サイモン・レンルイス「景気回復のサボタージュ」(2020年7月7日)

[Simon Wren-Lewis, “Sabotaging the recovery,” Mainly Macro, July 7, 2020]

先週は,イギリスにおける都市封鎖(ロックダウン)を時期尚早に緩和すればいっそう多くの人命を失うことになるだろう理由について書いた.今回の文章では,時期尚早な封鎖緩和を行って生じる景気回復は低調なものとなり,一部の事業は倒産し多くの雇用が失われる見込みが大きい理由について述べよう.

ありうる景気回復について考えるのにちょうどいい出発点は,みんながそろって休みになる期間,たとえばクリスマスや夏休みについて考えることだ.〔そうした休暇期間に〕経済の大半は数週間閉じるけれど,長期的な損害なしに再開する.そこで起きるのは V字回復だ.ふだんこれに気づかないのは,季節調整したデータが出ているためだ.

政府が十分な支援を企業や自営業者や個々人に提供すれば,数週間と数ヶ月で物事は根本的に変わりはしないだろう.そうした支援がなされなければ,今回 V字回復が起こらないかもしれない理由の1つとなる.だが,この数ヶ月間,一部に目立つ例外はあったものの,イギリス政府の支援はほどほどによかった.

〔夏休みのような〕数週間の休みが終わったあとも,消費者たちの選好は変わらないままだろう.同じことは,パンデミックにも言えるだろうか? コロナウイルスがすっかり消え去ってしまったり,(ワクチンが完成して行き渡るなどして)コロナウイルスへの免疫が完全に出来上がったりすれば,「消費者たちの選好は変わる」と考えるべき説得力ある理由はなさそうだ.もっとも,海外旅行ができるようになるには,イギリスだけでなく他国でもウイルスが消え去ってしまう必要がある〔ので,海外旅行に行きたいという選好は変わるだろう〕.消費者たちの一部には,ウイルスが消え去ってもそれを信じない人たちが出てくるかもしれない.だが,〔その人たちが消費を増やそうとしなくても〕パンデミック終熄を祝って平時よりも社交消費の時間につかうお金を増やす人たちが他方に出てきて相殺されるかもしれない.分野によっては,この副次的な効果によって当初の景気後退を補うどころかそれを超える景気回復にいたるところも出てくるだろう.

イギリスで V字回復が起きそうにない主な理由は,コロナウイルスがまだ消え去っていないという点にある.ヨーロッパ諸国と比べて,イギリスでは新規感染者数がいまだ高い水準にあり,その当然の結果として,多くの消費者たちは平時のような社交消費のパターンに復帰するのに及び腰なのだろう.もしも政府が社交消費の各分野〔外食やイベントなど〕への支援も終わらせたら,必ず,企業の倒産や企業の規模縮小につながる.そうなれば,失業も大幅に増える.ウイルスがおおよそ消え去ってしまった国々でも,自信を回復するのは容易でないだろう.まして,ウイルス感染のリスクが無視できない国では,いっそう難しい.

きたるべき景気回復には,現政権がさらにハードルをつくりだしている.新規感染者数を脇に置いたとして,「さあ社交消費を再開して下さい〔同僚と飲み屋で飲んだり家族でレストランで食事したり旅行に出かけたりしてください〕」と言われて,消費者たちは政府を信頼するだろうか? これまでウイルス対策に政府が打ってきた対応は,ほぼすべてが失敗している.ごく最近の対応は,「ピラー2データ」〔大学や企業の研究室など民間パートナーによる検査データ〕を地域の行政当局や国民が利用できなくするというものだった.「社交消費を再開した場合のリスクはこれくらいですよ」とは伝えずに「社交消費を再開するのは市民の義務です」と言われても,人々が政府の動機を疑わしく思うのは当然のことであり,人々は政府を非難してよい.

いまだ感染水準は高く,信頼も欠如している.このため,多くの消費者は社交消費を再開しないだろう.この世論調査を見ると,人々が認識しているウイルス感染リスクはこのところ大きくなっている.新規感染者数を下げることよりも経済を優先すれば,こうなるのは避けられない.

では,どうすればいいのだろうか? パブを営業再開させようという政府が,新規感染者数をそう大して減らすことはなさそうだ.政府がすぐに信頼を取り戻すこともないだろう.財務大臣は,なんらかの手段で及び腰な消費者たちの背中を押して社交消費を再開させられるだろうか? この点を考えると,減税というかたちで全般的な財政刺激策をとったとしても,大した効果はなさそうだ.なぜなら,その大半は貯蓄されるだろうからだ.さらに,支出に回される分のお金も,その向かう先は衣料品や消費者向け耐久財などそこそこの景気回復ができる分野になるだろう.付加価値税の減税も含めて,他の標準的な財政刺激策を打っても,社交消費の各分野で人員解雇が大量に生じるのは避けられそうにない.

Resolution Foundation は,もっと興味深い提案をしている.それは,打撃を受けやすい社交消費の分野で使える期限付きバウチャーを配布するというものだ(さらに,このバウチャーは感染拡大の第二波が発生して都市封鎖を余儀なくされたときには失効となる).これこそ,分野を限定した刺激策として私たちが必要とするものだ.他にも,社交消費財の付加価値税を一時的に減税するという手もありうる.

こうした方式であっても,今後数ヶ月で社交消費が完全に以前の水準にまで回復することはありそうにない.ごくひとにぎりの特定分野では,対人距離の確保につとめることで,営業しても損失がでてしまうところが必ずでてくるだろう.企業を存続させつつ大規模な人員解雇をできるかぎり回避するための各種の助成金が必要となるだろう.

全般的な財政刺激策では特定の分野に限定される問題の解決にはならないだろう.その一方で,金利が下限に達している状況では,経済の広範囲におよぶ財政的な支援をなすべき強力な理由がある.EU離脱と感染拡大の第二波に関する不確実性によって投資が抑制されているなかで,総需要は低調なままにとどまるかもしれない.この刺激策がどんなものでありうるか,あるいはもっと一般的な話として気候変動に関するイギリスの目標を達成する方法を財務大臣がお探しなら,ここに NEF による報告書がある.

だが,失業は必然的にあまりにも高い水準にとどまらざるをえないだろう.ポール・グレッグが言うように,今回の長い景気後退では,グローバル金融危機後の景気後退よりもいっそう失業が厳しいものとなるだろう.だが,財政刺激策を好機とも考えられるのと同様に,雇用喪失もイギリスの労働力の技能を更新する機会だと考えられる.そのための路線を,ジョナサン・ポーツとトニー・ウィルソンが提案している.とはいえ,パンデミックが原因となって社交消費が低調になっている分野で働く人たちのなかには,新規感染者数が大幅に減少したりワクチンが開発されたあとに需要が復活したならいまの分野に残りたいと望む人たちもいるかもしれない.この人たちが自分の職歴に空白をつくらざるをえなくなったとき,そうした人たちがなにか有用なことをする素晴らしい機会を,かりに「雇用保障」の制度が存在すれば提供できるだろう.

新規感染者数がまだかなり多いなかで都市封鎖を緩和しようとして現政権がまたしてもパンデミック対応で失策をしたために,こうした政策はいっそう多くの仕事をしなくてはならない.大半の専門家たちは――さらには大学にいる経済学者たちの大半は――そうなる前から「これは間違いだ」と理解していた.V字回復に近いものとなりえた景気回復をサボタージュするという間違いだ.

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