グローバル・サプライ・チェーンと戦争 (2022年6月9日)

原文

Maria Grazia Attinasl: 欧州中央銀行 External developments 部門経済学者
Rinalds Gerinvics: 欧州中央銀行アナリスト
Vanessa Gunnella: 欧州中央銀行シニア経済学者
Michele Mancini: イタリア銀行・欧州中央銀行経済学者
Luca Metelli: イタリア銀行経済学者(欧州中央銀行での休暇中)

概要:ロシアのウクライナ侵略とそれに続くロシアへ課せられた制裁は、すでに混乱している世界のサプライチェーンに更なるひずみを与えている。本コラムは、この戦争が世界のサプライチェーンをすでに揺るがしていることを示す新しい指標を紹介する。そしてまた、ロシアとウクライナが世界貿易に占める割合は大きくはないものの、両国はいくつかの工業製品の生産工程の上流で使われる、短期的には代替が困難であるだろうエネルギー製品や原材料の世界有数の輸出国であるため、世界の生産への影響は大きくなものになりうることを論じる。

戦争の開始以来、供給のボトルネックが悪化してきている。ロシアとウクライナの輸出に大きく依存するセクターではとりわけそうだ。我々は新しい指標、グローバル・セクトラル・サプライチェーン・プレッシャー(GSSP)を構築した。これは製造業における総供給圧力への7つの産業の寄与を分離したものだ。この指標は、グローバルな購買担当マネージャーの指数(PMI)の変数である、7つの製造業セクターにおける生産高、生産価格、サプライヤーの納期といったものを用いたベクトル自己回帰モデル(VAR)から計算されるものだ。グローバル・サプライ・ショックは符号制限によって特定され、指標はグローバルな供給ショックによって起こされたセクターごとのPMIサプライヤー納期(SDT)の変動を集計することによりボトムアップで求められる[1] … Continue reading。GSSP指標は3月以降にサプライにおける圧力がまた高まった事をしめしている(図1)。自然資源と化学工業の分野が主要な要因となっている。このようなセクターの混乱のパターンはウクライナにおける戦争のインパクトを反映したものだろう。ロシアとウクライナの両国は金属や鉱業製品、および肥料の生産に使用される製品(すなわち化学工業セクター)の重要な輸出国であるので[2] … Continue reading。このような供給の混乱は、入手できる経済データからはまだ十分に把握できていないが、今後数ヶ月間激化する可能性がある。特にヨーロッパにおいては。

図 1 世界の製造業におけるサプライチェーンの圧力指標
   (平均値からの標準偏差とポイント貢献)。

ソース:IHS Markit IHS Markit および著者の計算。最新の観測値。2022年4月。
: 左側(右側)のパネルは四半期(月)頻度で集計している。指標の値が高いほど、サプライチェーンの圧力が悪化していることを意味する。               

図2 世界の原材料輸出に占めるロシアのシェアと輸出市場の集中度合い
(世界輸出におけるシェア、ハーフィンダール・ハーシュマン指数、2019年)

ソース:Trade Data Monitor, 欧州委員会、そして著者による計算
:赤丸で示した原材料は欧州委員会の最新の重要性評価(2020年ファクトシート)で定義された戦略的原材料。丸の大きさは世界の輸出におけるロシアの割合。

ロシアの貿易の特化の状況をきちんと見ておくことが、戦争関連の混乱が世界のサプライチェーンに及ぼす潜在的な影響とその地理的な次元を評価するのに大切である。ロシアの石油、ガス、石炭の輸出は、世界のこれらの商品の輸出の15%を占めるし、EUはその最大の輸入国であって、ロシアからの輸入依存度が最も高い地域である。このことは天然資源部門に出現した供給圧力を説明するものである。エネルギー商品に加えて、ロシアは原材料についても主要輸出国であり、その中には欧州委員会(2020年)が経済的重要性と高い供給リスクを考慮して重要と分類したものも含まれている(図2)。例えば、ロシアは肥料の生産に使用される原料を輸出している。とりわけ炭酸カリウムにおいて圧倒的な地位を占めているし、硫黄やリン酸塩岩石においても同様だ。重要な原材料について見ると、ロシアはパラジウム、バナジウム、コバルトの主要輸出国であり、これらが最も華々しく使用されているのが3D印刷、ドローン、ロボット産業、バッテリー、半導体の生産などであるため、電子機器、輸送、最も顕著な自動車分野など他の分野にも影響を及ぼす。また、ロシアは鉄鋼生産に使われる原料炭の第4位の生産国であり、市場でも優位な立場にある。さらにウクライナは鉄鉱石の最大の輸出国の一つであり、これらは鉄や鉄鋼工業において使われている。

生産とロシアからの輸出入の流れへの戦争起因の混乱は、グローバル・バリュー・チェーンの上流にロシアが大きく組み込まれている為に世界的な生産ネットワークを通じて増幅されてしまう。グローバル・バリュー・チェーンの上流でのロシアのシェアは、世界総貿易におけるロシアのシェアの約 2 倍であり(2.8%対 1.5%)、特にロシアのサプライチェーン上流での参加率は最も高い数字の一つで、世界平均はわずか18%なのにロシアの輸出の30%以上が貿易相手国が中間投入物として使用するものとなっている(図表3)。これはロシアがエネルギーと金属産業に特化していることによって説明される。それらは生産プロセスの上流で利用されるものなので、当然チェーンの上流に組み込まれることとなるからだ。したがってロシアの輸出の混乱は、サプライチェーンのネットワークを通じて下流に伝播し、間接的な貿易を介しても影響を及ぼすこととなる(Winkler and Wuester 2022, Winkler et al.2022)。さらに、ロシアの投入物は生産のいくつもの段階に関与しているため、混乱の影響は長期化しえる。これは東日本大震災においての企業レベルのこれまでの実証的証拠が示していることだ(Boehm et al.2019)。

