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サイモン・レン=ルイス「英米におけるメディアの急進化」(2021年2月8日)

[Simon Wren-Lewis, “Media radicalisation in the US and UK,” Mainly Macro, February 8, 2021]

合衆国でおきたキャピトルヒル襲撃がどれほど危険なものだったか,おそらく,合衆国外の多くの人々は認識していないだろう.議事堂の外から見た様子は,すぐにメディアで伝えられた.それでもまだ,十分に無害なものに見えた.現実は,それと大きく異なっている.5名の死者が出た.これには警官も含まれる.警官隊のバリケードを押し通って議事堂のなかになだれ込もうとしていた人々の顔を見て,ある共和党議員が述べたように――

あのガラスを叩きながら叫び声を上げる群衆の人々が見えた.彼らの顔を見て,「これは抗議する人間とはちがう」と思った.危害を加えたがっている人間だ.私の目の前に見えたのは,ようするに,アメリカ国産のファシズムだった.制御不能になったファシズムだ.

指導的な政治家たちを捕らえようとしたかなり組織的試みだったことが,いまではわかっている.一部の民主党議員が主張するように襲撃者たちが一部の共和党議員たちから内部の手引きを得ていたのかどうかは,いまのところわかっていない.わかっているのは,「選挙戦の勝利が自分たちから盗まれてしまった」と襲撃者たちが信じていたこと,そして,キャピトル襲撃のあとになっても共和党の政治家たちの大多数がその主張を繰り返していたということだ.バイデンの選挙結果が不当なものだったという証拠がかけらもない以上,そうした共和党議員たちはキャピトル襲撃の背後にあったウソ,民主主義を破壊するウソを支持するという過ちを犯している.

共和党議員たちのうち,少数はトランプと袂を分かちたがっている.リズ・チェイニー共和党会議議長はこう発言している:

大統領が暴徒を形成し,大統領が暴徒をたきつけ,大統領が暴徒に呼びかけた.この点に疑いはありません.彼が火を付けたのです.

だが,下院の共和党議員たちのうち,トランプ弾劾に投票したのはほんの 10名だった.一方で,201名は棄権するか反対票を投じた.上院で,トランプが有罪と判断する共和党上院議員が十分にいるかといえば,きわめてありそうにない話だ.ここで大事な問いは,「なぜか」だ.

トランプを弾劾するのは,共和党議員にとって利になるはずだ.なぜなら,トランプが2024年に再出馬するのをとめる方法は,いま弾劾しておくこと以外にないからだ.トランプの行動によって共和党支持者の少数派を遠ざけているために,共和党はトランプ再出馬を望まないはずだ.これは,大統領選以前からそうだった(上院議員選挙や下院議員選挙よりもトランプの結果は悪かった).さらに,それ以降のトランプの行動がもたらした結果では,いっそう支持者が遠ざかっている.ジョージア州の2議席〔上院議員〕は,共和党がとりそうだと目されていたのに,キャピトルヒルでの出来事やトランプの当地でのキャンパーンのあと,民主党議員が選出された.キャピトルヒル襲撃の直後に,多くの共和党議員たちはトランプと縁を切った.

だが,そのあと共和党の支持基盤が反攻に転じた.共和党の政治家たちがトランプを弾劾しない理由は,彼がいまだに共和党支持の有権者たちに支持されているからだ.とくに,共和党の活動家たちのあいだでトランプ支持は強い.共和党員の 64% が,トランプの最近の行動を支持している.さらに,57% は2024年にトランプが再出馬するのをのぞんでいる.議事堂襲撃の賛否はほぼ同数で割れている.歴史を見れば,急進的な共和党候補が穏健派候補を予備選で負かした前例はある.キャピトルヒル襲撃のあとでさえも,共和党としては,トランプと対立することで自分たちの支持基盤の反感を買いたくはないのだ.トランプ本人は,自分に対する共和党内の批判をよそに選挙戦の資金を出す用意がある.

このため,共和党は親トランプの支持基盤にからめとられている.トランプと対立する人々がそこから抜け出す道筋は定かでない.それゆえに,共和党は民主制を尊重しない政党のままにとどまっている.合衆国における民主制の将来に関する重要な問いは,「2年後,4年後に自分たちが投票するときに有権者たちはその点を理解しているだろうか」だ.共和党に投票すれば,それで誰が自分たちを統治するのかを自分たちが本当に選べる最後の機会になるかもしれないということを,彼らは理解しているだろうか? しばらく前に述べたように,英米で右派政党が極端な立場に達してしまっているとき,そこからその右派政党を救い出せる唯一の方法,あるいは急進的な立場を成り立たせている条件を変える唯一の方法は,なんども繰り返し右派政党を敗北させることしかない.

