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コーエン & クルーグマン「インタビュー, pt.1: テック系企業と反トラスト」(2018年10月10日)

[“Paul Krugman on Politics, Inequality, and Following Your Curiosity,” Conversations with Tyler, Oct. 10, 2018]

※訳者の註記: このインタビューは,タイラー・コーエンのポッドキャスト Conversations with Tyler で 2018年10月になされたものです.

ノーベル経済学賞を受賞して,ポール・クルーグマンは「野望の終着点」にたどりついた.もう,これから達成すべき新たな業績も残されてはいない.こんな状況に憂鬱になってもおかしくない.だがクルーグマンは,終着点での安住を避けてみせた:好奇心の赴くところに向かって,なにより心をつかまれる題材に精力を傾けて取り組むという,いつもの流儀のたまものだ.

タイラーはニューヨークにあるクルーグマンのオフィスを訪れ,いまクルーグマンが関心を寄せている話題を議論した――反トラスト,最高裁判事の任期,格差をなくす最良の方法,YIMBY でいる理由,インフレ目標,貿易(グローバル貿易も恒星間貿易も),渋滞税,存命のお気に入りSF作家,移民政策,賢い読者のためにうまく書く方法,経済研究の新しい方向,などなど.

タイラー・コーエン:本日のお相手は,ポール・クルーグマンです.紹介は不要でしょう.念のために言っておきますが,今回のインタビューでは,ぼくがポールとやりたい会話をしますからね.リスナーがぼくにやってもらいたがってる会話はしません.

まずはごく基本的な質問からです:大手のテック系企業がますます論議を呼ぶようになりましたね.この分野で,目立った市場の失敗ってありますか? もしあるなら,それってなんでしょう?

ポール・クルーグマン:むずかしいね.市場の失敗から話を始めることからして,いっそうむずかしいんじゃないかな.情報技術に関わることはなんでも,市場が効率的になるはずだと考えるいろんな原則に違反してる.ネットワークに関わることも間違いなくそうだね.厄介なのは,あれこれ整理して筋道立てるのがむずかしいってこと.どれかひとつの原則の問題じゃない.

収穫逓増もあるし,不完全競争もあるし,溢出効果もある.ぼくが知ってることが,この分野での市場の失敗にずばり該当するのか,よくわからない.社会的な観点から見て,Facebook や Twitter や Google がやっていることが最適なんだと考える理由はまったくない.問題は,代替案としてどうすべきか突き止めるのが簡単じゃないところだね.

コーエン:〔テック系企業はサービスを〕ゼロ価格にしてますよね.かつての独占企業とは,ずいぶんちがう.テック系企業は,産出を制限しない.そうじゃなくて,ああいうプラットフォームを構築しようとしていて,いまやいっそうはっきりしてきてますけど,彼らのねらいは,いつか価格をつり上げることにはない.できるだけ自社プラットフォームを大きくすること,ただそれだけをねらってます.

これって問題含みでしょうか? それとも,ただの消費者の楽園なんですかね?

クルーグマン:問題含みなのは,テック系企業がいまだに――なるほど料金こそ請求してこないものの――彼らはぼくらの健康のために事業をやってるわけじゃなくって,自分たちの健康のために事業をやってるってことだよね.彼らは,なにか別のモノを売るために事業をやってる.Google が実際に売ってるのは――いまだに広告でしょ.広告出稿主へのアクセスを売ってる.ある水準では,Facebook も同じことをやってる.

これはいろんなかたちで間接的なので,最適でないものになるだろうと考える理由は,いっそう強い.キミの方がちょっとわかるでしょ.ぼくは Facebook 使ってないんだ.アカウントはあるけど,いったんつくっちゃったら消せないんだよね.でも利用はしてない.

YouTube は使ってる.音楽を聴くためだけに利用してるんだけど.でも,あそこには政治が大いに関わってるんだろうと思う.YouTube にはいろんなアルゴリズムがあって,視聴者をいっそう極端なものに寄せていくんだ.そういう風にしてるのは,それで YouTube が自分たちのポジションを売り出す能力が強化されるからだ.きっと,「これがキミののぞんでるものなの?」って聞いたら,大半の人たちが「これがいいんだ」って答えるものではないだろうけど,でも,YouTube は視聴者がのぞむものに関心をもってるわけじゃなくて――なんといっても YouTube は Google 傘下だし――自分たちが設けるのに利用できるものに関心をもってるわけだよね.これは,よく経済学の入門講義でやる需要と供給の市場とは似ても似つかない.市場が正しくやると考える理由はない.

コーエン:このまえ,『ニューヨークタイムズ』が新しい動きを紹介してました.「ヒップスター・反トラスト」って呼んでましたけど,どういう発想かと言うと,たとえば,「Amazon は,出版や小売りの全般的な商業エコシステムにとって悪いものだ」とか,そういうやつです.ヒップスター・反トラストについてなにか意見はあります?

クルーグマン:[タメイキ]なにかが必要なんだよね.実を言うとヒップスター・反トラストには目を向けたことがなくってね.ただ,2つの点はかなりはっきりしてると思う.ひとつめ,昔ながらの反トラスト・パラダイムはいまも有意義だ.

いまでも,経済の大半は新規な情報技術のゼロ限界コストで動いてはいない.大半は,いまでも伝統的なモノで,古き良き反トラストの大方を実施しなくなってるのは,実のところ問題だ.これはぼくらの経済の問題でもあるし,広がってきてる格差の問題でもある.じゃあ,どれくらい大きな問題かっていうと,なかなかズバリつきとめるのはむずかしい.でも,問題があるのはたしかだ.古き良き反トラストがもはやどうでもよくなってなんて,とんでもない.

ふたつめ,いくつもの項目がここには絡んでいる.指を折って数えられるほどのプラットフォーム事業者が市場を歪めるのに果たしてるかもしれない役割は,かなり大きな論点だ.

正直に言うと,どんな解決法があるかを考えるのにぼくはあまり労力を注いでこなかった.実際になにか対策しようって政治的な機運がなさそうに思えたからだ.なにかいいことがなされる見込みは大きくない.でも,これはぼくの判断がまずいのかもしれない.

これまで注目し続けてきた領域はよその領域で,そっちでは市場の失敗があまりに広く行き渡っていて,市場の失敗の枠組みで考えることすら間違いになりかねない.たとえば,医療の領域がそうだね.

pt.2に続く


Comments

  1. 山形浩生 says:

    「解除すべき実績はひとつも残っていない」のunlockは、これでは意味不明です。「これから達成すべき新たな業績も残されてはいない」というのでいかがでしょうか。

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