グローバルなバリューチェーンの連関を考慮した定量的貿易モデルは、戦争による貿易の混乱がもたらす厚生効果の大きさが標準的なモデルと比較して2倍になることを見出している。ある最近の研究(Borin et al. 2022)が、多部門・多国の一般均衡貿易モデル(Antràs and Chor, 2018)を活用して、サプライチェーンがロシアとその貿易相手国の間の貿易制限の影響をどの程度増幅し得るかを測定している。最新の貿易データに沿った制裁国からのロシアの輸入の減少は、二国間貿易障壁の増加として設定されている。その結果、ロシアと一部のEU諸国、特に中・東欧諸国とフィンランドは、他の国よりも遥かに大きな影響を受けることが示唆された。エネルギーに対する制裁を想定した場合の厚生効果は著しく大きくなることが、生産におけるエネルギー投入の役割が非常に広範に及んでいることを示している(図表3)。国やセクターをまたぐ間接的な連関効果が、標準的な(すなわちグローバルではないバリューチェーンの)効果の大きさを倍増させる重要な拡大要因として作用しており、これはとりわけロシアとのサプライチェーンの連関が強い国にとってそうなる。これらの結果に対する注意点として、定量的貿易モデルは投入物間の高い代替性を仮定しているが、これは特にエネルギーなどの重要な投入物については、とりわけ短期的には、間違いなく非現実的な仮定である(Bachmann et al.2022年)。より低くく、より妥当な代替性の値の下で、Borin et.al(2022)は、エネルギー製品の貿易の混乱による経済活動への影響の大きさは上記の推定よりも大きく、完全なエネルギー禁輸の場合には著しく増大して、ユーロ圏ではGDPの4%に達する可能性があることを示している。

図 3  参加の形態ごとにわけたロシアの部門別グローバル・バリュー・チェーンへの参加割合
(輸出総額に占める割合、2020年)  

ソース:世界銀行 WITS、ADB MRIO
:数値はBorin et. Al (2021)による。

図4 グローバル・バリュー・チェーン(GVC)による増幅効果 (GDPの%変化)

ソース:Borin et al. (2022).

注:GVCありのモデルは投入産出構造全体を利用しているが、GVCなしのモデルは中間投入材の貿易分が最終材の貿易に加えられている変更された投入産出構造を使用している。データは2018年のもの。厚生の変化が0.2%以上の国だけを報告している。

参照文献

Antràs, P and D Chor (2018), “On the Measurement of Upstreamness and Downstreamness in Global Value Chains”, In L Y Ing and M Yu (eds.), World Trade Evolution: Growth, Productivity and Employment, London, UK: Routledge, Chapter 5.

Bachmann, R, D Baqaee, C Bayer, M Kuhn, A Löschel, B Moll, A Peich, K Pittel and M Schularick (2022), “What if? The Economic Effects for Germany of a Stop of Energy Imports from Russia”, Working Paper.

Borin, A, F P Conteduca, E Di Stefano, V Gunnella, M Mancini and L Panon (2022), “Quantitative assessment of the economic impact of the trade disruptions following the Russian invasion of Ukraine”, Occasional Paper Series, Banca d’Italia, forthcoming.

Borin, A, M Mancini and D Taglioni (2021), “Measuring Exposure to Risk in Global Value Chains”, World Bank Policy Research Working Paper No. 9785.

Boehm, C E, A Flaaen and N Pandalai-Nayar (2019), “Input linkages and the transmission of shocks: Firm-level evidence from the 2011 Tōhoku earthquake”, Review of Economics and Statistics 101(1): 60-75.

European Commission (2020), “Critical Raw Materials Resilience: Charting a Path towards greater Security and Sustainability”.

Winkler, D, L Wuester and D Knight (2022), “The effects of Russia’s global value chain participation”, in M Ruta (ed.), The Impact of the War in Ukraine on Global Trade and Investment, The World Bank.

Winkler, D and L Wuester (2022), “Implications of Russia’s invasion of Ukraine for its value chains”, VoxEU.org, 11 May.

References

References
1 指標はグローバルな供給ショックによるセクターごとのPMIサプライヤー納期(SDT)の変動を集計することにより求められる。セクターごとの変動は世界経済におけるセクターの重要度で荷重されており、この指標はNY連銀によるGSCPI指標とも連動していて高い相関係数をもつ(90%前後)。この指標が対象としているセクターは化学、自然資源、自動車と自動車部品、食物と飲料、住宅と個人利用物品、工業用品、技術機器である。
2 我々の指標はまた中国のおいてオミクロン変種の広まりに対応して3月半ば以降に導入された深刻なロックダウンの効果も拾い上げているだろう。これは経済活動と輸送に混乱をもたらした。
Total
3
Shares

コメントを残す

Related Posts