切り下げを要求したり受け入れたりするのにすごく抵抗する.これは,大勢の労働者の相対的な賃金が下がる「必要がある」ときに深刻な制約になる.

どちらの問題も,アメリカで大いに生じている.でも,欧州ではいっそう事態はひどい.あちらでは,財政政策がきわめて縮小的になっっている――ユーロ圏周辺地域の国々でえげつない緊縮策が,そして中核的な国々で予防的な緊縮策がとられたおかげだ.これにより,頼りになるのが金融政策しかなくなってしまった――それに,周辺国は大幅な内的な通貨切り下げも必要となっている.

このことを踏まえると,欧州のインフレに関する最新の数字 (pdf) は,とにかく悲惨だ:昨年のコアインフレ率はたった 0.8 パーセントでしかない.

ところが,欧州の当局では,欧州中央銀行が金融市場をなだめて一部の国ではわずかな経済成長が見られるので,危機は終わったと考えている始末だ.

ドイツについてさらに覚え書き

ドイツの貿易黒字アメリカ財務省がだした報告書(この黒字は世界経済にとって有害だと正しく解説してる)について,もうちょっと言わなくちゃいけないんだった.『シュピーゲル』紙がこの論争について先日書いた記事で最悪なのはどのへんかってもし問われるなら,それはドイツの経済産業省の発表だ.この発表によると,「ドイツの黒字はドイツ経済の競争力が優れ,ドイツ製品の品質に対する世界的な需要があることの証である」らしい.

どこの経済学者だって,これを読めばきっと嘆くはずだ.

これは収支の基本的な事実だからね:「経常収支 = 貯蓄 – 投資」

経常収支バランスの決定について話すときには,必ずこれを考慮に入れなくちゃいけない.世界で愛されるすっごい製品をキミがつくってるとしよう.そうだとしても,貯蓄が少なくて投資が多ければ,経常収支は赤字になるほかない.

なんでそういうことになりうるの?

単純だよ:競争相手と比較して,高い価値の通貨および/または高い賃金が生じることになるからだ.

というわけで,かなり高い労働コストにかかわらずドイツが黒字でやれているのは印象的だし,それはドイツ製品の品質に対する信頼ではあるけれど,突き詰めていけば,ドイツの黒字は投資と比べて貯蓄が高いことを反映しているんだ.

それに,つい先日べつの文脈で書いたように,いまぼくらの世界は貯蓄にあふれかえっている――誰かが支出を減らし貯蓄をふやすと,みんながいっそう貧しくなる.これは通常とはちがう世界だけど,ともかくぼくらがいるのはそういう世界だ.そして,そういう世界になって5年になる.

ドイツ経済産業省はこういうことをまったく理解してないのかな? ぼくの推測では,理解してないんだと思う――ドイツはほんとに自分のことをお手本だと思っていて,みんなが同じようにやれば万事うまくいくと信じていて,「みんなが貿易黒字を計上する世界」なんて考えの欠陥がまるっきり見えてないんだろう.

© The New York Times News Service

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