メディアによる人々への影響の学術的分析では,通例,選挙に関心を集中させてきた.私がこれまでに目をとおした研究は,すべて,メディアが有権者に強い影響をおよぼすことを示唆している.右派の政党活動家たちにメディアがおよぼす影響も,それに劣らず重要だと私は思う.合衆国の伝統あり尊敬すべきメディアは,2020年大統領選で不正が行われた証拠はなくバイデンが公正に勝利したとはっきり言っている.「本当はトランプが大統領選に勝利したのだ」という考えを押し広めたのは,極右メディアだった――ここでいう極右メディアとは,マードックのフォックスニュースのみならず,ワンアメリカ・ニュースであり,ラッシュ・リンボーであり,無数のソーシャルメディアだ.

トランプが語っていたことを多くの共和党員に信じさせるのに,極右メディアは重要な役割を果たした.かつて共和党の大統領が弾劾されたときと現在との重要な相違点はこれだと私は思っている.当時,ニクソンの弾劾に有権者たちは長らく乗り気でなかった.だが,やがて,ニクソンは弾劾されるべきだと彼らは賛同するにいたった.しかし,当時は「これは巨大な陰謀なのだ」と虚偽を伝える大手メディアはなかった.当時,有名人や資金をもつ有力団体が,ニクソン弾劾に投票した政治家を失脚に追い込むぞと脅かすことはなかった.

かりにバイデンにその気があったとしても,フォックスニュースその他が共和党支持基盤を急進化させにくくする〔敗北させる〕ほどの票があるかといえば,それは疑わしい.そこで,私たちとしては,いまの共和党に有権者が反対票を投じ続けることを願うほかない.ここで危険なのは,またしても主流メディアが共和党を正常なものであるかのように伝えはじめることであり,また,上院でみずからの改革案の多くを阻止され続けたあげくに大統領の支持が低下し,かつてオバマが8年間の在職期間のうち6年間にわたって追い込まれたのと同じ立場に陥ることだ.

一方,イギリスには予備選挙はないため,保守党支持基盤が直接におよぼす力はアメリカよりもずっと少ない.イギリスで権威主義的右派が権力を勝ち取れたのは,保守党の覇権をおびやかす新たな右派政党と国民投票という経路を通じてだ.とはいえ,それでも議会を違法に停止した首相に投票するよう有権者が説得される必要はあった.首相が票を得た理由の一端は,イギリスにおけるメディア情勢がアメリカよりもずっと悪いことにある.このブログをはじめた頃は逆にアメリカの方がメディア情勢はよくないと考えていた.だが,それも,保守党が BBC に圧迫をかけはじめるまでのことだった.合衆国では,トランプ支持の新聞も放送メディアも少数派なのに対して,イギリスでは右派新聞が印刷メディアの多数派であり,BBC は右派新聞と政府の押したてた路線から外れるのが難しくなっている

だが,GB News の会長をアンドリュー・ニールがつとめ,News UK TV をマードックが所有するいま,イギリスの状況はこれから大きく悪化する瀬戸際にあるのかもしれない.News UK TV と GB News,どちらの新チャンネルも,右派の視聴者層を対象に想定し,どちらもこれまで右派の試みに資金提供してきた人・団体に資金提供を受けている.Ofcom 〔英国情報通信庁〕は放送でバランスをとることになっている.放送のバランスをとる規制があるために,Sky News はけっしてフォックスニュースにならなかった.だが,LBC や Talk Radio のような報道機関とちがって論評に関しては,Ofcom は放送のバランスがどういうものかについてそれほど厳格な見解をとっていない.

ここで危険なのは,これら2つの新TVチャンネルがさらに右寄りに〔バランスの〕境界線を動かそうとすることだ.ポール・デイカー〔右派系ジャーナリスト〕が Ofcom の議長に就任すると噂されているのと,この文脈は完全に相反している.新たな右派メディアの情報バブルがつくりだされる恐れがある.人々が右派新聞だけを読み BBC ニュースを視聴せず,もっぱらこれら2つの新チャンネルのどちらかしか見ないバブルに包み込まれるかもしれない.社会的保守派に有利な単純小選挙区制 (FPTP system) にこの情報バブルが組み合わさり,しかも,社会的リベラル票が多くの政党に分散している状況とこの組み合わせを保守党が利用し,これら新ニュースメディア局が成功を収めれば,こうした右派情報バブルによって,保守党政権が長期に安定するかもしれない.


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